石野純也の「スマホとお金」

楽天モバイル「最強プラン」データ専用プランが登場、そのメリット/デメリットは?

 楽天モバイルが、7月3日に「Rakuten最強プラン(データタイプ)」の申し込みを開始しました。楽天モバイルショップでは、8月上旬から、このプランの対応を開始する予定です。データタイプという名のとおり、これは、データ通信に特化した料金プラン。090/080/070で始まる携帯電話番号は付与されるといいますが、音声通話はできません。また、携帯電話番号を利用して発着信を行うアプリの「Rakuten Link」にも非対応になります。

楽天モバイルは、7月3日にワンクリックお申し込みを導入。これに合わせて、Rakuten最強プラン(データタイプ)の提供を開始した

 MNPで他社から電話番号を引き継いだまま、Rakuten最強プラン(データタイプ)に乗り換えることもできません。キャリアメールである「楽メール」やキャリア決済にも非対応です。

 一方で、携帯電話番号が付与されるため、SMSには対応。アプリなどで利用するための認証コードも受信可能。MVNOでおなじみのSMS対応SIMカードに近い仕様と言えるでしょう。今回は、このRakuten最強プラン(データタイプ)の特徴やそのメリット、デメリットを解説していきます。

料金的なメリットはなし、金額は音声タイプと同じ

 データタイプと銘打たれた「Rakuten最強プラン(データタイプ)」ですが、 料金は通常のRakuten最強プランとまったく同じ 。音声通話やRakuten Linkは利用できませんが、そのぶんの割引は一切ありません。タブレットやパソコンなど、音声通話に対応していないデバイスに入れるための料金プランとして用意されているわけではない点には、注意が必要です(これらの端末に入れて使うことはできますが)。

 あらためて解説すると、料金は使ったデータ容量に応じた段階制で、3GBまでが1078円。3GBを超えると20GBまで2178円になり、以降は無制限で3278円になります。3GB以下の低容量帯に関しては、他社のサブブランドでも同水準の料金プランはありますが、無制限を3278円で提供できているのは楽天モバイルならでは。自社で設備を持つMNOの中での割引前価格としては、突出して安い料金プランと評価できます。

通常のRakuten最強プランとデータタイプの比較。金額はまったく同じで、割引などはつかない

  音声通話はできませんが、LINEなどのアプリを介した通話は可能。050番号が付与されるIP電話アプリを使えば、電話番号を使った電話の代替にはなる でしょう。この場合、110や119などの緊急通報ができない点には注意が必要ですが、これらのサービスが必要ないというのであれば、音声タイプとデータタイプのどちらを選んでもOK。強いて言えば、詐欺やイタズラの電話がかかってこなくなることをメリットと捉える人はいるかもしれません。

 通常、データ通信に特化したSIMカードは、音声通話まで含めたものよりも割安な価格で提供されています。たとえば、ソフトバンクは本コーナーでもおなじみの「データ通信専用3GBプラン」が5年間、990円で利用可能。大容量タイプとして、「データ通信専用50GBプラン」も用意されており、こちらも容量無制限の「メリハリ無制限」より安価な5280円で利用ができます。

一般的に、データ通信専用の料金プランは音声プランより安価に設定されていることが多い。画像は、ソフトバンクのデータ通信専用50GBプラン

 ドコモのように、データ通信に特化した単独の料金プランがないキャリアもありますが、これは例外。モバイルネットワーク対応タブレットやWi-Fiルーターを取り扱っている場合、何らかの料金プランが用意されているのが一般的です。この観点で言えば、Rakuten最強プラン(データタイプ)が通常のRakuten最強プランとまったく同額だったのは、少々残念。データ通信専用端末の需要を狙ったわけではないことも分かります。

楽天モバイルも、モバイルWi-Fiルーターを販売しているが、Rakuten最強プラン(データタイプ)はこうした端末で使うことを主な目的として提供しているわけではない

契約の簡易化が主な目的、本人確認書類の提出は不要に

 では、Rakuten最強プラン(データタイプ)のメリットはどこにあるのでしょうか。 一言で言うのであれば、それは契約の簡易さ です。同プランと同時にスタートした「ワンクリックお申し込み」とeSIMを組み合わせることで、開通までの時間はわずか数分に短縮され、思い立ったらすぐに楽天モバイル回線を利用できるようになります。

 通常のRakuten最強プランを申し込む場合、「携帯電話不正利用防止法」で定められた本人確認が必要になります。オンライン契約でeSIMを選んだ場合でも、このプロセスが入ります。楽天モバイルの場合、運転免許証やマイナンバーカードといった身分証明書を画像としてアップロードしたあと、「AIかんたん本人確認」というeKYCで自らの顔をカメラに写す必要があります。画像の準備やeKYCに、それなりの時間がかかるというわけです。

