レビュー

Apple Watchヘビーユーザーが見た「Pixel Watch」

Pixel Watch

 Google初のスマートウォッチ「Pixel Watch」が発売となる。腕時計型のデバイス、いわゆるスマートウォッチ製品だ。Googleが中心になって開発するWear OSを搭載し、スマートフォンのPixelシリーズ同様、Google自身が販売する。

 Wear OSやApple Watchが登場してから7年以上が経過し、スマートウォッチも一般的なものとして広く使われるようになってきた。筆者個人の経験としても、ここ2年ほどは、スマートウォッチを着用している人を街中や仕事以外で見かける機会が増えたと感じている。

 しかしまだスマートウォッチを常用したことがなく、それがどのような使い勝手なのか、何が便利なのかいまいちわからない人も少なくないだろう。今回はPixel Watchをお借りすることができたので、スマートウォッチ未経験者にはわかりづらいスマートウォッチの基本部分からレビューをお届けする。

 ちなみにPixel Watchは他社のWear OS搭載スマートウォッチと異なり、iPhoneには対応せず、Androidスマートフォン専用となっている。Apple Watchのライバル的な存在でもあるが、Pixel WatchはAndroidユーザー専用だし、Apple WatchはiPhoneユーザー専用なので、「どちらを買うか」という比較は意味がない。

 しかし筆者は何を隠そう、Apple Watchヘビーユーザーだ。長年スマートウォッチを着用し続けたユーザーとして、スマートウォッチにあるべき機能がPixel Watchではどうなっているか、という視点でも解説していく。

スマートウォッチは「ただ着けているだけ」で意味があるデバイス

 まずスマートウォッチ初心者向けに大雑把に説明すると、スマートウォッチは基本的に「ただ着けているだけ」で意味のあるデバイスだ。操作する機会はあまりないし、むしろ操作する機会は少ない方が良い。

Pixel Watchのアプリ一覧画面。正直使いづらいが、ほとんど使う必要もない

 使ったことがないとわかりにくいポイントだが、スマートウォッチは受動的なデバイスなのである。スマートフォンのように、ユーザーが能動的に使うデバイスと混同してはいけない。

 ペアリングしているスマートフォンのアプリに通知が届くと、Pixel Watchは少し震えつつ通知音を鳴らし(消音設定も可能)、ディスプレイには通知内容が表示される(しばらくすると消えてウォッチフェイスに戻る)。Pixel Watchが震えた瞬間に手首に目をやれば、どんな通知が来たかを確認できる。

 この「通知が届いた瞬間に、ちょっと手首を見るだけで確認できる」というのがスマートウォッチの重要な機能だ。これにより、通知を確認するためにスマートフォンを手に取る時間が激減する。

ウォッチフェイスを見るだけで天気などの情報確認ができるのがスマートウォッチの重要な機能

 時刻や天気予報、次のスケジュールといった情報も、ウォッチフェイス(文字盤)の画面に配置しておけば、いつでもPixel Watchをちらっと見るだけで、スマートフォンを取り出さなくても確認できる。しごく当たり前に聞こえるかも知れないが、これも重要な機能だ。

 このように、「ただ着用しているだけ」で、スマートフォンを手に取る時間を激減させるというのが、スマートウォッチの最大の役割だ。スマートフォンを手に取る時間が減れば、時間の節約になるし、スマートフォンのバッテリー節約にもなる。スマートフォンをポケットやカバンから取り出す機会が減れば、どこかに置き忘れたり、取り出すときに落として画面を割る危険性も減る。

 スマートウォッチはスマートフォンを置き換えるものではない。メールへの返信やWeb検索などは、わざわざディスプレイが小さいPixel Watchでやる必要はなく、スマートフォンを取り出せば良い。スマートフォンを取り出していないときにできることを増やし、取り出す機会を減らすのがスマートウォッチの役割だ。

 スマートウォッチヘビーユーザーの筆者も、スマートウォッチで使うアプリや機能といえば、二要素認証アプリ、ポモドーロタイマーアプリ(仕事の作業効率を上げるアプリ)、エクササイズ計測アプリ、Siriを使ったタイマーやアラームの設定、Suica以外の電子マネー選択くらいだ。あとは基本的に「ただ着けているだけ」で、たまにウォッチフェイスに目を落とし、時刻や通知、天気、スケジュールなどを確認するだけである。

 スマートウォッチは、「ただ着けているだけ」で役立つことに意義がある。そのため、「四六時中、着用できるデザイン」「何も操作しないでも便利なウォッチフェイス」が重要なポイントとなってくる。

デザインはシンプル。クラシックな腕時計というよりガジェットっぽい?

