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ソフトバンク2023年度の決算、コンシューマー事業で増収を達成――宮川社長「ようやく」、榛葉氏「当然うれしい」

ソフトバンク代表取締役社長兼CEOの宮川潤一氏

 ソフトバンクは9日、2024年3月期連結決算説明会を開催した。

 2024年3月期(2023年4月1日~2024年3月31日)の連結業績は、6兆840億200万円(前年比+2.9%)、営業利益は8760億6800万円(同-17.4%)、当期利益は5902億6500万円(同-9.8%)の増収減益となった。

 減益要因として、PayPayの子会社化に伴う差益が影響したものとし、この影響を除いた場合の営業利益は前期比+1107億円(14.5%)の増益になるとしている。

4事業で増収、生成AIの研究開発を加速

 事業別の売上高を見ると、コンシューマーを除く4事業で増収を達成。

 営業利益では、コンシューマーを含めてすべてのセグメントで増益となった。

 2024年度の連結業績予想は、売上高が6兆2000億円(前期比+1160億円、+2%)、営業利益が9000億円(+239億、+3%)、純利益が5000億(+109億円、+2%)とし、研究開発などを除いてすべてのセグメントで営業利益の増加を見込んでいるとしている。

 一方で、研究開発については、生成AIへの投資を強化していく。営業利益が好調であるため、中期経営目標の達成と時期中期経営計画に向けた成長投資を両立させるとし、AI計算基盤などへの投資を加速させるとした。

 代表取締役社長兼CEOの宮川潤一氏は、生成AI市場は2030年に国内で1.8兆円規模にになるとし、生成AI時代のマーケットリーダーを目指すとコメント。

 たとえば、コールセンター業務の自動化ソリューションでは、ユーザーの問い合わせにAIが自律的に応答するソリューションを目指している。同社のコールセンターでは、過去の電話の発着信状況や基地局の電話状況、料金の振り込み状況などをリアルタイムで見ながら応答する必要があるといい、これらの応答を生成AIが担えるよう開発が進められている。

コンシューマー事業で増収を達成

 コンシューマー事業では、2023年度の連結業績で増収を達成し、底打ち反転することができた。営業利益についても、中期経営計画の数字よりも上方修正し達成しており、携帯電話料金値下げの影響が続いたコンシューマー事業を反転させられたとしている。

 スマートフォンの累計契約者数は、3073万件と前期比+147万件で純増を達成。今後はARPU向上に向けて、付加価値サービスの拡充やグループシナジーを活かした新サービスの創出などを進め、グループ経済圏の拡大に取り組むという。

個人株主層の拡大でグループ経済圏拡大

 グループ経済圏の拡大への取り組みとして、個人株主を増やす取り組みを行うという。

 同社の株式を10分割し、1単元あたりの投資金額を引き下げるほか、PayPayポイント1000円分の株主優待を新設することで、個人株主層の拡大とグループ経済圏の拡大を図る。

 宮川氏は、若年層が比較的多いキャリアであるものの、同社の株主の年齢構成を分析すると株主は40歳未満が非常に少ないとし、最低購入額を引き下げて優待を用意することで、若い株主を増やしていきたいとした。

 また、配当利回りについて、1000円分のポイントを優待利回りにすると、1単元あたりの実質利回りは10.1%になるとアピール。

 若年層を株主に取り込むことは、同社の今後10年20年の成長に必要だとし、取り組みの意義を説明した。

ネットワークの取り組み、KDDIとの設備共用を強化

 同社のネットワーク状況について、5G基地局は昨年から2万局増加しており、年度末には8.5万局を達成し、5Gカバー率が95%を超えるという。

 ユーザーが利用している割合(4Gではなく5Gを利用できている割合)も高くなっているといい、5G通信のデータ量(ダウンロード)は1年間で2倍になったという。

 また、通信の質に左右される通信速度も向上してきており、引き続き5G本来の能力を引き上げていきたいとアピールする。

 一方、通信に必要な基地局について、5Gエリア構築のスピードアップと設備投資効率の最大化を図るべく、KDDIとの協業をさらに拡大させる。

 協業前は、基地局サイト(場所や鉄塔)の共用のみに留まっていたところ、協業後はアンテナや無線機、伝送路まで共用することで、同社のみで3.8万局以上を共同建築し450億円の設備投資(CAPEX)削減効果を生んだという。

