法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」
「AQUOS R9」、一新したデザインで狙うもうひとつのフラッグシップ
2024年9月25日 00:00
シャープからスマートフォンAQUOSの新しいフラッグシップモデル「AQUOS R9」が発売された。今年5月に「AQUOS wish4」と共に発表され、これまでの「AQUOS R」シリーズと違ったデザインが話題になっていたが、7月12日にNTTドコモとソフトバンクから発売され、同時にオープン市場向けのSIMフリー版も発売された。筆者も実機を試すことができたので、レポートをお送りしよう。
『準フラッグシップ』という存在
スマートフォンには性能や機能の違いにより、さまざまなラインアップが展開されているが、もっともハイスペックな位置付けになるのが「ハイエンドモデル」「フラッグシップモデル」と呼ばれる機種だ。
かつては『ハイスペックなモデルの方が性能の優位性が続き、長く使える』という判断から、多くのユーザーに選ばれてきたが、スマートフォンを構成するハードウェアやソフトウェアの完成度が高められ、ミッドレンジやエントリー向けのモデルの内容が充実してきたことで、「ハイエンドモデル」「フラッグシップモデル」は位置付けが難しい存在になりつつある。
チップセットやディスプレイ、カメラといったスマートフォンを構成するパーツを高性能化すれば、自ずとコストは高くなり、その影響は販売価格に跳ね返ってくる。各携帯電話会社もかつてのように、販売奨励金を注ぎ込むことができないため、なかなかユーザーが手を出しにくい価格帯になってしまい、思うように販売数も伸びない状況にある。
なかには携帯電話会社のオンラインショップで、型落ちのフラッグシップモデルが数十%割引で販売されるようなことも起きている。
そんな状況を踏まえ、最近はハイスペックを追求したモデルではなく、それに次ぐスペックを実現しながら、少し価格を抑えた『準フラッグシップ』のような位置付けのモデルが各社から相次いで、登場している。
たとえば、シャープの「AQUOS R8」、サムスンの「Galaxy S23 FE」などが代表格と言えるが、もう少し範囲を拡げ、シャオミの「Xiaomi 13T」やGoogleの「Pixel 8a」なども『準フラッグシップ』に含めてもいい存在かもしれない。
シャープの「AQUOS R」シリーズは、2017年に初代モデルが登場したシャープ製スマートフォンのフラッグシップモデルのシリーズだ。それまで各携帯電話会社向けにバラバラだったデザインやネーミングを統一し、さまざまな新機能を搭載することで、「AQUOS R」のブランドイメージを作り上げてきた。
なかでも2021年に発売された「AQUOS R6」と製造を担当した「Leitz Phone 1」は、スマートフォンとして初の1インチ(1.0型)イメージセンサーを採用したカメラを搭載し、ドイツの老舗光学機器メーカー「Leica」との協業により、各社のスマートフォンでカメラの性能競争が激しい中、新しいトピックとして、世界中から注目を集めた。
翌2022年には後継モデルの「AQUOS R7」がリリースされたが、2023年は1インチセンサーカメラを搭載した後継モデル「AQUOS R8 pro」とは別に、NTTドコモ向けにカメラのスペックなどをやや抑えた「AQUOS R8」を供給し、『もうひとつのフラッグシップ』を提案した。
「AQUOS R8」はカメラなどが最上位のスペックではないものの、価格と性能のバランスが取れたハイスペックモデルという評価で、その後、オープン市場向けに加え、楽天モバイルでも販売された。
今回、NTTドコモ、ソフトバンクに加え、シャープからもSIMフリー版が発売された「AQUOS R9」は、昨年の「AQUOS R8」の流れをくむ『準フラグシップ』に位置付けられるモデルだ。
「AQUOS R8 pro」のような1インチイメージセンサー採用のカメラを搭載せず、チップセットも2024年モデルの最高峰であるSnapdragon 8 Gen3ではないなど、スペック的にはやや抑えられているが、非常にバランスが取れたハイスペックモデルに仕上げられている。
これまでの「AQUOS R」シリーズから一新されたデザインは、各方面でいろいろな議論を呼んだが、そういった面も含め、シャープとしての新しいチャレンジを具現化したモデルと言えそうだ。
価格は昨年の「AQUOS R8」に近い11~12万円程度に抑えられて、端末購入サポートを利用した場合、2年後の端末返却を条件に、月々2600円前後で購入できる。オープン市場向けのSIMフリー版はもう少しリーズナブルで、10万円を切る価格で販売されている。
