ニュース

「小売店やファンクラブにMVNOサービスを」ミークモバイルの“パッケージ型”MVNE新サービスの狙いとは

 ミークは30日、新会社「ミークモバイル」を立ち上げ、非通信事業者によるモバイル事業参入を支援するサービス「MVNO as a Service」を提供すると発表した。通信事業を持たない法人がサービスを利用することで、初期コストを抑えながら通信事業の免許を取得しなくても自社のブランドでMVNOサービスを立ち上げられる。同社も“非通信事業者”の参入に重点を置いたサービスだとしている。

帯域を有効活用できる両輪

 ミークは、ソニーネットワークコミュニケーションズ(SNC)から独立した企業で、祖業となるMVNE(MVNO事業者向けに回線を提供する事業者)のほか、企業のIoTデバイス向けの回線も提供している。

 ミーク代表取締役執行役員社長の峯村竜太氏は、同社がキャリアのネットワークと接続している回線の帯域について説明。コンシューマーユーザーが多いMVNEでは、上りより下り(ダウンロード)の利用が大きい一方、IoTデバイスでは、カメラやセンサーなど現場からクラウドへ動画やデータをアップロードする用途での利用が多いため、上りと下りの帯域利用でうまくバランスが取れているという。主要な原価となるキャリア回線との接続、いわゆる土管の部分となるが、一般的にキャリアとの回線では、上りと下りの帯域幅が1対1のため、コストパフォーマンスに優れていると話す。

ミーク代表取締役執行役員社長の峯村竜太氏

 そのMVNE事業だが、MVNOとして通信サービスを提供するには、通信事業者の免許が必要となる。総務省への申請のほか、自前でプラットフォームを整備する必要があり、同社のMVNEとしての顧客も、プロバイダ(ISP)など何かしらの通信事業を展開している法人がこれまで多かった。ただし、近年はこれまで通信事業をしてこなかった“非通信事業者”の割合が上昇してきており、2025年3月には4割近くになったという。

 今回のサービスは、これまでMVNO参入への障壁となっていたものを、「ミークモバイル」が担うことで、上昇傾向にある“非通信事業者”を主なターゲットとして市場を拡大していくことを狙っている。

経済圏を意識したサービス展開

 新設されたミークモバイル代表取締役社長の小林敏範氏は、日本全体の企業割合を取り上げ、より具体的な狙いについて言及した。情報通信を扱う事業者は、日本の企業全体の1.1%であるのに対し、コンシューマー向けに事業を展開する企業は全体の49.6%を占める。小林氏は、これまで通信事業者がメインだったMVNOの障壁を低くすれば、これまでの“およそ45倍”の企業に提案できることになると、サービスの意義を語る。

ミークモバイル代表取締役社長の小林敏範氏

 加えて、コンシューマーが対象の調査結果を示し、通信を利用するユーザー側にも変化が生じていると話す。MMD研究所の調査によると、「経済圏を重視しているか?」との問いに60.8%が意識していると回答。さらに、「経済圏内で現在利用しているサービスは?」の問いには、3番目に多い回答に「モバイルサービス」が挙げられた。企業のポイントなどさまざまな経済圏があるなかで、参入障壁の高いモバイルサービスが挙げられているところに、小林氏は市場が広がる可能性を指摘した。

 加えて、これまでITリテラシーが高いユーザーが多かったMVNOのユーザー属性に加え、「経済圏を重視するユーザー」が加わり、増加傾向にあると分析。「いままでと同じ品質のサービス」を「今までと同じ価格帯で利用したい」というユーザーに向けたサービスを、コンシューマーに向けて打っていくと小林氏は話す。

具体的なサービスの流れ

 「MVNO as a Service」は、ミークモバイルが役務提供者、つまり通信サービスを提供するかたちになる。

 たとえば、提携会社をA社とし、新たに「Aモバイル Powered by MEEQ」というサービスを提供する場合、コンシューマーユーザーはA社の宣伝などでAモバイルに加入するが、ユーザーはA社ではなくミークモバイルと通信契約するかたちになる。料金もA社に支払うが、A社のポイントアカウントと連携していれば、利用状況に応じてA社からポイントやクーポンで還元される形でインセンティブが付与される。

