石川温の「スマホ業界 Watch」

KDDIとソフトバンクは官製値下げの「沼」から脱出、楽天モバイルが新たな「ARPU」導入――2024年秋の携帯4社決算で見えてきたもの

 11月になって、KDDI、ソフトバンク、NTTドコモ、楽天が相次いで決算会見を開催した。

 2020年の政府による官製値下げ以降、各社とも通信料収入の激減に悩まされていたが、KDDIとソフトバンクはその「沼」から完全に脱した感がある。

 両社における目下の経営課題は「いかにサブブランドからメインブランドに切り替えてもらうか」という軸に移っている。

 KDDIでは、UQ mobileからauへの移行が昨年同期比で2倍に増えている。

 ソフトバンクでは「ソフトバンクからワイモバイルへの移行」を「マイナス」、「ワイモバイルからソフトバンクへの移行」を「プラス」とするならば、2024年上期において、2021年春の通信料金値下げ以降、初めて「プラス」が上回ったという。

 ショップでの営業が頑張っているという側面があるが、ユーザーとしても安価な料金プランを求めるだけではなくなってきたということだろう。

 ソフトバンクの宮川潤一社長は「(純増数を)追いかけて無駄な獲得コストを打ち込むより、自分たちの収支構造を改善した方が良い。徐々にソフトバンクへの移行が増えてきており、継続できるようにがんばりたい」と語る。

 ワイモバイルユーザーがソフトバンクに切り替えるようというモチベーションのひとつには「限られたデータ容量ではなく、データ使い放題で利用したい」という点があるだろう。しかし、キャリアがユーザーをデータ使い放題に誘導するというのはそんなに簡単な話ではない。

 そのあたりを宮川社長に突っ込んだところ「ワイモバイルかソフトバンクに移行するユーザーには、データ容量無制限とPayPay還元の実質値下げのどちらかに魅力を感じているようだ。今後、料金プラン『ペイトク』の魅力を磨いていきたい」と語っていた。

 つまり、料金プランの金額をいじるのではなく、お得を感じられるところをPayPayに振ることによって、ユーザーをワイモバイルからソフトバンクに促していきたいようだ。

 ちなみに、KDDIに関しても、auマネ活プランのテコ入れに関して「検討している」(髙橋誠社長)とのことで、近日中にも何かしらの発表がありそうだ。

NTTドコモは「谷を脱しつつある状態」

 ARPUの復活に道筋がつきつつあるKDDIとソフトバンクに対して、ようやく谷を脱しつつある状態にあるのがNTTドコモだ。

 一人あたりの月間の通信料収入であるARPUは3910円と前期と変わらず下げ止まった感がある。

 NTTドコモの場合、ソフトバンクがワイモバイル、KDDIがUQモバイルといったように早い段階からサブブランドを展開し、安価な料金プランを望むユーザーを取り込んできたのに対して、ahamoやirumoなどの小中容量プランの投入が他社よりも出遅れていた。

 当然、他社よりも収入の谷が訪れるのが遅れてくるため、結果として、先行2社が谷を脱しているなか、NTTドコモだけは谷の真っ只中という状況であったのだ。

 しかし、旧料金プランからeximoへの移行率が60%を超え、さらに旧料金プランから新料金プランへ移行したユーザーの単金もプラスになっているなど、足下では回復の兆しが見えている。

 MNPに関しても、10月は想定を大きく上回るプラスとなっており、解約率も前期0.70%から0.60%に低下している。

 NTTドコモの顧客獲得が強化されている背景にあるのが「リアル店舗」だ。NTTドコモでは家電量販店や複合商業施設などでは人員と出張イベントを増やし、ドコモショップで接客を強化している。これにより、若年層を中心としたMNP純増数が増えているという。

 前田義晃社長は「これまでとは違うレベルで人員を投入し、量販店とも協力し合ってきた。若い人は量販店での加入が多いため、MNPは全体よりもさらに上がった」と手応えを感じているという。

 ただ、懸念事項として気になるのがahamoのデータ容量改定だろう。

 10月よりahamoは20GBから30GBにデータ容量が増量された。ユーザーにとっては喜ばしいことで、若年層などもahamoに飛びつくことは間違いない。

 純増数やMNP、解約率などの改善につながるだろうが、「ARPU」という面では不安要素が残る。これまで80GBを追加できる「ahamo大盛り」が不要になるユーザーもいるだろうし、何より「eximoじゃなくて良いかも」とeximoからahamoへの切り替えユーザーが増えることも考えられる。

 NTTドコモとしては解約者の増加に歯止めをかけようと、ahamoの増量に踏み切ったようだが、ARPUという指標においては、今後、検証が必要だろう。背に腹は代えられないとはいえ、拙速な判断ではなかったのか。

楽天モバイルは「モバイルエコシステム貢献額」を上乗せ

 ARPUという点では楽天モバイルが今回の決算から「モバイルエコシステム貢献額」を載せてきたのが興味深い。

 モバイルエコシステム貢献額とは楽天モバイル契約者による楽天グループ各社が提供するサービスに対しての利益への貢献額となっている。楽天モバイルを契約することで、他の楽天サービスを利用する頻度や金額が高くなることから、経済圏への貢献額を算出している。

 楽天モバイルは契約者数で800~1000万回線、ARPUは2500~3000円が単月黒字化の目安とされてきた。回線数に関しては最新値で812万回線となっており、順調なのだが、ARPUに関しては大幅な増加が見込めなそうだ。実際、新規契約者や法人顧客が増えることで、コアなユーザーから、データ通信はあまり使わない一般的なユーザーの割合が増すことを意味するからだ。

 ARPUの大幅な増加が見込めないなか、楽天モバイルとしては「モバイルエコシステム貢献額」を上乗せすることで、ARPUの目標値に少しでも迫ろうというわけだ。

 おそらく、楽天グループとしても、資金調達する上で「いつまでに黒字化を達成する」などの約束事をしていると思われるため、早期の黒字化はマストなはずだ。

 そもそも、楽天が携帯電話事業に新規参入するころから経済圏全体への貢献は期待できていたわけで、最初から「モバイルエコシステム貢献額」を加味したARPUにしておけば良かったのではないか、という気もする。

 いずれにしても、どのキャリアもどんなに頑張っても、データや音声のARPUは10~数十円単位でしか上がっていかない。すでにKDDIも「付加価値ARPU」、ソフトバンクもコンテンツ収入を計上しているが、楽天モバイルの場合、広告収入などを含めた「その他」とオプション収入に加えて、新たに今回、「モバイルエコシステム貢献額」を上乗せしてきている。今後、この考え方が他社にどのような影響を与えるか注目していきたい。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。