石川温の「スマホ業界 Watch」

auの新料金「スマホミニプラン」が示す2023年のスマホ料金競争の予感

 師走の慌ただしい中、KDDIがひっそりと新料金プランを発表した。2023年2月1日から提供を開始する「スマホミニプラン」だ。

 2019年ごろからの政府による「値下げ圧力」によって、ahamoやpovo、LINEMOといった新料金プランが続々と出てきたが、ここ1年近くは、料金競争がほとんど起きず「無風」状態が続いていた。

 ahamoがデータ容量が100GBになる「大盛り」を2022年6月に投入したが、料金プランというよりも「オプション」という位置づけだ。

 KDDIの新料金プランは「ミニ」というだけあって、データ容量は4GBまでという設定だ。ケータイからスマホに乗り換える人や、普段、スマホをほとんど使わない人、テレワークなどで自宅のWi-Fiで済む人向けと言えるだろう。

スマホミニプラン料金(割引適用前)
データ容量料金
~1GB3,465円
~2GB4,565円
~3GB5,665円
~4GB6,215円

 気になるのが料金設定だ。4GBまでで6215円。家族割引や固定回線とのセット割、クレジットカード払いの割引を適用すると4928円にまで下がる。

 ちなみに「スマホミニプラン」が提供されることで、現在提供されている「ピタットプラン 5G/4G LTE」の新規受付は終了となる。

 現行の「ピタットプラン 5G/4G LTE」は7GBまで使えて6765円。家族割引や固定回線とのセット割、クレジットカード払いの割引を適用すると4928円となる。

 新プランは4GBまでで4928円、現行プランは7GBまでで4928円。つまり、ぶっちゃけて言えば「値上げ」ということになる。

 世間は電気代やガス代、さらに食材などあらゆるモノが値上げとなっているが、スマホ料金に関しては、2019年ごろの値下げ圧力から抜け出せないようで、各社とも大手を振って料金プランを値上げするのは難しい雰囲気だ。

 KDDIとしては、金額自体は現行プランと据え置きにしつつ、データ容量を減らすという「ステルス値上げ」に打って出てきた。

KDDI髙橋誠社長

 この料金プランが発表された2時間半後、別の取材で会ったKDDIの髙橋誠社長に「新料金プランについてコメントが欲しい」とお願いしたのだが「今日はコメントを控えます」とお茶を濁されてしまった。

 ただ、「auの使い放題プランを契約するユーザーが結構増えている。トラフィックも上昇しており、それに応じた、お使いいただきたいやすいプランをしっかり提供していきたい。

 ARPUを向上させることが大切だと思っており、それが5Gの活性化にもつながっていく。5Gにもっと勢いを出さないといけない」と語ってくれた。

 KDDIとしては従量制プランの上限を7GBから4GBまでに下げることで、「4GBじゃとても足りない」という人に「使い放題プラン」を選んで欲しいというのが本音だろう。

 賢いユーザーであれば、従量制プランが足りないと思えば、15GBや25GBのプランを提供するUQ mobile(UQモバイル)にサクッと乗り換えるのだろうが、一方で「auブランド」を根強く使い続けるというユーザーも一定数いるのは間違いない。

 実際、新料金プランでは4GBで4928円となるが、 使い放題プランである「使い放題MAX 5G/4G」も家族割と固定とのセット割、クレジットカード払い割引を適用させると4928円 と同額になる。

 ショップ店頭で「4GBで4928円を支払い、さらに容量が足りなくなって追加でデータ容量を購入しているぐらいなら、4928円で同額の使い放題MAX 5G/4Gプランに切り替えませんか」とセールスできる。

携帯各社はようやく値下げ影響縮小へ

 2022年11月に行われた各社の決算会見を見ていると、確かに大容量や使い放題プランのユーザーが増えていたり、2020年ごろの値下げの影響がようやく縮小し始めている様子が見て取れる。

 たとえば、NTTドコモでは「5Gギガホプレミアム」や「ahamo大盛り」が好調の用で、中大容量プランの契約者数は前年同期比で30%増加し、1000万契約を突破したという。

 またソフトバンクの宮川潤一社長は「料金値下げの影響で今年度は900億円のマイナスだが、今後は縮小する傾向であり、魔の3年の終わりが見えてきた」とコメントしている。

 すでにソフトバンクは「ミニフィットプラン+」で上限3GBという設定をしているが、NTTドコモの5Gギガライト」は上限7GBという設定になっている。NTTドコモも使い放題プランのユーザーを増やしたいのは間違いないだけに、今回のauの新料金プランに追随してくる可能性は極めて高い。

 KDDIの髙橋社長は「やっぱり5Gをちゃんと発展させないと、Beyond 5Gに行き着けない。かつて、4Gを展開していた時は、世界でも1番手、2番手を競っていたが、今、5Gでは、下手したら10番手ぐらい。それじゃあちょっとね、と。2023年も5Gを盛り上げる方法をいろいろと提案していきたい」と語る。

 5Gの使い放題プランのユーザーを増やすことは収益面の改善に必須であるし、儲からないことには設備投資もままならない。

 KDDIとしては、政府の値下げ圧力によって、UQモバイルやpovoで安価な料金プランを投入したものの、ユーザーがデータ消費を節約する傾向となってしまったため、5Gネットワークが「宝の持ち腐れ」になりつつある。使い放題プランにユーザーをシフトさせることで、5Gを盛り上げたいのだろう。

 果たして、ユーザーは使い放題プランに移行してくれるのか。また、他社はKDDIと同様のステルス値上げをしてくるのか。

 この1年、無風だったスマホ料金の競争が2023年、動き出す可能性が出てきたと言えるだろう。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。