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「dスマートバンク」はフリーランスなどの多様な働き方がお嫌い?

【Galaxy Z Fold4 SCG16】

銀行とのお付き合いも画面越し

 ここ数年、国内ではコロナ禍の影響もあり、キャッシュレスの利用が拡大した。元々、筆者は日常生活の支払いのほとんどをクレジットカードで済ませていて、おサイフケータイやスマートフォンのコード決済なども積極的に利用してきたけど、こうなってくると、いよいよ普段の生活で現金を扱うことは少なくなり、銀行などのATM(現金自動預払機)で現金を引き出すのも月に1回あるかどうかというレベル。残高の確認や住宅ローンのチェックなども基本的にオンラインで済ませられるので、銀行とのお付き合いはほとんどがパソコンやスマートフォンの画面を通じたものになりつつある。

給与が振り込まれないと、ポイントがもらえない? 優遇されない? Galaxy Z Fold4 SCG15(左)とAQUOS R7 SH-52C(右)

「dスマートバンク」って、ちょっと中途半端?

 そんなデジタルな「お金」の環境を見据えてか、昨年12月、NTTドコモは三菱UFJ銀行の口座と連携が可能な「dスマートバンク」というサービスを発表した。サービス内容は本誌記事でも触れられているので、そちらを参照していただきたいが、「dスマートバンク」という『銀行』のようなネーミングのサービスでありながら、実際には『銀行』ではなく、三菱UFJ銀行の口座の残高を参照したり、新規に口座を開設するという取り組み。いわば、NTTドコモが三菱UFJ銀行のしくみを利用した『銀行版MVNO』というか、『オンライン専用仮想銀行サービス』のような印象で、三菱UFJ銀行のフロントエンドのような建て付けになっている。2023年は給与のデジタル払いがスタートしたり、2024年には『新NISA』制度も控えていたりして、スマートフォンやパソコンなどを利用した金融サービスが拡大することを見据えた戦略なんだろうけど、内容を見る限り、現時点ではまだ中途半端な印象は否めない。

「給与 or 年金のお受け取り」が条件?

 物足りなさ半分、多少の期待感半分という感じの「dスマートバンク」だけど、発表時の資料を見て、「あー、まだこんなことやってる。相変わらず、銀行業界って、ひどいなぁ」と感じさせられた項目があった。それは「dスマートバンク」で提供される「dポイント付与」と「各種手数料優遇」という特典を受けるための条件。

 まず、dポイント付与については、口座の利用などに基づいて、dポイントが付与されるんだけど、条件2として、「給与 or 年金のお受け取り(10万円以上/回)」で年間最大60ポイントという項目が掲げられている。

「dスマートバンク」発表時のプレゼンテーション資料によれば、優遇を受けられる条件として、「給与 or 年金のお受け取り(10万円以上/回)」が挙げられている

 また、各種手数料優遇については優遇適用条件を満たすと、「三菱UFJ銀行ATM時間外手数料」が何回でも無料になったり、「提携先コンビニATM手数料」と「三菱UFJダイレクト他行宛振込手数料」も一定回数、無料になるんだけど、ここでも「給与 or 年金のお受け取り(10万円以上/回)」という条件を満たすと、「提携先コンビニATM手数料」が月2回まで、「三菱UFJダイレクト他行宛振込手数料」が月3回まで、それぞれ無料になる。これらの何がダメなのかというと、2つの特典を受けるには、「給与 or 年金のお受け取り(10万円以上/回)」という条件を満たす必要があるからだ。

いろいろな働き方は無視?

 あらためて説明するまでもないけど、今はいろいろな働き方ができる時代。会社に勤めて、給料をもらう人だけでなく、パートタイムで働いたり、契約社員として勤めたり、業務委託や派遣、アルバイトなど、いろいろな立場で働く人が存在する。もちろん、筆者のようなフリーランスや自営業という立場の人も少なくないはずだ。

 それぞれの仕事に対する対価がどういう名目で支払われるのかは、仕事を発注する企業や雇用者、働き方によって違うけど、業務委託やアルバイトなどでは「業務委託費」や「アルバイト代」、「雑給」などと表記されることもあり、必ずしも「給与」と表記されるわけではない。筆者のような立場なら、「原稿料」や「出演料」、「印税」などの項目が考えられるが、出版社などから自分の口座に振り込まれるときの名目は、単純に「振込」と表記されることもあるため、どんなに振り込まれても「dスマートバンク」で挙げられる「給与 or 年金のお受け取り(10万円以上/回)」の条件は満たせない。

銀行業界の慣例?

 こうした「給与」を前提とした優遇施策の条件は、元々、三菱UFJ銀行が提供する「メインバンク プラス」というサービスでも使われている。以前、同行のカスタマーザポートに問い合わせたとき、「振込の摘要欄に『給与』や『賞与』と表示されたものが必要です」と説明され、「じゃあ、毎月100万円が振り込まれても摘要欄が『給与』じゃなかったら、給与とみなされない?」と質問したところ、あっさり「そうなります」と答えられてしまった。今回の「dスマートバンク」は前述のように、三菱UFJ銀行のフロントエンド的な建て付けなので、「メインバンクプラス」と同じ条件が適用されたのだろう。

 じゃあ、他行はどうなのかというと、みずほ銀行の「みずほマイレージクラブ」にも「給与のお受取」という条件があるが、「キャッシュレス商品のご利用」や「お借入残高あり」(住宅ローンなど)など、他にもいろいろな条件が並んでおり、普通に使っていれば、条件をクリアできそうな印象。三井住友銀行も「給与の受取または年金の受取」という条件があるが、「NISA残高あり」や「クレジットカードのご利用代金引落」など、いくつかの条件によって、ATM手数料が無料になったり、他行宛振り込み手数料の優遇を受けられる。

 また、「dスマートバンク」と同じ三菱UFJ銀行との提携によって、2008年に設立されたauじぶん銀行(設立時は「じぶん銀行」)は、各種残高やサービス利用状況で判断される「じぶんプラス」のステージによって、ATM利用手数料や振込手数料の無料回数が増える。この「じぶんプラス」のステージ判断にも「給与・賞与のお受取」や「年金のお受取」という条件があるが、「au PAY 残高へのチャージ」や「口座振替(例:クレジットカードご利用代金の引落とし)」など、数多くの条件があり、これらの条件を満たすごとにスタンプが追加され、スタンプの数によって、無料回数が増えていくしくみだ。

 ちなみに、筆者はauじぶん銀行に口座を持っているため、毎月「来月のPontaポイント倍率およびATM&振り込み手数料無料回数のご連絡」と題したメールが届く。そこにはATM利用時の手数料の無料回数、他行宛ての振込手数料無料回数などが明記されている。auじぶん銀行はメインで利用していないが、各サービスの利用などで条件を満たすため、他行宛ての振込が必要なときなどに便利に利用している。

auじぶん銀行から毎月届く「来月のPontaポイント倍率およびATM&振り込み手数料無料回数のご連絡」と題したメールには、「ATM出金手数料無料回数」や「他行宛て振り込み手数料無料回数」が表記される。通常の利用なら、これくらいの回数で十分。条件も比較的達成しやすい

 ところで、そもそもの話として、ATMの時間外手数料や他行宛振り込み手数料はそんなに気にすることなのかという点だけど、まず、ATMについては金融機関の支店やATMは続々と閉鎖されているうえ、日中の仕事が忙しい人は支店や出張所などのATMに行くことができない。その結果、コンビニエンスストアなどに設置されたセブン銀行などのATMを利用するわけだが、口座の状況や時間帯にによっては、手数料がかかってしまう。他行宛ての振込もキャッシュレス決済の普及などによって、利用回数が減ったが、知人とのお金のやり取りなどやショッピングの支払いなどで使うことがあり、多少は無料回数が欲しいところ。

 とまあ、そんなわけで、銀行業界の慣例なのか、『給与』や『賞与』を受け取る人は優遇する一方、派遣社員や業務委託、アルバイト、フリーランスなど、いろいろな働き方をしている人たちはどんなに預金残高があっても優遇しない(冷遇する?)という姿勢のようで、残念ながら「dスマートバンク」にも慣例が受け継がれてしまっている。普通に考えると、預金残高や金融商品の取引の有無、自社ブランドのクレジットカードの利用額などで判断しそうなもんですが、今のところ、そういう指標はなく、『給与』の振込が必要なようです。ああ、筆者も『給与』が欲しいなぁ……。

 ちなみに、この各行が実施している『給与』を条件とする判断だけど、ネット上では意外にザルだという指摘も見かける。というのも自分が持つ他の金融機関の口座から、「キュウヨ」や「給与」という名目で振り込んでみたら、『給与』が振り込まれたと判断された」という報告が散見されるからだ。筆者が試したわけではないので、真偽のほどは定かではないけど、そんなレベルでしか判断していないのなら、こんな差別的な条件は撤廃するべきじゃないですかね。

 政府と厚生労働省は、「『働き方改革』の実現に向けて」というスローガンを掲げ、「多様な働き方を選択できる社会を実現したい」としている。その中でも「雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保」という項目が挙げられていて、捉え方によっては『給与』や『賞与』の振込を条件にした「dスマートバンク」の特典はこういう方針に反するものといえるかもしれません。こういう日常生活レベルでの差別(区別?)をなくさなければ、多様な働き方なんて語れない気がしますが……。金融庁を含め、関係各省庁で今一度、見直していただきたいところです。