本日の一品

”ポケットの中のバディ”「ビクトリノックス」と過ごした30年」
2025年6月2日 00:00
筆者は特にアウトドア派ではないが、スイスの老舗ブランド「ビクトリノックス」の製品には昔から強い魅力を感じている。1884年に創業されたこの企業は、軍用ナイフを原点とするマルチツールを筆頭に、今では腕時計やトラベルギア、フレグランスまで展開しており、世界中でその名を知られている。
その象徴である「十徳ナイフ」は、日本でも「アーミーナイフ」や「マルチツール」と呼ばれて親しまれており、いずれも同様の多機能ナイフを指すが、ビクトリノックスのものには他にはない歴史と信頼がある。それは単なる道具を超えた、共に時を刻む“相棒”のような存在なのだ。
筆者が所有するビクトリノックスのマルチツールは、約30年前に手にしたプロモーションノベルティモデルである。ベースとなっているのは、同社の超定番「クラシックSD」。長さ58mmという超小型のボディに、ナイフ、爪ヤスリ、マイナスドライバー、ハサミ、ピンセット、つまようじ、キーホルダーの計7機能が詰め込まれた傑作である。
このナイフは、筆者がかつて在籍していた企業の「ThinkPad」ブランドを宣伝するために作られた限定モデルで、白いボディにお馴染みのロゴが映える。30年近く、キーホルダーやポーチの中で酷使されながらも、最もよく使うハサミのスプリングがついに折れてしまった。刃を開くのに両手が必要になる状態では、もはや機能美は失われていた。
ネットで調べて驚いたのは、ビクトリノックスがこのナイフの修理を無料で受け付けているという事実だった。これは大事件である。筆者はさっそく、2024年3月に銀座にオープンしたばかりの直営店へと足を運んだ。
受付で対応してくれたのは、若い女性スタッフ。事情を話すと「少々お待ちください」と言ってすぐ横のデスクで修理開始。なんと数分後、見事に復活したハサミは30年前の状態で戻ってきた。
対応スピードと終身無償修理の哲学は感動的だ。修理を待つ間、店内の様々な商品を見て周っていた筆者はその時展示されていた限定デザインのモデルに思わず目を奪われた。
そこにあったのは、ムーミンとコラボレーションした新しい「クラシックSD」だった。ビクトリノックスといえば“質実剛健”の象徴のようなイメージだが、そこにムーミン谷の仲間たちであるムーミン、リトルミイ、ニョロニョロが可愛く並ぶ様は、まったく新しい層をターゲットにした大胆な挑戦だと感じた。
筆者は家族用に「ムーミン谷の冬」と「リトルミイライト」の2本を購入した。かわいらしさだけでなく、信頼できる実用性を兼ね備えたこのモデルは、自分用にも、贈答用にも最適だ。各モデルには7機能が標準装備されており、ビクトリノックスの技術とトーベ・ヤンソンの世界が見事に融合している。
ちなみに、筆者が過去に所有していた別のモデルにはUSBメモリーが内蔵されていた。セキュリティの都合からナイフが航空機への持ち込み禁止となって以降、このモデルは何度か没収の憂き目に遭った。
特に出張先での保安検査で係員に回収されたあの瞬間の悔しさは、今も忘れがたい思い出だ。その後、帰国して同じモデルを再び買い直したほど、このブランドへの信頼と愛着は深い。
今回のショップ訪問で、愛用品が再び使えるようになったばかりか、新たなコレクションが増えたことは大きな喜びだ。しかも、これらすべてが「ライフタイムワランティ(生涯保証)」の対象であることも特筆に値する。
ビクトリノックスの「クラシックSD」は、優れた耐久性、圧倒的な携帯性、そして安全性を兼ね備えた名品である。今回訪れた銀座店では、定番モデル以外にも、時計やトラベルギアといった多様なラインナップが並び、同社の新たな挑戦を感じさせた。
十得ナイフ、マルチツール、アーミーナイフ……名称は違っても、どれも生活のそばで長く使える信頼の逸品である。そんな相棒と共に過ごす時間こそが、モノの価値を何倍にも高めるのだ。
製品 | 発売元 | 実売価格 |
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クラシックSD ムーミン「ムーミン谷の冬」「リトルミイライト」 | ビクトリノックス | 4180円 |