インタビュー
マイネ王、フリータンクなどコミュニティ強化で攻めるmineo
ケイ・オプティコムが目指すMVNOのあり方とは
(2016/1/13 16:00)
MVNO事業者としては後発ながら、au回線を使用するサービスからスタートし、安価で魅力的な料金プランをいち早く打ち出すことで多くのユーザーの支持を得るに至ったケイ・オプティコムの「mineo」。2015年にはNTTドコモ回線にも対応しつつ、単に格安SIMサービスを提供するだけでなく、mineoユーザーのコミュニティサイト「マイネ王」をスタートさせ、1月13日にはオープン1周年を迎える。
このマイネ王の中で、2015年12月17日から提供を始めたのが「フリータンク」と「チップ」という機能だ(関連記事)。フリータンクは、全mineoユーザーがパケットを分け合える1つの「タンク」を共有するイメージで、自分のパケットを預けたり、そのタンクから引き出して使うことができるもの。チップは、マイネ王での投稿に対して「いいね!」の感覚で10MB分のパケットを相手にプレゼントできるものとなっている。
こうした独特の取り組みは、なぜ生まれたのか。また、どのような成果が上がっているのか、担当者である同社経営本部 モバイル事業戦略グループの津田和佳氏にお話を伺った。
家族とも、友人とも、そうでない人ともパケットをシェアできるように
――1月13日で「マイネ王」が1周年を迎えました。改めてここでマイネ王を立ち上げたきっかけを教えていただけますか。
津田氏
当初、mineoのサービスはWeb販売が主体で、実際の店舗を作ることは考えていませんでした。そんな中でお客様の声を聞くにはどうしたらいいか、という課題があり、お客様の声を集める方法として、コミュニティサイトを開いてみようということになったのです。
例えば、「mineoって使い勝手はどうなの?」といった点を我々がいろいろ説明するよりも、お客様同士で会話してもらえるQ&Aサイトみたいなものを設置して、そこでお客様の声を一杯拾って、サービスに反映していきたい。そういう意味でも、コミュニティを運営するのが一番いいんじゃないかと考えました。
――Q&A掲示板だけじゃなく、ブログ記事のような面白ネタなど、他の企業がやらないようなこともやっていますよね。
津田氏
コミュニティではマジメな話をするだけではなくて、みんなに楽しんでもらいたい気持ちもありました。面白ネタを提供してTwitterやFacebookなどのSNSで拡散するのをきっかけに、mineoを知らない人にも興味を持ってもらって、より多くの人に楽しく参加してもらいたいなぁと。
マイネ王はmineoユーザーだけでなく誰でも参加できますし、目指すのは、スマートフォンのことで分からないことがあれば、まずはマイネ王にアクセス、マイネ王で質問したら答えてくれる、というサイトです。みんなで盛り上がってくれることがMVNOの発展にはいいのかなと思って、普通のコミュニティとはちょっと違う形で、今は専属スタッフ5名くらいで、たくさんネタを企画をしながら運営しています。
――立ち上げから1年経ちましたが、振り返ってみていかがですか。
津田氏
ユーザーの皆さんに支えられて、思った以上に盛り上がっていると思います。運営面では正直いうと、しんどいですけどね(笑)。ユーザーの方から意見を言っていただけるのはありがたいですし、できるだけ我々もそれに応えたいんですけども、特に他社との提携で実現している部分など、MVNO事業者としてはどうしても言えない部分もあります。ユーザーに理解、納得してもらえるように、情報をオープンにできるところは正直に話していますけども、どう説明するのがいいのか、日々悩みながら運営しています。その一方で評価もしていただいているので、それがすごく励みになっていますね。
――12月17日からスタートしたばかりの「フリータンク」と「チップ」ですが、これについても仕組みと狙いについて教えていただけないでしょうか。
津田氏
mineoでは基本的に家族間でパケットをシェアできる「パケットシェア」を用意していますが、それは同一住所のユーザーだけなので、離れている場所にいる家族や友達に対しては、パケットをプレゼントできる「パケットギフト」という機能を使えるようにしました。ただ、パケットギフトはやはり知り合い同士でしかやりとりできません。