楽天モバイルでは、通常の申し込みに比べ、約10分、時間を短縮できるとしている

 ワンクリックお申し込みの場合、この2つが省略され、よりスピーディな契約が可能になります。画面内をクリック(タップ)していくだけでeSIMのプロファイルをダウンロードするためのQRコードが送られてくるため、引っかかるポイントほとんどありません。ただし、 現状、このワンクリックお申し込みは楽天カード会員のみ が対象。23年3月末の発行枚数が2800万枚を超える楽天カードですが、楽天IDを持つ会員数と比べると同サービスを利用できるユーザーは限定されていると言えるでしょう。

1億を超える楽天会員の基盤を生かしたとしているが、現状では楽天カード契約者に限定したサービスになっている点には注意が必要だ

 もっとも、画像のアップロードと自分の顔を読み込ませるeKYCを通過しさえすれば、音声通話対応のRakuten最強プランを契約することはできます。2つ合わせても、手続きにかかる時間は10分程度。楽天モバイルでも、従来方法での申し込みは約13分と記載しており、オンラインでeSIMを選んだ場合、そこまで大きな差はありません。現状は非対応ですが、マイナンバーカードの電子証明書読み取りに対応すれば、さらに時間を短縮できる可能性はあります。

 少なくとも、ショップで端末を選び、物理SIMを発行してもらうケースと比較すれば、これでも十分短時間。いくらプロセスが簡略化されているかと言って、あえてRakuten最強プラン(データタイプ)を選ぶメリットは限定的です。それ以上に、通話料が無料のRakuten Linkなどを使えないデメリットの方が目立ちます。

Rakuten最強プラン(データタイプ)は、Rakuten Linkにも非対応。10分程度の手間を惜しんで通話料が無料になるメリットを捨てるのは、少々もったいない

 10分程度の違いしかないのであれば、本人確認書類の準備をして、通常のRakuten最強プランを選んだ方がいいでしょう。新規契約やMNPであれば、端末割引やポイントバックの対象にもなるため、契約が簡単だからと言ってRakuten最強プラン(データタイプ)に飛びついてしまうのは損をしていると言えそうです。

お試し利用の促進が狙い、キャンペーン活用なら契約もありか

 唯一、考えられるユースケースは、“お試し”です。楽天モバイル側がワンクリックお申し込みで狙っているのも、こうした利用方法。契約の簡易さを生かし、まずRakuten最強プラン(データタイプ)を利用してもらい、通信速度やエリアに不足がないかを確認してもらうのがその目的です。

「つながりにくいのでは」という不安を払拭するため、お試し利用を促進していくという楽天モバイル

 実際、MNPで普段使っている電話番号を移してしまうと、元に戻すのはかなりの手間がかかります。継続年数がリセットされてしまったり、同じメールアドレスが取れなかったりなどの不都合もあります。これに対し、データ通信専用プランなら解約するだけでOK。解約の手間は、大きく異なります。発売されるほとんどの端末がeSIM/デュアルSIM対応になった中、2回線目として楽天モバイルを利用しやすくなっています。事前に楽天モバイルのネットワークを試しやすいのは、Rakuten最強プラン(データタイプ)のメリットと言えるでしょう。

 このようなお試し利用を促進するため、楽天モバイルでは「ギガプレキャンペーン」と銘打ったポイントバックキャンペーンを実施しています。還元額は3GB以下だったときの料金である1081円(ユニバーサルサービス利用料込み)と同額の1081ポイント。初月を実質無料で利用できるようにして、お試し利用を促進しているというわけです。あくまでポイントバックキャンペーンで、支払いは必要になりますが、楽天モバイル回線を試してみたい人にはうってつけです。

3GBぶんの料金に相当する1081円をポイントバックするキャンペーンを実施している

 契約後にエリアや通信速度などを試してみて、気に入ればそのまま使い続けてもよし。メイン回線を別途MNPしてもいいでしょう。逆に、エリアなり通信速度なりが不十分であれば、解約すれば実質的な負担はありません。このようなお試しキャンペーンを展開しやすいのは、データタイプが簡易的に契約できるからこそです。

 ただし、そのまま楽天モバイルを使い続けたい場合、現状だと別途MNPなり新規契約なりで音声通話可能なRakuten最強プランを契約し、データタイプは解約する必要があります。Rakuten最強プラン(データタイプ)からRakuten最強プランにプラン変更する道が用意されていないからです。楽天モバイルでは、秋ごろにこうしたプラン変更を可能にするといいますが、やや準備不足な感は否めません。

生活圏で使えるのであれば、継続利用は可能。ただし、現状では音声プランへの変更ができず、いったんデータタイプを解約しなければならない

 また、仮にプラン変更に対応したとしても、手続きが煩雑になるおそれはあります。本人確認書類の提出やeKYCをスキップしているRakuten最強プラン(データタイプ)は、音声通話可能な回線を提供するための条件を完全には満たしていないからです。単純なプラン変更ができると、本人確認の抜け穴になってしまいます。とは言え、現状のままでは、楽天モバイルを気に入っても、一度解約する必要が出てしまいます。ユーザーにとっては二度手間になってしまうだけに、早期の改善に期待したいところです。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya