石野純也の「スマホとお金」
新しい「iPad Pro」と「iPad」、高くてもセルラーモデルを選ぶメリットは?
2022年10月27日 00:00
いわゆる無印iPadと呼ばれることもあるスタンダードモデルの第10世代iPadと、チップセットをM2に置き換えた11インチおよび12.9インチのiPad Proが発売されました。3機種とも、「Wi-Fiモデル」とは別にモバイルネットワークに対応した「Wi-Fi+セルラーモデル」もラインナップされています。ドコモ、KDDI、ソフトバンクといった大手キャリアが取り扱うのも、主にこちら(ソフトバンクは一括払いのみだがWi-Fiモデルも販売)。
通信キャリアとっての端末は、自社のネットワークを使ってもらうためのデバイスになるため、セルラーモデルをプッシュするのは当然と言えるでしょう。
とは言え、iPadは通常の音声通話には対応しておらず、電話として利用することができません。どちらかと言えば、メインでiPhoneなりAndroidスマホなりを持ったうえで、サブとして使うのが一般的です。各社とも、このような利用スタイルにマッチした料金プランを準備しています。
ただし、セルラーモデルはWi-Fiモデルより高額になりがち。昨今の円安ドル高で、その傾向はより顕著になりました。こうした点を踏まえつつ、本稿では“セルラーモデルを使うためのコスト”をひも解いていきます。
iPadを使い倒すならやはりお勧めはセルラーモデル
初代iPadから、iPadには「Wi-Fiモデル」と「Wi-Fi+セルラーモデル」の2つが存在します。家の中など、限定したシチュエーションだけで使う人には前者、外に持ち出して自由に通信を使いたい人は後者と、利用スタイルに合わせて選択できるようにしていると言えるでしょう。この点は、モバイルネットワークへの接続が大前提のiPhoneをはじめとしたスマホとの大きな違いです。iPhoneには(当然ながら)Wi-Fiモデルがないことは、その証拠です。
とは言え、Wi-Fi+セルラーモデルは、後述するように値段が高くなりがち。リリースや記事などで「6万8800円から」といった形で最低価格だけを表記している場合、Wi-Fiモデルの最低容量の価格であることがほとんどです。逆に言えば、セルラーモデルはここにいくらか、上乗せされるのが一般的。モデルによって、セルラー対応を選んだ際の価格は異なりますが、少なくとも最低価格よりは高くなってしまいます。
価格でWi-Fiモデルに飛びついてしまう人は少なくないと思いますが、筆者のお勧めはやはりセルラーモデル。初期のころはWi-Fiモデルを購入することもありましたが、ネットワークに接続できる場所が限定されているとどうしても出番が少なくなってしまいます。それ以降、筆者はセルラーモデルを購入し続けており、現在使用中のM1搭載11インチiPad Pro(第3世代)もセルラーモデル。SIMカードも挿し、出先でも頻繁に通信しています。
メリットは、やはりWi-Fiに接続するためのひと手間が少なくなることでしょう。過去に接続したことがあるWi-Fiであれば自動でつながりますが、新しい場所に行ったときなどは、手動でネットワークを選んで、パスワードを入力しなければなりません。セルラーモデルなら、iPadのディスプレイを点灯させるだけですぐに使い始めることができます。下準備の必要なく、作業を始められるのは大きなメリットです。
電車などで移動している際に、スマホ感覚で利用できるのもセルラーモデルならでは。メールなどはバックグラウンドで受信しているため、画面を点灯させたら開くだけですし、「dマガジン」のような雑誌アプリや、「Netflix」のような動画アプリも移動しながら利用できます。
Wi-Fi版の場合、Wi-Fiにつなぐか、あらかじめダウンロードしておく必要が生じますが、こうした手間がかからず、思いついたらすぐに使えるのもセルラーモデルの利点ではないでしょうか。
もちろん、スマホのテザリングで回線をまかなうことは可能です。スマホがiPhoneの場合、iPad側からテザリングをオンにする機能が搭載されているため、iPhoneをカバンやポケットから取り出す必要すらありません。
ただ、テザリングはスマホのバッテリーを消費してしまううえに、Wi-Fiの混雑状況によっては、通信がうまくできないこともあります。Wi-Fiが飛び交っている発表会会場などは、その一例。iPad自体が直接通信できさえすれば、そのような心配はありません。
逆に、スマホのバッテリーが切れてしまった際にiPadを代替で使ったり、出張時にモバイルWi-Fiルーター代わりにしてほかのデバイスをつないだりと、利用シーンが拡大するのもセルラーモデルのいいところ。第9世代のiPadは比較的安く抑えられてはいますが、それでも5万円前後はかかるので、どうせなら使い倒せるよう、セルラーモデルを選んだ方がいいのでは、というのが筆者の考えです。
大手キャリアは主回線への紐づけが主流、料金は1100円前後
とは言え、セルラーモデルで通信をしようとすると、毎月、通信料がかかります。この点は、あらかじめ考慮しておいた方がいいでしょう。一方で、大手キャリア3社とも、サブ端末であるiPadなどのタブレットでリーズナブルに通信ができるよう、メイン回線と紐づける料金プランを用意しています。ドコモの「(5G)データプラス」、auの「データシェア」、ソフトバンクの「データシェアプラス」がそれです。
