石川温の「スマホ業界 Watch」

2024年は「AIスマホ」が来る――Galaxy、iPhoneの動向とキャリア各社が示すAIへのアプローチ

 ようやく、サムスン電子のフラッグシップスマートフォン「Galaxy S24シリーズ」の日本上陸が正式アナウンスされた。発売日は4月11日。例年通り、NTTドコモとKDDIという2つのキャリアが扱うだけでなく、今回はサムスン電子直販モデルも同日に発売となる。

3日、サムスン電子ジャパンは「AIフォン」と銘打つ新機種を発表した

2024年はAIスマホがトレンドか

 Galaxy S24シリーズにおける最大の特徴は「Galaxy AI」だ。オンデバイスAIとクラウドAIの組み合わせにより、外国人との音声通話中にGalaxy S24シリーズのAIが割って入って通訳してくれ、会話を成立されると言う機能が話題だ。

 実際に普段、仕事などで外国人と触れあわない人が、電話で直接、外国人と会話するのは、海外旅行中にレストラン予約や忘れ物の連絡など、かなり限られた場面なのは間違いない。そのため、どこまで実用性があるのかは微妙であるが「音声通話中にネットにつながなくてもAIが通訳してくれる」という点においてはオンデバイスAIの威力を実感できることだろう。

3日に発表されたGalaxy S24シリーズ

 ただ、この「Galaxy AI」、本来はオンデバイスAI対応を強力に訴求しているSnapdragon 8 Gen3を搭載した賜物(たまもの)なのかと思いきや、既存のデバイスにもソフトウェアアップデートで提供されるという。どこまで「オンデバイスAI頼み」なのかは、かなり謎ではあるが、GoogleのPixelもAIスマホをアピールしていることを考えると、間違いなく今年は「AIスマホ」が新しい潮流になることだろう。

AIで出遅れ? Gemini導入の噂に見るアップルの戦略

 そんななか、AIに関しては出遅れているとされるアップルは、グーグルの「Gemini」を搭載するのではないか、と話題になった。たしかにクラウド上にある、あらゆる情報を学習し賢くしていくAIにおいては、検索などで知見のあるグーグル、さらにはマイクロソフトなどに一日の長があるのは間違いない。

 その点、アップルはインターネットやSNS関連にはトコトン弱い。グーグルなどはユーザーのデータを吸い上げて、ビッグデータで新しいサービスや価値を作る出すのに長けているが、アップルのポリシーとしては「ユーザーの個人情報はユーザーのもの」という考えを貫いており、iPhoneの中にあるデータをネットに吸い上げて商売の道具として広告に活用するといったことを嫌ってきた。

 アップルがAIで存在感を出すのはクラウド上で処理する生成AIというよりも、iPhoneのなかで処理するオンデバイスAIだと思われる。iPhoneのなかでユーザーのデータを学習し、ユーザーの行動をサポートするというような使い方であれば、アップルとしてのAI活用としては十分にあり得るのではないだろうか。

 ただ、クラウドベースにおけるAIにはなかなか手が出せないアップルとしても、Android陣営に負けないためにも何かしらはやっておきたい。そんななかで、Geminiを採用するという判断をしてもおかしくない。

 そもそも、iPhoneでは検索エンジンの設定画面においてはグーグルがトップに位置しており、ユーザーが何も考えなければ、メインはグーグルで検索することになる。iPhoneのSafariブラウザという巨大プラットフォームからグーグルに対してユーザーが流入してくるため、グーグルはアップルに対して、検索収入の36%、2021年には180億ドル(2兆7000億円)を支払ったとされている。

 今後、Geminiによる検索が増えていったとしても、グーグルとしては既存のビジネスモデルを維持していきたいわけで、グーグルからアップルに対する支払いも継続していくことだろう。

 アップルとしてはオンデバイスAIを独自に開発しつつも、クラウドAIに関しては無理をして自分たちで作り、検索サービスを提供して、グーグルからの収入を失うよりも、グーグル「Gemini」を搭載して、グーグルから年間、数兆円をチャリンチャリンともらい続けた方がメリットが大きいと判断していてもおかしくない。

キャリアも独自にAIに取り組み

 スマートフォンとAIにおいては、国内のキャリアも四社四様の取り組みをしているのが面白い。

 自ら大規模言語モデルを作り出し、サービス提供しようとしているのがソフトバンクとNTTグループだ。ソフトバンクは2024年内に3500億パラメーターの国産LLMの構築を目指し、2023年後半から計算基盤の稼働を開始している。NTTグループは「tsuzumi」をすでに商用開始し、500社近くから関心が集まっている。

 一方、パートナー戦略を展開するのが楽天とKDDIだ。楽天はサム・アルトマン氏が率いるOpenAIと提携。楽天シンフォニーのOpen RANとOpenAIの知見を組み合わせ、通信業界に特化した最新AIソリューションの開発を目指すという。

 三木谷浩史会長は「自動運転ではなく自動運用。これにより、ひとつは大規模障害を事前に防げる。運用コストも、大幅に下がる」と自信を見せる。

 またオンデバイスAIについては「これからはオンデバイスとエッジの世界になっていく。ただ、オンデバイスAIといっても、いまのスマートフォンは正直言って高い。最新機種で20万円を超えるとなると、家族で機種変更したらクルマが買えちゃう金額だ。一方、エッジで処理を回せるようになれば、これまで専用機が必要だった世界中のゲームを月額1000円で提供する事も可能になる。また、レイテンシーの速さが求められる自動翻訳や通訳はエッジのほうが効率がいい。さらに複雑なものは生成AIのサーバーで処理することになるが、すべてを担うには計算量が膨大になる。オンデバイス、エッジ、生成AIのコンビネーションになっていくだろう」と語る。

 一方、スタートアップと組んでAIを手がけるのがKDDIだ。先頃、東大発のスタートアップであるイライザとの業務提携を発表した。

 オンデバイスAIについて髙橋誠社長は「先日のMWCではAIの用途として、社内での活用、通信業界では通信会社が通信品質や設計ために使う、あるいはカスタマーサービスへの展開という主に3つがあった。今年はエッジ側、特にスマホのAIが盛り上がるのではないか。コンシューマー、ビジネス、両サイドでエッジAIの利用が加速していく」と見る。

 メーカーとキャリア。それぞれのAI活用の「かけ算」でどんな新しいサービスをユーザーに示してくれるのか。AIサービス競争によって、スマホが少し面白くなるかもしれない。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。