そこで、mineoユーザーみんなを仲間と捉えて、みんなでシェアするという考え方もあっていいんじゃないかなと。パケットが余っている人と足りない人が互いにシェアするような形でやれればいいな、と。
mineoユーザーのみんなのパケットを1つのタンクに見立てて、余った人と足りない人がお互い融通し合うことでコミュニケーションが生まれますし、預ける人と引き出す人それぞれがコミュニティに楽しく参加できるんじゃないか。そんな思いでフリータンクとチップを始めました。
――通常ならmineoのサービスサイトでやるようなサービスだと思うのですが、コミュニティであるマイネ王の中で提供していますよね。それもコミュニケーションを意識してのことでしょうか。
津田氏
そうですね。マイネ王の活性化も兼ねていますが、コミュニケーションが生まれることで、MVNOのSIMを使っているだけでは味わえない体験をしてもらうこともできます。ちなみにフリータンクを始めてからコミュニティの参加率はすごく上がってきていて、利用者は1万7000人を超えています。
――マイネ王を拝見していると、フリータンクからパケットを引き出すだけかと思いきや、預けている人もけっこう多いですね。
津田氏
我々もびっくりしました。フリータンク開始記念のプレゼントキャンペーンでは、フリータンクに500GB貯まったら賞品当選者が2倍になるダブルチャンスを企画したんですけども、開始当初なので到達しないと思っていました。なのに、1日も経たないうちにすぐ500GBを突破してしまいました。
――ユーザーはどのプランを契約していることが多いのでしょうか。少ないデータ容量でも預けている人がいるのかどうか、というところが気になります。
津田氏
3GBのユーザーが一番多いですね。3GBの契約が多い中で、数GBなど、けっこうな量を預けている人もいらっしゃいます。ありがたいですし、それを引き出して使う人はラッキーと思っているんじゃないかと思います。預ける容量でいえば、10MBから数GBまでさまざまです。引き出す以上に預ける人が多いのも意外でした。
今はシステムの都合上でパケットシェアしていると繰り越し分からの預け入れはできないんですが、近々改善する予定です。それができるようになれば、もっと多くのユーザーが預けやすくなるのではないかと思います。
――MVNO事業者的には、全体としてパケットが余るのと使い切るのとでは、どちらが良いのでしょう。
津田氏
ピークの時間帯に通信が発生しにくくなるという意味では、事業者的には余っている方が良いです。それより余ったパケットを有効活用する方がユーザーにとってはうれしいんじゃないか、という点を優先しました。
――本来はユーザーにタンクを利用されない方が、売上の面では有利になると思うのですが。
津田氏
mineoが当初から掲げているコンセプトが「無駄なく、自分にぴったりの」でして、「無駄なし」をできるだけお客様にアピールできるサービスを作ってきました。しかし、実際にはパケットの余っている人が多い。それなら収益のことよりも、フリータンクがあるならmineoに入ろうかな、と思ってくれる人が増えてほしいという気持ちと、それによってコミュニケーションが生まれれば、という考えがあります。
家族とはパケットシェアで、友達とはパケットギフトで、それ以外でもmineoならデータ容量が足りない時にやりとりできる、というのがウケるかなと考えました。特に最初にMVNOを利用されるお客様は、自分がどれくらいパケットを消費するのか分からないことが多いはずです。そういう場合でも、足りなくなればタンクから引き出せばいい、という安心感はけっこう大きいかなと。
――大手キャリアはカードビジネスやポイントサービスなどで囲い込みを狙っていますが、それとは違ったユーザーメリットの提供という意味で、フリータンクやチップは面白い取り組みだと思います。
津田氏
フリータンクやチップはユーザー間の共通通貨みたいなものになっていますし、いずれはこれを使ってデジタルコンテンツを買ったり、音楽をダウンロードすることもアイデアとしては考えられます。他社とのそのような連携も、もう少し先には検討していきたいと思っています。
