ケータイ用語の基礎知識
第952回:5G Evolutionとは
2020年5月12日 12:16
スタートした「5G」、次の「6G」。その間に
第5世代移動体通信、つまり5Gの規格は3GPPの「Release 15」で最初の規格が決まり商用サービスがスタートしました。
5G Evolutionとは、その次の「Release16・17」で実現される技術・サービスを言います。日本語で言えば「5Gの進化」「5Gの高度化」というところでしょうか。
なお、北米の「AT&T」がLTE-Aを改良した通信方式を「5G Evolution」として宣伝した時期があります。この5Gですらない方式をなぜこの名前で呼んだのかは不明ですが、ここでいう「5G Evolution」は、これのことではありません。
内容的には、Release 16では、
・統合アクセス・バックホール(IAB)
・拡張自動車通信(eV2X)
・URLLCおよび産業用IoT(IIoT)の機能強化
・バーティカル向けのサービス・イネーブラー・アーキテクチャー・レイヤー(SEAL)
といった規格が策定されています。
また、Release 17では、
・新周波数帯 (例: 7GHz から 24GHz および 53GHz 以上)
・NR サイドリンクおよび NR ライトの機能強化
などが含まれています。
「URLLC」、「mMTC」をさらに強化すべく
5Gでは、「eMBB」(enhanced Mobile Broadband)・「URLLC」(Ultra-Reliable and Low Latency Communications)・「mMTC」(massive Machine Type Communication)の3つが、主に解決されるべき要件として挙げられていました。
「URLLC」(Ultra-Reliable and Low Latency Communications)超高信頼低遅延、「mMTC」(massive Machine Type Communication)超大量端末通信にももちろん利用できるように作られましたが、Release 15が策定される際に最も焦点が当てられたのは、「eMBB」、つまり「高速大容量モバイル通信」であることについてでした。
そこで、Release 16・17、特に16では、eMBB以外の部分に多くフォーカスが当たっています。
・拡張自動車通信(eV2X)
・URLLCおよび産業用IoT(IIoT)の機能強化
・バーティカル向けのサービス・イネーブラー・アーキテクチャー・レイヤー(SEAL)
などはその言葉通りの規格ですが、あるいは、超高信頼低遅延・超大量端末通信を支える技術としては、たとえばNR-U、IABなども良い例でしょう。
「NRアンライセンス(NR-U)」は、LTEで「LAA」と呼ばれたのと同様の手法で、免許の必要な周波数帯と、免許の不要な周波数帯両方を通信経路に使います。「免許の必要な周波数帯と免許の不要な周波数帯でのキャリアアグリゲーション」や「免許の不要な周波数帯を下り、免許の必要な周波数帯を上りに」「免許の必要な周波数帯をLTE、免許の不要な周波数帯NRでの5G通信」などいくつかのやり方が考えられていますが、いずれにしても搬送路を複数持つことでTDDで不利になりがちな低遅延をカバーすることが期待されています。
「IAB」は、無線アクセス・バックホール統合伝送です。簡単に言えば、複数のNR基地局間でミリ波通信のリレーのような動作を行えるようにすることです。これによって、ミリ波通信の通信距離の長延化・基地局から見通し外となるエリアへのカバレッジ拡大を図ります。
またRelease 17では、「新周波数の拡張」も検討されています。3GPPは、Release 17で、7.125GHzから24.250GHzの範囲と52.6GHz以上の範囲でさらなる周波数帯の拡大が模索されています。既存のFR1/FR2の拡張、あるいは新しいFRの定義のどちらも検討されていて、52.6GHz以上の高い周波数帯では新しい変調方法も検討されるかもしれません。
フル規格でもないIoT向けでもない「ライト」規格も提案
また、これまで5Gの規格ではあまり考えられてこなかったいくつかの規格も5G Evolutionでは登場するかも知れません。たとえば、Release 17の新規格として企画中の「NR Light」の追加などはそのひとつでしょう。
「NR Lite」ともされるこの新しい規格は、NRを使って、典型的なRelase 15ベース(たとえばスマートフォン)よりも、簡易的な機構とコストを低減した対応5Gデバイスを作ることを目的としています。
5Gには、スマートフォンなどのデバイスでは、データレート、遅延および信頼性の性能要件が厳しいハイエンドデバイスがある一方、スマートセンサーなどIoT機器向けのローエンドデバイス向けの規格もあります。
しかし、IoT機器よりは高機能なもののスマホより低い、たとえばスマートウェアラブルなどのこれらの中間を要件とするデバイス向けの規格がありませんでした。そこでミッドレンジように、デバイスの複雑さを軽減し、コストと性能要件を備えることを目指したのが、この「NR Light」です。
「NR Light」対応機器では、データ通信100Mbps、ライブビデオフィード程度は可能な通信はでき、レイテンシーは10~30ms程度でリモートドローンの操縦程度は可能、モジュールコストはLTE程度、バッテリー寿命はeMBBの2~4倍程度にできるのではないか、とされています。