MWC Barcelona 2023

メディアテックによる衛星通信のデモを見てきた、気になるスピードは?

 台湾チップセットベンダーのメディアテックは、MWC BarcelonaでNTN(非地上系ネットワーク)の通信デモを公開した。

 同社は、3GPPのリリース17に準拠した「MT6825」というチップセットを開発。英Bullitt社が開発したキャタピラーブランドの「Cat S75」や、モトローラの「Motorola Defy 2」がこれを搭載する。メディアテックのブースには、スマートフォンとしてCat S75が、スマートフォンに接続するアクセサリーとして「Motorola Defy Satellite Link」が展示されていた。

メディアテックのブース。手前側が、衛星通信のデモで、天井から衛星の模型がつるされていた

 MT6825を搭載したスマートフォンは、静止衛星に接続できる。Bullitt Satellite Connectサービスを使い、3基の静止衛星と通信を行うことで、緊急SOSなどのメッセージの送受信や、位置情報の共有を行える。サテライトモードは、端末の設定メニューのほか、クリック設定パネルでオン・オフを設定できる。基本はモバイルネットワークやWi-Fiに接続していない(接続できない)場面で利用するものだが、サテライトオンリーの設定項目も用意されていた。

MT6825を搭載したCat S75
端末上部に、衛星からの電波をつかむためのアンテナを搭載
設定メニューやクイック設定のボタンで衛星通信のオン・オフを切り替えられる

 SOSメッセージの送受信などは、内蔵された専用アプリを介して行う。3GPPの規格に準拠する形でチップセット側に実装されたため、端末のバリエーションが広がることが期待できる。残念ながら、MWCの会場は屋内になるため、衛星と実際に通信することはできなかったが、緊急時に便利な機能と言えるだろう。ただし、静止衛星は高度が約3万6000kmと高いため、機能的には緊急時のSOS発信などに限定される。

メッセージのやり取りには、専用アプリを使用する
こちらの端末は、スマートフォンと接続して衛星通信を行う「Motorola Defy Satellite Link」。モトローラブランドだが、Bullitt社が開発した

 メディアテックのブースでは、2000km以下の高度で飛行する低軌道衛星(LEO)との通信実験も公開していた。KDDIがネットワークのバックホールとして活用する米SpaceX社のStarlinkも、この低軌道衛星だ。こちらは、商用端末がないため、同社のチップセットを組み込んだプロトタイプの端末を使用。会場には天井があり、衛星の見通しを確保できないため、シミュレーターを介し、通信速度などを計測していた。

低軌道衛星との通信には、プロトタイプの端末を使用した

 会場の説明員によると、実験ではSバンド(2~4GHz帯)を利用しており、ダウンリンクの帯域幅は5MHz幅となる。LTEで言えば、1波ぶん。変調方式は64QAM。この条件では、6Mbpsを超えるスループットが出ていた。4Gや5Gのスピードと比べるとやや遅いが、動画などをギリギリ再生できる速度だ。スマートフォンは小型のため、Starlinkのような大型の端末と比べると速度は遅いが、Webサイトの閲覧などは可能。エリア化が難しい場所での通信としては、実用的と言えそうだ。

通信実験の結果が公開されていた

 一方で、アップリンクの速度は0.24Mbps前後にとどまっていた。会場の説明員によると、その理由は、上りの場合、出力の小さなスマートフォン側から電波を発射しなければいけないためだという。帯域幅を絞ることで到達距離を伸ばし、ギリギリの状態で通信しているため、Mbps単位での高速通信は難しいという。実験では、帯域幅を400KHz幅に絞っているという。