【MWC19 Barcelona】

「5Gではスマートフォンだけではない世界観をお見せしたい」、ドコモ吉澤社長インタビュー

 2019年9月にプレサービス、2020年春には正式サービスの提供を予定しているNTTドコモの5G。MWC19 Barcelonaでは各社の5Gサービスや関連製品のデモが会場をにぎわせているが、NTTドコモはどのような形で5Gサービスに取り組んでいくのだろうか。NTTドコモの吉澤和弘代表取締役社長に話をうかがった。

――今年のMWCはいよいよ5Gサービスの話題が本格的になってきました。

吉澤氏
 そうですね。今年は各社の5Gサービスに関連する出展が出揃ってきた印象です。NTTドコモも会場で提供されている5Gの電波を利用して、離れたところに居るアーティストがライブに参加できるデモなどで、新しい方向性をお見せしています。端末も登場してきましたし、いよいよという感じでしょうか。

――今年9月にはプレサービスを開始するとうかがっていますが、実際にどのようなイメージでサービスが提供され、一般のユーザーが関わることができるのでしょうか。

吉澤氏
 9月はちょうどラグビーワールドカップがありますので、それがひとつのトピックになります。プレサービスなので、端末はお客様に販売できませんが、会場で端末を貸し出す形で体験していただけるでしょうし、あるいは会場以外のところでも楽しめると思います。

 基地局は順次整備していきますので、プレサービスの段階ではどこでも使えるわけではありませんが、エリア内のイベント会場などでお楽しみいただくことになるでしょう。

 たとえば、スタジアムで実際に試合を見ていただきながら、多視点のカメラによるマルチアングルの映像や審判から見た映像などを見ていただく形が考えられます。場外のパブリックビューイング会場で、5G対応端末を使い、観客席と違った楽しみ方を提供することも可能です。

 また、法人とのパートナー連携については、すでに取り組みをスタートさせていて、遠隔医療などは今年から来年にかけていろいろな検証をしていきます。プレサービスから商用サービスにかけての期間で、5Gを利用したいろいろな事例が出てくると捉えていただければいいかと思います。

 ただ、一般の方に楽しんでいただける機会がそれほど多いわけではないのです。端末も全体で1万台、2万台くらいの用意になりますから。

――今年の春には新しい料金プランを発表される予定ですが、ここには5Gの料金プランも見据えたものが含まれているのでしょうか?

吉澤氏
 新しい料金プランは準備を進めていますが、5Gまでは考えていません。ただ、5G時代につながるように、料金体系そのものは引き継げるようにしたいと思っています。5Gは当初、映像伝送などが中心になるので、かなり多くのデータ量を使うことになります。今の30GBや40GBといった容量よりもさらに上の容量になりますけど、それがドンと高くなるということはないと思います。そこはしっかりと考えて、料金プランをご提案したいと思います。

――5Gではスマートフォンだけではない世界観もできてくると思いますが、そこへ向けた料金プランのバリエーションも考えていくのでしょうか。

吉澤氏
 そうですね。たとえば、5Gでは同時多数接続というものもありますし、5G対応のIoTなども登場してきます。ARやVRなどでも5Gを利用するでしょうから、それぞれのケースに合わせて料金を検討していく必要があります。

 5G対応スマートフォンを中心にWi-Fiなども組み合わせて、ARやVRを楽しむB2Cのサービスはいくつも出てくると思いますが、その場合は周辺機器との接続には料金がかかるわけではないので、どういう形で周辺機器を提供できるのか、あるいはサードパーティーとどのように連携していくのかという部分の方が課題ですね。さまざまなパートナーさんと協業することになるので、我々としても非常に期待しています。

――パートナーとの協業については、NTTドコモとパートナー企業で一般消費者に提供するB2B2Cの形なので、NTTドコモはパートナー企業から料金をいただく形になるかと思いますが、そのときの料金プランの組み立て方はどのようにされるのでしょうか?

吉澤氏
 それは今、検討を重ねているところですね。5Gについては技術的な推進室もありますが、事業の推進室という部署もあり、ユースケースに合わせたビジネスモデルなども検討しています。

 たとえば、B2B2Cの形で提供されるサービスで、一般消費者の方から直接料金をいただくのは難しいでしょうから、パートナー企業でまとめていただいたり、あるいはシェア(レベニューシェア)の形の方が良いと考えています。そういったことも含め、いろいろなパターンを考えて検討を重ねています。

――5Gを活用したサービスを検討するとき、大企業はすでに何らかの接点があるでしょうが、中小の企業についてはどういう形で対応されるのでしょうか?

