DATAで見るケータイ業界
NTTドコモのインフラ調達の変化とネットワーク構築の課題
2024年3月9日 06:00
海外大手通信事業者がO-RANを採用 国内の動きは
2023年12月、米国通信大手のAT&Tがエリクソンとの協業を通じてオープンRAN(O-RAN)ネットワークを構築することを発表した。その投資額は5年間で約140億ドル(2兆1000億円:1ドル150円換算)に達するという。
O-RAN市場の伸び悩みが指摘される中で、米国大手通信会社が大規模な投資を発表したことはO-RAN市場の起爆剤になることが期待される。
日本でもモバイルキャリア各社がO-RANの採用を表明しているが、その取り組みには各社で温度差が見て取れる。
NTTドコモはRANのオープン化やインテリジェント化を目的とした業界団体「O-RAN ALLIANCE」を自らが主導して設立した経緯もありO-RAN採用には積極的である。楽天モバイルも“O-RAN対応の完全仮想化ネットワーク”をうたいO-RANを推進している。楽天モバイル傘下の楽天シンフォニーではO-RAN仮想化ネットワークを海外キャリアに販売することも行っている。
これに対してKDDIやソフトバンクは現時点でO-RANに対する取り組みはやや後ろ向きの感がある。
キャリアがO-RANを推進する目的
O-RANは無線アクセスネットワーク(RAN)の仕様をオープンなものにして、異なるベンダー機器との相互接続を可能とする標準化された無線アクセスネットワーク構築の仕組みである。
- ①異なるベンダーのRAN装置の相互接続を実現するオープンインタフェース
- ②RAN装置のハードウェアとソフトウェアの分離を可能とする仮想化(vRAN:virtualized RAN)
- ③RANの運用の最適化と自動化を実現するインテリジェント化
これらの三つの要素がもたらす効果としては、基地局装置を複数のコンポーネント{(RU:Radio Unit)(CU:Central Unit)(DU:Distributed Unit)}に分離し、標準化されたインタフェースでそれぞれを接続することが可能となり通信事業者はベンダロックインから解放される。
RANの仮想化は汎用ハードウェアの利用によるコスト削減や、柔軟性および拡張性の向上をもたらすことができる。
インテリジェント化は、今後モバイルネットワークが複雑化していくことに伴い、人手によるオペレーションが困難になるなかで自動化を推進することが容易になる。
O-RANの推進で進むマルチベンダー化
これまでNTTドコモは基地局インフラについては基本的に国内ベンダーを採用していたが(ノキアはパナソニックからの流れ)2022年ごろから5Gでサムスン電子やエリクソンを採用するなど国内ベンダー一色から脱却する動きがみられていた。
従来、NTTドコモの携帯基地局向け無線機ベンダーは3社採用が標準であったが現在は6社までに増加している。通信市場の設備投資額が縮減トレンドへ向かう中、無線機ベンダーが増えたということは、今まで定位置を占めていたNEC・富士通には大きな逆風となることが予想される。直接の関係は否定しているものの、NECは2023年度通期のテレコムサービスの業績予想を下方修正している。
マルチベンダー化のジレンマ
標準仕様のO-RANを推進することでNTTドコモのマルチベンダー化が進んだ。しかし、関係者によればO-RANといえども個別のベンダー間では一部独自の作り込みをしているため、実際に導入する際にはベンダー間のIOT(Inter-Operability Testing)を確認しなければならないなど構築上の問題も発生しているという。急激に採用ベンダー数が増加したことで、ベンダー管理にも負荷が掛かっていることが推測される。
O-RANと共にネットワークの仮想化も進められているが、元々仮想化は汎用サーバーにソフトウェアを実装してマルチベンダー化を推進することでコスト削減を図るものである。しかし、仮想化基盤とコアのソフトウェアベンダーが異なることなどから、同様にIOTの確認が必要となり、ここでも手間とコストがかかることになる。
現状では単独ベンダーでシステムを構築した方が、手間もコストも削減できており、標準化(O-RAN)や仮想化の方が、かえってコスト増となる“マルチベンダー化のジレンマ”に陥っている可能性もある。果たして、本来の目的を達成できるマルチベンダー化はいつ実現できるのだろうか。