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ダイソーのUSB 3.0/USB PD 100W対応USB Type-Cケーブルを試してみた

 スマホ充電用のUSB Type-Cケーブルが100円ショップで買える、というのはもはや珍しいことではありません。

 ただ、そのほとんどは充電専用、もしくはデータ通信対応でもUSB 2.0準拠まで、というものばかりでした。

 そういった中、ダイソーからUSB 3.0対応で最大5Gbpsのデータ通信が行え、最大100Wの充電にも対応するUSB Type-Cケーブルが登場したので、さっそく買って試してみることにしました。

ダイソーが販売している、USB 3.0/USB PD 100W対応のUSB Type-Cケーブル「USB Type-C 充電・転送ケーブル」。販売価格は330円

 製品名は「USB Type-C 充電・転送ケーブル」で、販売価格は330円です。ケーブル長は1m、コネクタは両端ともUSB Type-Cとなっています。

 この製品の最大の特徴となるのが、USB 3.0準拠で最大5Gbpsでのデータ通信が可能であることと、最大100W(最大20V/5A)での充電が可能、という点です。パッケージには、そのことがしっかりと書かれています。

 そして、eMarkerも内蔵しています。eMarkerとはケーブル内に搭載されるICチップのことで、その中には送電できる電力やUSBの仕様が書き込まれています。接続機器はeMarkerの情報を読み取ることで、正しい電力供給やデータ通信が行え、安全に利用できるというわけです。

パッケージの表には、USB 3.0準拠で最大5Gbpsでのデータ通信、最大100Wでの充電が可能、eMarkerを内蔵していることを明記している

 ちなみにダイソーは、eMarke内蔵、最大100W(最大20V/5A)での充電に対応するUSB 2.0準拠のUSB Type-Cケーブルを昨年より発売しています。

 そちらも販売価格330円で継続販売していますが、今回の製品は事実上、そのアップグレード版と考えて良さそうです。

裏面の仕様表には、両端がUSB Type-Cのケーブルで、ケーブル長が1m、最大5Gbpsのデータ通信に対応、最大20V/5A、100Wの電力供給に対応していることを明記している
こちらはすでに発売中の、eMarke内蔵、最大100W(最大20V/5A)充電に対応するUSB 2.0準拠USB Type-Cケーブル。今回のUSB 3.0対応ケーブルはこのアップグレード版と考えて良さそう

 実際の製品を手にすると、ケーブルがやや太く、少々堅いという印象です。USB 2.0対応のものはケーブルが比較的細くしなやかだったので、そちらと比べると取り回しはちょっと悪い印象です。

 コネクタの形状もやや異なっています。コネクタ自体はUSB 2.0対応のものよりも奥行きが短くなっていますが、ケーブル保護部分がかなり大きくなっていて、その部分も結構な固さです。これも、ケーブルの取り回しを悪くしている要因ですが、コネクタ付近でのケーブルの折れ防止機能としては向上しています。

実際のケーブル本体。ケーブルがやや太く堅い印象
上がUSB 3.0対応、下がUSB 2.0対応のケーブル。USB 3.0のほうがケーブルが堅いので、USB 2.0のケーブルに比べて取り回しが悪い印象だ
コネクタ部分。上がUSB 3.0対応、下がUSB 2.0対応。USB 3.0対応のほうがコネクタ自体の奥行きが短いが、ケーブル保護部分が大きくなっているので、コネクタ部分でのケーブル折れは発生しづらそうだ

 では、実際の仕様はどうなのか、チェックしていきましょう。

 まずはじめに、USB CABLE CHECKER 2を利用して、ケーブルの素性をチェックしてみました。

 すると、USB 2.0の項目ランプは全て点灯しましたが、USB 3.2の項目ランプのうち、CCと、TX1±/RX1±(コネクタを反転させるとTX2±/RX2±)だけが点灯します。

 RX1/TX1とRX2/TX2は、データ通信に利用する信号線で、全部で8本ありますが、このケーブルではそのうちの4本しか結線されていないことを意味します。

 両端がUSB Type-CコネクタでUSB 3.x準拠のケーブルは、全ての信号線を結線したフルスペックケーブルが必須条件ですので、厳密にはこのケーブルはUSB 3.0準拠とは言えないことになります。ちょっと雲行きが怪しくなってきました。

USB CABLE CHECKER 2でケーブルの素性をチェックしてみると、USB 3.2の項目ランプは、CCとTX1±/RX1±しか点灯しなかった。データ通信用の信号線が4本しか結線されておらず、フルスペックケーブルではないことを示している。eMarkerの搭載は確認できた

 ちなみに、eMarkeを内蔵していることはUSB CABLE CHECKER 2で確認できました。そこで次は、eMarkerの内容をチェックしてみることにしました。

 すると、対応電力は50V/5A、USBの仕様はUSB 3.2 Gen2と、いずれもスペック表記を上回る内容となっていました。

 特に大きな問題が対応電力で、スペックの100W(20V/5A)を大きく超えています。

 50V/5Aということは、USB PDでも供給電力を最大240Wに高めた「USB PD EPR(Extended Power Range)」対応、ということになってしまいます。