 今後は、対象エリアを全国に、対象周波数を4Gにも拡大することで、2030年に累計10万局、1200億円の設備投資削減を目指すとしている。

SBテクノロジーを完全子会社化

 ソリューション事業の売上は、前年比で16%増加し、2018年度から5年間で倍増したと実績を強調。

 また、子会社のSBテクノロジーをTOBで完全子会社化する。AIに強いエンジニアも多いとし、技術力とリソースをグループとして一体化する目的で、総額283億円をかけて完全子会社化を実施する。

 このほか、PayPayが中心のファイナンス事業も好調に推移しており、引き続き金融サービス同士の連携を進め、金融サービス多様化を進めるとした。

主な質疑

 ここからは、説明会での質疑をご紹介する。なお、LINEヤフーの個人情報流出に関する内容は、別記事で紹介しているため、本稿では割愛する。

 回答者は、宮川潤一社長とコンシューマー事業などを担当する代表取締役副社長兼COOの榛葉淳氏。

宮川潤一社長

――日銀が政策金利を上げていく方向に行くのではないかと言われているが、ソフトバンクの資金調達に影響はあるか?

宮川氏
 ソフトバンクとしても想定していたので、数年前から借り入れをどんどん長期化してきた。9割以上は長期化できているので、ソフトバンクとして大きな影響はないと考えている。

――改正NTT法が国会で可決されたが、受け止めは?

宮川氏
 今回の見直しの中で「慎重な検討を求める付帯決議」がついたことは非常に大きいと思っている。この意義を、我々はもっと主張していこうと思っている。

――ユニバーサルサービス精度について、固定ではなくモバイル主体にと主張しているが、どのように考えているか?

宮川氏
 本当はユニバーサルサービスにすべきものは、光ファイバーだと思う。今の時代、携帯電話をユニバーサルサービスにするという有識者はおらずNTTだけ主張している話なので、光ファイバーこそユニバーサルサービスではないかという議論を深めていきたいと思っている。

――5G JAPAN(KDDIとの協業)拡大について、NTT法を巡る議論と関連があるのか? 楽天モバイルのように、協業相手を増やす可能性はあるのか?

宮川氏
 5G JAPANについては、2020年だったか、当時のKDDI田中会長と「5Gの投資は(これまでと)桁違いになり、我々の今の体力で日本の国土をカバーするとなる相当苦戦する時代になる」という話になり、こつこつ準備してきた。

 この取り組みが一番加速したのは、携帯電話料金値下げの流れを乗り越えないと行けないということになったときで、“こっそりと”コスト削減したのが5G JAPAN。

 特にNTTと何かあって協業しているわけではなく、無線機の開発なども一通り終わり、これを全国に拡大するというのが今回の話。

 10万局という数字は、日本全体では全く足りない。やりきるためには、一緒にできるところは一緒にやっていこうと、共創し合うことは割り切って、技術面に関する取り組みなので、今後もチャンスがあれば、運用やトラブル時、災害時などで協力する体制作りを一緒にやっていこうという話になる。

 次の6Gについても、もっと協力するところが多くなると思う。

 (他者の参加については、)もちろんKDDIと取り組みを進めているが、ここまでで3~4年かかってようやく回り出している状況で、どの企業からの参加でもウェルカムではあるが「簡単に乗っかれる話」でもない。企業同士やりたいことが違うので、やれる部分をチョイスしながら取り組むかたちになるので、時間はかかるが、議論は進められると思っている。

――スマートフォン契約者数増加について、けん引した要因はあるか?