 A社は、直接通信サービスを提供しないが、ユーザーの利用状況に応じてミークモバイルから手数料を受け取る。これを原資にユーザーに還元する。ミークモバイルと自社のアカウントを接続するシステムは必要となるが、それ以外の通信に関わる開発は不要だ。申し込みページやユーザーサイトなどもミークモバイルが用意するため、短ければ3カ月程度でサービスインできるという。

 小林氏によると、システムはすでに完成しており、あとは提携企業を待つだけの状態だという。名前は明かせないとするものの、すでにサービスイン間近の企業があると話す。

 料金体系は、月のデータ容量にあわせた5つのプランを用意。パッケージ型のサービスだとし、どの提携企業も基本的には同じ料金体系で提供する。

 小林氏は、ユースケースとして小売業以外にもファンクラブや電気などのインフラ事業者、旅行事業者を挙げる。限定チケットやポイントと交換できたり、通信プランを契約しているユーザー限定の特典を用意したりすることで、より通信サービスとブランドの魅力が高められると語る。

強みは3キャリア回線

 ミークモバイルの強みについて小林氏は「3キャリア対応していること」を挙げる。ミークでは、NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクの3回線に対応しており、ミークモバイルでも3キャリアの回線に対応する。さらに、楽天モバイルとの接続も計画しており、すでに試験まで完了している状態だという。

 一方、回線品質はどうか。ミークの峯村氏は、提携企業のブランドがあっても、回線品質が伴わないと「ユーザーが離脱してしまう」とコメント。ミークでは、長らくMVNE事業を続けてきた実績があるとし、さまざまな調整のノウハウが「秘伝のタレのように蓄積されている」と説明。高品質のサービスを提供できると自信を見せた。

峯村氏と小林氏

囲み取材一問一答

 説明会のあと、ミークの峯村社長とミークモバイルの小林社長が囲み取材に応じた。

――今回のサービスに向け、ミークがMVNEとなるカブアンドのような事例から得られたノウハウや考え方といったものはあるか。

峯村氏
 MVNO市場の潮目が変化したと感じています。カブアンド様も非通信事業者でした。我々だけではなく、他社さんでも非通信事業者がモバイルサービスを開始する状況が見られると思っています。

――市場の潮目が変わった具体的なきっかけは?

峯村氏
 これはあくまで想像の話ではありますが、大きな要因の1つは、モバイル接続にかかる費用が下がってきたことではないでしょうか。コスト低下は非常に大きいと考えられます。

 接続費用が下がることで、マージン(利ざや、利益)を得やすくなります。

 モバイルサービスへ参入していただければ、その利益をエンドユーザー(最終利用者)に還元し、もともとの事業をさらに推進していけます。いわば相乗効果を得やすくなりますので、着目されているのかなと。

提携パートナーの条件と規模感

――サービス導入の検討中の事業者でどのような共通点があるのか。

峯村氏
 規模は事業者様によって様々だとは思いますが、共通しているのは、一定のファンというか、ブランドの顧客基盤のようなものをお持ちの方々であるということです。

――提携を検討する事業者様の規模感について、最低限必要な目安はあるのか。

小林氏
 我々としては、積極的にお話したいです。ただ、計算いたしますと、やはり数万人程度の顧客をお持ちでないと、事業を行うメリットがあまり出ないかもしれません。

 公式に厳密な線引きは設けていませんが、事業規模としては数万以上が必要となるかと考えております。

 ただ、コンシューマー(一般消費者)のお客さんが1万、2万いるような事業者様というのは、世の中にかなりの数あると思います。

――ロイヤリティ(忠誠心)の高いファンを持つグループや、ファンクラブのような小規模なレベルでも、事業として成り立つ可能性はあるのか。

峯村氏
 そうですね、ポイントとなるのは、付帯率がどれくらいになるかという点です。

 たとえば、会員の中で5%程度しか購入や契約をしないのであれば、やはり数万規模の顧客基盤がないと厳しいです。

 しかし、たとえば1万人のファンサイトのようなものがあって、ほとんどの方に契約いただけるなら、十分に事業メリットが出るケースになるかと思います。

――インフルエンサーの方が、ファンに向けた集金手段の一つとしてこのサービスを使う、ということも可能でしょうか。

小林氏
 はい、そうですね。  どのようなお客様で、どのような事業内容であるかという確認はさせていただきますが、通常のお客様は問題なく、この事業をご利用いただけます。

