法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」
MWCを見て考える、2016年のモバイルのゆくえ
(2016/3/23 10:00)
2月22日~25日まで、スペイン・バルセロナで開催されていたモバイル業界最大の展示会「Mobile World Congress 2016」(MWC 2016)。毎年、業界各社が新製品や新サービス、最新技術を出品することで知られ、今年も国内市場に関わりがありそうな、多くの新製品が発表された。本誌ではすでに多くの速報レポートをお送りしたが、今回はMWC 2016の各社の発表内容などを振り返りながら、今年のモバイル業界のゆくえについて、考えてみよう。
『物足りなさ』からの脱却
モバイル業界において、最大のイベントのひとつである「Mobile World Congress」。例年、スペイン・バルセロナにおいて、2月下旬~3月上旬にかけて開催され、モバイル業界に関わる世界中の企業や関係者が参加する。このMWCに合わせ、各社は新製品や新サービスを発表したり、展示ブースでは次世代を狙う最新技術などが展示される一方、各社ブースなどでは世界中の取引先との商談も行われる。毎年、説明していることだが、MWCは一般消費者のためのイベントではなく、業界に関わる人々が集う『プロ』のためのイベントと位置付けられている。そのため一人のユーザーとして見ると、あまり関心が持てないような事柄でも、数年後には多くのユーザーの利用環境に大きな影響を与える技術やトレンドになることも多い。逆に、MWCで注目され、話題になりながら、やがて市場から消えてしまったり、存在感を失ってしまうような製品やサービス、技術もある。MWCですべてがわかるわけではないが、これからのモバイル業界のトレンドを知るうえで、欠かせないイベントであることは間違いない。
モバイル業界において、ハードウェアの主役が従来型の携帯電話からスマートフォンへ、通信技術のトレンドが3GからLTEへ移行して、すでに数年が経つ。なかでもスマートフォンについては、ほんの数年前まで各社が次々と個性的な端末をリリースし、会場でも新端末に人だかりができるような光景を何カ所も見ることができた。ユーザーが市場でアツくなっているように、MWCの会場にもスマートフォンを中心にした熱気が感じられたわけだ。
ところが、昨年あたりから少し落ち着きを取り戻し、次なる時代への模索が始まるような印象を受けた。熱っぽさの性質が少し変わった印象があり、一般消費者が触れる製品やサービスという視点で見ると、少し物足りなさを感じるところもあった。これは言うまでもなく、スマートフォンを構成するプラットフォームの完成度が高められ、通信技術もLTEを軸にしたものが世界中で展開されるようになり、市場全体として、成熟感が醸成されてきたからだろう。こうした傾向はMWCに限られたことではなく、昨年のIFA 2015などでも同様で、日本のユーザーにとって、大きなインパクトを持つ製品やサービスが少なくなりつつある。こうした状況を見て、「スマートフォンがコモディティ(日用品や生活必需品)化したからだ」という意見を述べる人もいるくらいだ。
そんな『物足りなさ』を感じていた海外の展示会だが、今回のMWC 2016は昨年まで違ったワクワク感のあるイベントだったというのが率直な感想だ。各社が発表する新端末をはじめ、スマートフォンに関連する新しい周辺デバイス、通信技術では5Gへ向けた各社の取り組みなどを見ることができ、着実に次へのステップを踏み出しているという印象を得た。ただ、後述するように、全体的に見て、スマートフォンそのものよりもスマートフォンと組み合わせて利用する製品が目立っており、「まるでアクセサリーや周辺機器の展示会のようだ」といった声も聞かれた。
度肝を抜かれたUNPACKED 2016
例年、MWCの会期前日や会期中には、各社が発表イベントを行う。日付や時間帯がうまく分散してくれればいいのだが、残念ながら、毎年のように、いくつかのイベントは時間帯が重なってしまい、いずれかのイベントを断念しなければならないことが多い。なかでもここ数年は会期前日にサムスンとソニーモバイルが会期前日のほぼ同じ時間帯にイベントを開催していたため、いずれか片方しか見られない状態が続いていたが、今年はソニーモバイルが会期初日に自社ブースで発表イベントを行うことになったため、会期前日の夜はサムスンのイベント「UNPACKED 2016」に多くの人が参加することになった。
今回のUNPACKED 2016については、すでに本誌でも速報などでお伝えしているが、今までの発表イベントとはかなり趣の異なるインパクトの強いイベントだった。というのも一般的な発表イベントはコンサートのように、ステージがあり、相対するように客席が並ぶ形式を採るのだが、今回のUNPACKED 2016は会場中央にステージを設置し、その四方を客席が囲む「プロレススタイル」とも言えるような会場を用意した。しかもそのすべての客席には同社が昨年末から販売する「Gear VR」を置き、参加者は発表イベントの途中でGear VRを頭に装着して、発表内容を見るという仕掛けだったからだ。
