ケータイ用語の基礎知識

第951回:TIP(Telecom Infra Project)とは

オープンコミュニティで次世代の通信インフラの技術&製品開発を推進

 TIP(Telecom Infra Project)は、Facebookやノキア、インテル、ドイツの通信事業者Deutsche Telekom、韓国のSK Telecomらがメンバーとなり2016年2月に発足した非営利団体です。Telecom Infra Projectは、日本語で「電気通信基盤プロジェクト」とでも訳せばよいでしょうか、その名前の通り、電話、携帯電話、Wi-Fi通信そのものではなくそのインフラの技術と製品開発を推進しています。

 2020年現在、全世界で参加企業・団体は800社以上。日本からの参加は、携帯電話事業者ではKDDI、ソフトバンク、楽天モバイル、携帯電話事業者ではありませんがNTT、NEC、富士通なども参加しています。

 このTIPでは、近年の技術のトレンドである「オープン化」「ディスアグリゲーション(機能分離化)」などをテレコムネットワークに適用し、この分野でハードウェアやソフトウェア、さらにはオペレーションにも革新をもたらすことを目標としています。

 テレコム業界の事業者は、たとえば、TIP仕様のバックホールやコアネットワークを導入すれば、そこをいわゆるベンダーロックインという特定のメーカーの独自技術に捕らわれる状況を回避し、テクノロジー的にも時流に追随したインフラのステップアップが可能になるはずです。

 TIPと兄弟のような規格として「OCP(Open Computer Project)」があります。これも、Facebookが自社サービスで使用するデータセンターやサーバーなどのハードウェア仕様を標準化・オープンソース化し、大規模データセンターに最適なハードウェアを採用するために2011年4月に発足したプロジェクトです。現在では、大手ハードウェアベンダー、SI企業など、全世界で150社以上がOCPに参加。データセンターに置かれるサーバーコンピュータやストレージ、ネットワーク機器、ラックなどでOCP仕様のものが非常に注目を集めています。

 同様のことがテレコム業界でもできるのでは、とFacebookは考えたのかもしれません。

「Access」「Transport」「Core & services」の三本柱で技術検討開発が進む

 TIPの組織ですが、全体の方針を決める「Board of Directors」、具体的な技術検討、開発、試験を行う「Project Group」(PG)、Board of Directorsと共にPGの承認を行う「Technical Committee」、PGで開発されたプロダクトをテストする「Community Lab」、スタートアップ企業などに開発や試験のための環境を提供する「TIP Ecosystem Acceleration Center」から構成されています。

 「Project Group」は、その技術開発対象の内容によって大きく「Access」、「Transport」、「Core & services」の3つの分野に分類されています。

 「Access」分野は、アクセスネットワークのインフラ技術を変革することで、インターネットアクセスをより容易にすることを目標としています。具体的には、インフラ整備のコストを低減する、あるいは従来技術では展開が難しい環境でも適用できる技術を開発する、などといったことが、技術開発の目的となります。この分野では、「Open Cellular」、「Open RAN」、「Crowd Cell」など多くがモバイル通信を開発対象としたProject Groupになっています。

 「Transport」分野のプロジェクトは、無線および有線バックホールにおけるスケーラビリティ、高速コンバージェンス、構成の容易さ、拡張性の課題に取り組んでいます。今後も増え続けると考えられる、ネットワーク・トラフィックの急激な増加に対応するためには、より優れたバックホールが不可欠だからです。ここには「Open Optical & Packet Transport」「mmWave Networks」などのProject Groupがあります。

 「Core & Services」分野が目指すのは、コア・ネットワーク・アーキテクチャを簡素化し、効率性と柔軟性を向上させると同時に、ネットワークを維持・運用するための継続的なコストを削減することです。なぜなら、ネットワークに関連する最も重いコストは、運用・保守という継続的なコストだからです。「Open Core Network」「End to End Network Slicing(E2E-NS)」などのProject Groupがここにはあります。

 ところで、「Community Lab」ですが、これまでに米国、ドイツ、イタリア、英国、韓国、ブラジル、インドなどにありましたが、2020年春にはKDDIが日本にも開設することを表明しています。

 この「Community Lab」は、TIP内で検討・開発が進められている製品の安定性や品質をチェックし、導入費用や保守費用を踏まえ、商用環境に見合ったスペックを持ち得る製品なのかどうかを検証していく場所となります。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)