インタビュー

mineoがマルチキャリア化の道を選んだ理由

mineoがマルチキャリア化の道を選んだ理由

ケイ・オプティコム津田氏が語るMVNO事業の今後

 MVNOでは日本初となる個人向けマルチキャリアサービス――mineoがau回線に続いてドコモ回線でもサービスの提供を始めた。同時にauプランの料金値下げ、基本料金の割引キャンペーンも開始。「mineo史上最大のキャンペーン」と自らアピールする。なぜ今ドコモなのか。このタイミングで大々的にキャンペーンを実施する理由とは。mineoを提供するケイ・オプティコムのキーパーソン・津田和佳氏に聞いた。

当初からドコモプランの提供も検討していた

ケイ・オプティコム モバイル事業戦略グループグループマネージャー 津田和佳氏

――先日(8月18日)に発表会が開かれ、とくにドコモ回線を利用したプランについて、話題になっています。まずはドコモプラン導入の背景について教えてください。

津田氏
 mineoは昨年の6月にauの回線を利用したMVNOを初めてスタートさせたわけですが、これはMVNO業界の盛り上がりという点では良かったと思っています。ただ、当然ですが、それだけではauのお客様にしか利用されません。私どもとしては、mineoをもっといろんなお客様に使っていただきたい。ドコモプランであれば、ドコモのお客様、SIMロックを解除すればソフトバンクのお客様にもご利用していただけますので、選択肢が広がりますよね。

――mineoを始めるにあたって、もともとauとドコモ、どちらの回線もやろうと考えていたのですか?

津田氏
 もちろん意識はしていました。先にau回線を選んだのはブルーオーシャン戦略、話題性もあるだろうと最初はau回線にしたんですね。ただ、もともとドコモ回線を使うプランというのも考えてはいたので、いつからやろう? というのがありました。お客様への対応などを検討しておよそ1年たった今がいいだろう、と今年の初めくらいに、ドコモプランの開始を決断したんですね。

――発表会の際も質問がありましたが、au回線でiPhoneが使えない、というのが理由では無いと。

津田氏
 そうですね。au回線の件については今もユーザーさんから問い合わせがありますし、KDDIさんとアップルさんにも申し入れをして進めようとしています。しかし、その声が多いためにドコモプランを始めた、というわけではありません。日本のケータイユーザーのシェアはドコモ、au、ソフトバンクで4:3:3になっていますが、今までのmineoはauのユーザーである3割の人にしか使ってもらえませんでした。我々としては残りの「7」のほうのお客様にもmineoを使ってもらいたい。そのためのドコモプランです。

――iPhone問題が影響したわけではないのですね。

津田氏
 もちろん、ドコモプランの導入でドコモ、ソフトバンク、SIMフリーのiPhoneのユーザーにもmineoを使ってもらえるようになりますが、それでもauのiPhoneの方が使えないのは変わらないわけです。我々としてはiPhoneで一番力を入れて改善しないといけないのはそこですから。

――まもなく次のiPhoneの発表があるのでは、と言われていますが……。

津田氏
 ドキドキしますね(苦笑)。すぐに検証をして、使えるのなら使える、ダメな場合でも早めに皆さんにお知らせしないといけないな、と思っています。

――Windows Phoneについてはどうお考えですか?

津田氏
 今のところはWindows Phone用に何かするということは無いですね。もう少し市場の動きを見て、というところです。

SIMロック解除を追い風に

――ケータイ業界としては、今年5月発売の機種から6カ月経つとSIMロックが解除できるようになります。この秋冬がそのタイミングなわけですが、ドコモプランはそれも狙っていたのでしょうか?

津田氏
 いえ、本当はもっと早く出したかった(笑)。粛々と進めていたらこの時期になったというだけですね。結果的に良いタイミングにできたかな、とは思っていますが。

――SIMロック解除が追い風だと感じていますか?

津田氏
 追い風だとは思いますが、ユーザーの皆さんにどこまでSIMロック解除が浸透しているのかという問題がありますね。ケータイ各社のSIMロックの解除方法も違いますし、この11月が一つの盛り上がりになるはずなので、その様子をまず見て、広まってほしいと思っています。

――ドコモプランに合わせてauプランも値下げし、データプランの料金が同じになりました。料金を同じにしないという方向もあったと思いますが、理由は?

津田氏
 たしかに料金を同じにしないという案もありました。でも、お客様が混乱しますよね。そもそもmineoを始めるとき、一つのコンセプトとして、「料金をシンプルにしよう」というのがありました。データプランを選んで、音声を付けるかどうかで料金が分かる、それがmineoの仕組みです。お客様も間違いませんし、プロモーション上も分かりやすいということで料金を統一にしたんです。

データ通信のみのプラン
音声通話対応のプラン

――回線の卸の値段(接続料)はauよりもドコモのほうが安い。しかしmineoの場合、auプランのほうが音声を付けると、ドコモプランより安くなる。なぜこれほどauプランのほうが安いのですか?

津田氏
 卸の値段についてはそれぞれドコモさん、auさんの話になりますが、mineoの音声の値段は卸価格に合わせて市場通りの値段になっています。むしろデータ回線のほうですね。auプランは値下げして、接続料を考えると正直厳しい。ただ、そこはトータルで十分採算がとれるとふんで、この料金プランにしました。

自信があるからこそできるキャンペーン

10月末まで大幅な割引キャンペーンを展開

――さらに料金面では割引も加わりましたね。

津田氏
 そうですね、家族割と複数回線割を始めましたが、各回線月50円引きです。これはユーザーのコミュニティサイトである「マイネ王」の中で、奥さんや子供に勧めたいという声があったんですね。使ってもらえばmineoの良さが分かり、安さも分かる。一人あたり月5000円くらい安くなった、なんて声がありますから。この割引をキッカケにそういうユーザーが増えてくれればな、と思っています。

――パケットギフトもユーザーには嬉しいかもしれませんが、サービスを提供する側からすると面倒そうですが……。

津田氏
 これも家族だけでなく、他の友達や離れた家族にプレゼントしたい、という声があったからですね。もともとmineoからのギフトや、家族間で贈ることはできたので、それならこのタイミングでやってしまおう、と。

――キャンペーンも先行予約で基本料が9カ月無料と相当長いですよね。

津田氏
 ドコモのMVNOとしては相当後発ですからね。もしかしたら我々が最後かもしれない。そんな我々がドコモのMVNOも始めました、と皆さんに分かってもらうためには大々的なキャンペーンが必要だろうと考えました。mineoがサービス開始した昨年6月のとき以上のものをやらないと。先行予約でなくとも6カ月無料、auプラン+AQUOS SERIEのセットは24カ月無料、さらにもう最低利用期間も撤廃しているので、ハードルも低くインパクトがあるかな、と思っています。

――このキャンペーンは御社の持ち出しになると思うのですが、どれくらいのユーザーが残るとお考えですか?

津田氏
 そうですね、昨年も基本料無料のキャンペーンを行い1年経って解約するお客様もいるんですが、ほとんどの方は残っています。もちろん最低利用期間の撤廃で解約率は少し増えましたが、我々の想定の範囲内。思った以上のお客様が残っていただいているという状況ですね。

――今回も想定内で収まると?

津田氏
 残っていただけると思っています。やはり使っていただくと良さを分かっていただける。とくに「こんなに安くなったの!」と実感してもらえる。使い勝手はキャリアさんのものと変わりません。そこは自信を持っています。もちろん昼休みはネットワークが混みあうので通信速度が落ちる、ということはありますが、そこは料金とのバーターで、ご理解いただける品質だと思っています。それでも、もしやめたい、という場合はキャンペーンで最低半年は無料で試してやめられますよ、と。とにかく一度使っていただきたいんです。

――最低利用期間の撤廃など自信があるからこそですよね。

津田氏
 自信もそうですし、加入の障壁としてお客様からの声で「最低利用期間がある」というのが一つ強くありますからね。それなら無くしたほうがいいよな、と。

――先行予約のほうはもう終了しましたが、加入者の状況はいかがでしょう?

津田氏
 8月18日に先行予約を開始して、8月31日までにドコモプランはざっと2万3000件といった数字です。auプランの1日の申し込みも普段の倍近くになりましたね。1.5~2倍くらい。ドコモプランは1日にサービスを開始しましたが、初日だけで約5000件の申し込みがあり、今もコンスタントにお申し込みをいただいています。今のところ順調に受け入れられているかなと思っています。

こまめにプランを切り替えれば、さらにお得に

――人気のあるデータ容量はどれになるんでしょう?

津田氏
 それは3GBのプランですね。他社さんも出していますし、比較してお得感がある。あとは弊社ならではの1GBと500MBのプラン。3GB、500MB、1GB、5GBという順で人気がありますね。mineoでは毎月料金プランをWebサイトから簡単に無料で変更できますし、パケットの繰り越しもできますから。3GBのプランで2GB余ったから、翌月は500MBのプランにして2.5GB使う、その翌月は1GBのプランにする、といったこまめな変更をしていただくとより節約になる。そういうユーザーさんも実際におられます。

――1年後にauプランとドコモプランの割合はどれくらいと想定しているのですか?

津田氏
 ドコモのMVNOは他社さんのサービスもたくさんありますし、auのMVNOは少ないので、来年の段階ではauプランのほうが多いかな、と見ています。ただ最終的には半々くらいになるのではと思っています。

ドコモプランでも空白期間無しでMNP

――ドコモプランですが、MNPの場合もユーザー自身が希望したタイミングで開通できる仕組みになっていますよね。他社では2~3日電話が使えない空白期間があると思うのですが、なぜ御社は可能なんでしょう?

津田氏
 お客様が申し込まれたときにSIMにお客様情報と電話番号を書いておくんですね。今までは、そこからドコモがアラジン(ALADIN=ドコモの顧客情報管理システム)で切り替える作業がありました。その作業を行った上でSIMを発送しますので、それで2~3日ケータイが使えなくなるわけです。mineoではこの切り替え作業をせずにSIMに情報を書いたら、そのままお客様に送ります。この時点では古いケータイもそのまま使えます。SIMが届いたら、弊社のオペレーターに電話をしていただく。そこで切り替え作業を行うと古い回線が止まり、新しいSIMの回線が使えるようになる、という仕組みです。

――電話以外による切り替えも考えているのでしょうか。

津田氏
 Webを使った方法ですね。これは年内にもと思っています。ただ、この仕組みは電話で行うのと同じで、Webで申し込みがあったときに弊社のオペレーターが切り替えの作業をするわけです。ゆくゆくはオペレーターを介さず、自動的に切り替えられるauのMNPと同じような仕組みにしたいと考えています。これはドコモさんと話し合いながらということになりますね。

――ドコモプランは現在SIMだけの提供ですが、端末も御社から出す予定ですよね。独自色の強いものになるんでしょうか。

津田氏
 最初に出す端末は他社さんからも出ているものになりますね。もちろん独自の端末も考えていまして、話が今後まとまれば出せます。ただ、コストの問題があるので、メーカーさんとしても端末のボリュームがないと、ということになりますし、そのときどきで判断していくことになりますね。

――auプランの場合は、SIM単体と端末とのセットでは、購入の割合はどの程度なんでしょうか?

津田氏
 SIM単体が8割、端末セットが2割くらいになります。端末を売るためにどんどん推していくということは考えていませんが、セットで欲しいというお客様は必ずいるので、常に端末を用意しておくということは考えています。だから今回ドコモプランのスタートのタイミングで端末を用意できなかったのは残念ですが、できるだけ早く提供できるように進めています。

――au、ドコモときましたが、ソフトバンクの回線でMNPということも考えているのですか?

津田氏
 実際に動いているわけではありませんが、そういう声が多ければ対応していく、という覚悟はあります。ソフトバンクさんのユーザーはiPhoneのお客様が多いと思うので、この場合はSIMロックを外さずに使える古いiPhoneで利用、となるでしょうね。SIMロックを外せる最新のiPhoneになるとドコモプランを使えばいい、となるでしょうし。

ユーザーとのコミュニケーションを大切に

グランフロント大阪の北館3階に設置された「mineoアンテナショップ」

――ショップ展開に関してはどうでしょう? 他社は力を入れてきています。mineoは大阪駅前(グランフロント大阪)にありますが、東京や全国の他の都市には?

津田氏
 普及させていくには大事なところですね。ショップをやって良かったことには、格安スマホに興味はあるんだけど、一歩踏み出せない方へ説明ができる点です。そこで納得してもらって加入してもらえる。ただ、次の店舗を出すにはまだ時間が短すぎます。もう少し効果を見極めたい。それまでは大阪のアンテナショップに力を入れて、全国展開は考えていません。

――他社では量販店にショップを置いていることもありますが。

津田氏
 我々の試算ですとコストがちょっと厳しいかな、と判断しています。すでにAmazonをはじめECサイトで購入する方も増えていますし、そこまでするよりも、その費用をお客様にできるだけ還元したい。またマイネ王のようにクチコミで広げていけたらな、とも思っています。もちろん説明を聞いて加入したい、という意見も分かりますので、そこは何かできないかな、と検討していますけどね。

――量販店にコーナーを作るだけではダメ、ということですね。

津田氏
 受け答えをしていけるようにしたいと思っていますね。関西では量販店に弊社のeo光のスタッフもおりますので、そこと連携したりとは考えています。

――御社のWebサイトを見ていると、しばらくするとチャットで何か質問はないかと聞かれますよね。びっくりするんですけど(笑)。

津田氏
 どんどん聞いてください(笑)。分からないことはもちろん、分かっているんだけど確認したい、自信が無いといったことを質問してもらえれば。「大丈夫です」という一言がほしいというお客様が多いんですよね。

――チャットでコミュニケーションがあるんですね。

津田氏
 あります。電話以上に喜ばれていますね。チャットだと文字を打つときに少し考えますから、より良いコミュニケーションになるのではないでしょうか。

カウンターではmineoに関するさまざまな疑問に答えてくれる
店頭では加入にあたって、さらに得するパッケージも取り扱っている

さまざまなサービスにチャレンジ

――海外へ行く方向けのサービスも始めましたが、ニーズは高かったのですか?

