NTTドコモが東日本大震災後初の総合防災訓練を実施


 NTTドコモは15日、「NTTドコモグループ総合防災訓練」を、東京・有明にある国営東京臨海広域防災公園で実施した。同社は2010年まで同様の防災訓練を毎年行っていたが、2011年は東日本大震災の影響で実施されず、今回が震災後初の防災訓練となった。大勢の招待客や一般客、関係者らが見守る中、解説を交えながら災害時における緊急用通信設備の設置に関わる実技訓練や、自衛隊所属のヘリコプターによる通信機材の運搬などを披露した。



冒頭でspモードの通信障害についてお詫び

NTTドコモ 災害対策室 室長 山下 武志氏

 防災訓練に先立ち、同社の災害対策における取り組みについての概要説明が行われたが、その冒頭で、同社の災害対策室 室長 山下 武志氏は、14日18時頃から発生していたspモードメールやdメニューなどにおける通信障害について触れた。同氏によると、spモードサービスを監視するネットワークの増設工事を行っていたところ、設定漏れがあり、運用監視ネットワークに輻輳が発生、それが商用サービスにも影響を与えたとのこと。影響範囲は約270万人という。「昨年から発生していた一連のネットワーク障害において再発防止策を錬ってきたが、そのさなか、再びこのようなご迷惑をおかけしたということで、重ね重ね深くお詫び申し上げます。再発防止に向け、全社を挙げて取り組みたい」とお詫びした。

 また、防災訓練の開始前には、同社の代表取締役 副社長 岩﨑 文夫氏が囲み取材に応じ、今回の防災訓練に関わる内容だけでなく、spモードにおける障害にも言及。「商用サービスとは分離された監視制御系の増設に関わる今回のような設定変更は、これまで何度も行っているもので、その経験上、夕方の時間帯に工事を実施した。どこに原因があったのか、現在は詳細に調査を行っている段階。こういった設定変更では事前に(各作業を)チェックするプロセスもあるが、そこでチェックリストに引っかかったものの、次の工程で活かされなかった。今後、他の工事などにおいてもしっかり(プロセスを)見直していきたい」と述べた。

震災の教訓を活かした新たな追加防災対策を策定

 お詫びの後、山下氏は予定通り同社の災害対策への取り組みについて解説。同社が掲げる災害対策の3原則として、「システムとしての信頼性向上」、「重要通信の確保」、「通信サービスの早期復旧」を挙げ、災害に耐えられる堅牢なシステムを備えること、災害が起きたときに消防等の防災機関の通信回線を優先して確保すること、災害対策用機器によって通信をいち早く復旧すること、という原則に沿うための活動を行っているとアピールした。

 こういった取り組みを進める中で発生した2011年の東日本大震災では、同社の基地局のうち全国で6720局、東北エリアでは4900局が被害によりサービスを中断することになった。震災後1カ月半ほど経過した4月30日には、東北エリアのほぼ全域で復旧を果たしたが、長時間の停電によって緊急用のバッテリーが枯渇したこと、通信の伝送路が断裂したこと、平常時の60倍という音声通信のトラフィックで輻輳が発生したことが教訓として残された。


東日本大震災時の東北地方における被害と復旧状況震災時は、サービスの中断と通信の輻輳が問題となった

 これを受け、同社は新たな災害対策の策定を大震災の直後である2011年4月から開始し、2012年2月にはおおむね策定を完了。新たに、「小型軽量マイクロエントランス装置の導入」、「海上実験調査の実施」、「ネットワーク設備の監視システムと体制の改善」という3点を主な追加対策の柱とした。

 「小型軽量マイクロエントランス装置の導入」は、非常時に交換局と基地局間の通信回線となるエントランス回線用装置の超小型版を充実させるという取り組み。マイクロエントランス設備は、平常時に使用している光ファイバーが地震などで断線した場合に、迂回して無線通信を行うためのものだが、従来の機器は幅約75cm、重さは約40kgもあり、無線通信に有利な山の上などへ運ぶことが困難な場合があった。これに対し、新たに導入した小型軽量マイクロエントランス装置は、幅約36cm、重さ約2kgと、人が背負って運べるサイズで、通信回線の復旧を迅速に行える。同社では、震災後に従来型のマイクロエントランス設備を100セット追加し、小型軽量マイクロエントランス装置を18セット新規導入した。


ドコモの災害対策3原則小型軽量マイクロエントランス装置を新たに導入

 「海上実験調査の実施」は、船に基地局を設置し、海上から陸上に向けて通信可能なエリアを作り出すという非常用通信手段の実現を検討するための技術調査。実際に10月22日、23日の2日間に渡って、総務省中国総合通信局および海上保安庁の協力のもと、広島県呉市にて実証実験を行った。船上に基地局を設置した場合、波で揺れてアンテナが傾くことで陸上に届く電波の強さが変化してしまうなど、いくつかの課題がある。現在は、総務省中国総合通信局が年度内の提出を目標に、このとき行われた実証実験のデータをまとめているところ。実用化にあたっては電波法の改正が必要となるが、山下氏は「総務省が前向きに改正の検討を進めている」と認識しており、技術面で実用の目処がつけば、電波法の改正を待って本格的な実運用の検討を進めることになりそうだ。