一新された背面のデザインをどう見るか
まず、外観からチェックしてみよう。今回の「AQUOS R9」がこれまでの「AQUOS R」シリーズと比べ、もっとも大きく異なるのは、やはり、ボディのデザインだろう。
すでに発表時や製品説明会時のレポートが本誌に掲載されているが、今回は外部のデザイナーとして、「miyake design」の三宅一成氏を起用し、これまでの「AQUOS R」シリーズとはまったく異なるデザインに仕上げられている。
昨年の「AQUOS R8」や「AQUOS R8 Pro」をはじめ、これまでの「AQUOS R」シリーズは、どちらかと言えば、無機質でメカっぽさを前面に押し出したデザインが採用されてきたのに対し、今回はカメラ部を丸でも角でもない『自由曲線』と呼ばれる形状にまとめ、複数のカメラも敢えてバランスを崩した斜めに配置するなど、これまでのスマートフォンにはないテイストのデザインとなっている。
背面パネルも「AQUOS R8」や「AQUOS R8 Pro」をはじめ、「AQUOS sense」シリーズなどがメタル感を活かしたマットな仕上げを採用してきたのに対し、「AQUOS R9」は背面にCorning Gorilla Glass Victus2を採用したガラス光沢仕上げを採用している。
この新しいデザインをどう受け取るかが「AQUOS R9」の評価を大きく左右するが、個性的なデザインの端末であり、ユニークな印象を持つ製品に仕上げられていることは間違いないと言えるだろう。
周囲の人々に「AQUOS R9」を見せると、女性を中心に「かわいい」という評価もあり、今までの「AQUOS R」シリーズとはまったく違った反応が得られた。
ただ、これまで「AQUOS R」シリーズをはじめ、シャープ製端末や国内外のフラッグシップモデルを使ってきたユーザーからは、「え? 今度のAQUOSって、こんな感じになっちゃったの?」という違和感を持つ感想がいくつも聞かれた。つまり、端末デザインとしてはまとまっているものの、これまでの「AQUOS R」シリーズとは大きくイメージがかけ離れ、『シャープのフラッグシップモデルらしくない』と受け取るユーザーも少なくない。かく言う筆者自身もその一人だ。
国内で販売される数多くのスマートフォンには、それぞれの製品、それぞれのメーカーごとに、一定のイメージというか、『○○らしさ』的なものがあるが、今回の「AQUOS R9」はいい意味でもあまり良くない意味でもそういったイメージから外れている印象を持たれたわけだ。
今回の「AQUOS R9」のデザインを良しとするか否かは、ユーザー次第だが、個人的には「AQUOS Rらしからぬデザイン」に違和感があり、改めて「AQUOS Rって、何なの?」と問いかけたくなった。細かい部分で言えば、背面がガラスによる光沢仕上げであることも気になる点だ。
昨今、各メーカーは上位モデルを中心にガラスに微細な加工を施したり、マット仕上げのガラス、ヴィーガンレザーなどを採用し、指紋や手の跡が付きにくくしているが、こうしたトレンドからも外れているという印象だ。
耐環境性能は「AQUOS R8」に引き続き、IPX5/IPX8防水、IP6X防塵に対応し、MIL-STD-810G準拠の耐衝撃(落下)、MIL-STD-810H準拠の全16項目にも対応する。
MIL-STD-810Hは防水や耐振動などのほか、高低温環境や高低圧環境での動作、氷結での動作なども考慮されており、かなり幅広い環境で利用できることを示す。
バッテリーは従来モデルよりも10%近く多い5000mAhを内蔵する。充電はUSB PD3.0/PPSに対応し、本体下部のUSB Type-C外部接続端子から充電する。
充電は27W ACアダプターを使った場合、約130分でフル充電が可能で、最大充電量を90%までに設定して、それ以降はダイレクト給電に切り替え、内蔵バッテリーへの負荷を抑えられる「インテリジェントチャージ」にも対応する。ワイヤレス充電には対応していない。
生体認証は電源ボタン内蔵の指紋センサーによる指紋認証、インカメラを利用した顔認証に対応する。最近の「AQUOS R」シリーズでは「AQUOS R8 pro」がディスプレイ内に超音波式指紋センサーを搭載するなど、ディスプレイ内蔵型の採用例が多かったが、今回の「AQUOS R9」は同時発表の「AQUOS wish4」や昨年発表のベストセラー機「AQUOS sense8」などと同様の電源ボタン内蔵型を採用する。
本体背面にカバーを装着するときは、電源ボタンの部分の形状に注意が必要だが、今回はシャープから「AQUOS R9」用の純正カバーも販売されているので、そちらを選ぶのも手だ。