 筆者は、USB PD EPR対応のACアダプタや受電側の機器を持っていないので、実際に100W以上の電力が供給できてしまうことを確認できませんでしたが、eMarkerにそう書かれている以上、機材が揃えば100W以上の電力が流れてしまうでしょう。

 ケーブルが240Wの電力を流しても問題のない品質であれば大丈夫かもしれません。ただ、パッケージに最大100W(20V/5A)と書いてある以上、100W以上の電力が流れることは想定外でしょうし、その可能性があるという点は非常に危険です。

 利用時の異常な発熱や、最悪の場合発火してしまう危険性も十分に考えられます。

 本来eMarkerは、ケーブルや機器を安全に利用するためのものですが、スペックを逸脱した情報が書き込まれていると、安全性は担保できないことになります。本製品はまさにそういうものと言えます。

eMarkerの内容をチェックしてみたところ、最大電力は50V/5A、USBの仕様はUSB 3.2 Gen2と、パッケージ表記のスペックとは異なる情報が書き込まれていた

 また、USBの仕様についても、USB 3.0相当のUSB 3.2 Gen1ではなく、上位のUSB 3.2 Gen2となっていました。

 これもスペックとは異なっています。というわけで、こちらもチェックしてみました。ちなみに、USB 3.2 Gen2準拠なら、データ通信速度は最大10Gbpsになります。

 速度チェックには、USB 3.2 Gen2x2対応、データ通信速度最大2000MB/sのポータブルSSD「サンディスク Extreme Pro ポータブルSSD 2TB」を利用しました。

 まずはじめに、SSDに付属するUSB Type-Cケーブルを利用してPCのUSB 3.2 Gen2x2対応USB Type-Cポートに接続し速度をチェックしてみると、シーケンシャルリードが約1964MB/s、シーケンシャルライトが約2088MB/sと、ほぼ製品の仕様どおりの速度が確認できました。

 次に、ダイソーのケーブルで接続して速度をチェックしてみたところ、シーケンシャルリードは約1101MB/s、シーケンシャルライトは約1087MB/sでした。

 スペックでは最大5Gbps(約500MB/s)のデータ通信が可能とされていますが、実際にはその約2倍、USB 3.2 Gen2相当の最大10Gbpsでのデータ通信が可能なことが確認できました。

 ただし、速度はSSD付属ケーブル利用時の半分程度です。USB 3.2 Gen2x2では、USB Type-Cが備える8本の信号線全てを利用してデータ通信を行うことで、最大20Gbpsの高速通信を行います。

 しかしダイソーのケーブルは信号線が4本しか結線されていないためUSB 3.2 Gen2x2での通信は行えず、本来の半分程度の速度しか引き出せなかったわけです。

速度のチェックには、USB 3.2 Gen2x2対応、データ通信速度最大2000MB/sのポータブルSSD「サンディスク Extreme Pro ポータブルSSD 2TB」を利用
SSD付属のUSB Type-Cケーブルを利用して計測した結果。シーケンシャルリード、ライトとも2000MB/s前後の速度が計測された
ダイソーのUSB 3.0 Type-Cケーブルを利用して速度を計測すると、シーケンシャルリード・ライトとも1100MB/s前後だった。USB 3.2 Gen2x2相当の速度は出なかったが、USB 3.2 Gen2準拠、10Gbpsの速度でデータ転送できることを確認

 以上から、このケーブルはパッケージ表記のスペックとは異なる仕様のケーブルと結論づけていいでしょう。

 スペックが上回る分にはいいのでは、と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、USBの仕様はともかく、スペックを大きく上回る電力が供給できてしまう可能性があるという点は、発熱や発火という観点から非常に危険です。

 また、両端がUSB Type-CのケーブルでUSB 3.0対応を謳うならフルスペックケーブルが必須条件ですが、その点も満たしていません。

 フルスペックケーブルでなくてもUSB 3.0に準拠したデータ通信は可能です(というか、本製品ではそれを上回るUSB 3.2 Gen2に準拠したデータ通信が行えています)が、規格上は失格です。

 スペック通りの仕様であれば、330円という価格と合わせてとても魅力的な製品ですが、これだけスペックを逸脱した仕様になっていることを考えると、このケーブルはお勧めできないというのが正直なところです。

 スマホでも100Wを超える電力で急速充電できる製品が登場しつつありますから、知らない間にスペック以上の電力が流れる可能性も十分考えられますし、安全性を考慮して手を出さない方が無難でしょう。

 同時に、パッケージに表記しているスペックを逸脱する仕様の製品を販売するというのは、かなり大きな問題だと考えます。

 USB Type-Cの規格はわかりづらいのも事実ですが、だからこそ製品を販売する側はそこをしっかり把握し確認する必要があります。万人が安心、安全に利用できるように、製品の見直しをお願いしたいです。

こちらはUSB 2.0対応ケーブルに内蔵しているeMarkerの情報。スペック通りの内容で安心して利用できる

 ちなみに、USB 2.0対応のUSB Type-CケーブルのほうはeMarkerの情報がスペック通りでしたので、そちらは問題なくお勧めできます。