側面から見ても丸っこいデザイン

 Pixel Watchは円形ディスプレイを搭載し、装飾的な凹凸は一切ないシンプルなデザインとなっている。他社のWear OS搭載スマートウォッチはクラシックな腕時計を意識し、ベゼルを強調するなど装飾的なデザインが多いのに対し、Pixel Watchは無駄を排した、ややガジェットっぽさを感じるデザインだ。

普通の時計のようなフチ(ベゼル)がないので、表示領域はやや狭く感じられてしまう
こちらはApple Watch Series 7。方形ディスプレイなので表示できる情報量はやや多い

 ディスプレイの表示領域はそこまで広くない、と感じる。Pixel Watchは外見デザインにフチ(ベゼル)が存在しないので、もっと外側までディスプレイがあるのでは、と感じやすいことに起因するところだろう。

背面はガラス。使っているとパーツ間に汚れが溜まりがち

 本体は前面がガラス、各種センサを内蔵する背面(内側)もガラス、その中間となる側面部分がステンレスとなっている。

 今回お借りしたのは「マットブラックケース / オブシディアンバンド」なので、側面のステンレス部分はマットブラック、つまりつや消しの黒だ。しかし前面のガラスがかなり側面まで回り込んでいるので、かなり側面からのぞき込まないと金属部分が見えず、ほとんど前面ガラスしか見えない。

 ケースのカラーバリエーションでは金属部分の配色が変わるが、「シャンパンゴールド」や「ポリッシュドシルバー」といった、装飾品のような「輝き」を楽しむカラーを選んでも、この形状だとイマイチ映えないかも知れない。

サイズ感は日本人の標準体型なら男女とわずにちょうどよさそう

 Pixel Watchは、Apple Watchのようなサイズバリエーションはなく、1サイズ展開となる。本体の直径は41mmなので、Apple Watchの小さい方のモデル(41mm)に近く、腕時計としては大きくない部類に入る。痩せ型オッサンの筆者の手首でちょうど良い、もしくは小さいと感じるくらいなので、女性でも大きすぎと感じることはないだろう。

 逆に手首が太めの男性は、ちょっと小さいと感じるかも知れない。バンドは2種類のサイズが付属していて、大きい方のバンドはかなり太い手首でも装着できそうである。

バンドは簡単に脱着できる。緑色で画像加工してる部分はシリアルナンバー(肉眼ではほぼ見えない)

 バンド抜きのPixel Watch本体の重量は、実測で約35.6g。バンドを含めても60g程度と腕時計としては標準的で、慣れれば四六時中着用していても、重さを感じることはない。

 バンドは交換可能で、別売りを含めると20種類以上が純正品としてラインナップされる。クラシックな腕時計向けの汎用バンドは使えないが、付け替えに工具は不要なので、気分やシチュエーションに応じて気軽に付け替えられるのがありがたいポイントだ。

ディスプレイは常時点灯の設定が可能

側面パーツは背面に回り込んだ形状で、側面パーツにあるサイドボタンも背面に回り込んでいて若干押しづらい

 操作はタッチパネルディスプレイに加え、側面のリュウズ(押し込み操作や触感機能あり)とサイドボタンを使う。サイドボタンは側面の金属部にあるが、やや背面側(手首側)を向いているため、ちょっとだけ押しにくく、慣れが必要だ。

画面設定でディスプレイの点灯・自動消灯に関する設定ができる

 ディスプレイは常時表示の設定も可能だが、10/15/30秒で自動消灯する設定もある。常時点灯にすると、「ただ着けているだけ」の利便性がかなり向上するので、できれば常時点灯で使いたい……が、消費電力もけっこう変わってくるので悩ましいところだ。

 常時点灯の場合も、無操作状態が設定時間継続すると、ディスプレイの輝度などが下がる省電力モードに移行する。しかし省電力モードでも明るさは十分で、かなり見やすい。

 常時点灯設定でも自動消灯設定でも、ディスプレイのタッチ操作、リュウズ押下、手首を傾けてディスプレイを手前方向に向ける、といった操作でディスプレイが全点灯状態となり、操作が可能になる。

 手首を傾けたときの反応は悪くないが、省電力状態からのリュウズ押下やタッチ操作に「全点灯状態に戻る」というワンアクション挟まるのは、やや煩わしいと感じた。なぜかサイドボタンは省電力状態でも操作できるので、そちらに統一して欲しかったところだ。

バッテリは1日持つけど毎日充電が必要

専用充電器には磁石で貼り付くように乗っかる

 お借りしたPixel Watchを数日間、常時点灯状態で試用してみたが、1日なら電池は持つという印象だ。スマートフォン同様、毎日充電する必要があるので、入浴中や就寝中などに充電する習慣が必要となる。

 充電には専用の非接触充電器を使う。カタログスペックでは30分で50%となっているが、それ以上では、という勢いで充電してくれる。しかしスリープトラッカ機能もあるので、就寝中も着用したいところであり、そうなるといつ充電するかはけっこう悩ましい。できれば毎日1時間は充電したいので、入浴中だけだと微妙に足りない印象だ。

 ちなみに専用充電器以外にもQi充電器などで充電中表示にはなる……のだが、実際には充電されないようだ。

基本となる「ウォッチフェイス」はそこそこカスタマイズ可能

標準搭載のウォッチフェイスの一つ。スケジュールを大きく表示できるデザインだ

 Pixel Watchで基本となる画面は、時刻などを表示するウォッチフェイス(文字盤)だ。ウォッチフェイスは複数を設定し、そのうち1つをアクティブに選択する形式となっている。ウォッチフェイスを長押しすると、アクティブにするウォッチフェイスを切り替えられる。

ウォッチフェイスのテンプレートギャラリー。種類はそこそこある

 ウォッチフェイスは用意されているテンプレートデザインをベースに、表示する情報の種類や文字の色などをカスタマイズできる。バッテリ残量やタイマー、スケジュール、気象情報などの情報を表示可能だ。配置できる情報の数はウォッチフェイスごとにまちまちだが、最大で4つくらい配置できる(1つも配置できないウォッチフェイスもある)。

Playストアのウォッチフェイス特集ページ。商標や意匠を使ってそうなヤツは大丈夫なのかな……
筆者の愛用するApple Watchのウォッチフェイス。情報量多めのゴチャゴチャデザインが好みなのである

 ウォッチフェイスはPlayストアでダウンロードすることでも追加できる。そこそこ豊富だが、Apple Watchユーザーとしては、標準のテンプレートを含め、もうちょっと情報量の多いウォッチフェイスが欲しいな、という印象も受ける。

天気のタイル。各タイルの機能は少なくシンプル志向だが、アプリ起動などの手間がかからないのがイイ

 ウォッチフェイスを左右にスワイプすると、「タイル」と呼ばれる画面に切り替わる。タイルには予定や天気、エクササイズなどがあり、どのタイルを使うかもカスタマイズできる。タイル画面はしばらく放置しているとウォッチフェイスに戻るので、常時表示したい情報は、ウォッチフェイス上に配置する必要がある。

タイルやウォッチフェイスの設定はスマホ側アプリで可能。たくさん設定するより、少ない操作で切り替えられるよう、必要最低限のものだけ設定するのがオススメ

 ウォッチフェイスに表示できる情報とタイル、この2つのカスタマイズ要素は、Pixel Watchを使いこなす上では重要なポイントとなる。

Googleアシスタントは「OK Google」でハンズフリー起動

 Googleアシスタントを設定しておくと、Pixel Watchに向かって「OK Google」と話しかけるだけで、Google音声アシスタントを使える。

 「OK Google」を待ち受けするのは、ディスプレイが全点灯状態のときだけだが、ディスプレイを手前方向に傾けるだけで全点灯状態になるので、Pixel Watchを口元に持っていく自然な動作でOKだ。

 全点灯状態で「OK Google、3分のタイマーをセット」などと話しかけるだけで、ボタン押下もタッチ操作もなしに音声アシスタントを使える。画面表示だけでなく、音声読み上げによるフィードバックもある。

 着用している限り、手指を使わず、いつでも腕を持ち上げるだけで音声アシスタントを使える。料理中などで手が汚れていても使えるし、歩きながら視線を落とさないでもコマンド入力できる。

 スマートウォッチは画面が小さく、アプリを探し出して起動して操作する、という操作がやりにくい。そのため、音声アシスタントはスマートフォンとは比べものにならないくらい重要な機能となるが、Pixel Watchはハンズフリーで使えるなど音声アシスタントも使いやすく実装されているので安心だ。

Suicaが利用可能。ただし要セキュリティ設定

Pixel Watch上のGoogle PayアプリでSuicaの残高とかを確認できるが、使うときはこのアプリを起動する必要はない

 非接触IC機能(FeliCa)を内蔵していて、Suicaを入れることができる。現状、対応するのはSuicaだけで、iDやQUICPayは使えない。また、Suicaも定期券やSuicaグリーン券は入らない。しかしSuicaが使えるというだけでも、かなり便利だ。

 Suicaを使うときは操作不要で、ウォッチフェイス表示のまま、リーダーにかざすだけで良い。改札を通るときやレジでの決済時に財布やスマートフォンを取り出さないで済むというのは、非常に楽チンで、これに慣れるとなかなか元に戻れなくなる。

 Pixel WatchでSuicaを使用するには、PINコードかパターンによるセキュリティ設定が必須となる。Pixel Watchは腕から外されると自動的にロックがかかるので、置き忘れや充電中の盗難などで不正使用される心配は少ない。着用するときにはセキュリティロック解除が必要となるが、着用している限り、再度のロック解除は不要だ。

 ただし着用状態かどうかは心拍センサーなどを使って判定しているようで、衣類の上からPixel Watchを着用すると、直ちに自動ロックがかかる。そのため、スキーウェアなどの上に着用するといった使い方はできない。

4G LTE対応モデルあり。役に立つかは単体でどこまで使うか次第

 Bluetooth/Wi-Fiモデル(3万9800円)と4G接続+Bluetooth/Wi-Fiモデル(4万7801円)があり、後者は対応回線を契約すれば、近くにペアリングしたAndroidスマートフォンがなくても、通話やメッセージといった基本的な機能が使える。

 筆者もApple Watchはセルラーモデルにauの回線を入れて使っていて、ごくたまに便利と感じることがあるものの、そういったケースはかなり少ない。

 例えばジムでトレーニングするとき、ロッカーにスマートフォンを置きっぱなしにして、スマートウォッチだけでトレーニングできるのはちょっと便利だ。しかしこうした4Gモデルが便利なシチュエーションに心当たりがないなら、あえて4Gモデルを選ぶ必要はないだろう。

運動中の心拍数測定の精度はやや難あるかも?

日課のエクササイズでの測定結果。序盤の心拍数が高めに記録されているが、実際はそこまで心拍数は上がっていないハズ
同じエクササイズをApple Watchで計測した結果。心拍数はこちらの方が安定している

 筆者が試した限りだと、運動しているときの心拍数は高めにカウントされる傾向が見られた。筆者は心拍トレーニングに近いエクササイズを習慣にしていて、心拍数管理に慣れているが、日課のエクササイズのとき、Apple Watchやポラールの光学式心拍センサー「OH1」と同時に着用して比較したところ、Pixel Watchの数値だけ高い傾向が見られた。

 ただ、これは3回ほど測定しての傾向なので、たまたまとか、ベルトの締め方に問題があったとか、筆者のバイタルやエクササイズに最適化されていなかったとか、そういった可能性もある。また、エクササイズも腕を振り回しまくるVRゲーム(Beat Saber)なので、スマートウォッチには過酷な条件だ。しかし心拍トレーニングを厳密にこなしたい人は、ちょっと注意が必要なポイントでもある。

1日の心拍数の記録も見られる。安静時心拍数がやや低めなのは心拍トレーニーなのでこんなもんである
同じ日のApple Watchによる計測結果。エクササイズ中以外はPixel Watchとだいたい同じ感じ

 歩行時や通常時の心拍数測定は、だいたいApple Watchと同じ記録となっていた。安静時心拍数なども記録される。海外版のPixel Watchだと心電図測定機能もあるようだが、こちらはまだ日本では使えない。あとは睡眠中にも着用していれば、睡眠状態もトラッキングできる。

睡眠のトラッキング結果。もっと早く寝ないとイカンと思っている

 どのスマートウォッチでも同じだが、健康維持のために何が足りないとか何に問題があるかといったことを洗い出すことを手助けしてくれるが、改善するにはユーザー自身の努力や勉強、そして正しい判断が不可欠だ。横着のためのデバイスではなく、努力を手助けしてくれるデバイスなのである。つまり痩せるのに必要なのはスマートウォッチではなく適度な運動と食事なのである。

広くオススメしやすいスマートウォッチ

 Pixel Watchは機能面での制限も少なく、デザインにクセもなく、完成度の高いスマートウォッチだ。スマートウォッチに興味がある人に幅広くおすすめできる製品でもある。

 Pixel Watchの価格は、通常モデルで3万9800円と、お試しで買うにはちょっと高価だ。しかし安くて低機能なスマートウォッチを使って、「オレにはスマートウォッチは要らないわー使えないわー」と判断するのは、ちょっともったいない話でもある。

 前述した通り、スマートウォッチは「ただ着けているだけ」で役に立てるというデバイスなので、高機能だから初心者が使いこなせない、なんていうことはほとんどない。むしろ機能面で制限の少ないモデルの方がスマートウォッチの真価を感じやすく、初心者に向いている。そういった意味でも、Androidスマートフォンユーザーの初めてのスマートウォッチとしても、Pixel Watchは第一候補としてオススメしたいデバイスだ。

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