インタビュー
複数枚SIMで定額制も従量制も可。MVNO「エキサイトモバイル」の使いどころを聞く
2017年1月31日 11:00
「BB.exciteモバイルLTE」改め、2016年6月からリニューアルして提供を開始したエキサイトの「エキサイトモバイル」。高速通信可能なデータ通信量の上限が決められた、1GBから最大50GBまで8種類をラインナップした「定額プラン」の他に、使った分だけ料金が請求される従量制の「最適料金プラン」も用意する、MVNO型の携帯電話サービスだ。さらに、SIMの枚数を最大で1契約当たり5枚まで持てるのも大きな特徴となっている。
果たしてサービスリニューアルから6カ月以上経過した今、“従量制で複数SIM”といったユニークなサービスが、実際のところユーザーにどういった形で利用されているのだろうか。また、格安SIM・格安スマホという競合の多いMVNO事業の分野で、エキサイトモバイルは今後どう戦っていくのか、同社でエキサイトモバイルを担当する、エキサイト ブロードバンドサービス本部 ブロードバンド企画部の栗原春樹氏、ブロードバンドサービス本部 ブロードバンド営業企画部 リーダーの橋本昌和氏に話を伺った。
先進ユーザーを引きつける複数枚SIM
――さっそくですが、エキサイトモバイルと他のMVNOとでサービスの一番の違いはどこにあるでしょうか、改めて教えてください。
栗原氏
大きなところでは、やはり通信プランで従量制の「最適料金プラン」を設けているところです。SIM 1枚の場合は、一番少ない500MBから、1GB以降は1GBずつ刻んだプランを用意しています。データ通信容量を、今最も無駄なく使えるMVNOではないかと思っています。
もう1つは複数枚のSIMカードを使えることです。1契約で最大5枚まで使えるので、家族でも多くの場合は全員が利用できます。セット端末も取り扱っていますが、家族全員でMVNOに乗り換えられるよう、一気に端末5台とSIM 5枚をセットで買えるのは、他社にはない特徴だと思っています。
その複数枚のSIMというところに強みを出したかったこともあって、契約時の事務手数料も1回の申し込みに対して1回分の手数料だけいただく形にしています。他社の場合はSIM 1枚ごとに契約事務手数料がかかりますから、当社のサービスだと申込時のハードルも低いのではないでしょうか。
――実際に複数枚で契約される方は多いのでしょうか。
橋本氏
そうですね、かなり多いです。全体の半分くらいは複数枚のSIMを選んでいますね。
――複数枚のSIMが利用できるのを特徴とした理由はどういったところに?
栗原氏
旧ブランドである「BB.exciteモバイルLTE」の時から複数枚SIMのサービスを提供してきたなかで、圧倒的に複数枚を選ばれるお客様が多かったためです。大手キャリアのスマホに準じたもの、というより、タブレットや複数の端末を持っている人がマニアックな使い方をする、というのが多分にあったので、そういった方にもご満足いただけるようエキサイトモバイルでも複数枚のSIMをウリにしたいと考えました。
当社のような小規模なサービスの場合は、複数枚SIMのニーズが大きいんじゃないか、という判断もありました。もっと大規模なサービスだと、大手キャリアからの乗り換えが前提になる場合も多い。そうすると“キャリアの代わりになるもの”というイメージになるので、1枚のSIMで十分なのかなとは思います。
――複数枚SIMでユーザーが手数料を支払うのが1回分だけだとしても、MNOのNTTドコモには、SIM 1枚ごとに手数料を支払うことになるはずですが。
栗原氏
そこは事業者側で負担しています。ただし、SIMを発行するタイミングを他と合わせるなど、できるだけコストがかかりにくいようになっています。
――ユーザーの男女比率や年齢層などはいかがでしょう。
栗原氏
サービスを開始してからそれほど経っていないこともありますが、全体的には現在の格安SIM、格安スマホの市場と同じような状況で、30~40代の男性が一番多くなっています。全体の男女比で見ても、やはり男性がかなり多い状況ですね。これから独自の企画をどんどん出していきたいと考えていて、それによってユーザーの属性も変わっていくんじゃないかと思っていますが。
――今後は特定のユーザーをターゲットにした施策を打ち出していくと?
