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携帯各社の成長領域である「法人事業」の現在位置とその実力

 携帯大手3社の2023年度決算が発表された。NTTドコモは売上高が前年同期比1.8%増の13兆3746億円、営業利益は同5.1%増の1兆9229億円と「増収増益」、KDDIは同1.5%増の5兆7540億円、営業利益は同10.7%減の9616億円の「増収減益」、ソフトバンクは売上高が同3%増の6兆840億円、営業利益は同17.4%減の8760億円の「増収減益」だった。

 今回は各社の決算発表の中で成長領域である「法人事業」について取り上げてみたい。

通信事業が回復期迎える中、経済圏ビジネスが激化

 3社の中で「増収増益」はNTTドコモだけとなっているが、KDDIは海外事業の債権引き当て、ソフトバンクはPayPayの子会社化に伴う再測定益を除けばいずれも「増収増益」であり、好調に推移している。

 むしろ、KDDIとソフトバンクは政府の携帯電話料金引き下げ要請で影響を受け減少トレンドだったモバイル収入が2023年度にほぼ回復基調へ反転しているのに対し、NTTドコモは2023年に提供開始した低価格の料金プラン「irumo」好調で、引き続き減少トレンドが1~2年は続く見込みだ。

 ここ数年、携帯各社の収益構造は、値下げの影響を受けたコンシューマー事業の減少分を法人事業や金融やECなど非通信ビジネスの成長でカバーしてきた。2024年度はポイントや決済など複数の自社サービスで顧客を囲い込む経済圏ビジネス競争が一層激化しそうだ。

 2024年度の業績予想に関し、3社は下記のような数字を明らかにしている。

成長する法人事業と各社の取り組み

 好調な2023年度の決算だが、それを牽引している1つが「法人事業の成長」だ。各社のセグメント別の決算データの中でも法人事業は共通して「増収増益」を記録している。

 2023年度の法人事業のスコアでは、NTTドコモの売上が前年同期比+4.2%の1兆8817億円、営業利益が同+14.7%の3242億円、KDDIの売上が同+ 11.7%の1兆2647億円、営業利益が同+10.7の2119億円、ソフトバンクの売上が同+5%の7875億円、営業利益が同+19.6%の1615億円となっている。

 法人向けの携帯や固定回線事業に加え、DX関連のソリューションやクラウド、ゼロトラストなどセキュリティ関係の売上が拡大していることが要因だ。一方、期待された5Gを活用したソリューションに関しては、今のところ思うような成果は上げられていないと思われる。

 次に、携帯各社の事業全体に占める法人事業のポジショニングという観点から、売上全体に占める法人事業の売上と法人比率の推移を整理したのが下記のグラフだ。

 3社で売上全体に占める法人事業の比率は、この3年間でNTTドコモ(=NTTコミュニケーションズ)が28.5%(2021年度Q1期)から32.9%(2023年度Q4期)、KDDIが18.9%(同)から23.7%(同)、ソフトバンクが24.7%(同)から30.1%(同)へと上昇トレンドにある点は共通している。

 この間、NTTドコモは2022年1月にNTTドコモ、NTTコミュニケーションズ、NTTコムウェアの3社が統合し、法人向けの事業を「ドコモビジネス」のブランド名でNTTコミュニケーションズに集約した。

 また、データセンターやコネクティッドカー向けIoT事業のグローバル展開で先行するKDDIは2024年2月、新たな法人事業ブランド「KDDI BUSINESS」の展開を発表し、法人事業を担当するソリューション事業本部の名称を、2024年4月1月付で「ビジネス事業本部」に改称している。

 そして、ソフトバンクはDX事業を専門にやる部隊であるDX本部を2017年に立ち上げ、いち早く社会課題の解決に注目し、取り組んできた。

 従来、法人部門というと、回線数、規模とも10%強しかなかったのが、今やその位置付けは大きく変容したと言っていいだろう。

 現状、携帯各社の法人部隊は、従業員1000名を超えるような大企業や中堅企業については、1社の顧客企業に複数の営業マンが手厚く張り付いているのに対し、中小や零細企業に対しては、基本的に電話やネットを活用したデジタルマーケティングと法人代理店の活用というのが一般的だ。

 最後に楽天モバイルについても少し述べておきたい。同社の法人回線数については、2024年に入り一部報道で100万回線を突破ということで、契約数全体の牽引役となっている。楽天市場の出店企業など楽天グループと既に取引のある会社を中心に導入が進んでいるものと推察される。

 その意味では、法人向け販売網の活用や取り扱い商材の拡充などはこれからで、むしろ2024年以降に真の実力が問われることになるのではないか。

 法人市場はコンシューマー市場と異なり、相対料金や相対パッケージなどの「料金プラン」、お互いの取引関係を勘案して契約するバーター取引など個別対応がほとんどで、その実態が見えにくい。そこで弊社では今回、法人市場にフォーカスしたアンケートを実施し、携帯各社の実力について調査分析を試みた。次週は、その結果についての抜粋をお届けしたい。

IT専門の調査・コンサルティング会社として、1993年に設立。 主に「個別プロジェクトの受託」「調査レポート」「コンサルティング」サービスを展開。 所属アナリストとの意見交換も無償で随時受け付けている。 https://www.mca.co.jp/company/analyst/analystinfo/