サードバーティ製のカバーを選ぶときは、電源ボタン部分が薄く仕上げられたものをおすすめしたい。顔認証についてはマスク装着時の認証にも対応する。
コロナ禍が明けたことで、「顔認証のマスク装着対応は不要?」と考える向きもあるかもしれないが、医療機関や介護施設、人が多く集まる場所など、マスクの装着が推奨されるところも多いので、こうした場所で活動することが多いユーザーにとって、有用な機能と言えそうだ。
フルHD+対応Pro IGZO OLEDディスプレイを搭載
ディスプレイは2340×1080ドット表示が可能なフルHD+対応の6.5インチPro IGZO OLED(有機EL)を搭載し、前面はCorning Gorilla Glass5で保護される。従来の「AQUOS R8」と比較して、解像度は同等で、対角サイズがわずかに大きくなっている。
「AQUOS R8 pro」に搭載されたWUXGA+対応の6.6インチPro IGZO OLEDに比べれば、ややスペックが抑えられているが、リフレッシュレートは1~240Hzで、[設定]アプリ内の[AQUOSトリック]-[なめらかハイスピード]で、アプリごとに動作を設定できる。輝度は全白輝度で1500nit、ピーク輝度で2000nitと十分な高性能を持つ。
チップセットは米Qualcomm製Snapdragon 7+ Gen3を採用する。「Galaxy S24」シリーズや「Xperia 1 VI」など、2024年のフラッグシップモデルには、Snapdragon 8 Gen3が搭載されており、チップセットのラインアップで言えば、Snapdragon 7+ Gen3はひとつ下のクラスに位置付けられるが、これも2024年モデル向けのチップセットであり、性能的には2023年モデル向けのSnapdragon 8 Gen2と同程度とされている。
用途にもよるが、今回試用した限りではストレスなく使えており、普段、筆者が使っている「AQUOS R8 pro」や「Galaxy Z Fold6」などと比べても一般的な用途であれば、まったく遜色なく使える印象を持った。
このあたりが「ハイスペックモデル」「フラッグシップモデル」を考えるうえで難しいところで、スマートフォンの心臓部とも言えるチップセットはある程度、性能が高められた状況にあり、必ずしもその年の最上位のチップセットでなければ、快適に使えないわけでもない。
そういった意味合いも込めて、『準フラッグシップ』という表現をしているのだが、こうした解釈が一般のユーザーにどう受け取られるかは未知数だ。
メモリーとストレージについては、RAM 12GB、ROM 256GBを搭載し、最大1TBのmicroSDXCメモリーカードに対応する。昨年の「AQUOS R8」と比べると、RAMが8GBから12GBに増量しているが、これは他機種のレビューでも触れたように、生成AIの利用ではより多くのメモリーを必要とするため、RAMは増量する傾向にあり、「AQUOS R9」もこれに従った形だろう。
ストレージについては最近のスマートフォンでは少数派になりつつある外部メモリー対応がひとつのアドバンテージだ。撮影した写真は基本的にクラウドに保存されるが、動画などはファイル容量が大きいため、外部メモリーに保存しておくといった使い方もできる。
ネットワークは国内の5G/4Gに対応するほか、海外は5G NR/4G LTE(TDDE/FDD)/3G W-CDMA/2G GSMに対応する。5GはSub6のみの対応で、ミリ波には対応しない。5GはNTTドコモが提供する「5G SA」にも対応する。
SIMカードはnanoSIMカードとeSIMのデュアルSIM対応で、副回線サービスや他社回線を組み合わせての利用も可能だ。FeliCa搭載により、おサイフケータイもサポートされる。
Wi-FiはIEEE 802.11a/b/g/n/ac(Wi-Fi 5)/ax(Wi-Fi 6)/be(Wi-Fi 7)に準拠し、2.4GHz/5GHz/6GHz対応の無線LAN製品に接続できる。Bluetooth 5.4をサポートし、オーディオのコーデックはaptX/aptX HD/SBC/AAC/LDACに対応し、ワイヤレスでのハイレゾオーディオを楽しむことができる。
衛星を利用した位置情報の測位機能はデュアルバンド対応で、米GPS、露GLONASS、中国BeiDou、欧州Galileo、日本QZSS(みちびき)に対応する。
最大3回のOSバージョンアップ、最大5年間のセキュリティアップデート対応
プラットフォームはAndroid 14を採用する。ホームアプリは標準の「AQUOS Home」をはじめ、ビギナー向けの「AQUOSかんたんホーム」、ジュニア向けの「AQUOSジュニアホーム」が用意される。今回試用したモデルはソフトバンク版だが、NTTドコモ版は「docomo LIVE UX」がデフォルトに設定されている。
