【MWC19 Barcelona】

「9月開始のプレサービスで、5Gの世界を体験していただきたい」ドコモ安部氏インタビュー

 2月25日からスペイン・バルセロナで開催された「MWC19 Barcelona」。昨年までは将来像として描かれていた「5G」だが、今年は各社から相次いで5G対応端末が発表され、いよいよ本格的に5Gサービスの時代が近づいてきたことを感じさせた。

 5G時代の製品がどうなるのか、完全分離がどうなるのかなどをNTTドコモの安部成司プロダクト部長にうかがってみた。

――今年のMWC19では各社から5G対応スマートフォンが登場しましたが、実際に日本のユーザーが5Gサービスを体験できるのはいつ頃になるのでしょうか。

安部氏
 すでにお話しさせていただいていますが、今年9月にプレサービスを開始する予定で準備を進めています。その際、我々はお客様に端末を貸し出して、いろいろなサービスを利用していただいて、「5Gってこういうものなんだ」「こんなサービスが使えるんだ」というのを体験していただくつもりです。お客様に端末を販売するというのはもう少し先で、来年の春頃になると思います。

――9月のプレサービスのとき、ユーザーが手にする端末はグローバル向けに販売されているものになるのでしょうか? あるいは詳細を伏せている端末を用意しているとか?

安部氏
 今回のMWCでもいろいろな5G対応端末が出てきていますが、これ以外の5G対応端末が急に出てくるというのはなかなか考えづらいかなと思いますので、こういった端末の中からディスカッションをさせていただいて、お客様に魅力的なものを提供できればと考えています。もちろん、その際には我々のネットワークに接続できるということが前提条件になります。

――プレサービス向けの端末ですが、スマートフォンを想定されているのでしょうか? その他にもCPE(宅内装置、据え置き型Wi-Fiルーター)やモバイルWi-Fiルーターなどもありますよね。

安部氏
 将来的にどうなるかはわかりませんが、FWA(Fixed Wireless Access、CPEと同様のもの)を最初に提供するのではなく、あくまでもモバイル、セルラーのサービスとして提供させていただくことを考えていますので、やはり、スマートフォンという形で提供するのがいいと考えています。お客様もそういう形を期待されているでしょうから、そこに応えていくのが我々の役目だと思います。

――MWC直前からのトレンドとして、折りたたみで、20万円オーバーの端末が出てきています。かなり突き抜けた印象の端末ですが、これらを扱われる可能性はあるのでしょうか?

安部氏
 我々としては、お客様に新しいワクワクを伝えていきたいと考えています。子どもが新しいおもちゃをもらうとワクワクするように、スマートフォンで5Gとなれば、より新しいワクワクを届けられると思っています。

 そういった状況で、フォルダブルのような今までにない端末は、お客様も「欲しい」と思って買われるでしょう。我々としても提供できるようにしていきたいという思いはあります。

 ただ、おっしゃるように20万円、30万円という端末なので、本当に手に取っていただけるのか。家のテレビを買うのと同じくらいの価格帯なので、そう簡単に判断は付かないでしょう。

 実際に買われるのは非常に限られたお客さんになるかもしれませんが、我々のネットワークに接続できていろいろなサービスが楽しめる端末として提供できれば、それは非常にうれしいと思います。

――現在発表されている5G対応端末の多くは、4Gネットワークでも利用できます。やはり、日本で5Gサービスが開始しないと、端末を販売するのは難しいのでしょうか? たとえば、国内では4Gで使うが、海外では5Gを利用したいというユーザーもいるはずです。

安部氏
 たとえばの話になりますが、国内で5Gサービスがスタートする前に、4G/5G両対応の端末を販売したとします。ところが、実際に商用サービスが開始されたときにその端末では5Gがつながりません、ということはできないと思います。ですから、我々が5Gサービスを提供した段階で、そういった両対応の端末を提供するのが適切だと思います。

 お客様が海外に出かけて、5Gでつながるというのは確かにあるのですが、我々としては責任を持って、5Gサービスを提供するべきだと思います。きちんと表層を合わせて対応していかないといけないと考えています。

――昨年は総務省のモバイル研究会、もう少しさかのぼれば、官邸主導とも言える値下げ発言があり、完全分離プランの緊急提言もありました。販売戦略に大きく影響を与えそうな動きが続いていますが、端末のラインアップに影響はありますか?

安部氏
 完全分離をすると、高い端末は手を出しづらくなってしまうでしょうね。一方で、世の中には価格の高い商品を値引きして販売するケースも見受けられます。

 どうやったら、お客様に手の届きやすい形で販売できるのかを考えていかなければならないのですが、高い端末は少し販売に影響が出てしまうのが避けられないと思います。

 そうなったとき、日本市場はどちらかと言えば、ラインアップがハイエンドに寄った形になっているので、もう少し価格のレンジを拡げ、いろんな端末をご用意できればと考えています。

――その場合、主力になる製品の価格帯はいくらくらいになるのでしょうか? 最新のiPhoneは15万円を超える一方、docomo withは3万円程度。その間のどのあたりが主力になりそうですか?

