石野純也の「スマホとお金」
同じ「Pixel 8」でもドコモは5.6万円、ソフトバンクは6.9万円――キャリアが公開する“スマホ買い取り”の予想価格が意味するものとは
2024年1月11日 00:00
ドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの4社は、販売している一部スマホの「買取等予想価格」を公表しました。
4社とも、「電気通信事業法第27条の3等の運用に関するガイドラインに則り」という前置きが書かれています。4社でそのフォーマットは異なるようですが、いずれも、将来、それぞれの端末がいくらで買い取られるのかを予想しています。
では、各社がこの予想を出しているのではなぜでしょうか。背景には、23年12月27日に改定された電気通信事業法の施行規則があります。ここでは、4社の違いを読み解いていくとともに、その仕組みを解説します。
4社が将来の買い取り価格を予想、同じ端末でも金額差が
端末購入補助の上限などを定めたガイドラインの改定に伴い、4社とも、販売している端末の買い取り予想価格を掲示するようになりました。
ドコモは「いつでもカエドキプログラム」、KDDIは「スマホトクするプログラム」、ソフトバンクは「新トクするサポート」、楽天モバイルは「楽天モバイル買い替え超トクプログラム」のサイトを用意しており、そのページの下部にリンクが張られています。
これは、4社それぞれが、1年後なり、2年後なりに、その端末がいくらで買い取られるかを予想した数値になります。
例えば、今から2年後の26年1月におけるiPhone 15の128GB版であれば、ドコモが7万6240円、KDDIが7万8600円、ソフトバンクが8万7000円、楽天モバイルが6万7760円という金額を提示。ソフトバンクが最高値、楽天モバイルが最安値をつけていることが分かります。
ただし、これはあくまで将来の買い取り価格を4社それぞれの観点で予想したものにすぎません。実際に4社がこの額で端末を買い取ることを予告しているわけではないため、その点には留意が必要です。
外部から妥当性を検証するのは困難ですが、iPhoneの場合、比較的買い取り価格が安定していることもあり、2年前の現役モデルだったiPhone 13が参考になります。
iPhoneは為替相場を反映する形で価格が変動する一方で、それに伴って買い取り価格も高くなることがあり、比較的予想をしやすい端末と言えるでしょう。
iPhone 13の128GB版は未使用品が7万円前後、開封したあとユーザーが使用した中古品の場合は、もっとも状態がいいもので、6万円前後の買い取り価格が提示されています。
こうした結果に鑑みると、未使用品をベースに見れば、ドコモやKDDIが妥当なライン、逆に中古品だとすると楽天モバイルが近しい価格を予想していることが分かります。いずれのパターンでも、ソフトバンクはかなりアグレッシブ(笑)。
また、ドコモは1カ月ごとの変動まで公開しているのに対し、楽天モバイルは約2年後の前半と後半で予想価格が異なるなど、その公開の仕方はさまざまです。
ガイドラインで明示された予想価格の公表、差額は割引見なしに
各社が買い取り予想価格を公表しているのは、残債を免除するアップグレードプログラムを提供するためです。ガイドラインでは、一般的な中古の買い取り価格と、免除する残債の差額がユーザーに対する利益の供与にあたるとされています。
23年12月27日にガイドラインが改正され、この額が最大で4万4000円までになったのは周知のとおり。これまでは、端末単体への割引は規制の対象外だったため、残債をいくら免除しようが“おとがめ”はありませんでした。
これに対し、法令改正に伴い、セット販売の割引もすべて上限の4万4000円に含まれるようになりました。つまり、免除する残債の額によっては、ガイドラインに反してしまう可能性が出てきたというわけです。
予想価格の公表を厳密にしているのも、そのためです。手続きとして、各キャリアがアップグレードプログラムを提供する場合、買い取り価格を予想し、総務省に提出したうえでWebなどに公表することが義務付けられています。
ただし、その予想の仕方に関しては、各社の裏付けに委ねられているのが実情です。先に挙げた中古市場での買い取り価格は、一例にすぎません。
