石野純也の「スマホとお金」

ドコモ、KDDI、ソフトバンクの決算から読み解く携帯料金値下げの影響

 ドコモ、KDDI、ソフトバンクの上期決算が発表されました。KDDIとソフトバンクは増収減益、ドコモは増収増益と傾向は異なりますが、3社とも、21年に実施した料金値下げの影響を受け、モバイル通信料は減少しています。他の事業でそれをある程度食い止めた格好ですが、減収影響は料金値下げの実施から2年目に突入した今も続いています。では、値下げは各社の業績にどのようにインパクトを与えるのでしょうか。ここでは、上期の決算を元に、その影響を読み解いていきます。

プラン/ブランドを分けた値下げで、影響は長期化

 料金値下げと言うと、その影響は一時的なようにも思えますが、モバイル通信に関しては、長期に渡って徐々に収益を減らしていくのが一般的です。楽天モバイルのように、全ユーザーを新料金プランに強制移行するのはレアケースだからです。通常は、値下げした新料金プランを作り、そこにユーザーを徐々に移行させていきます。全ユーザーが新料金プラン登場後に移るわけではなく、機種変更のタイミングなどで徐々に切り替わっていくため、影響が長引くというわけです。

 例えば、ドコモであれば、「ギガホ」や「5Gギガホ」に対し、料金を引き下げた「ギガホ プレミア」や「5Gギガホ プレミア」を新設しています。5Gギガホは割引適用前の料金が8415円だったのに対し、5Gギガホ プレミアは7205円に引き下げられました。ただし、全ユーザーに一律適用ではなく、恩恵を受けるには、料金プラン変更が必要です。この切り替えが徐々に進んでいくため、値下げ影響も複数年度に渡るというわけです。

ドコモの井伊基之社長
値下げ後の(5G)ギガホ プレミアは、あくまで別プランという位置づけ。ユーザーの移行状況のばらつきがあれば、収益に与える影響は分散される

 料金プラン変更だけならオンラインでポチっと済ませてしまうことができますが、最近では、21年の値下げはブランド変更を伴うケースもありました。KDDIやソフトバンクの場合、UQ mobileやワイモバイルといった低料金ブランドの値下げが特に強力だったため、既存のユーザーが料金を下げようと思うと、メインブランドからの移行が必要になります。ドコモのahamoも、同様にブランド変更を伴うものと言えるでしょう。

KDDIの高橋誠社長

 今では契約変更の手数料などはかからなくなりましたが、ブランド変更にあたっては、ahamo以外、SIMカードの変更が必要になります。また、サービス内容もメインブランドとまったく同じというわけではないため、二の足を踏むユーザーもいるでしょう。一例を挙げると、ahamoは転送電話サービスや留守番電話サービスに非対応。UQ mobileやワイモバイルでは、Apple Watchを利用するための「ナンバーシェア」や「Apple Watch モバイル通信サービス」が利用できません。こうしたサービスの有無も、ブランド変更の障壁になりえます。

ソフトバンクの宮川潤一社長
ブランド間移行の料金はかからなくなったものの、SIMカードの変更などは必要になる。写真はソフトバンクがLINEMOのコンセプトを発表した際のもの

 そのため、仮にメインブランドよりも圧倒的に料金が安くなる場合でも、ユーザーが一斉に低料金ブランドに移るわけではありません。UQ mobileやワイモバイルのユーザーの増え方を見ると、その移行が徐々に進んでいることが分かるはずです。他社から移ってくるユーザーや新規契約もいるため、純粋なブランド変更ではありませんが、構造としては、低料金ブランドに移ると、そのぶんだけキャリアは収益を失う形になります。

上期の値下げ影響はどの程度? 増減要因やARPUをチェック

 上期の料金値下げの影響額は、各社が発表している営業利益の増減要因を見るのが分かりやすいでしょう。まずドコモは、値下げ影響が500億円です。ただし、これが丸々減益になっているわけではなく、コスト削減である程度までカバーしており、コンシューマー通信全体としては237億円の減益にとどまっています。ドコモの場合、低容量の低料金ブラドがないため、ギガホやギガライト以前の料金プランからの移行も減益要因になりえます。

ドコモは値下げ影響で約500億円の減益。これをコスト効率化で補い、コンシューマーの通信事業は237億円の減益にとどめた

 次に、KDDIですが、こちらも「マルチブランド通信ARPU収入」が539億円の減収になっています。ドコモと同様、これが丸々減収になるわけではなく、やはりコスト削減などでこの減収分を補っています。増減要因を見ると分かるように、3Gの停波を終え、その関連コストが大幅に減少したことで、382億円ぶん利益を押し上げています。これだけで差し引きすると減収影響は157億円まで軽減されます。7月に発生した通信障害の影響や燃料費高騰の影響はありますが、それがなければおおむね利益は横ばいといったところです。