これまでもVRヘッドマウントディスプレイを利用し、複数の人が同時に体験できるイベントが行われたことはあるだろうが、UNPACKED 2016には5000台のGear VRが用意され、おそらく5000人近い参加者が同時にVRコンテンツを視聴できるイベントを実現したのだから、これは驚き以外の何者でもない。はじめて会場に足を踏み入れたとき、多くの日本のメディア関係者が「これはもしかして、Gear VRを着けて……」「え? ホントにVRで発表を……」と騒いだのだが、その通りの発表イベントが行われ、かなり驚かされた。ちなみに、発表イベントにはサムスン関係者のほかに、ゲストとしてFacebookのマーク・ザッカーバーグが登壇し、「FacebookでもVRを使った新しい体験を提供する」とコメントするなど、こちらもインパクトの強い内容だった。発表イベントで使われたGear VRとは別に、お土産として参加者にはGear VRのパッケージが手渡されたが、このことからもわかるように、サムスンとして、VRに本気で取り組んでいこうという姿勢がうかがえた。
Gear VRを利用した発表イベントそのものばかりが注目されたUNPACKED 2016だが、日本のユーザーとして、気になるのは新たに発表された「Galaxy S7」「Galaxy S7 edge」だろう。製品の内容については速報レポートを見ていただきたいが、従来の「Galaxy S6」「Galaxy S6 edge」をベースに、防水防塵機能を追加し、microSDメモリーカード対応や急速充電対応など、正常進化を遂げたモデルとして仕上げられており、かなり完成度が高い印象だ。Galaxy S7 edgeは背面側もラウンドさせた形状に仕上げることで、流線型の持ちやすく、スタイリッシュなデザインにまとめられている。
個人的にもっとも秀逸に感じられたのがカメラで、一部のデジタル一眼レフカメラでも採用されているデュアルピクセルセンサーを採用することで、すばやいAFと暗いところでの撮影を可能にしている。サムスンブースのプライベートエリアには照明のない暗い部屋が用意されていたが、そこで撮影すると、人間の眼では室内にモデルがいることがようやくわかるような明るさながら、Galaxy S7 edgeではある程度明るく、モデルが撮影できるという環境を体験できるようにしていた。この他にもエッジスクリーンを利用したホームアプリをはじめとしたユーザーインターフェイスも進化を遂げ、ハードウェアとソフトウェアの両面で完成度を高められている。いずれのモデルも日本市場での発売について、何もアナウンスされなかったが、昨年秋の「Galaxy Note 5」「Galaxy S6 edge+」が国内で販売されていないことに対する不満の声も多く聞かれている現状を鑑みると、今回はその巻き返しを図るべく、日本市場にもいずれかのモデルを積極的に展開してくることが予想される。
また、サムスンでは360度カメラ「Gear 360」も発表した。前後に魚眼レンズを備え、Galaxyと連携することで、ユーザー自身がVRで楽しめるコンテンツを生成できるようにしたものだ。今回のMWC 2016では各社がVR関連の製品を出品したが、サムスンとしては「見る」「撮る」という環境を揃えることで、VRを同社の強みとして、活かしていきたい姿勢がうかがえた。
「Z」から「X」へ進化したXperia
MWC 2016初日の朝一番から自社ブースでメディア向けのイベントを開催したのはソニーモバイルだ。イベントの冒頭、ソニー代表取締役兼CEOの平井一夫氏が壇上に立ち、ソニーモバイルがXperiaシリーズを積極的に展開することがアピールされた後、ソニーモバイルの代表取締役兼CEOの十時裕樹氏が登壇し、Xperiaシリーズの新ラインアップ「Xperia Xシリーズ」、Xperiaのネーミングをアクセサリーにも拡大した「Xperia Ear」などが発表された。
Xperiaについては国内でも安定した人気を得ているが、ここ数年、展開されてきたXperia Zシリーズは矢継ぎ早に新モデルがリリースされ、その度に「究極の~」や「集大成」といった言葉が使われてきたことで、一部で呆れられてきた感があったのも事実だ。今回のXperia Xシリーズは基本的なデザインやサイズがほぼ共通化されているが、全体的な印象としては従来のXperia Zシリーズがソリッドで固いイメージだったのに対し、今回のXperia Xシリーズは背面の角をカーブさせたり、ディスプレイのガラス面を「2.5D」とも表現される曲面にするなど、少し柔らかいイメージで仕上げられている。関係者によれば、これは十時氏が就任時から掲げてきた「もっと人に寄り添うスマートフォン」を具現化したもので、その他の部分にも同じコンセプトを活かしていくという。
