インタビュー

思い入れの高まる触感・デザインにこだわったiPhoneケースとiQOSケース

男性向けブランド「acroma」シリーズを展開するCCCフロンティアのチャレンジ

 ECサイトおよびリアル店舗として、スマートフォンアクセサリー専門店の「UNiCASE」を運営するCCCフロンティア。同社は、男性向けブランド「acroma」シリーズとして、iPhone 7用ケースと加熱式たばこ「iQOS」用のケースを開発し、どちらも12月から販売をスタートした。一方は競合ひしめく最新モバイルデバイス向けの市場、もう一方は世界的なヒットになっている煙の出ない加熱式たばこ向け、という異色の取り合わせだ。

 6月には製品デザインを行なう関連会社、CCCフロンティアデザインを新たに立ち上げており、プライベートブランドの拡充を積極的に推し進めている。一見関連性の見えないiPhoneケースとiQOSケースだが、果たしてacromaというシリーズにはどんな狙い、思いがあるのだろうか。ゼロハリバートンとコラボしたスマートフォンケース「ZERO HALLIBURTON×UNiCASE」シリーズの製作裏話と合わせ、デザインを手がけた同社矢原 拓氏と、執行役員の竹下結夏氏に話を伺った。

本当に伝えたいことが伝わる、白黒のみのカラーに

――2016年7月に女性向けの雑貨ブランドとして「Mallow」を立ち上げたばかりですが、今回は男性向けブランドとして「acroma」を立ち上げました。このacromaにはどういう狙いがあるのでしょうか。

acromaシリーズのデザインを担当したCCCフロンティアデザイン 取締役の矢原 拓氏

矢原氏
 現状、当社のブランドでは女性向けアイテムが多く、実際に女性のユーザーも多いんです。だから、男性のお客様にはご満足いただけていないところもあるのかなと。やはり男性向けにも、他にはないこだわりのシリーズを、ということで立ち上げたのがacromaです。

 acromaのiPhoneケースとiQOSケースは、それぞれで今の市場にないところを狙って製品化したものです。acromaは「achromatic(無色)」という言葉が由来で、当初はモノクロカラーしかやらないと決めていたブランドでした。いろいろなカラーバリエーションを展開しているメーカーが多いなかで、もっと製品として本質的なところ、色で引きつけるのではなくて、素材やデザイン、使い勝手など、本質的に根付いていけるブランドにしたいと思ってacromaという名前にしました。

 とはいえ、iQOSケースはいろいろなカラーバリエーションを用意しています。なぜかというと、iQOS自体がホワイトとネイビーの2色しかなく、限定色としてもピンクとレッドしかないのですが、何百万人というユーザーがスマートフォンと同じように日常的に毎日使うものなので、こだわりをもちたい人も多いだろうと。ということで、カラーバリエーションを展開することにしました。

――白と黒で、背面デザインが2パターン、計4種類あるacromaのiPhoneケースについて、こだわりのポイントを教えてください。男性向けのiPhoneケースには、革素材を使った落ち着いた感じのモノ、というパターンが多い気がするのですが、これはプラスチックとシリコンですね。

acromaシリーズのiPhone 7用ケース

矢原氏
 プラスチック(ポリカーボネート)だけ、またはシリコンだけで作ったケースは市場にもうたくさんあります。そんななか、日常的にiPhoneとiPhoneケースを使っていて僕が感じたことなんですけど、例えばプラスチックのケースは硬いところに置いた時に滑るし、カンと当たるのが心地よくないなと。スマートフォンがどんどん大きくなっているなかで、肌感がいいというか、自然とグリップするようなケースが欲しいと思って、シリコンと強度の高いポリカーボネートを使ったケースができないかと考えました。

 シリコンを単純に貼るだけではなくて、そこに立体的な造形を加えて、なおかつグリップも良くなる形ってどういうものなんだろう、ということも考えました。店頭に並んだ時は、美しく、かっこいいと思っていただけないとお客様に選ばれません。最終的には3Dで設計し、指先のグリップ感も考慮して、ヘキサゴン形状の立方体を浮き立たせたようなものと、縦ラインを隆起させたものに落ち着きました。