榛葉氏
 2016年ぐらいからヤフーのECとの連携などグループシナジーをここ数年積み上げてきて、ユーザーの支持を根強く獲得できていることや、端末価格の高騰や電気通信事業法の改定などがありながらもユーザーの声を反映したサービスをいち早く提供できたこと。ショップオーナーを大切に密に(交流)しながらの地道な活動が少しずつ花開いてきている。

 また、コロナ前までは営業に強い会社であったが(コロナ期間中は)なかなか営業活動が十分にできなかったところ、(制限が緩和されて)営業活動ができた。

 加えて、ネットワーク品質も、ソフトバンクモバイル設立時はネットワークが弱い(と言われていた)が、今は第三者の評価でも高評価となってきている。

 こういった総合的なものが相まって、今回の数字につながったと思う。

――楽天モバイルの家族向け施策強化についての受け止めは?

榛葉氏
 注視はしているが、現時点で大きく影響することは考えていない。

――昨今SIMスワップ(SIMの乗っ取り被害)が問題になっているが、本人確認の方法について新しい対策はやっているのか?

宮川氏
 店頭では、今のオペレーションで行くと、マイナンバーカードの原本の確認と本人確認の二重チェックを進めて運用している。

 今回の問題になった部分は、一部店舗でその運用が不十分だったと言うことでご迷惑をおかけした。この2重チェックの徹底を指示したところで、これから同じようなことが起こらないようにする。システムで対応することにしたので、速やかに順次店頭に導入していく。

 仕組みを開示するわけには(防犯上)いかないが、システムの中を改造して取り組んで対応していく。

――PayPayについて、成長が鈍化して来たときの事業全体の見通しは?

宮川氏
 PayPayもようやく営業利益も黒字化してきたところだが、決済サービス以外にも金融サービスを連動させたかたちで、ほかの企業同様のモデルまでに成長させていくつもりで「鈍化する」という言葉はまだ早いと思っている。

――ユニバーサルサービスについて、NTTの主張ではユニバーサルサービスをモバイルにしていくことで、外での緊急通報も多くなってきておりこういう部分も救えるようになり、赤字幅も抑えられる、一定程度ニーズがあると主張しているが、どう思っているか?

宮川氏
 一つの考え方だと思うが、私どもは最後までユニバーサルサービスにすべきものは光ファイバーだと。これからの人類がどうデータと関わるかを考えれば、光ファイバー以外あり得ないと考えている。

――コンシューマー事業が増益になり、長いトンネルを抜けたと思うが、どう感じているか

宮川氏
 ほんとうにようやく。

 私がこれで4年目の社長任期になるが、任期のスタートから値下げの影響が始まっていて、2年半、胃の痛い思いをしてきて、あらゆる事を勉強し取り組んできた。店舗も回り、ひさしぶりなくらい動いたが、終わってみると、コストダウンや法人事業の成長、ファイナンスなどへの取り組みが積み重なって(今回の反転につながった)。

 我々が思った以上に2023年度は良かったという結果が出てきて、実は本当に楽になった。

榛葉氏
 社長同等、それ以上の責任者であったので、この2年間は本当に厳しいものだった。予想より半年~1年早まって、目標の数値が達成できたことは、当然ながらうれしく、関係者には感謝したい。

 これがゴールということではなく、一度使ってくれたユーザーも解約することがあるため、ここで安心することなく、今後の目標に向けてまだまだやることはある。

 たとえば、コールセンターのAI化は、自社への展開が実現すると、大きなコスト削減だけでなく、ユーザー満足度も上げることができるため、AIの活用には注力していきたい。

 加えて、PayPayやLINEヤフーとのシナジーを具体化し、ライフスタイルに即したスマホサービスといえば「ソフトバンク」と最初に指名してもらえるように今後も油断なく注力していく。