KDDIはマルチブランドARPU収入が539億円減少している。コスト削減や注力領域で補った一方で、通信障害や燃料費高騰の影響を受け、前年度から減益に

 続いてソフトバンク。同社は事業別に業績を開示していますが、料金値下げの影響を受けるコンシューマー事業の営業利益は、22年度上期で3156億円。21年度上期は3647億円だったため、491億円の減益になっています。値下げ影響だけを取り出すと、その額は約240億円です。ただし、その額は21年度の第4四半期をピークに減少に転じており、同社の宮川潤一社長も「今年度は900億円のマイナスだが、その後大幅に縮小していく。ようやく“魔の3年”の終わりが見えてきた」と語っています。

値下げ影響が大きく、ソフトバンクもコンシューマー事業の減益が続く
一方で、値下げ影響のピークが過ぎつつあるのも事実だ

 料金値下げの影響は、1ユーザーからの平均収入であるARPUにも見て取れます。ドコモの22年度上期の総合ARPUは4650円。前年同期は4790円だったため、140円ほど下落しています。総合ARPUにはドコモ光の収入も含まれますが、モバイルに限定すると、その要因を分析できます。モバイルARPUは4200円から4060円へと140円低下。光回線からの収入がほぼほぼ横ばいなのに対し、モバイルのみが落ち込んでいることが見て取れます。

 KDDIは、au、UQ mobile、povoをまとめた「マルチブランド通信ARPU収入」を開示しています。こちらも、前年度上期の7972円から、7432円に低下しています。一方で、付加価値サービスを含んだ「マルチブランド付加価値ARPU収入」は2854円から3562円に上昇しており、通信ARPUの落ち込みをカバーしています。ソフトバンクは、第2四半期のARPUが、4090円から3880円に落ち込んでいます。

当然ながら、3社ともARPUは減少している。写真はKDDI

ユーザー獲得とARPUの底上げで反転を目指す

 とは言え、3社とも、値下げの影響を徐々に取り戻しつつあるのも事実です。通信料収入そのもので収益を回復するには、ユーザーを増やしつつ、ARPUを上げていくのが鉄則。MVNOや他キャリアに奪われたユーザーは、料金値下げによって取り戻しつつあります。例えば、ドコモの井伊基之社長は「ポートイン偏重じゃないかということ(批判)は意識しているが、20代の若い人たちを20年数年か取られっぱなしの歴史があったが、ahamoがヒットし、若い人が戻ってきてくれた」と語っています。

 KDDIも、通信障害で一時モバイルID数が減少したものの、8月、9月で取り戻し、「3ブランドで数字は順調に拡大している」とコメントしています。ソフトバンクの宮川社長は、「主要回線の純増数は前年比4倍を超える勢いになり、MNPも順調で全キャリアに対してプラスになっている」といいます。いずれも、ユーザー数を増やすことで、落ち込んだ収入を回復するという考えに基づいたもの。ユーザー増は、その他のサービスを拡大する基盤にもなるため、重要な指標と言えます。

各社とも、契約者数は横ばいか増加傾向にある。ユーザーが増えれば、失った収益をある程度カバーできる。写真はソフトバンク

 値下げしたと言っても、あくまでデータ容量別に料金が下がっただけなので、ユーザーがより上位のプランを選択すれば、ARPUの下落に歯止めがかかります。先に挙げたとおり、実態としてはまだ3社とも、ARPUは減少傾向にありますが、“下げ止まり”の兆候も見えてきているようです。11月8日の開催された決算説明会で、ドコモはahamoやギガホの合算となる「中大容量プラン」が、1000万契約を突破したことを明かし、井伊社長が次のように語りました。

「ahamo大盛りが好評だが、ギガホを使っているユーザーがだいぶ増え、それが(中大容量プランを)引っ張っています。(動画などの大容量プランを必要とするコンテンツの増加は)我々がコントロールできる領域ではありませんが、大容量ニーズが出てくれば必然的にそうなります。ギガライトでも、階段を1つ上に上がるお客様が増えています」

ドコモは、ahamoとギガホなどを合算した中大容量プランが、全体の3割に拡大。ARPUの下げ止まりも見えてきたという

 こうした傾向を受け、井伊社長は今年度中にARPUの下落が止まる可能性を示唆しました。「今年度中の4000円を底に止まると希望しています。そういう予兆も出てきました」とのこと。ユーザー数を増やしつつ、ARPUを上げていくのはキャリアにとって基本的な戦略です。これに加え、3社とも、金融・決済や上位レイヤーのサービス、法人事業などを伸ばすことで、値下げの影響を補っています。21年の料金値下げ後も大幅な減収になっていないのは、事業領域の拡大も寄与していると言えるでしょう。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya