本日の一品

名刺は自動、人間は覚悟 「機動文具 自動変形名刺ケース」を買った

 名刺の縦横には、その会社の空気が出る。筆者が勤めた会社の名刺はどれも横型だったが、外資系なのに役員だけ縦型という会社もあった。肩書が上がると紙まで起立するのか、と妙に記憶に残っている。縦横の勢力図はさておき、名刺を相手に向けて差し出す儀式は、なかなか変わらない。

名刺交換に、ここまでの変形は必要か

 その儀式に派手な変形(トランスフォーム)を持ち込んだのが、BANDAI SPIRITSの「機動文具 自動変形名刺ケース」だ。超合金で培ったノウハウを文具に投入したという。効率化を求める仕事場に、わざわざ見せ場を増やす道具を持ち込む。その無駄を楽しむ余裕には賛成だ。ただし、買う勇気と初対面で使う勇気は、どうやら別売りである。

 筆者は小さな脳で検討する手順を省略し、スタンダードカラーとトイカラーの2個を脊髄反射で買ってしまった。前者は白と青を基調に派手さを抑え、後者は赤、紺、黄で動く部分まで予告しているようだ。どちらも変形する気満々なのだが、言い訳のしやすさには差がある。

箱から既に、文具より変形玩具の気配
控えめな白と、隠す気のないトイカラー

 最初に見せた知人は、動作より先に大きさに驚いた。公称サイズは125×95×25mm。手持ちの名刺ケースを重ねると、その存在感が分かる。名刺を少し前へ運ぶために、ポケットとお財布には相応の負担をお願いする仕組みだ。

従来の名刺ケースを重ねると大きさが分かる

 手を延長する道具なら、左ハンドル車から駐車券を取るマジックハンドやカードを取り付ける決済用の棒もある。ただ、本品の魅力は到達距離より演出だ。名刺1枚に、随分と立派な出番を用意している。

 かつての名刺ケースは、革の質感や金属の仕上げで持ち主を語ったものだ。本品は動作そのもので語ろうとする。名刺の中身を読む前に相手の視線を集める点では強力だが、注目を集めた後に何を話すかは、あらかじめ考えておきたい。

手を伸ばす道具にも、それぞれの事情がある

 収納部に名刺を入れ、ケースを畳んで準備する。メーカー推奨は55×91mm、紙厚0.24mm。名刺なら何でもよいわけではない。筆者の盛り文字入り厚紙名刺では4~5枚で何とか動いたが、7枚では引っかかった。

収納できることと、正常に出せることは別だ



 ボタンを押すと左右が開き、名刺がせり出して相手に向く。この動きをばね仕掛けでつなぐ工夫は見事だ。しかも、出す瞬間に束から1枚を探し当てているのではない。ケースを畳む段階で、次の1枚を先端の保持部が既につかんでいる。派手な本番を支えるのは、地味で確実な事前準備なのだ。

変形を支えるのは、ばねと部品の連動だ



 ところが、名刺との相性はなかなか難しい。横型5種類を試し、今回の試行で一度もトラブルがなかったのは1種類だけ。盛り印刷、マットな厚紙、標準より小さい名刺では失敗を経験した。製品全体の成功率を示す実験ではないが、本番前の練習は欠かせない。

 この手の道具は「出て当然」という期待を自分で引き上げてしまう。そこで名刺が詰まると、続けるはずだったおバカ話まで失速する。肝の据わった方なら照れ笑いで再挑戦できても、トイカラーで堂々と構えた後の不発はつらい。国民的歌番組の歌手の衣装と同じで、舞台裏の確認は重要だ。

 縦型名刺には向きの問題もある。横型と同じ構えでは、相手から文字が横倒しになる。相手の側面に回るか、持ち方を工夫する必要がある。過去何百年も不変だった名刺交換の立ち位置まで変形させるとは思わなかった。

紙質もサイズも違う、手持ちの名刺で検証



 日本橋のカフェでは、数回練習した女性から初体験の女性へ渡してもらった。驚いて笑いが起きる光景は実に楽しい。2台あるのに双方が使う場面を撮りそびれたが、まずは一人が仕掛け、もう一人が驚く構図が似合う。

 双方が同時に展開したら、名刺を受け取る手をどう空けるのか。見たい気もするが、まずは一人ずつが平和だろう。商談の入り口で使うには相手と場を選ぶし、仲間内で順番に試すだけでも、十分に元は取れて楽しめそうである。



 クレジットカードでも試したが、収納部に入っても厚さで引っかかり、取り出せなかった。写真のように先端で保持できても、自動供給できるとは限らない。決済用への転用は、今回のテストでは断念した。

先端では持てても、収納部からは出せなかった

 2日ほど遊び、筆者が欲しくなったのは初対面で使うための言い訳だ。「仕事柄、こんな文具も試しているので実演させてほしい」なら、自分の仕事と好奇心を紹介できる。ケースを話題に、自分が何者かを伝えられれば、多少は名刺の役にも立つ。

 コロナ禍だったら、受け手側にも手を使わず受領する仕組みがあれば面白かっただろう。ただ、距離を伸ばすだけで非接触の交換が完成するわけではない。名刺交換は、最後まで相手の協力が要る。

 そして成功しても、名前よりケースを覚えられる可能性は残る。機構は名刺を差し出してくれるが、場の空気を読む仕事までは引き受けない。その手間まで楽しめる人のための変態系文具なのだ。

名刺は自動で出せる。使いどころは人間次第
製品名発売元実売価格
機動文具 自動変形名刺ケースBANDAI SPIRITS3300円