栗原氏
今のところは家族利用を促進したいと思って企画を検討しています。格安SIMの認知度は上がってはいるものの、まだ個人での利用に止まっているような感覚があるんです。しかし、おそらく今後は家族のなかで先駆者的な人がMVNOに乗り換えた後に、「家族全員で安くしよう」という流れがきっと来るんじゃないかと思っています。その流れにいち早く対応できるように、家族で利用しやすいプランを用意する、といった施策はあるかなと思います。
橋本氏
SIMの用途はスマートフォンに限りません。当社ではタブレットも取り扱っていますが、例えば家族利用の場合、SIMを挿せる家族共用のタブレット、モバイルWi-Fiルーターなんかもあります。家族で申し込んだ際、スマートフォン2台にタブレットやルーターを購入してそれぞれにSIMを差すといったように、いろいろなニーズに応じた使い方ができる設計にしています。
――以前から御社ではブロードバンド回線を提供していますが、そちらとの連携もあり得るでしょうか。
栗原氏
固定回線とのセット売りは、あくまでもちょっとした“足し”なのかなと思っています。なので、固定回線とモバイルをセットにして固定回線(の契約)も取っていくというより、今伸びているモバイルを拡大していく、というのがメインになるかと思います。
例えばSIM複数枚の強みは、家族利用だけでなく、モバイルルーターなどに差して固定回線代わりにする使い方ができるところかなとも思っています。1枚は家のルーターに、もう1枚は自分のスマホに、もう1枚はSIMスロット装備のタブレットPCやノートPCに、といった使い方をすれば、エキサイトモバイルだけで家の中も外も、全ての通信がまかなえるようになります。
橋本氏
しかも利用した分だけ料金がかかる従量制なので、ルーターとタブレットとスマホの3台で使っている時に、高速通信のデータ量上限を意識しないと……みたいな心理的なストレスがありません。データ利用に関してはストレスフリーなんです。
最低容量のプランで低速のまま数十GB使う人も
――1GB以降は1GB刻みで細かく料金が分かれているのが特徴でもあります。最もユーザーが多いのはどのあたりの容量ですか。
栗原氏
今のところはやっぱり低容量に偏りがあるような状態ですね。一番得な使い方を把握している方々が最初に導入していて、おそらくもうちょっと広まってくれば、そこまでマニアックな使い方をしない一般の方にも広まるだろうと思っています。
――音声通話付きとデータ通信専用のプランのうち、ユーザーはどちらの方が多いのでしょうか。
橋本氏
音声通話付きSIMは、音声通話についてシェアできないのと、3枚申し込んだ人が3枚とも音声通話付きSIMを選ぶのは非常にレアなケースとなるので、必然的にデータ専用SIMの比率が高くなります。とはいっても、サービスリリースから半年強で、音声付きの比率は徐々に増えてきていますね。
栗原氏
携帯電話サービスのような商材は、最初に導入される人たちにはかなり詳しい方が多かったりします。そのせいか、音声通話付きのメイン回線と周辺機器用のデータ専用SIM、という組み合わせが多かったり、5枚全部データ専用SIMという方もいたりしますね。もう少し時間が経てばこれも平準化されていくのかなと。
――一番安価なプランは200kbpsの低速通信のみで月額500円というものですが、ユーザー数は多いですか? 人気のプランはどういったものでしょう。
栗原氏
低速通信のプランは多くはないですね。従量プラン全体から見ると数%程度です。ヘビーユーザーの方々は定額プランで容量が大きめのものを選ばれる傾向があります。
今のところ多いのは、最低料金の最適料金プランを複数枚のSIMで使う、というパターンです。複数のSIMを複数台の端末で使っていると、あまり使わない端末も出てきてしまうかと思いますが、そういう端末は無視しても金額が固定でかかるわけではないので、無駄になりません。
――定額制では50GBの大容量プランもあります。使い切るのは難しそうですね……。
栗原氏
50GBプランで全部使い切る人はそうはいませんね。ただ、月間のデータ容量は少なめの契約で、高速通信をあっという間に使い切って、その後は低速通信でたくさん使う方はいらっしゃいます。数GBのプランだけれど、低速通信も含めて20GB使う方とか。
橋本氏
Wi-FiルーターでSIMを使っているのでは、と思っていますが。
栗原氏
あと、寝る前に大容量ファイルのダウンロードを仕掛けておいて、低速で何時間もかけてダウンロードする、という使い方をしている人もいるかもしれませんね。
自社コンテンツと連動したSIMサービスも視野に
