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「KDDI∞Labo」第9期終了、アート/電子ペーパーのハードウェアが最優秀賞に
第10期募集は起業後の“アーリーステージ”まで拡大、大企業が続々と支援側に参加
(2016/2/23 13:37)
KDDIは、スタートアップ企業の支援プログラム「KDDI∞Labo」の第9期が終了し、最優秀賞チームとして「uusia」(ウーシア)を開発したCAMELORSを選定した。
「uusia」は、フォトフレームのようなインテリア・アートとしての電子ペーパーディスプレイと、世界中のアーティストが登録できイラスト・写真を売買できるプラットフォームを組み合わせて開発された製品。独自性、市場性、完成度から最優秀賞に選ばれた。今後はイラスト・写真の売買プラットフォームのベータ版が3月末にリリースされ、電子ペーパーディスプレイ「uusia picture」は5月に米国でのクラウドファンディングにて本格的な立ち上げが予定されている。
「KDDI∞Labo」第9期のスタート時点で発表されていたように、発表前のプロジェクトを基本に、オリジナルプログラムが4チーム、ハードウェアプログラムが2チームの合計6チームが選定され、2015年10月からの5カ月でサービスリリースをゴールに取り組んだ。一般企業によるパートナー連合は今回も設けられ、スタート時点で明らかになっている課題の解決や独自色の絞り込みといったメンターとしての積極的なチームへの参加に加えて、需要の調査や要望のヒアリングなどさまざまな場面でパートナー連合企業の枠組みが活用された。
第10期からは「アクセラレータプログラム」に運営方針を変更
第10期は2月22日より募集を開始している。応募が多数の場合は先着順で締め切りが早まる場合がある。第10期では、これまでのスタートアップを対象とした「インキュベーションプログラム」から、「アクセラレータプログラム」に運営方針が変更されるのが特徴。
具体的には、募集チームの対象が拡大され、すでにサービスや製品を公表済みの、成長を望むアーリーステージのベンチャー企業やチームも応募できるようになる。合わせてプログラムのゴール設定も変更され、これまでのゴール設定だった「サービスリリース」に加えて、事業を公表済みのチームには「事業成長」がゴールとして設定される。
日本MS、JAL、NHKと民法各社などが新たに「パートナー連合」に
メンターやアセット・ノウハウの提供で参加するパートナー企業には、新たに日本マイクロソフトや日本航空(JAL)、NHKメディアテクノロジーと民放など12社が加わり、合計31社がパートナー連合として参加する。
第10期では特に、NHKとテレビ東京、TBS、日本テレビ、フジテレビが加わる(テレビ朝日は参加済み)ことでキー局が揃うなど、放送業界全体がテクノロジーやイノベーションの発掘に動き始めたことを窺わせる形になっている。
パートナー連合のうち、事業提携までを視野に入れた支援を行う「アクセラレータ企業」は、Google、セゾンカード、KDDI、Xacti、Supership、ソフトフロント、凸版、日本マイクロソフトとなっている。
KDDI高橋氏が語る第10期とベンチャー支援の方向性
第9期の総括と第10期の方向性については、KDDI 代表取締役執行役員専務の高橋誠氏から解説が行われた。
1年前から開始したビジネスマッチングの取り組みについて高橋氏は、「KDDI∞Labo」を“卒業”していったスタートアップ企業などと一般企業による、業務提携や開発協業を行うといった具体的なコラボ案が約100件にも上っているとする。また、「KDDI∞Labo」卒業チームが、パートナー企業を訪れてプレゼンを行う取り組みを実施し、企業の中の“新規事業部”だけではない、幅広い事業部門とのビジネス機会を探っている様子が説明された。
第9期では、KDDIが主催する「KDDI∞Labo」と平行して、地方自治体との連携として、大阪市、石巻市、広島県、福岡県の4つの自治体とパートナー企業の協力により各都市でもスタートアップ企業を支援する取り組みが行われた。「KDDI∞Labo」の第9期の成果を披露するデモデイ(2月22日開催)では、地方自治体連携の取り組みとして4チームが登壇、地域の課題に取り組んだり特色を活かしたりするサービスを具体的な形で披露した。
また、「KDDI∞Labo」の卒業生としてBairtail(Dr.Wallet)、葵(アオイゼミ)、Ridilover(TRAPRO)の3社が登壇し、「KDDI∞Labo」参加前後の比較や現在の状況が報告された。
目標は企業のコア事業とのコラボレーション
「スタートアップ支援の環境は整備されつつある」と、高橋氏は産官学と取り組みが具体化していることなどを例に、現在の状況を分析する。一方で、課題として多く指摘されるのは、日本のスタートアップのイグジット(投資家の資金回収≒一定の成功)はIPOが8割近くを占め、M&Aが8割という米国と比べて、エコシステムが脆弱であることと指摘する。
KDDI自体はM&Aでベンチャー企業を度々買収しており、日本でのベンチャー・エコシステムの醸成に積極的に関わっている。高橋氏によれば、「au WALLET」のコアとなるプリペイドの決済は、同社が買収した、ベンチャー企業だったWebMoneyのチームがKDDIの中で広めていった事業が基になっているという。
こうした観点を含めて、高橋氏は、スタートアップ企業の課題のうち、サービスローンチ後の成長で重要なポイントになるのは、企業側の“既存事業”と指摘する。
スタートアップ企業のチームや担当者の多くが接する、企業側の担当者は、「新規事業部門」に所属しているケースが多く、その素性からも、支援に前向きだ。その一方で、企業には通常、稼ぎ頭としての既存の事業部門があり、経営層の多くには、スタートアップ企業がもたらすインパクトは見えづらい。前述の、スタートアップのチームが企業側を訪ねてプレゼンテーションを行うといった取り組みは、こうした企業側のスタートアップ企業に対する姿勢を変化させる狙いもある。
いわば本命である企業の既存のコア事業と、スタートアップ企業のイノベーションが掛け合わさることで「社会にインパクトのある、新たな価値を創出できる」というのが、高橋氏が第10期を含めて示した今後の方向性になる。