Xperia Xシリーズについては、国内向けにもっともハイスペックな「Xperia X Performance」が発売されることがアナウンスされた。Galaxy S7/S7 edgeと並び、今年の夏モデルの主力製品のひとつとして、携帯各社が扱うことになる見込みだ。機能面でユニークなのはバッテリーの充電で、Qnovoが開発した技術を採用し、充電を制御することで、バッテリーへの負荷を減らし、バッテリーそのもののライフタイムを延ばすことを実現するという。スマートフォンのバッテリーについては、急速充電などが注目されているが、今後、端末のライフサイクルは延びる傾向にあると見られており、バッテリーの着脱ができない現在のスマートフォンの形状を考えると、バッテリーの寿命を延ばすのは、ユーザーとしてもうれしい取り組みのひとつと言えるかもしれない。
国内販売についてのアナウンスがなかった「Xperia XA」「Xperia X」についてだが、Xperia XAは新興国など、コスト重視の市場向け、Xperia Xは欧州市場のボリュームゾーンを取りに行く端末と見られる。ただ、Xperia Xはスペック的にミッドレンジに位置付けられており、国内市場でもMVNO各社が扱うことになれば、意外に人気を得ることになるかもしれない。基本的にはXperia X Performanceが国内向けだが、その他のモデルの動向も少し気にしておいた方がいいのかもしれない。
次に、アクセサリー類については、前述の通り、スマートフォンと同じ「Xperia」の名を冠した製品が展開されることになった。正式な製品としての発表は「Xperia Ear」のみで、その他の「Xperia Eye」「Xperia Projector」「Xperia Agent」は参考出品という形になったが、いずれも商品化を前提に開発されているという。ソニーモバイルでは旧ソニー・エリクソン時代からアクセサリーを数多く展開してきたが、型番のみで展開される製品が中心で、今ひとつ存在感を示すことができていなかった。参考出品を含む今回の製品のように、単なるアクセサリーではなく、よりコンセプチュアルな製品を展開するうえでは、「Xperia」の名は必須だったと言えるのかもしれない。価格など、まだわからない部分があるが、いずれの製品もソニーらしく、新しいコンセプトに基づいた楽しみな商品と言えそうだ。
存在感を増すWindows 10 Mobile
昨年のMWC 2015でWindows 10ユニバーサルアプリなどが発表され、注目を集めたWindowsプラットフォーム。昨年7月のパソコン向けWindows 10のリリースに続き、昨年10月にはスマートフォン向け「Windows 10 Mobile」が正式にリリースされ、国内でもWindows 10 Mobile搭載スマートフォンの発表、発売が続いている。昨年のMWC 2015の段階でも十分に兆しは感じられたが、この一年を振り返ってみると、当時の予想以上にWindows 10 Mobileの注目度が高まってきたというのが正直な印象だ。
今回のMWC 2016では、マイクロソフトはWindows 10 Mobileに関する新しい発表こそ、行わなかったものの、同社のブースにはWindows 10 MobileのContinuumのデモなども行われ、来場者の注目を集めていた。端末についても国内で販売されているFREETEL KATANA02/KATANA02、トリニティのNuAns NEO、VAIOのVAIO Phone Bizが展示され、海外の来場者が熱心に見入る光景を何度も見かけた。なかでもNuAns NEOの個性的なデザインには興味を持つ人が多いようで、トリニティの星川氏によれば、マイクロソフトのブースでNuAns NEOを見た来場者がトリニティのブースを訪れるといったこともあったようだ。一部では「Windows 10 Mobile搭載スマートフォンは日本で販売されている製品が中心で、日本だけが盛り上がっているのでは?」といった指摘もあったが、日本以外の国と地域は元々、マイクロソフトが販売する旧ノキアのLumiaシリーズが販売されているうえ、日本市場はマウスのMADOSMA Q501が発売されるまで、数年間、Windowsプラットフォームのスマートフォンが存在しなかったことを考慮すれば、別に「日本だけが~」という解釈にはならないだろう。