安部氏
 今まさに、調査をしながら価格を探っているところですが、端末としては機能とのバランスが大切ですね。今までのハイエンドモデルは7~8万円以上、あるいはそのさらに上でしたから、買える人は限定されてしまいます。できれば、もう少し下のラインを狙っていきたいなと考えています。とは言え、魅力的な機能と端末の価格のバランスを見て、対応を検討していかないといけませんね。

――先日発表されたソニーの「Xperia 1」は米国での価格が950ドルで、何とか歯を食いしばって、10万円を切るレベルに収めた感があります。

安部氏
 はい。私も同じように思っています。端末価格の10万円は普通の消費者から見ると、ひとつの大きな壁だと思うんですよ。そこを簡単に超えるというのは難しく、それよりは下のレンジを用意していくことは重要だと思います。

 そこが普及していくと、一般の方でも普通に使っていただける。たくさんの方に使っていただけることで、新しいサービス、新しい使い方が出てくるんだと思います。

――昨年を振り返ってみると、iPhoneは新モデルよりも旧モデルがランキングの上位を占めるような状況が続いていますが、販売の現場でiPhoneの売れ行きが鈍っている印象はあるのでしょうか?

安部氏
 現在は少し前の世代のiPhoneをdocomo withで販売していて、お客様がそこに敏感に反応して、購入していただいた印象です。ただ、トータルで見ると、新端末を購入されているお客様もいらっしゃるので、我々の足下で見て、大きな影響が出ているような印象はありません。iPhoneは魅力的な端末ですから、新しい体験をご提案いただいていますので、これからもそれは継続していただけると思います。

――これだけ旧モデルが売れているのは、さすがに昨年の新モデルは価格が高すぎたのではないでしょうか。

安部氏
 昨年のiPhoneの最大容量のモデルは20万円近い価格ですので、おいそれと誰でも買えるものではないので、バランスを取っていかないと、お客様にご提供できません。

――従来は最新モデルということで、闇雲に買っている感もありましたが、値段に対してシビアになってきたということでしょうか? お客さんもそこを理解し、意識してきたと捉えていますか?

安部氏
 そうですね。何世代か前のモデルでも最新OSが使える部分がありますから、それを理解して、自分が手の届く範囲の端末を購入されているんだと思います。

――話は変わりますが、ファーウェイが端末などで高い評価を受けている一方、米中対立の中でネットワーク側の問題が指摘されています。ファーウェイの端末とは今後、どのように付き合っていくのでしょうか?

安部氏
 ファーウェイさんについては、今回のMWCを見てもわかるように、技術力も商品企画力も非常に高いメーカーさんです。ハイエンドの端末も非常に魅力的なものが多く、そういったものに敏感なお客様は購入されているんだと思います。

 お客様が欲しいと思われる端末、魅力的だと感じる端末を如何に提供していくかが我々の役目だと思いますので、そういったところでのファーウェイさんとのお付き合いは当然、変わらないと思います。一方で、何が起こるかはわかりませんので、状況は注視していかないといけないと感じているところもあります。

――価格や政治との絡みもありますが、今回のMWCで発表されたMate Xは出したいとお考えでしょうか?

安部氏
 非常に魅力的な端末だと思います。長く携帯電話をご覧になっている方なら、純粋に欲しいと思われるんじゃないでしょうか。そういったものを我々のネットワークを介して、ご提供していくことが我々の役目だと思っています。

 ただ、いろいろな条件もありますし、まだ今の段階では何も決まったことはありませんが、そういった魅力的なものをお客様にご提供したいという純粋な思いはあります。

――海外メーカーの話題が増える一方、MWCでは国内勢はソニーくらいしか出展していません。日本のメーカーにはどのようなことを期待されていますか?

安部氏
 我々というより、お客様が日本メーカーに期待を寄せている印象があります。お客様の期待にどう応えていくか、我々として、どういう商品ラインアップを揃えていくのかが重要なのかなと考えています。
 お客様の期待に応えられるように、日本のメーカーさんとお付き合いしていくことが大事だと思います。日本人だからこそ、きめ細かいところに手が届くといった特徴を活かした端末を出せればと考えています。

――国内勢だと、シャープさんがスマートフォンで頑張り、京セラさんも自らの特徴を活かしたカードケータイを開発しましたが、各メーカーのモチベーションを引き出すような形ができてくるといいですね。

安部氏
 グローバルのメーカーの製品も大事ですが、日本のメーカーだからこそできることもたくさんあるんだと思います。それを如何にお客様に届けていくのか、各社さんと話をしながら、しっかりと日本のお客様にお届けしたいと思います。

――現在、ドコモのラインアップはグローバル向けのメーカーの製品、各携帯電話会社向けの共通製品などがラインアップの中心ですが、今後、カードケータイやMのような独自企画の端末を開発される意向はお持ちですか?

安部氏
 先日カードケータイを出しましたが、新しい市場を切り開いていく商品は必要だと思います。携帯電話会社側としては商品企画という立場なので、新しいものにチャレンジして、いろいろな商品を出していくことは重要です。引き続き、今までにないようなもの、ちょっと変わったものも商品化していきたいですね。

――先ほどの話にもありましたが、カードケータイと一緒にZTE製のワンナンバーフォンも発表されましたよね。ZTEさんは米国からの制裁を受け、かなり苦しまれたようです。現在、御社に端末を供給するメーカーさんはあまり多くありませんが、今後、新規に参入するメーカーはあるのでしょうか?

安部氏
 まず、ひとつはドコモから見て、ベンダーさん(端末メーカー)から見て、市場が公平であることが大事だと思います。それが魅力になって、ベンダーさんも参入を検討してこられるはずです。ですので、きちんと公平性を保っていけば、新しいベンダーさんともいっしょにお仕事ができると思います。

 ただ、既存のベンダーさんにはこれまでの端末を購入されたお客様がいらっしゃるわけで、買い換え時にこれまでと同じメーカーの製品に買い換えたいという方が非常に多いというのが実状です。新規参入で競争するには、それ以上の魅力を持つ端末でなければなかなか難しいと思います。

――今までの端末にはない機能や魅力を備えた機種であれば、新規参入メーカーでも採用される可能性はあるということですね?

安部氏
 市場を見て、そういった機能を求めるユーザーがいたり、新しい市場が開けていくことがわかっていれば、ぜひご提案いただきたいと思います。

――ただ、メーカー側からすると、かなりドコモさんの敷居は高いと感じているかもしれません(笑)。

安部氏
 我々としても何十社も何百社も扱うことができるわけではありません。お客さんにとってもあまりにもたくさんの端末が並んでいると、選ぶのも大変です。

 我々にもキャパシティがあるので、その範囲の中で調達するとなると、どうしても選択肢は限られるかもしれません。しかし、我々の市場を魅力的だと見ていただけるなら、いろんな会社さんとお付き合いしたいと思います。

――今年、販売施策の変更で完全分離プランになっていくと、ドコモショップでの故障修理や保守などが大変ではないでしょうか? 端末の故障修理は本来、端末メーカーが責任を持つ部分があると思いますが、今後もこれまでのような対応を継続される考えでしょうか?

安部氏
 たとえば、メーカーさんがメーカーブランドで販売される商品は、責任分界点の考えでもメーカーさんに責任があります。ただ、ドコモのブランドで販売する商品については、アフターサービスやサポートも含め、ドコモが責任を持って提供していきます。販売施策が変わったからと言って、そこを大きく変えることはありませんし、基本方針は同じです。

――今までは、ドコモショップに持ち込めば使い方もサポートしてくれましたが、今後、持ち込みの中古端末などが出てくるようになると対応が難しくなるのでは?

安部氏
 中古端末などの扱いについて、何か新たに決まっていることがあるわけではありませんが、お客様が購入されたものについては保証に基づいてサポートをさせていただきます。それ以外については、故障対応や修理などをどうするのか、市場としてルールを決めていかないと難しいですね。

 以前、第三者修理(端末を販売した携帯電話会社や端末メーカー以外が修理をすること)が話題になりましたが、中古市場については、そういったことも含めて決めていかないと、市場が起ち上がっていかないと思います。今のままでは、お客さんの不満だけが募っていく形になってしまう可能性があります。

――中古端末については、バッテリーの劣化が気になるところです。使い方にもよりますが、通常は1~2年程度継続して利用すれば、バッテリーは劣化します。しかし、交換修理の必要性と対応状況はあまり一般消費者に認知されていません。その部分の対策は何かお考えですか?

安部氏
 我々のお客様であれば、ケータイ補償で対応は可能です。逆に、どこかで購入して持ち込まれた端末については、仮にドコモブランドの端末だったとしても、どのような使われ方をしたのかがわからないので同じような対応は難しいですね。

 ケータイ補償サービスは購入から2週間以内の加入が必要なのですが、これをきちんと理解してお買い求めいただきたいというのが本音です。

 中古市場での対応については、切り離して考えないといけませんね。中古市場で端末を販売される業者さんがサポートをどうするのかなど、何かルールを決めていく必要があると思います。

――スマートフォンはかなり成熟してきた一方で、デザインや機能面の差が少なくなってきています。5Gサービスでは新しいジャンルの商品が期待されますが、どうでしょうか?

安部氏
 そうですね。スマートフォンは成熟してきましたが、ディスプレイサイズはこれくらいが限界だと言われていますし、複数のカメラを搭載するにしても10個も20個もつけるわけにはいきません。

 今回の展示にもありましたが、360度カメラが搭載されると、撮影のしかたが変わってきたり、それを見る側もグラス型ディスプレイを身に着ければ、ARやVRを楽しめます。

 スマートフォンは進化しましたが、スマートフォンだからこその制約があるのも確かです。スマートフォンの制約をいかに外すデバイスが出てくるかがカギだと思っています。特に、今回の5Gサービスではダウンリンクの速度が向上しますから、そういったものをより上手に活用できるいい機会じゃないでしょうか。我々は周辺機器もいろいろ対応していきたいと思いますので、ご期待ください。

――本日はありがとうございました。