 3つめの「ネットワーク設備の監視システムと体制の改善」は、ネットワーク設備を監視するオペレーションセンターの信頼性を向上させる取り組み。同社のオペレーションセンターは東京と大阪に1箇所ずつあり、平常時は東日本・西日本のエリアをそれぞれ分担して監視しているが、これまではどちらかのオペレーションセンターが被害を受けて停止すると、もう一方のオペレーションセンターに監視機能を移すのに数時間かかるという状況だった。これを改善し、2012年10月以降は、一方のオペレーションセンターの監視機能がストップした場合、もう一方のオペレーションセンターに瞬時に監視機能を移管できるようにしたという。


海上実験調査の概要ネットワーク設備の監視システムを改善

多数の移動基地局車とヘリコプターを訓練に投入

 防災訓練は、同日の14時から東京臨海広域防災公園の広い敷地内で、多数の招待客や一般客、関係者らが見守る中実施された。まず初めに、大型のスクリーンが設置されたステージに岩﨑氏が登壇。「東日本大震災では、多くの困難に直面した。ライフライン事業者として、指定公共機関の責務として、有事の際にネットワークを早く復旧させるには何が必要か、これまでの災害対策では何が足りなかったか、真剣に議論してきた。その成果を今回の訓練の実演を通じてご紹介したい」と挨拶。


国営東京臨海広域防災公園岩﨑氏による開会の挨拶

 防災訓練は、同日の14時から東京臨海広域防災公園の広い敷地内で、多数の招待客や一般客、関係者らが見守る中実施された。まず初めに、大型のスクリーンが設置されたステージに岩﨑氏が登壇。「東日本大震災では、多くの困難に直面した。ライフライン事業者として、指定公共機関の責務として、有事の際にネットワークを早く復旧させるには何が必要か、これまでの災害対策では何が足りなかったか、真剣に議論してきた。その成果を今回の訓練の実演を通じてご紹介したい」と挨拶。


司会と山下氏が解説しながら防災訓練が進行した

 今回の訓練には、衛星エントランス基地局を搭載した移動基地局車4台、エントランス基地局をもたない移動基地局車4台、80KVAの出力に対応する移動電源車3台、牽引式移動電源車1台が投入され、自衛隊所属のヘリコプター1機とさらにもう1機のヘリコプターも登場した。


衛星エントランス基地局搭載車
衛星エントランス基地局搭載車
パラボラアンテナ付きの車両が衛星エントランス基地局搭載車。その他は移動基地局車移動電源車
移動電源車
牽引式移動電源車

 移動基地局車は、会場内の定位置に移動してから車両を固定し、油圧で10mの高さまで伸ばすことのできる支柱の先端にアンテナを取り付けて高々と展開。衛星エントランス基地局搭載車は、移動基地局車と同様のアンテナと、衛星パラボラアンテナを展開して通信可能なエリアを作る。その後、自衛隊のヘリコプターによって可搬型衛星基地局が運ばれ、作業員が組み立てを行った。この可搬型衛星基地局は全国で26台配備されており、実際に2012年7月の九州北部豪雨でも使用されたという。


ヘリコプターから可搬型衛星基地局が降ろされ、機材を移動
ヘリコプターから可搬型衛星基地局が降ろされ、機材を移動
可搬型衛星基地局を組み立てる

 続けて、小型軽量マイクロエントランス装置を持った作業員2人が到着。装置のアンテナは前述の通り約2kgだが、装置全体ではおよそ8kg。とはいえ、リュックサックに入れて人力で運搬可能なサイズになっている。鉄塔を模した柱にこの装置を取り付け、その後の移動電源車と牽引式移動電源車の到着により、伝送路として機能するようにした。最後に、もう1機のヘリコプターによって、避難所などで提供する臨時の貸し出し用携帯電話と充電機材が届けられたことで、一連の訓練が終了した。


貸し出し用携帯電話と充電機材が届く
貸し出し用携帯電話と充電機材が届く
貸し出し用携帯電話と充電機材が届く

衛星電話などの災害時に役立つ製品、ソリューション等も展示

 同公園の敷地内にある建物「有明の丘基幹的広域防災拠点施設」では、今回の防災訓練と合わせて、いくつかの通信機器やソリューションなども展示していた。Wi-Fiルーターと組み合わせて外部機器での通信も可能にする衛星電話「ワイドスター II」のほか、コンパクトな新型衛星電話「IsatPhone PRO」、エリアメールとFOMAハイスピードに対応する通信モジュールなどがあり、いずれも災害時に活用される可能性があるものだ。


ワイドスター II

 このうち、衛星電話「ワイドスター II」は、東日本大震災時の被災地でも活躍。当時は認可前だった「IsatPhone PRO」も、超法規的に被災地で貸し出しが行われた。ちなみに、「IsatPhone PRO」の価格は8万円前後。月額基本料も4900円と、従来の衛星電話と比べてかなり安価に導入できるのが魅力の製品だ。訓練だけでなく、展示物についても興味深い内容の多いイベントで、数多くの来場者で賑わいつつ幕を閉じた。


IsatPhone PRO
IsatPhone PRO
IsatPhone PRO
エリアメールとFOMAハイスピードに対応する通信モジュール


 




(日沼諭史)

2012/11/16 13:04