今回のMWC 2016に合わせ、新たに発表され、会場でも高い人気を得ていたのがHP Elite x3だ。5.96インチのWQHD対応ディスプレイを搭載したWindows 10 Mobileスマートフォンだが、Continuumを有線で接続するドック、ノートパソコンのようなドックもオプションで提供されるなど、これまでに登場したWindows 10 Mobile搭載スマートフォンの中でもスペック的にも内容的にも最強のモデルとなっている。国内ではauが法人向けで扱うことが発表され、au VoLTEやキャリアアグリゲーションに対応していることが明らかにされているが、SIMロックフリー端末として、国内向けに販売される可能性も十分あり、国内のWindows 10 Mobile搭載スマートフォンの起爆剤的な存在になるかもしれない。
また、昨年秋に国内向けにWindows 10 Mobile搭載スマートフォン「Jade Primo」の投入を明らかにしていたエイサーだが、MWC 2016のエイサーのブースでは同社のディスプレイやキーボード、マウスとWindows 10 Mobileスマートフォンをひとつにまとめたパッケージが展示されていた。Windows 10 Mobileと言えば、Continuum(コンティニュアム)が注目機能のひとつとして知られているが、パソコンのWindows環境と比較して、機能的にもパフォーマンス的にもまだ貧弱すぎるという指摘も見かける。しかし、こうしたディスプレイなどを含めたパッケージであれば、学生などの若年層がパソコンの代わりに購入したり、保護者が買い与えたりするケースも考えられそうだ。Continuumの環境が充実してくれば、今後はこうしたパッケージングで販売されるWindows 10 Mobile搭載スマートフォンが増えてくるかもしれない。
少し変わったところでは、パナソニックからはタフネス端末「TOUGHPAD」の新モデルとして、Windows 10 IoT Mobile Enterprise搭載の「FZ-F1」、ほぼ同じハードウェアでAndroid 5.1.1を搭載した「FZ-N1」が発表された。バーコードリーダー内蔵の業務向けモデルであるため、コンシューマー向けに販売されることはなさそうだが、アクティブペンでの操作なども含め、かなり完成度の高い端末として、仕上げられている。同社のTOUGHPADシリーズは工場や倉庫、建設現場など、屋内外の厳しい環境でも利用できることを想定したモデルとして、市場では定番的な存在となっているが、導入する企業がどちらのプラットフォームで業務アプリを利用している場合でも対応できるように、AndroidプラットフォームとWindowsプラットフォームのモデルをラインアップしているという。
スマートフォンのプラットフォームと言えば、AndroidとiOSが市場を二分し、第3のOSとして、TizenやFarefox OSが挑みながらも結果を出せずにいたが、Windows 10 MobileはパソコンのWindowsという強みを活かしつつ、MWCで見るモバイルの世界でも着実に存在感を増しつつあるという印象だ。国内市場でも新たにWindows 10 Mobile搭載スマートフォンが登場するという噂も聞こえてきており、今後の市場への影響が気になるところだ。
ところで、MWCと言えば、前述のように、会期に合わせ、サムスンやソニーモバイル、LG Electronicsといったメーカーがスマートフォンの最新モデルを発表するが、例年、スマートフォンを発表してきたファーウェイ(Huawei)は、今年のイベントでスマートフォンを発表せず、Windows 10を搭載した2in1タブレット「MateBook」を発表した。12インチのディスプレイにインテルの第6世代「Core m」を搭載し、本体カバーにもなるキーボードも備えるという、Microsoft Surfaceのライバルとも言えそうな製品なのだが、意外なことにLTEなどのモバイルデータ通信機能は搭載しておらず、Wi-Fi以外についてはスマートフォンのテザリングをワンタッチで利用できることを売りにしているという。ただ、デザインはなかなか美しい仕上がりで、各インターフェイスを備えたポートリプリケーターのようなものも周辺機器として用意されており、全体的に完成度の高い製品となっている。Androidタブレットの開発で培ってきた仕上げや技術を活かし、ファーウェイがパソコン市場へ本格的に参入するという印象だが、もしかすると、Windows 10搭載のタブレットを手がけておき、将来的にはWindows 10 Mobile搭載のスマートフォンにつなげていこうという目論見もあるのかもしれない。開発力の高いメーカーだけに、今回の発表内容は額面通りに受け取れないというのが正直な印象だ。
次なるキーは「VR」か、「5G」か
MWCはモバイル業界の最新技術に触れられるイベントだ。過去にもMWCのレポートで触れたことがあるが、今や当たり前となりつつある「キャリアアグリゲーション」もMWCの会場でデモを見て、その数年後に国内でも導入されることになった。