――他のデザインバリエーションも検討されましたか。

矢原氏
 最終的に立体にまで起こしたのは数案です。が、最初は木目やクロコダイル革風など、自然の紋様を人工的な素材であるシリコンに落とし込んだら新しいかなとか、面白いかなとか考えたりしました。近頃はクセがないデザインが好まれる傾向にあるので、ドットパターンなど、シンプルななかに個性があるものを目指して、20~30パターンから絞っていきましたね。

 2パターンに絞ったのは、シリコン部分を張り替えるだけで異なるデザインを作ることができるうえに、シリーズ展開がやりやすいという理由もあります。今後の展開はこの4種類の売れ行きを見ながらになると思いますが、好調であれば第2弾、第3弾と増やしていければと思っています。

背面のシリコンのパターンは、ヘキサゴン形状と縦ラインの2種類

――2種類の異なる素材を組み合わせると、その分製造コストも高くなるように思います。でも、それを考えると3000円というのは値頃感がありますね。

矢原氏
 ポリカーボネートの金型は1つ、シリコンはデザイン違いで2種類の金型が必要ですから、全部で3種類の金型があることになります。イニシャルの投資はもちろん値が張りますが、そういうことをしていかないとスマートフォンケースとしては変わり映えがしません。

 一見ソリッドでつるんとしていて、シンプルなのに、手に持った時のシリコンの柔らかさでハードな印象がない、というものをやりたかった。肌になじむような感覚をもっていただくのに、どうしても2種類を合わせたかったんです。

 原価は正直高いですし、デザインにも時間を割いたので、最初はもう少し値段が高くてもいいんじゃないか、という悩みはありました。ただ、プラスチックのみを使ったケースでも3000円より高いものはいっぱいあります。これは、それらと同じ土俵で戦いたいなという思いと、3000円でもこれほどのこだわりが出せるんだな、という風に思ってもらいたいという挑戦でもあります。

――最初からポリカーボネートとシリコンという2つのパーツを組み合わせようと考えていたのでしょうか。

矢原氏
 最初からですね。どちらの素材も良さをもっていて、ポリカーボネートという樹脂は落下や衝撃、傷に強いので、これをベースにしたいと思っていました。ところが、ポリカーボネートだけで全てを作ってしまうと、立体的な造形にはできますが、触った感覚はただの凹凸でしかなくて、表面の柔らかさは伝わらない。硬いテーブルに置いた時に滑ってしまう欠点も変わらないので、どうしても2つの素材を使いたい、ということでデザインを進めました。

ポリカーボネートとシリコンという2つの素材を組み合わせた

――モノクロのみの展開ですが、その他のカラーバリエーションは考えなかったのですか。

矢原氏
 元から白黒でやりたいと思っていました。個人的にシンプルなものが好きというのもあるんですけど、これをカラー展開してしまうと、僕らが本当に製品で伝えたいことが伝わらないかなと考えました。このテクスチャーやシリコンなどによる形状、素材、立体的な模様を、見るだけではなく、触って選んでいただく、という形にしたかったのもあります。店舗には展示サンプルがあるので、実際に触って確かめてほしいですね。

――ホワイトのシリコンは触られすぎると汚れそうに思います。

矢原氏
 白いシリコンは汚れが目立つこともあって選ばれにくいのではないか、と自分も最初そう思い、グレーの方がいいのかなと考えたこともありました。でも、このシリコンには今まであまり使われていないようなコーティングを表面に施しているんですよ。コーティングの層が表面にあるので、さらっとした触感になっています。変色しにくいですし、汚れやホコリも直接シリコンには付着しにくい。もちろんポリカーボネートにも傷つきにくいようコーティングを施しています。

シリコンの触感にもこだわったと話す矢原氏

――現在ラインアップとしてはiPhone 7向けのみですが、iPhone 7 Plusや以前のiPhone向けにリリースする計画は?