料金はドコモとauが1100円、ソフトバンクが1078円。メインの回線に紐づけて利用するための料金プランで、音声通話には非対応になります。“シェア”という名称を使っているキャリアが多いことからも分かるように、データ容量をメイン回線と共有するのが特徴。大手キャリアの料金としては驚くほど安い価格設定になっていますが、単独では利用できません。スマホの子回線としてタブレットを利用する際の料金と言えるでしょう。
金額は横並びのタブレット向けシェアプランですが、ドコモとau、ソフトバンクではシェアの考え方が少々異なっています。まず、ドコモのデータプラスですが、こちらはメイン回線に1回線まで追加できる仕組みです。スマホ1回線につき、タブレット1回線までと考えれば、理解しやすいでしょう。
ちなみに、データ容量が無制限の「ギガホ プレミア」や「5Gギガホ プレミア」の場合、データ容量は無制限になるわけではなく、30GBの制限がつきます。前身となる「5Gギガホ」では100GBまで使えたため、これはちょっとした改悪と言えそうです。
主回線にぶら下げるデータプラスは1回線までというドコモに対し、auやソフトバンクは最大5回線まで自由に通信を組み合わせることができます。auの場合、データシェアそのものに料金がかかるわけではありませんが、タブレットやパソコンなどの料金プランが別途用意されています。「タブレットプランライト 5G/4G」がそれで、この料金が1100円になります。
うれしいのは、タブレットプランライトにも1GBのデータ容量がついていること。スマホ側の料金プランが「使い放題MAX 5G/4G」の場合、データシェアは30GBに制限されますが、タブレットプランライトの1GBも共有されるため、計31GBの利用が可能になります。5回線紐づけている場合は、計35GBになるというわけです。タブレットプランライトは単独契約もでき、ドコモのデータプラスと比べて柔軟性が高い点は評価できます。
ソフトバンクのデータシェアプラスは、タブレット側で契約する「基本プラン(データ)」が1078円。ここに、0円のデータシェアプラスをつけ、データ容量をシェアする形です。子回線が最大5台という点もauと同じです。
ただし、基本プラン自体にはデータ容量がついていません。ちなみに、ソフトバンクには本連載でもたびたび取り上げている「データ通信専用3GBプラン」に加え、「データ通信専用50GBプラン」も用意されています。詳細は割愛しますが、主回線がないときにはこちらを契約するのも手です。
また、MVNOのデータプランやオンライン専用プラン/ブランドであれば、こうしたシェアプランよりも月額料金を安価に抑えることも可能です。
たとえば、IIJmioの「ギガプラン」でeSIMを選ぶと、料金は8GBで1100円。4GBなら660円に下がります。iPadでそこまでデータ通信をしないという場合や、主回線が大手キャリアではない場合には、こうしたプランが選択肢になります。利用するときとそうでないときの差が大きい場合は、povo2.0のようなプリペイドに近い料金プランも便利です。
iPadのセルラー対応コストは2万4000円、円安ドル高の影響も
1100円前後でいいならセルラーモデルもいいなと思えるような流れにした後に水を差すようで恐縮ですが、先に述べたとおり、iPadのセルラーは無料ではありません。Wi-Fiモデルよりセルラーモデルの方が高く設定されているのが一般的。購入時には、そのコストも考慮しておいた方がいいでしょう。ここでは、仮に1100円の料金プランで2年間使ったとき、Wi-Fiモデルからいくら高くなるのかを算出してみました。
まず、第10世代iPadの場合、64GB版のWi-Fiモデルが最安の6万8800円になります。これに対し、ストレージ容量そのままでセルラーをつけると、価格は9万2800円に。両モデルの差額は、2万4000円です。256GB版は、Wi-Fiモデルが9万2800円、セルラーモデルが11万6800円。こちらも差額は2万4000円です。2年使った場合、1カ月(24カ月)あたり1000円の違いがあると言えるでしょう。シェアプランが毎月1100円とすると、Wi-Fiモデルより2年で5万400円お金がかかることになります。
iPadのセルラー対応コストは、同時に発表されたM2搭載の11インチiPad Proも同じです。128GB版のWi-Fiモデルが12万4800円、セルラーモデルが14万8800円で、差額は2万4000円。12.9インチのiPad Proも同じで、Wi-Fiモデルとセルラーモデルの差額は2万4000円に設定されています。
ただし、この“セルラー対応コスト”は一律ではなく、モデルごとに異なります。販売が継続されている第9世代iPadの場合、Wi-Fiモデルが4万9800円なのに対し、セルラーモデルは6万9800円で、差額は2万円ピッタリ。2年利用時のトータルコストは4万6400円です。第9世代iPadは4Gまでの対応になるため、5Gモデルと差が出た可能性はあります。対応周波数が少ないぶん、実装や検証のコストは下がるため、4Gと5Gで差があるのは自然です。
なお、このセルラー対応コストも、円安ドル高で上がっていることは指摘しておきたいところです。21年に発売された11インチのiPad Proは、当時、Wi-Fiモデルが128GB版で9万4800円、セルラーモデルが11万2800円で、その差は1万8000円でした。あらためて当時の価格を見ると、iPad Proが安く感じてしまいます。Wi-Fiモデルより端末価格が上がり、維持費も必要になるセルラーモデルですが、利便性が高いのも事実。iPadを使いこなしたいと考えている人は、こうした追加コストも踏まえて検討してみましょう。