「AQUOS Home」については、Androidプラットフォーム標準に近い環境で、ホーム画面を上方向にスワイプするとアプリ一覧が表示されるが、アプリ一覧画面でフォルダーを作成できるため、アプリを用途ごとやジャンルごとにフォルダーにまとめることができる。
アプリ一覧画面のフォルダーによる管理は、意外にサポートする機種(ホームアプリ)が少なく、シャープ製端末の隠れたアドバンテージとなっている。
日本語入力システムはAndroidプラットフォーム標準の「Gboard」を搭載する。従来の「AQUOS R8」はシャープ独自の「S-Shoin」がダウンロードできたが、「AQUOS R9」ではそれも提供されておらず、Playストアでも配信されていない。
日本語入力システムの変更は、パスワード管理やAIによる音声認識などにも関係するものだが、これまでシャープ製端末を愛用してきたユーザーにとっては、残念な仕様変更と言えそうだ。
プラットフォームのサポートについては、最大3回のOSバージョンアップ、最大5年間のセキュリティアップデートに対応することがアナウンスされている。他製品では「Pixel」シリーズや「Galaxy」シリーズが7年間のアップデートを謳っており、長く使えることはうれしいが、長期間の利用によるパフォーマンス低下など、実用面を考えると、長くても5年程度がバランスのいいところではないだろうか。
各社が闇雲にサポート期間の長さばかりを競うのではなく、メーカーからの情報発信をはじめ、アップデートによって、しっかりとユーザーをサポートする体制を競ってほしいところだ。
シャープ製端末の特徴的な機能を集めた「AQUOSトリック」は、「AQUOS R9」にも用意されている。ロック解除時に指紋センサーに指を当てたままで、[PayPay]や[d払い]など、特定のアプリを起動できる「Payトリガー」、特定の場所に着いたときや離れたときにテザリングをON/OFFできる「テザリングオート」など、おなじみの機能も搭載されているが、今回の「AQUOS R9」では新たに「迷惑電話の対策」という項目が追加されている。
ここ数年、詐欺電話やセールスの電話など、迷惑電話が社会問題として注目されているが、「AQUOS R9」の[迷惑電話対策]はこうしたトラブルを未然に防ぐための機能になる。
たとえば、[電話に出る前確認]は連絡先に登録されていない相手から着信を受けたとき、自動音声で応答して、相手の声を録音できる。自動音声も「お名前確認」「迷惑電話確認」「特殊詐欺対策」の3種類が用意される。
連絡先にない相手からの着信に注意を表示したり、「この電話はお受けすることができません」とガイダンスを流す「ご注意表示」、通話中に特殊詐欺などが疑われる不審な会話に音とバイブで知らせる「不審な会話のお知らせ」などが利用できる。
シャープの説明会でも話題となった「代わりに聞いときます」は、着信時に伝言アシスタントが代理で応答するもので、面倒な着信に応答せず、相手が残した伝言内容を元に、折り返し電話をかけるかどうかを決めることができる。
ただ、画面ロック時には[代わりに聞いときます]ボタンが表示されるものの、画面ロック解除時にはポップアップ表示される着信通知の[応答][拒否]以外の部分をタップして、全画面表示に切り替えないと、[代わりに聞いときます]ボタンが表示されず、使いはじめたときは「[代わりに聞いときます]ボタンはどこに表示されるの?」と戸惑ってしまう。
同様の機能を実現するGoogleの「Pixel」シリーズの通話スクリーニングは、着信通知のポップアップ表示にも[スクリーニング]ボタンが表示されるので、「代わりに聞いときます」でも同様の表示ができるようにして欲しいところだ。また、「AQUOSトリック」の「迷惑電話の対策」で、「電話に出る前確認」が有効に設定されていると、こちらの設定が優先されるため、[代わりに聞いときます]ボタンが表示されない。
取扱説明書や各携帯電話会社のオンラインヘルプを見れば、動作は理解できるが、せっかくの便利な機能なので、もう少し見せ方を工夫して、初心者にもわかりやすい画面構成を検討して欲しいところだ。
Leica監修カメラを搭載
冒頭でも触れたように、「AQUOS R」シリーズは2021年の「AQUOS R6」で、スマートフォンとして初めて1インチ(1.0型)イメージセンサーを採用したLeica監修カメラを搭載し、注目を集めた。
その後、2022年の「AQUOS R7」、2023年の「AQUOS R8 pro」と進化を遂げたが、昨年、「AQUOS R8 pro」とは別に開発された「AQUOS R8」にはは同じくLeica監修ながら、1/1.55インチのイメージセンサーを採用したカメラが搭載されていた。