――さまざまな機器がインターネットにつながるIoT時代に向けて、複数枚SIMが使いやすいエキサイトモバイルのようなサービスは重要性を増してきそうです。
栗原氏
もっと時代が進んでいくと、そもそもSIM自体いらなくなるんじゃないか、という話にもなると思うんですけど(笑)、あくまでも個人利用のレベルでいろいろなものを通信させるということに対しては、当社のSIMはかなり使えるかなと思っています。
IoTがどんどん進歩していけば、複数枚SIMの需要がもっと高まると思うので、1契約当たりの発行可能枚数を増やしていくことも視野に入れていきたいと思っています。
ただ、例えば10枚以上のSIMは、個人レベルでは今は利用用途があまりパッと思い浮かばないですね。現段階ではあまり需要はないんじゃないかなと。日本の世帯は4人家族や5人家族がかなりのボリュームを占めているようなので、家族用という意味では10枚まで増やさなくてもいいかもしれないと考えています。
自宅用の据え置き型ルーターにSIMを差したり、家族全員で使うことが主流になってくれば、1人の持っているデバイスも多くなってSIMも2枚、3枚と多く必要になってくるのかなと思います。ただ現在のところは、まだ1人がスマホで1枚のSIMを使う、という想定です。
――MVNOに関するニュースは毎日のようにあり、競争が激しく生き残るのも厳しいジャンルです。似たようなサービスやプランが並んでいたりもします。そのなかでユニークな特徴があるとユーザーとしても面白いだろうと思います。
栗原氏
企画の立場から見た今のMVNO市場は、大手キャリアが育ってきた歴史を繰り返しているというか、今の大手キャリアのビジネス手法に近づいている気がします。エキサイトモバイルも、正直なところそのレールに乗って進んでいるところもあります。それは必要なことだとは思っていますが、ただそれだけじゃなく、ターゲットを限定した商品も考えたいと思っているんです。
データ通信と通話はユーザー全員が共通して使う機能だと思うんですけど、そのなかで使っているサービスやアプリ、見るWebページは、個々の使い方の差が出てくるところです。LINEモバイルがLINE MusicとSNSのカウントフリーを実現しているのは端的な例と思いますが、そういった特定の使い方や、ターゲットを絞った商品を企画していければ。エキサイトはもともとコンテンツの会社なので、自社のコンテンツを活かしたり、それらと掛け合わせて魅力的な商品を作りたいですね。
――カウントフリーについては御社としても取り組むべき課題の1つというわけですね。
栗原氏
技術的な問題はありますが、今検討を進めていて、可能であれば来年度から導入したいと考えています。来年度からは各社もたぶんカウントフリーを始める気はしているので、いかにエキサイトの独自性みたいなものを出せるかが課題ですけども。
橋本氏
幸い当社のサービスは、利用されている方のリテラシーが高いんですね。複数枚のSIMをどのように使っているのか知りたいと思ってお客様に直接伺ったところ、以前使っていたスマホに差して、クルマのナビやオーディオ用の端末として使っているなど、いろいろ面白い使い方のアイデアをいただけました。そういった声を参考に、今後当社からお客様に利用提案していく、みたいな形で企画できればとも思っています。
――自社コンテンツと掛け合わせるというお話がありましたが、何か具体的なアイデアは出ているでしょうか。
栗原氏
仮に例を挙げるとすれば、当社が力を入れている女性向けコンテンツの「ウーマンエキサイト」です。格安SIMの市場は男性が圧倒的に多いのですが、主婦層、30代の女性が微妙に増加傾向にあるので、そのあたりで女性向けの商品として出せないかなと考えています。
他にもエキサイトではブログサービスなどもあって、各サービスの担当者にいろいろ相談してはいます。が、じゃあどういう商品に落とし込もうか、というところが難しい。一緒にできそうな可能性の高いところ、これから伸びが期待できそうなところ、他社が難しそうなこと、といった観点から考えていきたいと思っています。
橋本氏
エキサイトは翻訳も強いので、インバウンドの盛り上がりを背景に面白いものが作れればいいなとも思っていますね。
栗原氏
エキサイトモバイルはまだ始まったばかりで、他のMVNO事業者に比べてもまだ規模が全然小さい。大きな事業者と同じことをやっても体力で負けてしまうので、独自性のあるものや、極力とがったものをやろう、というのがエキサイトという会社の体質としてもあって、そういったものを具体化できればと思っています。
より使い勝手を高める、新サービス・新機能が続々?
