【MWC19 Barcelona】

「決済やポイントだけでなく、空間マーケティングや働き方改革にも貢献したい」、ドコモ森氏が語るスマートライフ事業の展望

 2月25日からスペイン・バルセロナで開催されている「MWC19 Barcelona」では、各携帯電話会社のさまざまな取り組みがアピールされている。

 なかでも注目されている非通信分野への展開について、NTTドコモの取締役常務執行役員 スマートライフビジネス本部長を務める森健一氏に話をうかがった。

――昨年、MWC 2018でお話をうかがったときはプロダクト部長を担当されていましたが、昨年6月からはスマートライフビジネス部長を担当されています。NTTドコモのスマートライフビジネスはどのような事業を展開されているのでしょうか。

森氏
 NTTドコモは携帯電話会社ですが、通信以外の分野も数多く手がけています。この通信以外のビジネスで成長を描いていくのがスマートライフビジネスになります。dカードなどの金融・決済、dショッピングなどのコマース、dTVやdマガジンなどのエンターテインメント、それから今後は広告ビジネスもありますね。

 先日、NTTぷららを買収しましたが、これはエンターテインメントの分野に入り、映像配信などのビジネスを手がけます。また、スタジアムソリューションなどもありますし、これから5Gを活用したライブなども出てくると思いますので、こういったもので売り上げを立てていくこともスマートライフビジネスの範囲に含まれますね。

――NTTドコモの中にもうひとつ会社ができるようなイメージですね。そうなると、いろいろと取り組まなければならない課題も多いと思いますが、今、もっともホットなトピックと言えば、やはりdポイントをはじめとするポイントサービスでしょうか。

森氏
 そうですね。現在、各社がさまざまなポイントサービスを提供していますし、最近はQRコード決済も話題になることが増えています。加盟店の開拓競争が激しくなっていて、我々として、より多くのところでご利用いただけるようにサービスを仕上げていく必要があります。

 また、キャッシュレスへの取り組みも活発ですが、ドコモはdカードを提供していますので、取り扱いが増えてくれば自ずと収益も増えていくことになると思います。

――QRコード決済はここのところ、「○○Pay」祭りのようになっていますが、d払いを提供するNTTドコモとしてはどのように取り組んで行かれるのでしょうか。

森氏
 確かに今、何々ペイというのが増え、祭りのようになってきていますが、これは多くの人がスマートフォンでの決済を体験するという意味でも良いことだと思っています。

 QRコードを使った支払いを体験して、まずは「なるほど、こうやって支払うのか」と思ってもらえればいいわけです。もちろん、我々のd払いを使っていただければうれしいですが、LINE Payや楽天ペイなどで体験してもらってもかまいません。

 しかし大切なことは、そのペイメントサービスを使い続けてもらうような取り組みが必要になってくると思います。そこは各社が競争するところで、我々もいろいろな形で取り組んでいきたいと思います。

 まず必要条件として、たくさんの加盟店でご利用いただけることですね。いろいろなパートナーさんと協力しながら、他のペイメントサービスに負けないように取り組んでいきます。また、使える場所が増えてくれば、今度はユーザーのみなさんにどうやって使ってもらうかの工夫が必要です。たとえばクーポンなどを、ユーザーの嗜好に合わせて提供していく必要があると思います。

――QRコード決済は中国で広く利用されたことで注目が集まり、日本でも拡がろうとしていますが、日本では元々おサイフケータイが提供されています。実際の利用ではQRコード決済の方がアプリを起動する手間などが増えてしまいますが、それでもユーザーはQRコード決済を使っていくとお考えですか?

森氏
 お客さんが実際に使うときの流れ、ユーザー体験としては、iDやモバイルSuicaなど、おサイフケータイの方が簡単ですし良いと思っています。

 一方、加盟店さんの視点で考えてみると、おサイフケータイはリーダーが必要なのでコストもかかります。中国のように、店頭に貼ったQRコードをユーザーに読み取ってもらう形であればコストはあまりかかりませんよね。それぞれのメリットをきちんと理解したうえで、利用できる場所を拡げて行きたいと思います。

――中国を見ていると、QRコードで個人間送金の利用も増えているようですが、こういったものにも取り組んでいくのでしょうか?

森氏
 これは我々も検討中です。例えばひとつの統合ウォレットのような形で、個人間の決済もいろいろな金融サービスも利用できるなど、そういったことも含めて検討していきたいと思います。

――NTTドコモが提供する決済サービスは、d払いやiDなど、利用するシーンごとにいろいろな手段があって種類が多いように見えますが、これらは今後どうされていくのでしょうか?

森氏
 基本的には整理統合する方向で考えています。現在、ドコモ口座やd払い、クレジットカードなど、いろいろな決済手段を提供しています。今までご利用いただいていたものがベースになりますが、それぞれが連携して、わかりやすい形で統合されていくのが自然な流れになると思います。

 たとえば最近メルカリさんがiDに対応されて、メルカリで送金されたお金をキャッシュに換えない形で店頭で支払えるようにしています。我々にもドコモ口座があり、そこに貯まっているバリューをリアルな加盟店で使えるようにすれば、現金化する必要がなくなります。

 現金化すると、どうしても銀行で支払うためのコストがかかりますから、そのままの形でご利用いただけるように仕立て直していこうと考えています。

――決済サービスを展開していくうえではオープンなサービスの方が良いように思えますが、そのあたりはどのようにお考えですか?

森氏
 dアカウントはすでに、従来の回線契約に基づいたものからメンバーシップサービスへ移行していますから、他キャリアのお客さんもdアカウントを持っていただいて、dポイントを貯めたり、使ったりできます。こういう形でオープン化をどんどん進めていきたいと思います。

――おサイフケータイの利用率は俗に1割、2割と言われることもあります。実際にどれくらい使われているのでしょうか?

