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国内最高峰のGTレースでレクサス勢を支えるKDDIの通信インフラ

国内最高峰のGTレースとなるSUPER GTシリーズを走る「au TOM'S RC F」

 国内最高峰のGTレースとなる「SUPER GTシリーズ」。上位クラスとなるGT500では、レクサス(トヨタ)、日産、ホンダの国内3社が、メーカーとしてのプライドをかけて熾烈な戦いを展開している。レクサスはLEXUS RC F、日産はGT-R、ホンダはNSX CONCEPT-GTといったように各メーカーの高性能市販車をベースとした競技専用車両が参戦している。

 レースはマシンの性能とドライバーの技量だけで勝利を収められるものでもない。タイヤのスペックやピット戦略、天候など様々な条件が複雑に絡み合うことで、勝者が決まるのだ。

 GT500クラスには今シーズン、全15台がエントリーしているが、そのなかでレクサスは6台が出走している。レクサスでは、すべてのチームが他のメーカーに勝てるように、クラウドを活用したレース戦略システムを開発している。そこにインフラ面で協力しているが、KDDIなのだという。

データが溢れるピットガレージ

トヨタテクノクラフト TRD開発部 MS車両開発室 第1シャシグループ グループ長の清水信太郎氏

 レクサスチームの開発に携わる、トヨタテクノクラフト TRD開発部 MS車両開発室 第1シャシグループ グループ長の清水信太郎氏は、「レースやサーキットの状況を分析するサーバーやパソコン、タブレットなどのデバイスは進化をしているが、それらを繋げるインフラがどうしても満足できる状態ではなかった。我々でモバイルWi-Fiルーターなどを導入してみたが、サーキットでは頼りないことが多く、壁にぶつかっていた。そこで、KDDIに相談してみることにした」と振り返る。

 レースをしている間、チームのピットにはさまざまな情報が入ってくる。レース戦略を練るエンジニアは、車の状態や天候などを分析し、「いつピットに入るか」「どれくらいのペースで走行するか」をドライバーに伝えていく。

ピットストップ直後にはマシンから外されたタイヤがブリヂストンスタッフによりチェックされる

 「ピットは多くの情報に溢れています。主催者から全てのチームのラップタイムが配信されるだけでなく、タイヤの情報や気温、路面温度、スピードガンで測定した最高速や風速など、本当に多くのデータが集まってきます。データを取り、レースが終わって会社に帰って分析できる体制は整っているのですが、レース中にそれらを統合し、リアルタイムで分析する状態にはなっていませんでした」(清水氏)。

 現在、SUPER GTのレギュレーションでは、マシンとピットがリアルタイムに通信し、マシンの情報を随時、把握することが禁じられている。そのため、ピットインするごとに、マシンの状況を記録した記憶媒体を交換。記憶媒体をすぐに解析するという作業を行っている。

 TRDでは、昨年からレース中のデータをクラウドに上げ、リアルタイムに解析できるシステムを構築。レクサスチームはレース中にクラウドにアクセスすれば、すぐに他のレクサスチームの情報を参照できるようにした。レース中に抜き取った記憶媒体も、すぐにクラウドに上げて分析できるようにすることで、レース戦略の判断を素早く行えるようにしたいという。

KDDI ソリューション推進本部 ソリューション5部 1グループ 技術担当の吉田研彦氏

 しかし、クラウドにつなげるためのインフラが貧弱であったため、KDDIに協力を仰ぎ、ピット内に無線のアクセスポイントやバックボーンのインフラを整備することにしたのだった。

 KDDI ソリューション推進本部 ソリューション5部 1グループ 技術担当の吉田研彦氏は、「TRDからお話をいただき、なんとか第2戦でインフラを間に合わせることができました。今シーズンは、タイでもSUPER GTが開催されるが、KDDIの現地法人が対応し、我々はプロダクトマネージャーとして関与することになります」と語る。

 ピットではメカニックが頻繁に動き回ることもあり、床にケーブルを這わせることは難しい。そのため、5GHzのアクセスポイントを設置するだけでなくバックアップとして2.4GHzの電波も使っているという。しかし、ピット内には他チームの無線も飛んでいるし、観客が使うスマホやルーターの電波も飛び交う。KDDIとしては、さまざまな電波が飛ぶ中で、チームに安定した通信環境を提供することに腐心しているようだ。

鈴鹿サーキットのピットガレージ内の天井に設置されたアクセスポイント
サーキットによってはシャッターを回避して配線するのに苦労することもあるという(第4戦が開催されたスポーツランドSUGOで撮影)

情報を制する者がレースを制する

 レクサスチームは来シーズンに新車「LC500」を投入する予定だ。今後、開発テストが行われ、技術的な分析を繰り返し、速いマシンを作っていくことになる。

 清水氏は「これからサーキットで処理すべきデータ容量がさらに増えていく。これまでは通信環境が非力だったが、インフラが整うとさまざまなアイデアが湧いてくる。安定した通信があることで、いろんな開発やレース分析にフィードバックできるようになるのではないか」と構築したシステムに期待を寄せる。

鈴鹿では来シーズン向けの新車両が披露された
TOM'Sのガレージにはネットワークカメラが設置されていた。ピットクルーの動線分析などに活用できないか模索しているという

 現在、レクサスチームのひとつ、TOM'Sの1台は「au」がメインスポンサーとなっている。サーキットでauのロゴが目立っているが、実はその裏側で、マシンを少しでも速く走らせるために通信インフラが貢献しているのだ。