――今は個人ユーザーをターゲットにしていると思いますが、法人からのニーズもあるのではないかと思います。
栗原氏
やりたいという思いはあるんですけど、今はコンシューマー向けのサービス拡充や企画の優先度を高めています。法人は通話用途が多いことを考えると、大手キャリアの法人プランに定額4000円で通話し放題というサービスがあるので、MVNOでそれに勝てる施策を用意するのが難しそうにも感じています。
――低速モードと高速モードの切り替えはWebで行ないますが、他社はそういった機能をアプリで実現していたりもします。使い勝手の面でそれらを変えていきたいと考えている部分はありますか
栗原氏
具体的な検討は始めています。しかし、当社が競合他社と異なるのは、当社が元々ポータルサイトやアプリを手がけていたことです。コンテンツを持っている会社なので、単なる通信制御のアプリではなく、自社コンテンツと掛け合わせたようなアプリを作れないか、ということで検討しています。
――セット端末のラインアップは新しい機種が多いですね。引き合いの方はいかがですか。
栗原氏
全体でみるとSIMのみの申し込みの方が多いですが、端末セットの方もそれなりに多いですね。当初は定番の機種と、端末だけの力で集客できそうな旬の機種、という2種類を選定したんですが、最近はデュアルSIMスロットをもつHUAWEI Mate 9のような、端末の機能や性能を活かせるから申し込む、みたいなパターンも増えている気がします。
定番モデルだけじゃなく、爆発的に人気が出そうな旬の端末はどれだ、というのをメーカーさんとコミュニケーションしながら探っていたりもしますね。自分たちで端末を作ることは、今のところは検討していません。外観だけちょっと変えたり、というのはあるかもしれませんが。
――スマートフォン、タブレット、Wi-Fiルーター以外に取り扱いたい商材はありますか。
橋本氏
Android Wear 2.0の端末(スマートウォッチ)で、各メーカーから面白いデバイスが出てくれば、ぜひ取り扱いを検討したいと思っています。
――今後、家族内通話は無料にする、といったようなサービスもありうるのでしょうか。
栗原氏
音声通話サービスは提供していなかった期間が長いので、それほどノウハウがありません。ユーザーが平均してどれくらい通話するか、まだつかめていないのもあります。ただ、通話し放題もやらなければ、というのはあります。カウントフリーと通話し放題は、今社内で議論が盛り上がっているところです。
可能性として一番高いのは、プレフィックスを用いて特定のアプリからかけた電話をある程度通話し放題にする、というものです。ただ、プレフィックスは理解できない方も多いので、普通の電話機能で通話し放題にするのが一番だろうと思っていますが。
――NTTドコモ以外のモバイルネットワークに対応する予定は?
栗原氏
au系のネットワークに対応しているMVNO事業者が増えてきているので、auにも対応しないと、という話は始めています。できれば3つの大手キャリアからMNPできるのが一番いいですし、おそらくそんなに遠くない将来、そういう事業者が出てくるだろうとも思っています。可能であれば我々も早いうちに実現したいなとは思っています。
そうすることで、エキサイトモバイルならなんでも使える、という状態になり、SIMロック解除にかかわる小難しい問題がなくなります。auへの対応は技術的なハードルはそんなに高くないと思っていますが、先ほどお話しした当面の検討課題の数が多いので、優先度をどうするのかと、リソース的な問題はありますね。
――本日はお忙しいところありがとうございました。