矢原氏
 まずiPhone 7用のケースで市場の反応を見たいというのが正直ありました。反応が良ければiPhone 7 Plusにも展開したいですね。古いモデルに戻るのはなかなかできないので。

――実際に見た感じだと、男性はもちろんですが、女性でも好きな方は多いのかなと思います

矢原氏
 そうですね、女性に買っていただけることも多いです。全体としては男性のお客様が多いんですけども、女性の方にも選んでいただける商品になったのは良かったかなと思っています。

コンマ数mm以下の寸法を詰めて作り上げたiQOS用ケース

CCCフロンティア 執行役員の竹下結夏氏

――iQOS用ケースについて伺いたいのですが、そもそもなぜ、加熱式たばこのケースを選ばれたのでしょう。

竹下氏
 そういう話でいいますと、acromaはそもそもスマートフォンアクセサリーを取り扱う「UNiCASE」というブランドには含まれないんですね。今までUNiCASEではスマートフォンアクセサリーのプライベートブランド商品を取り扱っていたんですけど、6月にCCCフロンティアデザインという新しい会社を立ち上げて、ブランドとして価値あるものを作っていこうという企画のなかでacromaが生まれました。それを売る場が、今のところはUNiCASEです、という考え方になります。

 なので、これからはケース以外のもっと違うものが出てくる可能性もあります。女性向けブランドの「Mallow」もiPhoneケース、ポーチ、パスケース、キーケースなど、身の回りの雑貨ブランドとして立ち上げていて、ECサイトも別にしています。「acroma」も、お客様に喜んでいただけるものを作りたいというデザイナーの思いで立ち上げた独自のブランドと考えていただければと思います。

6つのカラーバリエーションで展開するacromaシリーズのiQOS用ケース

矢原氏
 お客様は、スマートフォンだけではなくて、筆記具も持っていれば、カバンも持っていて、自転車にも乗るしクルマにも乗る。いろんなライフスタイルの中で、いろんな道具がそこには出てくると思うんです。今はiPhoneケースとiQOS用ケースですけど、そのうちacromaの文具やバックパックなんかも出てくるかもしれません。

――iQOSはご自身でも使われているんでしょうか。

矢原氏
 はい、使っています。iQOSが登場し始めた時くらいに買ったんです。風邪を引いてたばこが吸えない時に、iQOSは吸っても喉が痛くならなかったので。しかし、購入時に2色しか選べないことと、本体の耐久性が低く落とすとつぶれてしまったり、フタが締まらなくなったりと不満もあります。

 なので、iQOSもiPhoneと同じように、好きな色のケースを付けていただければ、傷を防げるし、より思い入れも強くなって、自分らしさが出るんじゃないかと。また、複数の人が集まってiQOSを吸っているような時に、たくさんiQOSが転がっていても自分のものがすぐに分かる、というのも便利なんじゃないかなと思いました。

――パーツが2つに分かれていて、スマートフォンケースより設計や製造には手間がかかりそうですね。

矢原氏
 大変でした。iPhoneって変形もしなければ、どこかが動いたりもしないわけで、本体を1つカバーしてあげればいいだけですけど、iQOSは開閉動作があります。iQOSの公式ケースは、フタを除いた下側しかカバーしないので、下だけ“服”を着ている状態。やっぱり上まで色を変えてあげないとだめでしょうと。でも、がちがちにサイズを合わせると外せなかったり、開閉しなかったりで、すごく苦労しました。

 本体にはほとんど凹凸がありませんが、フタと下側の本体との間に1mmくらいのスリットがあるので、フタ側のカバーの内側に0.3mmのリブをつけて、そのリブが1mmのスリットにかむことで固定されるようにしました。着脱が簡単で、かつ不意に力が加わっても外れにくい構造にするのに苦労しました。

 次は下側にカバーを付けるわけですが、今度はその1mmの隙間が使えないわけです。ちょうどいい固さで外れにくく、でも取り外したい時は簡単に抜ける、という寸法をずっと追っていたんですが、正直これはプラスチックだけでは無理だと思いました。試行錯誤するなかで、内側に厚さ0.28mmのテープを貼ることで、ちょうどいい滑り心地と、フィット感を生み出すことができました。結果的にはスムーズな開閉と脱着のしやすさの両方を達成できたかなと思います。

開閉の動作があるため、パーツが上下2つに分かれている
フタ側のカバーは、上下の隙間で固定できるよう、内側に0.3mmのリブを設けた
下側のカバーは面で固定できるよう、内側に0.28mmのテープを貼り、ちょうどいいフィット感を実現

 ちなみに、iQOSにはスタンダードモデルとしてホワイトとネイビーの2種類がありますが、ホワイトはマット塗装で、ネイビーはラバー塗装。ネイビーは若干ホワイトより厚みがあって、滑りもよくないですし、そうなると金型の寸法で詰めていっても合わせられないんですね。金型で成型する際に、樹脂自体も冷えて収縮しますし。

