石野純也の「スマホとお金」

「楽天Gが5年ぶり黒字」、楽天モバイルの貢献度を読み解く

 楽天グループが、5年ぶりに「黒字化」したことは、大きな話題を集めました。その大きな要因になっているのが、楽天モバイルの経営状況が改善していること。通期では依然として赤字が継続しているものの、月を追うごとにその状況は改善しており、12月には念願だったEBITDA(利払い前、税引き前、減価償却前の利益)の黒字化を果たしています。

楽天グループは、5年ぶりに黒字化を果たした。楽天モバイルも、24年12月に、単月でのEBITDA黒字化を実現している

 現状では、まだ単月での黒字化を果たしたばかりですが、楽天モバイルは、2025年度の目標として、通期での黒字化を挙げています。

 現状では、契約者数が右肩上がりに増えていることに加え、1ユーザーあたりの平均収入であるARPUも、じわじわと上がっており、達成できる可能性は高そうです。では、楽天モバイルはどのように黒字化を実現したのでしょうか。その中身を見ていきます。

EBITDA黒字化を達成した楽天モバイル、契約増とARPU拡大が決め手か

 巨額の赤字に苦しみ、グループ全体の営業利益を押し下げる要因になっていた楽天モバイルですが、その長いトンネルからようやく抜け出す兆しが見えてきました。2024年12月には、ついに単月でのEBITDA黒字化を達成。2025年度の目標として、楽天グループの会長兼社長を務める三木谷浩史氏は、「楽天モバイル単体においてもEBITDAベースで通期の黒字を達成する」ことを掲げています。

決算説明会に登壇した三木谷氏。25年度の楽天モバイルは、通期でのEBITDA黒字化を目標にしているという

 では、楽天モバイルはどのようにして、24年12月に黒字化したのでしょうか。

 1つ目が、ユーザー数の拡大による売上高の増加です。昨年末時点での契約者数は、MVNOも含めて830万を突破。右肩上がりで契約者数が増えているため、シンプルに楽天モバイルに入ってくる収入が増える形になっています。

  通信事業者の収益は単純化すると、「契約者数×ARPU」 に集約されます。契約者数をいかに増やし、1人1人からの収入を上げていけばいいというわけです。楽天モバイルの場合、前者の契約者獲得は順調に進んでいますが、後者に関しても拡大傾向にあります。

契約者数はMVNOも合わせて830万を突破した。1年で、155万回線と大きく純増している

 24年度は、通期でデータARPUが1732円を達成。1年前の1719円と比べると、13円増加しています。楽天モバイルの「Rakuten最強プラン」は、一定のデータ容量を超えると料金が上がる段階制を採用しています。そのため、ユーザーがデータ通信を使えば使うほど、このデータARPUは上がっていく構造になっています。

 三木谷氏がヘビーユーザーである若者の獲得が進んでいることを強調しているのは、そのためです。 三木谷氏は「5G普及に伴って、特に若い人は50GBで足りず、70GB、80GBと使う人も増えている」 と語っていますが、より多くのユーザーが20GBを超えて上限に張り付けば、ARPUは上がりやすくなります。12月単月でのデータARPUは1770円まで上がっており、少なくとも3GBを超えるユーザーが増えていることがうかがえます。

徐々にではあるが、データARPUが増加している。これは、データ使用量の多いユーザーが増えたためだという

 そのためには、5Gのエリアや通信品質も欠かせない要素。こうした事情もあり、楽天モバイルは通信品質向上のため、 2025年に1500億円の設備投資 を予定しています。コスト削減の一環として設備投資を抑え続けてきた楽天モバイルですが、ユーザーの拡大やARPU向上に向け、再びネットワークを強化するフェーズに入ってきたと言えるでしょう。2026年にはKDDIとのローミングも終了するため、その最終仕上げに入っているとの見方もできそうです。

減少傾向だった設備投資を、再び増額する。ネットワーク強化が、その目的だ

ARPU増加に貢献したオプションやRakuten Linkでの広告

 ただ、データARPUだけでは、12月の黒字化を完全には説明できません。

 12月単月を取り出してみると、24年度通期よりもARPUがトータルで163円も多いからです。データARPU以外の要素も積み重ならなければ、ここまでトータルのARPUが増えることはないでしょう。その内訳を見てみると、「オプション」や「その他」が伸びていることが分かります。

 オプションとは、留守番電話や端末の保証、セキュリティといった通信に付帯するサービスを指しています。ここが、12月に212円と、通期よりも12円伸びていることが分かります。楽天グループは、その理由を「留守番電話・割込通話オプション」の有料化にあったとしています。

12月から、留守番電話と割込通話それぞれを有料化した

 ご存じかもしれませんが、楽天モバイルは12月1日から、このオプションを有料化しています。これまで無料で提供されていたのもビックリですが、これを有料化したことで、オプションのARPUが上がったというわけです。月額料金は留守番電話が330円、割込通話が220円。仮に留守電話だけだとしても、30万人程度が契約すればAPRUを12円押し上げることになります。

