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ICT教育で大きく変わる小学校の授業に衝撃を受けた
2025年7月29日 00:00
先日、世田谷区立駒繋小学校のICT教育について取材をさせていただきました。駒繋小学校は、2023年から2026年の「Apple Distinguished School」に認定されるなど、積極的にテクノロジーを活用した教育を行っている学校。
iPadを「学びの相棒」として、授業の改善に取り組み、勉強ができる、できないではなく、勉強自体が楽しいと思えるようなモチベーションの向上に注力しています。
2020年ごろから始まり、コロナ禍の影響もあって急速に広がったGIGAスクール構想ですが、現在は「第2期」と呼ばれるフェーズに入っています。GIGAスクール構想では、1人1台端末と、高速大容量の通信ネットワークを一体的に設備することで、子供たちを1人も取り残すことなく、資質、能力を育成するための構想。
自治体によって導入デバイスは様々ですが、世田谷区では、全小学校にiPad(第7世代)が導入されており、今年9月には、iPad(A16)へとアップデートされる予定とのことです。
筆者が小学生だった頃は、学校で触るデバイスといえば、年に数回、PC室で授業を行う程度のもの。もちろん、当時から教育現場が発展しているのは重々承知しているつもりでしたが、想像以上にiPadが授業に溶け込んでいる風景に衝撃を受けました。
今回見学した国語の授業では、そもそも児童の机にノートが開かれておらず、代わりにiPadとキーボードが置かれています。これまでの授業で使った資料やメモは全てiPadに残っているようで、授業のはじめに児童がそれぞれでそれらをチェックし、当日行われるプログラムに取り組んでいました。
授業内容は、教科書にある物語文から登場人物の心情などを読み取る試みをするのが大きなテーマ。国語の授業としてはよくある内容ですが、ユニークだったのが、児童が3、4人程度の班に分かれ、どのような物語なのかについて話し合った後、iPadで登場人物の心情を反映させた動画をiPadで撮影するというものでした。
1人1人が机に向かい、教科書と睨めっこする一斉授業では、理解が早い人は授業内容をつまらなく感じ、逆に難しく感じる人は、すぐに諦めてしまうのが、1つの課題です。
特に多様な児童が通う公立小学校においては、極めて重要な課題なわけですが、児童全員が班ごとにiPadを使ってコンテンツを作成することで、積極性が非常に強く出ているのが印象的でした。
駒繋小学校では、現在の6年生が1年生の頃からiPadが導入されているため、低学年の時から動画の撮影などに慣れることで、積極性が育まれているとのことです。
今回の授業ではありませんでしたが、個人で取り組む課題でも、iPadを通して先生に提出することで、誰が出していて、誰が出していないのかが一目でわかるため、サボりにくい環境になっているとのこと。
進度の遅い児童も、他の児童が提出した内容を確認できるため、パクるとは言わないまでも、参考にして課題に取り組めるようになっているようです。
もう1つ見学した音楽の授業では、こちらも班ごとに分かれ、「元気な」、「落ち着いた」といった心情に合わせた、短いメロディを、アプリを使って作成していました。
小学校の授業で、アプリでメロディを作成するというだけでも衝撃なのですが、子供ならではの創造力や柔軟性からなのか、なかなか完成度の高い音楽になっているのも驚きです。
小学生のうちから、デジタルデバイスに深く触れ合うことで、児童1人1人に合わせた進度で取り組みやすく、将来的に使うことが想定されるスマートフォンやタブレットの操作にも慣れ親しめるという利点に加え、創造力を表現する方法が広がっているのが、GIGAスクール構想の面白いところ。
音楽の授業で言えば、メロディを作成する楽しさに、楽器を習っていない児童でも触れることができるため、児童の才能や興味が伸びていく可能性があります。
気になるのは、iPadといったデバイスがどんどん多機能化していくことで、アプリを使いこなすべき教員の負担が大きくなるのではないかという点ですが、駒繋小学校では、新任の教員は、1学期中にApple Teacherの取得ができるように勉強を進めているとのこと。
加えて、新任教員がいる学年には、駒繋小学校に赴任して2年、3年と経つ先生を配置することで、学年としてサポートが行える体制になっています。
人材育成だけでなく、GIGAスクール構想にはまだまだ課題があります。自治体によって予算が異なるため、全国規模で見た際には、環境が決してフラットとは言えない点や、デバイスが各学校、生徒の手に渡っても、それをどれだけ活用するのかは、学校の方針によるところ、そもそも、iPadOSにのみ触れるのではなく、macOSやChrome OS、Windows OSといった別のOSやアプリに触れる機会が必要なのかもしれません。
また、駒繋小学校のように、授業に積極的にiPadを使い、クリエイティブな作業を重視する場合は、教育委員会が定める、標準カリキュラムとのバランスを取るのが難しいとのこと。
学校単位、自治体単位ではなく、もっと大規模に、カリキュラムの抜本的な見直しが必要なタイミングなのかもしれません。
課題があるのは事実でしょうが、公立学校においても、教育内容が大きく変容しているのは間違いありません。特に児童の積極性や、クリエイティビティに比重をおいた授業には、感心するとともに、今の小学生がうらやましとさえ思うほどでした。
ICT教育を受けた児童たちが、どのような大人になっていくのかが楽しみですし、デバイスの発展、多機能化によって、学校がよりユニークな場に変わっていく可能性を強く感じています。