今年のMWC 2016では「VR」や「5G」などが新しい技術のキーワードとして注目された。VRについては前述の通り、サムスンがGear VRを利用した発表イベントを行い、参加者を驚かせてくれたが、その他にもVR製品を出品し、来場者向けに体験イベントを行っていた。たとえば、LG Electronicsはモジュール交換機能を実現したスマートフォンの「LG G5」の発表イベントで、LG G5と接続できるVRヘッドマウントディスプレイ「LG 360 VR」を発表していた。Gear VRに比べ、サイズはひと回り小さく、少し大きめのメガネのような形状にまとめられている。
HTCも国内向けに販売を予定しているVRヘッドマウントディスプレイ「HTC Vive」のデモコーナーを用意し、来場者は体験することができた。HTC ViveはサムスンやLG Electronicsの製品と違い、パソコンと接続して利用するもので、位置トラッキングシステムを組み合わせることで、5メートル四方程度の大きさのエリアでコントローラーを持ちながらゲームを体験できるようにしていた。さすがに、ここまで来ると、モバイルの範疇とは言えないものだが、しくみとしては同じように動いているものなので、スマートフォンにおけるVRも突き詰めていくと、HTC Viveのような世界に足を踏み入れることになるのかもしれない。モバイル業界とゲーム業界としては、VRを新しいトレンドとして、期待しているようだが、日本は手軽に楽しめるスマートフォン向けのゲームが人気であるという現状を鑑みると、もう少し違ったアプローチが必要になるのかもしれない。
通信技術では「5G」へ向けた各社の取り組みが展示され、NTTドコモのブースなどでも実験デモが来場者の注目を集めていた。ただ、5Gは標準化も含め、まだ開発段階のものであり、一般ユーザーにとってはもう少し先の世界という印象だ。これに対し、今後、少し影響が出てくるかもしれないのが以前から話題になっているライセンスが不要な5GHz帯を利用したLTEによる通信だ。「LTE Unlicensed(LTE-U)」「Licensed Assisted Access for LTE(LAA)」などと呼ばれる技術で、Wi-Fiで利用されている5GHz帯でLTEの通信を行い、既存の各携帯電話事業者のLTEによる通信とキャリアアグリゲーションをすることで、さらなる高速化や効率の良い通信を実現しようというものだ。この技術を積極的に推進しているクアルコムのブースでは、すでにLTE-UやLAAに対応した小型基地局なども展示されていた。国内ではここ数年の訪日旅行者の増加や2020年の東京オリンピックを控え、公衆無線LANサービスの強化が謳われているが、実際に2020年を迎えたときはLTE-UやLAA対応ネットワークが求められる状況になっているかもしれない。
通信の技術というわけではないが、少し変わったところでは京セラがソーラー充電が可能なスマートフォンのプロトタイプのデモを行っていた。これは太陽光で充電するソーラーパネルと違い、ディスプレイにほぼ透明のパネルを貼り付けることで、充電できるというユニークなものだ。技術についてはフランスのSunpartner Technologiesが開発したもので、光の透過率によって、充電効率が異なるという。Sunpartner Technologiesのブースには透明の充電パネルを貼り付けたバッグやタブレットケースなども参考出品で展示されており、ディスプレイに貼り付けるだけでなく、さまざまな製品展開が期待できそうだ。ちなみに、このSunpartner TechnologiesはNTTドコモ・ベンチャーズの出資も受けており、今後、日本向けのビジネスも展開していく予定だという。
2016年のモバイルのゆくえ
モバイル業界において、最大のイベントであるMobile World Congress。昨年まではスマートフォンの完成度が高められてきたことによる手詰まり感も少なからずあったが、その点、今年は各社のVRをはじめ、Xperiaの名を冠した新しいデバイス、Windows 10 Mobile搭載スマートフォンなど、将来へ向けた新しい話題が少しずつ見えてきた印象だ。Galaxy S7/S7 edgeをはじめ、スマートフォンそのものにも期待できる製品が多いが、スマートフォンを「盛り上げるための製品」「活かすための製品」が一段と増え、今まで以上に楽しめる環境、便利に使える環境が整備されることになりそうだ。
今回のMWC 2016では主催者のGSMAが「Mobile is Everything」というキャッチコピーを掲げていた。筆者をはじめ、モバイル業界を取材してきた人間にしてみれば、もう何年も前から「すべての道はモバイルに通じる」という方向性で進んできた気がするのだが、より幅広い世界にモバイルを活かすことができる時代へ進もうとしているのかもしれない。今回のMWC 2016でお披露目された技術や新製品は、今年の春以降、順次、国内にも登場することになりそうだが、今後の各社の動向や取り組みに注目していきたい。