森氏
 数は申し上げられませんが、そう多くのユーザーが利用されているわけではないというのも事実です。ただ、スマートフォンではこれからグローバルなプラットフォームのNFCが入っていくことになりますので、うまく環境を整えてユーザーの裾野を拡げて行くことができればいいなと考えています。

――そうすると、QRコード決済はどれくらいのところまで拡がりそうですか?

森氏
 日本では20%くらいの人しかキャッシュレスを使っていませんが、欧米諸国は40~50%近い状況です。現在、日本でもキャッシュレスを利用していない8割近くの方々に利用していただくための取り組みがスタートしています。

 その中で、どれくらいの人がQRコード決済、あるいはおサイフケータイやNFCによる決済を利用するのかはユーザーの選択次第ということになりますね。

――現在、各社がQRコード決済の加盟店を増やしている状況で、店頭ではいくつもQRコードのパネルが設置されていますが、これは好ましい状況ではないですよね?

森氏
 そうですね。お客さんもどれを読み取るのか、ちょっと戸惑うかもしれません。今はサービスの拡大時期なのでそういう傾向にありますが、徐々に改善されていくと思います。

 コンビニなどで利用されている、スマートフォンに表示したバーコードを読み取ってもらう方法であれば、そういったこともなく利用しやすいと思います。

――少し話は脱線しますが、今回のMWC19 Barcelonaでは折りたたみのスマートフォンが話題です。M Z-01Kやカードケータイなど、ユニークな商品を数多く手がけられた元プロダクト部長という立場からご覧になって、いかがですか?

森氏
 技術的にはたいへん素晴らしいですし、これまでの流れからの正常進化ですけど、正直なところ高いですよね。日本ではご存知の通り、これから分離プランへ移行していくことになりますから、普及促進を図るにはもう少し値段を下げないと厳しいかなと思っています。

 でも、面白いですよね。ファーウェイさんやサムスンさんのようにシームレスな折りたたみスマートフォンというのはスゴいですし、LGさんのように、カバーに追加の画面を用意して組み合わせるというのもあります。

 あとは端末の厚みが課題ですね。開いている状態では現状でも薄いですが、折りたたんだときに胸ポケットなどに入れて違和感がない厚さというのも大事です。

――スマートライフビジネスでは、決済以外に何か新しい取り組みをお考えでしょうか?たとえばスマートフォン以外ではどうでしょう?

森氏
 先ほどお話ししたライブやエンターテインメント、あるいは箱ものなど、いろいろなところと手を組んで提供していく、空間そのものをプロデュースすることになります。

 こういったものを展開するとき、たとえば、立体音響が楽しめるスピーカー、あるいはエンターテインメントを体感できる機材を組み合わせ、空間を楽しくする取り組みは考えられると思います。今まではスマートフォンを利用することに限られていましたが、より広い意味で捉えて、お客さんが居る空間を楽しくする、居心地のいい場所にしていくという方向ですね。

――そうなると、家の中の環境をプロデュースすることも考えていくのですか?

森氏
 たとえば、リビングをもっと楽しい空間にする、快適な空間にするという取り組みが考えられますね。たとえば、テレビは4Kが始まったばかりですが8Kもありますし、音響はドルビーアトモスなどもありますから、こういった環境を整えていくことでリビングをエキサイティングな空間にできます。乞うご期待ですね。

――5Gではいろいろなデモを拝見していますが、来年や再来年には家の中の話題も出てきそうですか?

森氏
 出てくるかもしれませんね。家の中が変わっていく方向もあると思います。

 先日、空いている時間にリビングなどを貸し出すスペースマーケティングというサービスを提供している企業と提携しました。たとえば、何かスポーツのイベントなどをみんなで観戦するとき、誰かの家に集まるのではなく、どこか広い場所に集まり、そこに食べ物などをデリバリーしてもらいながら楽しむ使い方ができます。

 そういった場所に何か機材を提供して、より楽しんでもらう方向も考えられます。機材をご自身で揃えたり設置するのは大変ですが、あらかじめ用意してあれば楽しんでもらいやすいですよね。都内でもオフィスの空いている場所などがあるようですから、そういうところを見ながら検討していきたいと思います。

――最近、働き方改革などの話もあり、外出時や自宅などでパソコンで仕事をするスタイルが増えてきていますが、こういったスタイルをサポートする御社のサービスというのは考えられないでしょうか。

森氏
 私自身も電車通勤でいつも混雑を体験していますが、たとえば、リモートワークの環境を整えた空間を用意して、5Gネットワークで情報をやり取りしたり、ビデオ会議をするといったサービスが考えられます。

 現在、地方創生でさまざまな自治体とお話をさせていただいていますが、先生が少ない小学校に対して遠隔で授業をしたり、仕事でもビデオ会議で打ち合わせをすることで、地方発の働き方改革が議論されていますから、そういったスタイルの拡大は十分にあると思います。

 個人的な意見ですが、オフィスワークって、営業職のように人に会う仕事は場所が重要ですけど、企画のような仕事は東京じゃなくても地方でもできますよね。ですから、そういう仕事に携わる方が地方や郊外で仕事をして、アウトプットはインターネット経由でデジタル化するという働き方もあると思います。

 今後、日本全体として、こういう動きがもっと活発になっていくんじゃないでしょうか。特に、東京は一極集中と言われているので、そういったサービスを提供することで、各地域への拡大のお手伝いができるといいかなと考えています。

――本日はありがとうございました。