 それと、iQOSは開閉ボタンやバッテリーの残量を見るボタン、加熱するボタンがあるんですけど、ケースを付けていても全て押せなきゃいけません。特にバッテリー残量を示す複数のLEDは、まとめて大きく穴を開けても良かったんですが、1個1個穴を開けて、ぴったり合っている方がちゃんと作ってる感じがあるよね、ということで、そのへんもこだわって作り込みましたね。

――今回はカラーバリエーションが6色ですが、今後もっと色を増やしていくことになりますか。

矢原氏
 今回のラインアップは色味や塗装の高級感で選んでいただければ、と思って作りました。実はまだ形にはなっていませんが、今後は、よりこだわった素材のケースを販売することも検討しています。

ボタンを押しやすいよう、ボタン周辺は削り込んだように角度を付けている

塗装はメタリック2回、ハードコート1回の計3回繰り返し、色の深みと光沢感を出した

Apple Payの対応で穴を空けたり、ふさいだりを繰り返した、ゼロハリコラボモデル

ゼロハリバートンとコラボした「ZERO HALLIBURTON×UNiCASE」。上段4種類がアルミ削り出し、下段6種類がポリカーボネート

――ゼロハリバートンとコラボしたモデル「ZERO HALLIBURTON×UNiCASE」シリーズも発表しましたね。どんな製品なのか、詳しく教えていただけますか。

矢原氏
 ゼロハリバートンとのコラボモデルは、UNiCASEではiPhone 5の時からコラボしているのですが、今回はポリカーボネートに塗装したものと、アルミの削り出しで作ったものの2種類があります。なぜ2種類にしたかというと、ゼロハリバートンのアタッシュケースやスーツケースも、ポリカーボネートとアルミの2種類のモデルがあるんです。それと同じように展開したいと思って、色味も実際のスーツケースなどに合わせています。

アルミ削り出し(左)とポリカーボネート(右)を並べた。どちらも細部にまでこだわった造形

 今回、本当に苦労した部分はApple Payですね。金属素材は電波を遮蔽するので、通信の電波やApple Payの電波に影響がないように作らなければなりません。でも、iPhone 5からiPhone 6sまでは、モバイルネットワークやWi-Fiの通信の電波だけ考えていれば良かったんです。

 今回Apple Payがリリースされて、電波の出方が単純ではなく、どこから出ているかもわからなかったので、正直アルミ素材は無理だなと思いました。ただ、自分自身も毎朝Apple Payを使って通勤しているので、いくらいいなと思ってケースを買っても、それをわざわざ外してから改札を通過するなんて面倒です。なので、なんとか使えるようにしようと。

 ケースにいろいろ穴を開けたりふさいだりしながら、Apple Payのタッチを繰り返しました。(職場近くの)代官山駅の改札やコンビニに走って試すのを繰り返して、ようやく使えるデザインを見つけることができました。全てのリーダー機器で試したわけではないので、ものによっては反応しにくいものがあるかもしれませんが、デザイン性、機能性、強度のいずれも達成できたと思います。Apple Payについては、機器により使えない場合もありますが、画面側をかざすとより精度が高まります。

アルミ削り出しのモデルでは、背面に広く穴を開け、上側面にも細くスリットを入れることで、Apple Payにも対応。※機器により使用できない場合がある

――スマートフォンケースにこだわらず、いろんなものをデザインする可能性がある、ということでしたが、将来的にはどんなものが考えられますか。

矢原氏
 最近はケースだけでなく、そのものを作った方がいいのかなとも思っています。人がそのライフスタイルのなかで使うアイテムとして選んでもらい、こだわりを見せられるようになればいいなと。電気通るモノ、通らないモノにかかわらず、やりたいですね。

ライフスタイルのなかで選ばれる、あらゆるアイテムを作っていきたいと話した矢原氏

竹下氏
 当社では事業ドメインとして“生活提案”を掲げています。acromaのようなブランドが立ち上がることで、ちょっと贅沢な気分を味わえる製品ができれば、皆さんに喜んでいただける生活提案ができるようになると思います。今後はよりハイブランドなものを出したりして、お客様の生活・ファッションに合わせて選んでもらえるように成長していければと思っています。

――「え、そこに行くの?」という意外性のある、かっこいい製品を期待しています。本日はありがとうございました。