今回の「AQUOS R9」も同様で、1インチイメージセンサーではなく、1/1.55インチの5030万画素イメージセンサー/F1.9の標準カメラ(焦点距離23mm相当)、5030万画素イメージセンサー/F2,2の広角カメラ(焦点距離13mm相当)のデュアルカメラが搭載される。
標準カメラはLeica HEKTORレンズとされ、光学手ぶれ補正と電子手ぶれ補正のハイブリッド補正を採用し、広角カメラは電子手ぶれ補正のみに対応する。インカメラも5030万画素イメージセンサー/F2.2(焦点距離23mm相当)で、電子手ぶれ補正に対応する。
前後の3つのカメラがいずれも5030万画素イメージセンサーという贅沢な仕様で、像面位相差オートフォーカスに対応する。なかでもインカメラのオートフォーカス対応は、ライバル機種でもそれほど多くなく、自撮りを重視したユーザーには魅力的なポイントだ。
撮影モードは「写真」「ポートレート」「ビデオ」といった標準的なもののほかに、凝った動画を撮影できる「PROビデオ」、夜景に適した「ナイト」、細かく設定が可能な「マニュアル写真」が用意される。
「その他」には「ハイレゾ」「タイムラプス」「スロービデオ」「HDRビデオ」も登録されている。少し面白いところでは、料理を撮影するとき、料理の重なった影を消す「料理の影を消す」機能も用意される。
今回は人物写真を中心に撮影したが、AIで動きを予測する被写体追尾に対応するほか、夜間の撮影にも強い「ナイトビデオ」、映画のように背景をぼかした動画を撮る「シネマティックビデオ」など、動画撮影の機能が強化されている。
撮影した写真や動画は、Googleフォトの[フォト]アプリで閲覧でき、Androidスマートフォン向けに開放された「消しゴムマジック」など、多彩な編集機能が利用できる。
一新したデザインで狙う新しい『準フラッグシップ』
スマートフォンが登場して、すでに十数年。かつてはいくつかのバリエーションがあったスマートフォンのデザインもフォルダブルなどの一部のモデルを除き、スレート状(板状)のデザインにほぼ集約され、製品としての個性が発揮しにくくなっている。
ユーザーが手を出しやすいミッドレンジ以下のモデルであれば、それほど気にならないかもしれないが、10万円前後以上の価格で販売される「ハイエンドモデル」「フラッグシップモデル」呼ばれるクラスの製品には、それなりの個性が欲しいところだ。
その一方で、スマートフォンを構成するデバイスやパーツの価格は高騰し、端末価格そのものにも跳ね返ってくる状況にある。以前のように、最新の「ハイエンドモデル」「フラッグシップモデル」を毎年のように買い換えられなくなってきているのも事実だ。
今回、NTTドコモ、ソフトバンク、シャープから発売された「AQUOS R9」は、そんな市場環境を踏まえ、10万円前後という価格帯に抑えながら、「ハイエンドモデル」「フラッグシップモデル」に迫る性能を実現した『準フラッグシップ』に位置付けられるモデルだ。
端末そのもののデザインもこれまでの「AQUOS R」シリーズから一新し、まったく違ったテイストのスマートフォンに仕上げられている。なかでもカメラを中心とした背面の個性的なデザインは、ライバル機種との差別化という意味でも非常にユニークな取り組みと言えるだろう。
ただし、本稿でも触れたように、既存の「AQUOS R」シリーズのユーザーから見れば、あまりにも唐突なイメージ一新であるうえ、エントリーモデルの「AQUOS wish4」と基本的なデザインコンセプトが共通化されていることもあり、今ひとつポジティブに受け取れない面もある。
かく言う筆者もその一人だが、たとえば、これが「AQUOS Q」や「AQUOS N」といった異なるネーミングの別シリーズとして企画されていれば、ユニークなカメラ部のデザインや個性によって、もう少し違った受け取り方ができたかもしれない。
「AQUOS R」シリーズとして積み上げてきたものをやや軽視してしまった感が否めないが、その感想は発表当初から存在の有無が注目を集めている「AQUOS R9」のPROモデルが本当に登場すれば、また評価が変わってくるかもしれない。
いずれにせよ、過去のモデルとの関わりを考えなければ、「AQUOS R9」の完成度は非常に高く、10万円前後で購入できる端末としては、十分すぎる性能と機能、デザイン、個性、ユーザビリティを実現しており、魅力的かつ実用性の高い端末に仕上がっている。
デザインを一新し、新しい個性を楽しむことができる『準フラッグシップ』モデルとして、「AQUOS R9」をぜひ一度、手に取って、試していただきたい。