ケータイ用語の基礎知識

第747回:USB PDとは

USB経由の電源供給の規格

 「USB PD」とは、規格上、最大100Wの電力を送れる、USBを使った電源供給の規格です。USB PDの「PD」とは、電源供給を意味する「Power Delivery」の略です。

 多くのスマートフォンでは、microUSBケーブル、あるいはiPhoneであればLightingケーブルで充電できるようになっています。これは、これまでのUSBの規格でも、ある程度、電力の供給ができるようになっていたからです。

 たとえばUSB 2.0では2.5W、USB 3.0では4.5Wまで供給できます。さらにUSB BC(Battery Charging) 1.2では、7.5Wまでの電力供給が可能となりました。USB BCは、主にバッテリーへの充電を主な用途とした規格で、USB DCP(Dedicated Charging Port、専用充電ポート)と言って、USBとして通信しない充電方式も定義されています。これにより、たとえばパソコンに繋いでもUSB機器としては認識されませんが、その分、安価な充電用の製品を作れます。

 しかし、これまでUSBでは利用できなかったような、大きな電力を使いたいという要望が増えてきています。たとえば、ハードディスクのようなストレージを使いたい、あるいはタブレットやノートパソコン、あるいはディスプレイといったパソコン用周辺機器にもUSBを電源として使いたいというアイデアが拡がり始めているのです。

 そこで、USB経由でも大きな電力を供給できるような仕様が、2012年頃から検討されるようになりました。その結果、策定されたのが「USB PD」です。

 USB PDに対応した製品は、今のところパソコン関連でいくつか登場してきています。ZenFoneシリーズを手がけるASUSは「USB 3.1 UPD PANEL」というパソコン用の増設インターフェイスパネルを販売しています。これは、USB 3.1 Type-Cの増設パネルで、Z170チップセットを搭載するASUS製マザーボードに接続し、かつWindows 10/8.1/8/7(各64bit/32bit)で動作させると、USBケーブルを経由して、最大100Wでの電力供給が可能になります。

 USB PDは、他のUSB規格と同じく、業界団体のUSB.orgで仕様が定められています。現在の最新規格は、2012年に策定されたUSB PD 1.0です。

 USBは、2014年8月、USB 3.1 Gen2規格にUSB Type-Cが加わりました。同時にUSB 2.0にもType-Cが加わっています。USB 3.1 Type-CとUSB 2.0 Type-Cではコネクタ形状は同じなのですが、内部で使用されているピンは異なります(USB 3.1 Type-Cは1ケーブル内に15本、USB 2.0 Type-Cは5本の配線)。

 USB PDは、USB 3.1 Type-C、USB 2.0 Type-Cの両方に対応しています。USB 2.0 PDのマークは電池にUSBの接続のマークですが、USB 3.1、USB 3.1 Gen2のUSB PDでは、これに「SS」「SS10」といった記号が追加されています。

最大100W、つなぎ替えずに機器から機器へ給電可能に

 USB PDの大きな特徴は、先に挙げたように最大100Wの電源供給が可能になったこと、それに、ホストとクライアント、どちらの方向からも電力供給が可能なことが挙げられます。

 これまでのUSB規格では5Vの電圧のみが供給されていました。またスマートフォン用では、9Vの電圧にして、急速充電できる「Quick Charge 2.0」といった技術もありますが、これは特定の機器との接続のときだけ、USBの規格を超える高電圧を提供するようになっていました。

 USB PDでは、5Vの他に、12V・20Vの電圧での電力供給を可能としています。12Vは、5Vと並んでパソコンの周辺機器でよく使われる電圧です。たとえば、ハードディスクドライブといった機器などでは5V、12Vの2電源の供給を必要とするものが以前は多くありました。また、20Vは一部のノートPCなどの電源などの電圧によく採用されています。

 一方、電源供給のホスト/クライアントの面については、たとえば[対応スマートフォン]―[液晶ディスプレイ]―[ハードディスクドライブ]と繋がっていた場合、どうなるでしょうか。USB PDであれば、液晶ディスプレイがACアダプタに接続されているだけで、スマートフォンとハードディスクドライブ、両方に給電できます。

 また、[パソコン]―[液晶ディスプレイ]―[ハードディスクドライブ]として、パソコンにACアダプタが繋がっていれば、パソコン→ディスプレイ→ハードディスクと電力を供給できます。

 なお、USB PDの規格によれば、電源供給にはUSBケーブルが用いられることになっており、USB 2.0など過去のバージョンだけに対応したケーブルも含まれます。ただし、どのケーブルでも大電力を扱えるわけではありません、そのケーブル、あるいはケーブルを繋ぐ機器で設定された、安全の範囲内で電力が供給されるようになっています。

関口 聖

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)