ガイドラインでは、その裏付けとなる資料として、中古市場以外に「先行同型機種の買い取り価格の推移」を挙げています。これすらも例でしかなく、端的に言えば、合理的な理由があればOKということになっています。買い取り価格がアグレッシブだからと言って、一概にNGになるわけではありません。
例えば、自ら修理して海外の業者に高く引き取ってもらえるといった事例があれば、一般的な中古市場より高値をつけている理由にはなりえそうです。
自ら認定中古端末を販売するといったことも、根拠の1つでしょう。平均より著しく高い場合は、総務省が追加の資料提出を求めることが可能となっていますが、これをどう判断するかの基準は不明確。
かっちり金額が定まっている割には、解釈に幅が出そうな記載になっています。分かりづらさを助長する結果にもなっているため、この部分、もうちょっと、何とかならなかったのでしょうか……。
ちなみに、ガイドラインの注では、「仮に上限を上回ることとなった場合であっても、買取等予想価格に妥当性がある場合には、禁止行為への違反としての措置の対象とはしない」(原文ママ、以下同)と記載されているため、合理性さえあれば、行政指導を受ける可能性はなさそうです。
アグレッシブな買い取り価格を設定してみたものの、2年後に「やっぱり無理でした!」となっても、仕方がなかったということに。数値に関しては、そこまで厳密に検証されるわけではないようです。
割引は合算で最大4万4000円に、MNPを盛ることも可能か
ただし、各社とも、免除される残債の額は、この予想価格よりも少し高めになっています。この部分が、ユーザーに提供できる利益ということ。1万円なり、2万円なり、高めの額が免除されるのは、それがガイドラインで許容されているからです。
一方で、上限いっぱいの4万4000円まで差があるような端末は、今のところ存在しません。これは、別途割引を設けているからだと推察されます。
例えば、MNPで契約した場合、各社とも2万円前後の割引なり、ポイントバックなりを行っています。ガイドラインの上限には、このぶんも含まれるため、アップグレードプログラムだけでそれを超えることができません。
4万4000円というのは、本体価格が8万円以上の端末で、かつ割引なりポイントバックなりをすべて受けた場合の金額。逆に言えば、単純な機種変更の場合、アップグレードプログラムで免除される金額と予想買い取り価格の差額が主な割引になります。
一方でこの方式の場合、買い取り価格を高めに予想すると、結果として残債を免除した際に提供する利益が減ることになります。高く買い取れる端末を高く買い取っているだけであり、その対価を渡しているだけにすぎなくなるからです。
そのため、買い取り価格が高ければ高くなるほど、ユーザーにとっての実質価格を安くすることが可能になります。ある程度根拠を持って盛れば、負担感を少なくしつつユーザーに端末を提供できる仕組みと言えるでしょう。
実際、ソフトバンクの場合、新たに始まった「新トクすサポート(バリュー)」で、対象端末の買い取り予想価格をかなり高めに見積もっています。1年後に端末を引き取るため、これまでの方式よりも予想が高くなるうえに、比較的強気の設定をしているのがその理由。
例えば、「Pixel 8」の128GB版は6万9300円、Xiaomiの「Xiaomi 13T Pro」も同額の6万9300円と予測しています。MNP契約時などの割引は2万2000円弱のため、2機種は9万円近い残債を免除可能になります。
逆に、同じPixel 8を扱っているドコモでは、1年後の買い取り予想価格を5万6353円と見積もっており、ソフトバンクとは1万2947円もの開きがあります。
ドコモ版Pixel 8に設定された24回目の残価は5万5440円。この場合、ユーザーに提供している利益は913円ということになります。ドコモは、一部端末にMNPで3万ポイントをつけているため、ある程度、アップグレードプログラムは厳しめに見ている可能性があります。
Pixel 8は現状2万ポイントですが、競争環境やタイミングを見計らってこれを4万ポイントまで上げるといった選択肢も出てきそうです。
一見すると、ユーザーには関係のないように思える買い取り予想価格ですが、実は端末の実質価格に直結する数値でもあります。
また、免除される残債とこの買い取り予想価格の差分を計算することで、キャリア側の“割引余力”のようなものを推し量ることが可能。本来の趣旨とは異なりますが、ユーザー側が買い時を予想するための数値としても、活用できそうです。端末をお得に買い替えたい人は、注目しておいた方がいい仕組みと言えるでしょう。