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MVNO拡大の次の一手は? 総務省とMVNO委員会が取り組みを解説

 総務省とテレコムサービス協会MVNO委員会は、MVNO事業者や関係者を対象にした、法改正の動向や自主基準の改定といった最新の取り組みを解説する説明会を開催した。

 説明会では、総務省の担当者から、法改正に伴う変更点の概要が解説されたほか、MVNOの利用動向や市場動向が解説された。MVNO事業者側からの説明では、営業活動や広告の自主基準の改定、データ通信専用SIMでの本人確認の取り組み、フィルタリングサービスを推奨するガイドラインについて解説された。

 MVNO委員会には現在、37社が加入しており、政策への提言を行っているほか、消費者問題への対応も進めている。一方、同委員会には、契約数で最大手にあたるNTTコミュニケーションズ(OCN)が加入していないほか、フュージョン・コミュニケーションズ(楽天モバイル)や家電量販店系列のMVNOも大手が未加入であることなどから、委員会への参加も呼びかけられた。なお、NTTコミュニケーションズはオブザーバーとして参加し、分科会の報告書やガイドライン作成の議論には参加しているという。

2016年春施行の電気通信事業法等の改正、そのポイントは

 「電気通信事業法等の一部を改正する法律」が2015年5月22日付けで交付され、2016年春頃の施行が予定されている。電気通信事業法、電波法、放送法が対象になっており、競争促進や利用者保護を充実させる内容になっている。

総務省 総合通信基盤局 電気通信事業部 事業政策課 企画官の飯村博之氏

MVNOが「必要な部分だけを借りられる制度」、接続料の算定基準も明確化へ

 総務省 総合通信基盤局 電気通信事業部 事業政策課 企画官の飯村博之氏によれば、MNOの「接続ルール」(接続約款)は、「15年前の、MNO同士の接続を念頭に設計されたもの」といい、「現在はMVNOが多数参入しており、アンバンドルで、必要な部分だけを借りられる制度にした」。

 MVNOが借りる設備は、ガイドラインに沿う形でMNO側が決めているが、これが改正により変更され、MVNOが必要な部分だけを借りられる制度を導入する。MNOが貸し出す部分は総務省令で定められるようにし、MVNO側ではより柔軟なサービスを提供できるようになる。

 また、接続料の算定についても、「適正な原価」や「適正な利潤」の内容をガイドラインにそって事業者が決定しているところを変更。今回の法改正では、総務省令で定められるようにして、基準を明確化する。

 ほかにも、大手の通信事業者がドコモ、KDDI、ソフトバンクに収斂して寡占化していることを鑑み、公正競争の確保、サービスの安定的な提供といった観点から、経営形態に大きな変更が生じる合併や株式取得などで、審査を実施する。

 合併や株式取得では、電気通信事業の登録の更新を義務付け、審査により、登録の更新や登録条件の付与、更新の拒否が実施される。

 このほか、NTTドコモのシェアが低下し3社が拮抗していることから、禁止行為規制が緩和され、NTTドコモを対象としている禁止行為の対象が「グループ内事業者への優遇」に限定される。これにより、ドコモは製造業者などでは特定の事業者との連携が可能になり、例えば自動車メーカーや警備会社といった、M2M、IoTなどの分野で新サービスや新事業の創出が期待されている。

法改正、販売現場での利用者保護の取り組み

 通信サービスでは、利用可能な場所などを事前に確実に知ることが困難として、いわゆるクーリングオフ制度が導入される。同時に交付が義務化される契約締結書面の受領から8日間は、事業者側の合意なく契約を解除できる。ここでは、事業者からの損害賠償や違約金の請求も禁止される。一方、解約までに利用した通信料や工事費などは対価として支払う。

 このほか、嘘を禁止する「不実告知」の禁止、故意に事実を告げない「事実不告知」の禁止、契約を締結しない旨を意思表示した場合に、勧誘を継続する行為の禁止といった、販売・営業面での利用者保護の取り組みが強化されている。

 加えて、電気通信事業者には代理店への指導の措置が義務付けられる。これは、サービスが多様化・複雑化する中で、販売代理店から適切な説明がなかった、不実告知をされたといった苦情が増加していることに対応するもので、通信事業者に対し、代理店を監督する義務が強化される。

電波法は海外からの持ち込み端末に対応

 訪日観光客などが海外から持ち込む携帯電話やWi-Fi対応の端末については、電波法が定める技術基準に相当する基準に適合していれば、国内での利用が可能になる。これまで総務省の見解として示されていたが、改正する電波法で明文化された形。「電波法が定める技術基準に相当する」というのは、ITUが勧告する国際標準などで、米国のFCC認証、欧州のCEマークなどが想定されている。なおWi-Fi端末については、海外の来訪者の入国から90日以内の間で利用可能としている。

 違法な無線機器については、取り締まりの対象が拡大し、混信などを与えた無線機器と「同一の設計」の無線機器を販売することに加えて、「類似の設計」の機器を販売した場合も勧告の対象になる。

MVNO市場の実態と総務省の取り組み

 MVNO市場の動向については、総務省 総合通信基盤局 電気通信事業部 事業政策課 競争評価担当室長の富岡秀夫氏から解説された。5月に総務省から案内されていた調査資料などをもとに、その数字の読み方や注意点が語られた。