――具体的な事業者様のジャンルは、たとえば全国展開している家電量販店のようなところでしょうか、あるいは地域で運営しているスーパーのようなレベルも考えられるのでしょうか。

小林氏
 どちらのパターンもあるかと考えています。

峯村氏
 我々としては、プランをオーダーメイド(個別設計)で提供することはできませんが、その代わりにプラットフォームとして提供することで、規模が十分でないお客様でもかなり対応しやすくなっているという側面があります。

 お客様側で、このサービスから生まれるビジネスのメリットがあると思っていただき、エンドユーザーさんが喜んで、ご自身の事業がドライブできるのであれば、本当にいろいろな規模の会社さんが参入してくれると考えています。

――地方のスーパーなど、高齢のお客様が多い場合、オンラインでの手続きが難しいなど、導入企業を選ぶ必要性が出てくるのではないか。

峯村氏
 おっしゃる通りだと思います。

 ただ、モバイルの契約については、オンラインでの申し込みに慣れてきた方が増えてきているという現状もあります。

 まずは、そういったオンラインでの手続きに慣れている層を抱えている事業者様から提携を始めるというのも一つの考え方としてあるかと思います。

事業運営の優位性

――これまで、法人向け(B2B2C)の実績を積み重ねてきている。コンシューマー(一般消費者)向けのサービスを提供する上での強みやアピールポイントについてあらためて教えてほしい。

小林氏
 そもそも、我々にはIoT(モノのインターネット)サービスだけでなく、MVNO(仮想移動体通信事業者)として直接、NUROモバイルで顧客対応をしてきた実績があります。顧客対応の体制についても、今回しっかりと作れていると考えております。

 ただし、実際には、まず一社様にご契約いただき、我々がどのように運営しているのかを見ていただくのが、一番のアピールポイントになるかと考えております。

――今回のサービスは、事業者様から見て、どのようなメリットがあるモデルでしょうか。

峯村氏
 ほとんどのお客様から見て、最初だけ少しシステム開発の費用はかかりますが、初期費用は不要で、事業開始時期にリスクを取らなくても良いモデルになると思っています。

 「これならばペイする(費用対効果が見合う)よね」と思っていただけるようであれば、進めていただけるのではないかと。

今後のサービス展開と技術面

――第1弾のサービスは、いつ頃の開始を予定しているのか。

峯村氏
 まだ、具体的には決まっていない状況です。サービスの開始は、相手方、つまり提携してくださる事業者様次第となります。

 また、お客様側のブランドには最大限配慮しなければならないため、事前にお話ができるのは、本当にギリギリ、あるいは当日といったタイミングになるかもしれません。

――楽天モバイルとの相互接続(4キャリア接続)の話があった。いつごろ実現するのか。

峯村氏
 現在、準備中という段階です。

 ただ、この準備が本当に何カ月も先になってしまうようなことではないかと思っております。

――4キャリア(国内すべてのMNO回線)との接続は、日本初、あるいは世界初の取り組みとなるのか。

峯村氏
 4キャリア全てと接続できれば、国内初、そしてある意味では世界初ということになります。

料金と契約形態

――今回の料金プランには、初期契約費用や、4キャリア化に伴うキャリア間の乗り換えでのSIM発行手数料などの価格は、いつごろ発表されるのか。

小林氏
 それらの料金については、最初のサービスが開始された時に、料金表と一緒に入っていくことになると思います。

 SIMカードの再発行手数料なども含め、そこは統一の価格設定で準備に入っております。市場の相場と大きく変わるような設定ではございませんので、今回特に言及はしていません。一般的な料金となる予定です。

――基本的にオンライン契約を想定しているのか。

小林氏
 はい、オンライン申し込みしかご用意しておりません。

 対面での契約や、端末販売といった、通常のキャリアに近いサービスを求められるお客様には、ご期待に沿えない形になるかと思います。

 ただし、対人チャットを含むチャットサポートは用意しておりますので、ご入会いただけるようにサポートはできる限り行いたいと考えております。

 また、端末(スマートフォンなどの機器)についても、まだ何も決まっていませんが、今後いろいろと検討していきます。

――特定の端末向けサービスなど、高度にカスタマイズされたサービスを希望された場合、対応は可能か。

小林氏
 そこまでカスタマイズしたい方については、MVNOや既存の事業者様の事業でやっていただくのが良いのではないかと思っております。