ケータイ用語の基礎知識

第767回:Daydream とは

 英語で「白日夢」を意味する“Daydream”は、Googleが提供するスマートフォン向けVRプラットフォームです。Androidの次バージョンであるNougat(ヌガー)でサポートされます。

 VRを楽しめるDaydream向けアプリを利用するにはVRビューワーに“Daydream Ready”(Daydream対応)スマートフォンを組み込んで利用します。2016年8月現在、Daydream対応機種はまだ提供されていませんが、開発者向けの環境として、Android Nougatのプレビュー版とそのソフトウェア開発キットなどを用意すれば利用できます。

 Daydream対応アプリとしては、SDK配布サイトから提供されているデモプログラム(Controller Paint)があります。視界に絵や文字を描くデモが体験できるほか、自分でSDKを使って作ったプログラムの利用が可能です。

 Daydreamを利用するのに必要な性能・機能に対応するスマートフォンは「Daydream Readyスマートフォン」と呼ばれます。

 Daydream Readyを名乗るためには、スマートフォンに内蔵されたプロセッサに一定以上の性能が要求されます。低遅延のジャイロセンサーや、VRに対応できる高解像度のディスプレイなども必要です。2016年8月現在、対応機種はありません。SDKを用いたのデモ環境として「Nexus 6P」が利用できますが、「Nexus 6P」はDaydream Ready スマートフォンではなく、ヘッドセットの動きに追随できなくなるといった事象が発生します。

 Daydreamが発表された「Google I/O 2016」では、サムスンやHTC、LG、小米、ファーウェイ、ZTE、ASUS、アルカテルといったメーカーが対応スマートフォンの開発に取り組んでいると発表されています。Android Nougatの正式リリース後、高性能なハイエンドスマートフォンを中心にいくつかの機種がDaydream Readyを名乗るとみられています。

 また、Daydreamのリリース時には、同時に対応VRビューワーとしてHMD(ヘッドマウントディスプレイ)とコントローラーも発売される予定となっており、Google純正のものを初めとしていくつかの製品が登場すると考えられています。

Android Nougatに一番近いVRプラットフォーム

 Daydreamは、VRプラットフォームであり、このプラットフォームに対応したソフトウェアを使うことで、ユーザーはさまざまなVRアプリを利用できます。

 現在、VR対応ハードウェアということでは、たとえばHTC Viveでは「Steam VR」、サムスンのGear VRやOculus Riftでは「Oculus Platform」 といったプラットフォームが採用されています。Daydreamの大きな特徴としては、独立したプロダクトとして開発されたこれらと違い、AndroidというOSと非常に密接な関係にあることにあります。

 Androidの次世代バージョンであるAndroid Nougatには、OS自体をVRに最適化した「VRモード」が組み込まれます。Daydreamでは、このVRモードを活用し、非常に違和感の少ないVR表示を実現します。

 VRの表示方法としては現在、頭にVRヘッドマウントディスプレイを装着して視界を全てスマートフォンや専用ディスプレイの表示でさえぎる手法が主流です。この場合、ユーザーが視覚で捉える情報と、頭の動きで感じる感覚で、できるだけタイムラグなしに連動させなければ、ユーザーは大きな違和感を抱きます。ひどいときには吐き気などを催す「VR酔い」などの症状を起こすことがあります。そのため、特にスマートフォンなどの内部処理から、ディスプレイでの表示への遅延をできるだけ減らさなくてはなりません。

 Android Nougatでは、これまでもよりも非常に効率化され処理速度を向上させたグラフィックスAPI「Vulkan」を搭載しており、VRモードは、Vulkanのパフォーマンスを利用します。これによってジャイロセンサーなどで検知した情報を、スマートフォン内部で処理し、表示として反映させるまでの時間を20ms(ミリ秒)以内に抑えます。いわば、OSそのものがDaydreamを利用することを前提に設計され、また逆にDaydreamもOSの機能を前提に設計されているというわけです。

 たとえば、Gear VRやOculus Riftでは“Oculus Home”と呼ばれるホームアプリが利用されます。Daydreamが利用するユーザーインターフェイスでは、AndroidのVR向けユーザーインターフェイスそのものをフルに利用した“Daydream Home”が利用されることになっていて、アプリケーションのインストールなどもAndroid向けのアプリ・コンテンツ配信プラットフォームであるGoogle Playが利用されることになっています。これらの点でもDaydreamはAndroidに一番親和性の高いプラットフォームと言えるでしょう。

 なお、Daydream向けのアプリケーションとしては、2016年8月現在で、既に多くのアプリケーションが提供されることが発表されています。具体的には、ゲームメーカーでは、エレクトロニック・アーツ(EA)やNetEaseなどのゲームメーカー、NETFLIXやHuluといった動画配信サービス、CNNやMLB.comといった有力コンテンツフォルダーが提供アプリの開発をすでに進めています。また、GoogleからはGoogleストリートビューやYouTubeといったアプリも提供が決まっています。

 これらの開発に大きな力となっているのが、既にSDKが配布されていること、それに「Unity」や「Unreal Engine4(UE4)」といった有力なゲームエンジンの対応が行われている点です。2016年現在、多くの3DアプリがUnityなどのエンジンを活用して制作されています。これらからの移植が容易になるということは、それだけメーカーにとってもVRアプリへの参入が容易になるということでもあるのです。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)