シャープから最新型のザウルス「MI-E1」が発売された。Palm、PocketPCと競合製品が矢継ぎ早に発表される中、シャープが満を持して市場に投入した意欲作だ。発売と同時に実機を入手することができたので、今回から数回に分けて、その魅力をレポートしていく。
■ 前作の中途半端さを払拭する高い完成度
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シャープ ザウルスMI-E1。ビデオも音楽もインターネットも! と欲張りなPDAだ。ザウルスシリーズ初のキーボード搭載機という点でも注目を集める。オープンプライスだが、実売価格は5万円を切る程度。発売直後の現在、人気で品薄ぎみ
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今年の8月に発売されたザウルスアイゲッティMI-P10から、わずか4カ月。早くも最新型ザウルス「MI-E1」が登場した。前作のMI-P10は、縦型表示というザウルスとしては新しい試みを採用した画期的な製品だったが、モノクロの液晶、縦・横が入り交じったインターフェイスなど、多少の中途半端さが否めなかった。
これに対して、今回の「MI-E1」は、汚名返上とばかりに、前作の中途半端さを払拭する高い完成度で登場した。インターフェイスは一部のアプリケーションを除き、すべて縦型表示に変更されており、液晶にはフロントライト付きの反射型カラー液晶を搭載。さらに、本体にスライド式キーボードを内蔵。NTTドコモのP-in Comp@ctによる通信への対応。MP3やMPEG-4の再生といったマルチメディア機能の強化が行なわれている。数年前までは圧倒的だったシェアに陰りが見え始めた今、ようやくシャープが本気になったという印象だ。
このようなMI-E1の特徴は、大きく分けると「内蔵キーボードによる操作性の向上」、「通信機能の強化」、「マルチメディアへの対応」の3点に集約される。まずは、これらの中から基本機能編として内蔵キーボードの操作性と全体的な操作性について検証していこう。
■ ブラインドタッチも可能な内蔵キーボード
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キーボードは、両手でホールドして両親指で打つ。サイズは小さいが完成度は高い
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MI-E1の本体下部をスライドさせると、そこには小型のキーボードが姿を現す。ザウルスと言うと、真っ先に「手書き認識」を思い浮かべるユーザーも多いと思われるが、今回のMI-E1では、この方向性が大きく変更されている。
このキーボードは、サイズこそ小さいものの、その完成度は非常に高い。キーをタイプするときは、両手でザウルスを支えるようにして持ち、両手の親指を使って入力することになるのだが、指の平でキーを押しても隣キーと干渉することがなく、確実にキーを入力できる。
シャープでは、このキーボードを開発するにあたって、0.1mm単位で位置を変更しながら最終的にこの配置に決定したという。また、キーの並び、および上部が曲線になっているのも、デザインではなく打ち易さを追求したものとのことだ。キーを押したときの「プチッ」というクリック感もしっかりあり、その苦労が見事に実っていると感じさせる。
実際、このキーボードを使えば、メールの本文などはブラインドタッチで入力することも可能だ。これまでの手書き認識では、こと長文に関しては、どうしても入力に時間がかかってしまったが、キーボードであれば短時間、かつ確実に文章を入力できる。PCが普及し、キーボードでの入力に違和感を持つ人が少なくなったことを考えると、手書きではなく、キーボードを採用した意義は大きい。
ただし、このキーボードにも欠点がないわけではない。まず気になるのは「後退」キーの位置だ。現状の配置では、一番右上に「P」キーがあり、その下に「後退」キーが配置されるが、やはり「後退」キーは一番右上にある方が違和感なく打てる。また、メールアドレスなどの入力時に多用する「.」キーの配置も気になる。このキーは「,」と共通のキーにアサインされているため、入力時に「↑」キーと併用しないと入力できない。メールアドレスは、アドレス帳から引用することが多いため、実際には「.」を多用するケースは少ないが、2ストロークキーを使わなければならないのは面倒だ。
とは言え、これらの欠点は実に些細なものだ。慣れてしまえば解決される問題とも言える。むしろこのサイズで、これだけ完成度の高いキーボードを内蔵したことをほめるべきだろう。
■ ペンとキーボードを併用するのがベスト
このようにキーボードを内蔵したことによって、大幅に操作性を向上させたMI-E1だが、こと全体の操作性に関しては多少統一感が欠ける感じを受けてしまう。従来のザウルスはペンですべての操作が完結したが、MI-E1ではアプリケーションの操作やインデックス画面への移動などで、ペンとキーボード(もしくはボタン類)を併用する必要がある。
MI-E1では、ほとんどの機能をキーボードもしくはボタン類のみで操作することが可能だが、一部のアプリケーションはキーボードでの入力に対応していないことがある。例えば、アドレス帳の検索ボード(よみでアドレスを検索する機能)、ブラウザのリンクのクリックなどがそうだ。これらは、ペンを使わなければ、文字を入力したり、操作することができない。
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アドレス帳に表示される検索ボードでは、キーボードからの入力ができない
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また、キーボードから操作での操作が可能であっても、ペンを使った方が早い場合もある。メールで宛先をアドレス帳から参照する場合の「↑」+「入力」、画面に表示されているタブを切り替える場合の「機能」+「カーソル」など、「機能」もしくは「↑」との2ストロークキーを使うくらいなら、ペンでタップした方がずっと早く、しかも直感的に操作できる。
では、ペンのみの場合はどうかというと、こちらもペンのみでは操作できない機能がある。インデックス画面の表示や操作メニューの表示などは、それぞれ「ホームインデックス」、「操作メニュー」などのボタンを押さなければならない。
このような操作性は、はじめてザウルスを使ったユーザーにとってはそれほど違和感を感じないかもしれないが、従来からのザウルスユーザーには非常に違和感を覚える操作となる。キーボード、ペンのみで無理に操作しようとせず、ペンとキーボードを併用して操作するように心がけた方が良さそうだ。
■ 必要最低限に絞り込まれたアプリケーション
内蔵されるアプリケーションは、これまでのザウルスとほぼ同等で、PIM機能としてのスケジュール、アドレス帳、アクションリスト、メモなどに利用できるインクワープロ、画像ビューワのフォトメモリー、インターネット用のブラウザとメールソフトが搭載されている。しかし、従来のザウルスから削られたアプリケーションも存在する。これまで標準だったデータベースのパーソナルデータベースII、レポート&自由帳、国語・漢和・英和・和英などの統合辞書は削られており、表計算ソフト、ワープロなども標準では搭載されない。
これは、従来のザウルスユーザーから見ればデメリットと感じるかもしれないが、はじめてザウルスを利用するユーザーはあまり不自由に感じないだろう。パーソナルデータベースを使うユーザーは非常に限られているし、レポート&自由帳は機能的に多少劣るもののインクワープロでの代用が可能だ。表計算ソフトとワープロはパソコンから送られてきたメールの添付ファイルを見る場合には必要だが、これが必要かどうかはユーザー次第と言える。
個人的には、唯一、統合辞書がない点だけが残念だが、これらのアプリケーションは後から追加できるようになる可能性が高い。すでにレポート&自由帳は2000年12月、表計算ソフトは2001年1月に発売予定となっているので、必要となればダウンロードして追加すれば済むだろう。PDAの使い方は人それぞれで、どの機能が必要なのかは使い方次第と言える。そういう意味では、今回のMI-E1で最低限の機能のみに絞り、必要なアプリケーションを後から追加するというスタイルを採ったのは正解と言えるだろう。
さて、これらのアプリケーションだが、使い方的には以前のザウルスとほぼ同じだが、完全に縦型表示のアプリケーションに変更された点が新しい。横表示となるのは、ブラウザとフォトメモリーだけで、その他のアプリケーションは、メニューなども含めて、すべて縦型表示となる。メールなどで長い文章を読むには、やはり縦型表示の方が向いている。また、従来機となるMI-P10のように、必要に応じて本体を縦・横に持ち変える必要がなくなったのは歓迎すべきだ。
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ザウルスの初期メニュー画面。自分の好みのメニューのみを登録してオリジナルインデックスを作成することもできる
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予定を管理するための「スケジュール」。月間、週間、日での表示切り替えが可能。日付をまたがったスケジュールも登録できる
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「アドレス帳」には氏名、住所、電話番号、メールアドレスなどを登録可能。7桁郵便番号辞書も内蔵しており、郵便番号から住所を検索することも可能
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ToDoや仕事を管理できる「アクションリスト」。Outlook 2000の仕事に相当する機能
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手書きでメモを取れる「インクワープロ」。後から「清書」を実行することでテキストに変換できる。はじめからキーボードで文字を入力することも可能
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インターネットメールの送受信が可能なメールソフト。時間指定による自動受信や振り分けにも対応。送信先のアドレスはアドレス帳から引用できる
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画像を管理・表示するための「フォトメモリー」。別売りのデジタルカメラカード(35万画素)で撮影した画像を表示したり、ペンで図形や絵を描くこともできる
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Webページ表示用のブラウザ。128bitのSSLやJava Script、Cookieなどにも対応。フレームのページも問題なく表示できる
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■ USB接続になったパソコン連携
パソコンとの連係に関してはどうかというと、従来機から大きく変更されたのがその接続方式だ。従来のザウルスではシリアル接続だったパソコン接続ケーブルがUSBに変更されている。とは言え、内部的にはUSB?シリアルの変換をしているだけにすぎないので、基本的な仕組みは変更されていない。
このようにパソコンとザウルスをケーブルで接続すると、パソコン側とデータの同期が取れるが、この時の最大スピードは921600bpsだ。ただし、筆者がテストした限りでは、このスピードで同期できるのは、パソコン側のOSがWindows Meの場合だけだった。Windows 2000で同期させる場合には、転送速度を115200bpsまで下げないとエラーが発生してしまった。もし、Windows 2000を利用している場合にエラーが発生したときは、通信速度を下げて試してみると良いだろう。
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パソコンとのデータ同期をするための「ザウルスパワーコネクション」。パソコン連携キットに付属している。Outlook 2000とのデータ連携が可能
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データ同期の最高スピードは921600bps。Windows Meであれば、このスピードで同期を取ることが可能
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肝心の同期できるデータだが、パソコン側はOutlook 2000となる。ザウルスのアドレス帳が連絡先に、スケジュールが予定に、アクションリストが仕事に同期される。また、パソコン側にインストールしたザウルスパワーコネクション(同期用ソフト)の「ザウルス受信箱」や「ザウルス送信箱」を通じてファイルの転送をしたり、送受信したメールをOutlook 2000と同期させることもできる。
ただし、MI-E1とOutlook 2000の間でデータを同期させても、一部データが反映されなかったり、間違って反映されてしまうという問題はある。例えば、Outlook 2000では定期的なスケジュールを仕事に登録できるが、このように登録した定期的なスケジュールは、同期を実行してもザウルス側には反映されない。また、ザウルス側でアドレス帳の登録をする場合に、姓と名の間にスペースを入力しておかないとOutlook 2000側に正しく反映されない(具体的には、姓の項目に姓と名の両方が入ってしまう)。これらは、以前のザウルスでも問題になっていた現象なので、ぜひ改善してほしいところだ。
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Outlook 2000とデータ連携するのであれば、ザウルス側でアドレス帳を入力するときは、姓と名の間にスペースを挿入しておく必要がある。スペースを入れておかないと、Outlook 2000側で姓の部分に姓と名の両方が挿入されてしまう。
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このように、パソコンとの連携に関しては細かな問題があるものの、新しいMI-E1は基本機能にほとんど不備のない完成度の高いPDAであると言える。特に、前述したようにキーボードの出来は秀逸なので、店頭などでMI-E1に触れる機会があれば、ぜひ試してみると良いだろう。次回は、メールやブラウザの使い心地を中心とした通信機能にフォーカスを当てて検証していく。
■ URL
ザウルスMI-E1ニュースリリース
http://www.sharp.co.jp/sc/gaiyou/news/001121-1.html
ザウルスMI-E1製品情報
http://www.ezaurus.com/
(清水理史)
2000/12/19 00:00
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