ケータイ用語の基礎知識
第943回:aptX Voiceとは
2020年3月3日 06:00
Bluetoothヘッドセット用の高音質コーデック
「aptX Voice」は、米クアルコムの子会社であるクアルコム・テクノロジーズが開発した、Bluetoothで高音質な音声通話を実現する新しい音声通話用コーデックです。
aptXは、スマートフォンでは、ワイヤレス用オーディオコーデックとして有名です。aptX HDなどファミリーを加えると全世界では7億台以上のエンコード対応機器が、また、1.9億台以上のデコードできる機器がすでに存在するとされている、広く普及している規格でもあります。ただ、基本的に音源から再生機器へ一方通行への通信に使われるコーデックでした。
このaptX Voiceは一方通行ではなく、Bluetooth接続ヘッドセットなど「双方向音声接続」で、高解像度の音声品質を提供するための音声コーデックです。
今日、携帯電話事業者は、VoLTEやVoLTE(HD+)といった技術を使って携帯電話・スマートフォンの通話音質をどんどんと向上させており、ユーザーの耳もそれにすっかり慣れてしまっています。そして、これから5Gの時代になるとVoNRが使われることでスマートフォン端末での音声通話の明瞭度はさらに上がっていくことでしょう。
通話において音声の明瞭度は非常に重要なファクターで、それは端末単体においても、ヘッドセットにおいても同じです。しかし、Bluetoothヘッドセット(HFPプロファイル)では、HD Voice(16bit、16000Hz)で進化が止まっており、お世辞にも良い環境とは言えませんでした。
しかし、Bluetoothヘッドセットなど、ハンズフリープロファイル(HFP)をサポートするアクセサリーを使った場合、スマートフォンを直接使ったときのような良好な音質は得られません。なぜならHFPで使われるコーデックは、たとえば「HD Voice」ならば音成分の「50Hz~7000Hz」だけをサンプリングして符号化しており、そのため音が機械的に割れたりブツブツと切れたりするということがあるのです。
aptX Voiceは、Bluetoothを介した音楽ストリーミングの品質を改善するためにaptXが設計されたのと同じように、Bluetoothハンズフリープロファイル内で音声通話品質を提供して音声通話体験を改善し、ユーザーが明瞭な音声通話を体験できるように設計されています
Snapdragon865・765搭載機が対応予定
aptX Voiceの特徴は、技術的に、aptXのテクノロジーを引き継いでいるということです。
aptXはもともと、Bluetoothに限った物でなく、汎用音源コーデックとして業務用途などで使われていたもので、「自然界の音は波形が連続しているという特性に着目し、周波数ごとの差分を、量子化幅を適応的に変化させつつデータ化する」AD-PCMという技術をもとにしたプロプライエタリ(独占的)の技術です。
この技術をスマートフォンからヘッドセットへ、またヘッドセットからスマートフォンへの音声通話データのやりとりに応用したのが、aptX Voiceということになります。
そのため、Bluetoothハンズフリープロファイル内で使用される他の音声コーデックよりも、明瞭さと音声明瞭度が向上し、全体的な音質も低音、高音いずれの周波数でも原音にそれほどかけ離れない範囲でデータ化されるようになっています。
特に違いがわかりやすいのが、「s」や「f」などの類似の音を持つ単語の聴き取りでしょう。これらはかなり容易になるはずです。
また、かすかな話者の声を聞き、複数の人が同時に話している場合や聴覚心理エンコードでは潰されがちだった裏で話している人の言葉を認識するのも容易になるはずです。
データ化する周波数を決め打ちしている「HD Voice」や、「大きい音の直後の小さな音や高域などは聞こえないはずだからデータを省く」といった聴覚心理をデータ圧縮に使う「MP3」などとは特性が異なることがわかります。
なお、基地局からスマートフォンへは、16kHz、あるいは32kHzの帯域でAMR、EWSといったコーデックを使って音声が届きますが、このaptX Voiceは、この音声通話データを、16kHzでエンコードし、ヘッドセットでデコード、再生します。
ちなみに、aptX Voiceを使用するための周辺回路・IPコア(LSIを構成する回路情報)は、Snapdragon 865および765チップセットに標準搭載されていますので、これらの搭載したスマートフォンと、2020年に発売予定の新しいBluetoothオーディオSoCベースのアクセサリーの組み合わせで利用できるようになるはずです。