総務省 総合通信基盤局 電気通信事業部 事業政策課 競争評価担当室長の富岡秀夫氏

 2014年12月時点でのMVNOの契約数は892万件で、これには、いわゆる格安SIMなどではない、M2Mなども含まれているとした。一方で、富岡氏は、「MVNOが二千数百万台と出る場合もある。朝日新聞が先日出していたが、これは『MNOであるMVNO』の数字が含まれたもの。KDDIがUQから卸提供を受ける数や、ソフトバンクがWCPから卸提供を受ける数が含まれ、MVNOの実態を反映したものではない」と、数字のからくりを解説する。

 MVNOのうち、格安SIMの契約数は「195万件+α」とする。総務省の調査では「その他」(128万件)に含まれるMVNEから提供を受けるMVNOがいることから、こうした表現になっている。

 事業規模では、SIMカードを提供するタイプで、50万件以上の契約者を持つMVNOは2社で、契約数を公表しているIIJと、もう1社はNTTコミュニケーションズと思われることが明らかになった。

 MVNOがMNOに支払う接続料(L2接続、10Mbpsあたり)は、総務省に届出のあった料金によると、2014年度はドコモが前年度比23.5%低減し、月額95万円になった。KDDIは前年度比57.6%低減の月額117万円、ソフトバンクは前年度比61.5%低減の月額135万円だった。「KDDIとソフトバンクは、1年前はドコモの2倍、3倍だったが、2014年度はドコモに近いところまできた。格安SIMでドコモが多い要因は接続料だったが、だいたい近づいてきた。多様なMVNOが出てくることを期待したい」(富岡氏)。

 富岡氏はまた、MVNOの認知度がこの1年で向上する一方、通信品質やサポートへの不安は増えているとして、「これからは品質で他社との違いを強調できるかが重要になるだろう」との見方を示している。

 同氏からはこのほか、MVNOの利用における端末の入手方法を調査し、この1年でSIMロックフリー端末を購入するという方法が増加したという結果を示し、流通が拡大している様子を示した。

 また、最近の総務省の取り組みとしては、改正ガイドラインで改めてSIMロック解除の義務化に取り組み、各キャリアが方針を示したことを取り上げ、2014年10月に発表された「モバイル創生プラン」に基づいた取り組みであることを紹介した。

 富岡氏はMVNOの契約数について、2016年中に約1500万契約にするという成果のイメージを改めて示し、現在の2014年末で892万件になった成長ペースが続けば、「不可能ではない」とした。

 2年契約などの期間拘束型の契約、いわゆる2年縛りに付随する課題については、無料で解約できる期間を2カ月に延長する、更新月にプッシュ型で通知するといった検討を進めている段階で、「7月には方向性をまとめる」とした。違約金を払うことなく2年契約を解除できるタイミングが、より明確化することで、「MVNO事業者にとって、SIMロック解除と同等の、重要なマイルストーンになるだろう」とし、MVNO市場の拡大に重要な取り組みであると位置づけている。

営業活動での自主基準を改定、実効速度の掲載も検討へ

 電気通信サービス向上推進協議会からは、MVNOの営業活動に関する自主基準の改定が説明された。

 すでに総務省からガイドライン案が示されている、通信速度における実効速度の表示は、当初はMNOが中心になって対応する見込みだが、MVNO側も対応してほしいとMNO側から依頼がきているとのことで、MVNO側でも自主基準を設けて、表示するかどうかを検討していく方針。実測値については計測体制をチェックする機構も作るとした。

 このほか、再勧誘の禁止といった、電気通信事業法等の改正と連携した改正が行われる見込みで、自主基準違反については是正を求め、是正されない場合は事案を公表するといった規定を設けたことが解説された。

データ通信専用でも本人確認、青少年の利用にフィルタリングを徹底へ

 MVNO委員会 消費者問題分科会 主査の木村孝氏からは、MVNOにおける本人確認、フィルタリングの提供について、中間報告と活動内容が説明された。

MVNO委員会 消費者問題分科会 主査の木村孝氏

 同委員会では、データ通信専用のSIMカードの契約においても、不正利用防止の観点から本人確認を自主的に実施する方向で検討している。争点となるのはWebサイトでの販売など、非対面での販売で、ユーザーが持つ国内キャリアの携帯電話から電話をかけてもらい確認するといった手法や、クレジットカードでの決済、主に訪日外国人を想定しパスポートや運転免許証などのコピーを確認するといった5種類の方法が想定されている。

 木村氏は、データ通信専用のSIMカードにおける本人確認は「法律上の義務ではない」とした上で、「安心・安全の観点からは望ましい。あまり厳重だと不便になり、手続きがMVNOの負担になる。バランスをとって、中間的なものにした。今後ガイドラインの形で提供していきたい」と概要を語っている。

 木村氏からはまた、青少年を対象にしたフィルタリングサービスの導入についても、報告書とガイドラインが作成されたことが報告された。「MVNOでは、青少年(未成年者)は契約できないことが多いので、親が契約して子供が使うケースがある。利用者が青少年の場合には、フィルタリングサービスの説明をしましょうというもの。フィルタリングはデータ通信でも、MNOと同様に説明義務もある」と、改めて確認し、アプリなどのフィルタリングサービスも紹介しながら、取り組みの強化を呼びかけた。

太田 亮三