 ただし、楽天モバイルでは、24年8月26日以前に契約したユーザーに対しては、 いったん利用設定を解除 し、再度自らが申し込む形を取っています。強制的に料金を550円上げるようなことはしていません。そのため、このサービスが必要な人が、申し込みをすることでARPUが上がっていることが推察されます。

無料で使えていた既存ユーザーは、いったん利用設定が解除されていた

 もう1つが、その他の中の 広告収入 です。この「その他ARPU」は特に12月の伸びが大きく、24年度通期の90円に対し、12月は186円と倍増している格好。楽天グループによると、これは12月に開催された「楽天モバイル最強感謝祭」によるRakuten Linkの広告収入が増加したためだといいます。

 Rakuten Linkは、RCSを使ったコミュニケーションアプリでしたが、より楽天グループのポータルとしての色合いを濃くしており、広告もガンガン入るようになりました。12月は年末向けのイベントも開催されていたため、ここに広告を打つ事業者も多かったことになります。三木谷氏も、「季節要因が大きい」との見方を示しています。

楽天モバイル契約者向けに実施した楽天モバイル最強感謝祭が好評だったという。その結果として、Rakuten Linkに掲載される広告からの収入が増加した

 ただ、裏を返せば、楽天モバイル最強感謝祭のようなイベントが、ARPUを押し上げる効果が高いことが証明された格好になります。楽天モバイルのARPUだけでなく、グループの他の事業にも好影響を与えるため、今後はこうした楽天モバイル契約者に限定したイベントが増えていく可能性もあります。

好評だったことを受け、今後も感謝祭は実施していく方針だ

黒字化のウルトラCはエコシステム貢献、目標ARPUを一気に達成

 EBITDA単月黒字化のもう1つの要因は、 「エコシステムARPU」 にあるとみていいでしょう。このARPUは、12月単月で755円が計上されており、データARPUに次ぐ大きな要因になっています。楽天グループは、24年の第4四半期から、楽天市場や楽天トラベルといった他のサービスの収益の一部を、楽天モバイルにつけ、「エコシステムARPUアップリフト」と称しています。

 ウルトラCの大技を繰り出したように見えますが、これによって楽天モバイルのARPUは第4四半期に2856円を超え、黒字化の目安としていた2500円から3000円のARPUを超えています。12月単体で見ると、ARPUは3019円に。 契約者、ARPUも黒字化の目安を超えた ことで、実際に12月単独での黒字化が実現したというわけです。逆に言えば、このエコシステムARPUアップリフトがなければ、黒字化は25年に持ち越されていたはずです。

24年11月に開催された第3四半期の決算。ここで、エコシステム貢献ぶんが楽天モバイルの収益に計上されるようになった

 契約者獲得は順調だった楽天モバイルですが、その一方で、ARPUは黒字化目安の下限である2500円を達成するのが難しいように見えました。年度の最後の四半期でエコシステムARPUリフトを加えたのは、やや強引な決算マジックのようにも見えます。

 ただ、これを加えることで料金が上がる閾値を変更したり、強制的につけるオプションを増やしたりといった実質値上げを回避できているような印象もあります。(合法的に)数字を作りにきた感があることは否めませんが、ARPUを強引に上げてくるよりも、 ユーザーにとってのデメリットは少ない と言えるでしょう。

画像は24年5月に開催された第2四半期の決算説明会。このときは、どのようにARPUを3000円まで上げていくのかが不透明だった。三木谷氏はオプションなどを挙げていたが……

 もっとも、単月で黒字化したと言っても、それはあくまでEBITDAである点には留意が必要です。冒頭で解説したように、EBITDAとは減価償却を含まず、算出した利益のこと。モバイル事業は、基地局の建設などに多額の設備投資が必要になりますが、EBITDAだとこれらが除外される形になります。先に挙げたように、楽天モバイルは25年度に1500億円規模の設備投資を実施予定。徐々に減ってはいましたが、多い年には3000億円に近い巨額を投じていました。

黒字化したのは、あくまでEBITDA。巨額の設備投資に対する減価償却が除外されている点には注意が必要となる

 その減価償却を含むNon-GAAP営業利益では、依然として2089億円の赤字が出ています。前年比で1000億円ほど改善は進んでいますが、25年でこれらをすべて解消するのは難しいでしょう。EBITDAは、ソフトバンクもVodafone買収後に一時指標としていた数値。稼ぐ力を示すと言われていますが、設備投資額の大きな通信事業の場合、業績が過度によく見えてしまうことがある点には注意が必要です。

 このように、黒字化したと言っても、まだまだ基地局などのネットワークに投資したぶんは回収できていません。その意味では、 大幅な割引などをしづらい状況 に置かれている点は変わっていないと言えるでしょう。むしろ、楽天モバイルは、 オプションの拡大やエコシステムへの貢献などは、引き続き高めていく 計画を打ち出しています。料金値上げには慎重な姿勢を示していたものの、段階が上がるデータ容量の閾値を変更するなど、よりARPUを上げる施策は今後も続けていく可能性がありそうです。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya