ケータイ用語の基礎知識

第735回:ネットワーク仮想化 とは

データの流れを制御する機器が仮想化されるネットワーク

 携帯電話のネットワークは、端末に電波が届いて、基地局~収容局の線が繋がって通信できる、という形ですが、たとえば電話をかけた相手に正しく繋がらないと、間違い電話になってしまいます。またLTEのデータ通信でLINEを使ったとすれば、LINEに入力した文字のデータなどが、インターネット上にあるLINEのサーバーにきちんと届かないと、データは迷子になってしまい、いわゆるパケットロスになってしまいます。

 そうした誤りが発生しないよう、携帯電話のネットワークでは、データの流れを管理する機器が存在しています。本連載の第546回「SAE/EPC」で紹介した、「EPC」「SAE」などがその例です。ちなみに、EPCはLTEネットワークのデータの流れなどを制御する装置、SAEは同じ用途で3G網向けのものです。

 そうした装置を仮想化し、ソフトウェアで代替えさせようという流れが、携帯電話事業者や通信機器メーカーにおいて、世界的なトレンドになっています。このように、ネットワーク制御を行う機器を仮想化して構築することを「ネットワーク仮想化」と呼びます。
 「ネットワーク仮想化」という用語は、携帯電話のネットワークに限って使われる言葉ではありません。むしろ、IT業界ではITインフラ用語として認識されていて、携帯電話のネットワーク仮想化はそのバリエーションの1つと言えます。

 またネットワーク仮想化は「SDN」の1つでもあります。SDNとは、「ソフトウェアで定義されたネットワーク」を意味する英語“Software Defined Network”を略した言葉です。その名の通り、ソフトウェアで通信機器の構成や設定を変えられるネットワークです。構成を柔軟に変えるには、構成部品がハードウェアであるより、ソフトウェアで構成されていた方が圧倒的に簡単に実現できますから、必然的にその実現手段としてはソフトウェアによる仮想化が有力になるわけです。

2016年3月、ドコモは商用化

 携帯電話のネットワークの仮想化に関する記事としては、たとえば、本誌のニュース記事では「障害に強い、繋がりやすい――ドコモが語る「NFV」のメリット」としてNTTドコモがすすめているNFVによるネットワーク構築について伝えています。

 NFVとは、ネットワーク機能の仮想化を意味する“Network Functions Virtualization”の略です。先述したSDNの中でも、ネットワークの構成機器をソフトウェアで構築して、コンピュータの仮想環境上で実行するという方式のことです。LTE網ではデータの流通などを制御するためにEPCという装置を使っているのですが、NTTドコモでは、これに代わりコンピュータ上の仮想環境上でEPCの機能をもつ「EPCソフトウェア」を開発しています。2016年3月に商用化される予定で、これによって商用ネットワーク仮想化の第一歩を踏み出そうというわけです。

 将来的には携帯電話ネットワーク上に流れるデータの量はより膨大になることが予想されています。オリンピックのような大規模なイベントではこれまで以上に人が集まりますし、また地震など大規模災害が起きた場合はこれまで経験したことがないようなデータが携帯電話回線に殺到するかもしれません。そうなったときに、従来のLTEネットワークでは、ユーザーの利用を制限するしかありませんでした。つまり通話ができず、データも流れにくいという状況になっていました。

 これは、携帯電話の回線には限りがあり、また回線自体が太くなったとしてもそれを制御するEPCなどの機器が、その性能以上にはデータ流量をさばくことができなかったことが原因の1つに挙げられます。何か大規模な出来事があったとしても、そう簡単には増設できないのです。しかし、仮想化すれば、性能を拡充しやすくなります。EPCソフトウェアを含む仮想環境を実行する、コンピューターの性能が十分あるならば、その中に大量の仮想環境を一斉に立ち上げれば必要なだけEPCを増やせばいい、ということになるからです。CPUパワーやメモリ容量といったリソースさえ揃えられれば、現代のコンピューターではそれはそう難しいことではありません。結果的に、利用者が殺到しても、つながりやすさを確保できるネットワークの構築が非常にしやすくなります。

 また、仮にハードウェアが故障した場合も、仮想化していれば、代わりの機材を手配しやすいというメリットがあります。結果的にネットワークの信頼性向上に繋がると期待されるのです。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)