津田氏
 お客様からニーズが上がってきたというよりは、私たちが出張をしていて欲しいと思ったから、というのが大きいですね。今までは海外用のモバイルルーターをレンタルしていたんですけど、すぐに電池が無くなる。だから充電器を持っていくのですが、これが重い。さらに個人用、会社用のスマホ、ノートパソコンまで持ち歩くと面倒ですよね。これがプライベートの旅行になると、レンタルせずに我慢する。空港やホテルの無料Wi-Fiだけを使う。これだけTwitter、LINE、FacebookとSNSを使ったコミュニケーションが流行っているのに、海外に行ったときに使わないなんてあり得ないじゃないですか。むしろ海外に行ったときこそ写真を撮ったりして使いたい。そこを我慢せずに済む方法をと考えたんです。

――キャリアの海外パケット定額は1日数千円しますからね。

津田氏
 そこを安くできないかな、というのがあって、他社もやっていませんし、ならと思って海外の企業と連携して始めてみました。これから増えていくとは思っていますが、まだSIMを挿すという文化があまり定着していないのが課題です。

――ケータイ Watchの読者なら当たり前かもしれませんが。

津田氏
 そうなんです。普通にやられている方もいるんですけど、まだ少ない。APNの設定とか一度やってしまえば簡単なんだけど、そこが難しそうに思われている。だから天から降ってくるように、簡単に設定できれば、と検討しているんですけどね。これからSIMロックの解除で、端末とSIMを分けて考える人が増えていくはずなので、数年後には受け入れられるのではないか、と思っています。

――現状では海外用は音声通話無しのデータ専用SIMですが、発表会でも指摘されていましたが、いつもの国内で使っているSIMに電話がかかったときに、海外のデータSIMに簡単に転送する仕組みはできないんでしょうか? LaLaCall(050IP電話)もありますし、転送料を安くするとか。

津田氏
 おっしゃる通りで、そこは工夫して簡単に電話を受ける仕組みを作ろうと考えています。

――海外用のSIMを通話用に対応させる考えはないのでしょうか?

津田氏
 料金がどうしても高くなってしまうというデメリットもあります。ビジネス用途ならいいのですが、プライベートで使うにはLINEなど無料のサービスもありますし、わざわざ高い通話料を払って電話を使うかな、と思っています。

――訪日外国人向けのSIMも始めましたね。大阪駅周辺のホテルも外国人利用者が多くなっています。

津田氏
 本当に多くなりましたね。私どものSIMはクリアファイルになっていて、パスポートを入れることができます。日本の観光地もプリントして、少しでも日本に馴染んでいただけたらな、と思ってデザインしています。

――法人向けのサービスも提供していますよね。

津田氏
 auプランは既に始めていますし、ドコモプランも年内に提供を予定しています。中小企業向けという見方もあったのですが、意外と大企業さんからもお話がきていますね。大きな会社さんでは複数キャリアと契約している場合があるので、そこの置き換えとなるとマルチキャリアである我々に強みがあるのでは、と思っています。一度に1000件といった単位の加入になるので我々としてもありがたいですし、使っていただいている企業様もパケットのシェアや繰り越しができるので、コストを下げることにつながると思いますね。

――最後にちょっと余談かもしれませんが、最近はIoTやウェアラブルといった、スマホ以外の通信の使い方が出てきています。そのあたりはどう考えているのでしょうか。

津田氏
 すごく検討していますね。M2Mでいろんな機器を感知したりといったことは前からできてはいたのですが、これからはこれまでできなかったこともできるようになるでしょうね。また、できていたこともお金をかけずにできるようになります。個別の案件で引き合いもあって、そういったサービスを屋外で使った場合の監視できる端末を実際に作ったりもしています。

――まずは法人向けということでしょうか。

津田氏
 そうです。ただ我々だけでそういったソリューションの提供は難しいので、SIerさんやセンサーを開発しているメーカーさんと協力してできればと思っています。低料金だからこそできるサービスもあると思いますし、我々がそのへんを切り開いていかなければなと思っています。

――本日はありがとうございました。

小林 誠