吉澤氏
 5Gを活用したい中小企業向けということになると、やはり、ソリューションのパッケージをご提供する形になると思います。最初からいくつものパッケージを提供するのは難しいかもしれませんが、少しずつ内容を充実させてニーズに応えていきたいですね。

 たとえば、農業や警備、遠隔監視などはパッケージにしやすいと思います。また、無線免許の課題は残りますが、工事現場や工場など、限られた場所だけで利用するソリューションのパッケージも考えられます。

 我々のパートナーさんには自治体や学校法人もいらっしゃいますから、そういったところと話し合いながら、パッケージの内容を固めていきたいですね。

――今年のトピックと言えば、楽天がいよいよサービスの提供を開始します。どのように迎え撃つかという話は以前にもうかがいましたが、先日、楽天がネットワーク設備を公開し、仮想化で運用するネットワークをアピールしていました。これらをどのように見られていますか?

吉澤氏
 我々もコアネットワークの部分には仮想化の技術を導入していますが、すべてのネットワークを仮想化で動かすのはなかなか難しいかもしれません。

 仮想化とは言え送受信の装置は設置しなければなりませんし、実際に無線部分のコントロールがうまくできるかどうかはまだ未知数だと思います。

 技術者の方はインドなどで運用してきた実績を活かすとのことですし、シスコやNOKIAといった世界的なベンダー各社も関わっていますから、どういった形で運用されるのかが興味がありますね。

――そこはお手並み拝見という感じですか?

吉澤氏
 そうですね。我々も含め、既存の携帯電話会社はこれまで構築してきたネットワークがありますが、彼らは一から構築するので作りやすい一面もあると思います。

 AIを活用して不具合を修正するという話もあるようですが、なかなかそう簡単にはいかないと思いますよ。通信の世界というか、携帯電話は電波を使いますから、通信が切れた時どのように回復処理をするのかなど、実運用における処理は意外にアナログなのです。そういったことも含め、どのようにネットワークを仕上げてくるのか、我々も注視しています。

 ビジネスという視点では、楽天さんはスマートフォンで利用する金融やコマースなどの実績をお持ちですし、それを活かすサービスを展開していくと思います。

 我々も金融やECに取り組んでいますので、徐々に競争軸が増えてきつつあります。楽天さんは1億近いという会員基盤を持っていて、そこでビジネスを展開されるようですが、我々も回線契約だけでなく、dポイントなどを軸にした会員サービスへ拡大してきていますから、そこで対抗していくことになります。

――今回のMWCの前後にはサムスンが「Galaxy Fold」、ファーウェイが「Mate X」と、20万円を超える価格の端末を相次いで発表しましたが、これは御社も導入を想定されているのでしょうか?

吉澤氏
スマートフォンの次というか、発展形として面白い形だと思います。ただ、これを扱うかどうかは我々も検討しなくてはいけません。こういった形の端末は我々も「M Z-01K」をやりましたが、あれとはまた違った機能も搭載されていますよね。

 正直なところ、もう少し安くないと手が出しにくいのかなと思います。特に、今年は完全分離プランの話もありますから、今の価格だと、お客さんは高いと感じてしまいますよね。

 それでもお使いになりたいという方もいらっしゃるでしょうから、たとえば、数を限定してトライアル的に導入してみて、次を検討するという流れもあると思います。ただ、ちょっと高いですよね(笑)。

――ハイエンドのスマートフォンが10万円台で、完全分離プランが導入されるとなると、docomo withのような価格帯のラインアップが重要になってきますよね。

吉澤氏
 docomo withにラインアップしている端末はミッドレンジですが、性能はかなりのところまで来ています。また、端末購入補助がまったくダメという話ではないので、そこをどういう形で活かしていくかもカギですね。やはり、お客さんにとってはある程度の補助があった方がいいと思います。

 春に料金プランを発表するときには、買い方のご提案も含めてお話しする予定ですのでしばらくお待ちください。

――これまではネットワークの進化に合わせ、対応端末が推奨される形で、積極的に買い換えが進んでいたわけですが、完全分離プランのこともあり、5Gでもそういった流れが生まれるのかどうかが気になります。

吉澤氏
 サービスの最初はいつも、ある程度高い価格になってしまいますが、徐々にコストは下がっていきますし、5Gならではのサービスも出てきますから、少しずつ普及が進んでいく流れになると思います。

 我々としては、しっかりしたサービスをご提供して認めていただくようにしないといけないですね。そのためにも“Day 1”からサービスをしっかりと用意して、5Gを楽しんでいただけるように準備をしていきます。ご期待ください。

――本日はありがとうございました。