タスクフォースの議論は慎重に見極めつつ、IoT向けサービスも検討中
――iOSについてはアップデート後に接続上の問題が発生することがあったりして、御社をはじめ、MVNO各社がいろいろ苦労されていますね。
津田氏
iOSのアップデートは正式版がリリースされないと正確に(機能や仕様が)分かりませんから、検証していち早くユーザーにお伝えするべく万全の体制を敷いています。とはいえ、9月のiOS 9のリリース時にはユーザーの皆さんがいろいろ試して、我々より先に情報を提供してくれました。すごくありがたいですし、コミュニティがすごくいい形で回っていると思いますね。
――最近では総務省の「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」があり、大手3キャリアにはより低い料金体系などを求めました。また、MVNOの競争促進を図るための「顧客システムの連携」と「加入者機能の開放」というデータベースの開放に関する議論もありました。これらのMVNOへの影響をどう見ていますか。
津田氏
幅広く知られやすい場面で「MVNO」や「格安スマホ」というキーワードが出てきて、「格安スマホってどうなの?」と比較されることにもつながるので、業界が盛り上がるきっかけになれば、という意味では歓迎しています。これを一つのきっかけに、利用者が増えていけばいいと思います。
――データベース開放については、プリペイドでの音声通話サービスなど、MVNO事業者としては実現できるサービスの幅も広がりそうですが、運用コストの面では一歩踏み込まないと実現できないのかなとも思います。そこについては、どう見ていらっしゃいますか。
津田氏
検討はしていますけれども、すぐにやっていくかどうかについてはまだ結論が出ていません。それなりのコストがかかりますし、そのコストをかけてどれだけのお客様が我々のサービスを使っていただけるか、慎重に判断しなければいけませんので。データベースの開放などが前進するのは、選択肢が増えるのですごくありがたいのですが、これもやるかどうかはじっくり検討してから決めたいと思います。
――Windows 10 Mobile搭載端末の取り扱い予定はどうでしょう。
津田氏
Windowsについては今すぐに扱う考えはないですけども、そういう声が多ければ当然考えていきたいと思います。マイネ王の中でユーザー同士が理想の端末について議論していることがあって、我々はそういうのも見ていますし、要望があればサービスとして検討していくことは常にやっています。どれだけ安定して利用できるかを見ながら考えていきたいですね。
今は11月に発売した富士通製の「arrows M02」の売れ行きが好調です。値頃感の割にはそれなりに高いスペックですし、au、ドコモ、どちらのSIMも使えるという安心感もあると思います。メーカーさんには、富士通さんのようにマルチキャリア対応端末みたいなものをもっと出していただけるとうれしいですね。ユーザーとしては、(auとドコモ)どちらのSIMで使えるのか、みたいな迷いもなく使い始められますから、メーカーさんにはそのあたりをぜひお願いしたいです。
――スマートフォン以外のIoT機器向けのサービスは?
津田氏
準備しています。まだメニューとしては正式には用意していないんですが、企業からいただいたお話には個別に対応しているところで、2016年はメニュー化も含め考えています。そうするといろいろなサービスが増えて、ユーザーや企業としては、これまでお金がかかったり手段がなくてできなかったことが可能になるでしょう。スマートフォンなどのコンシューマー向けサービスをやりながら、そういった企業と連携して進めるところも力を入れていきます。
――その場合の企業向けサービスの料金プランのイメージはどうなるでしょうか。
津田氏
IoTは必ずしも大量の通信が必要になるものでもないですし、全体的な通信量がピークとなるお昼休みなど、それ以外の時間帯をうまく活用することが重要になってきます。企業の要望に応えられるような料金でやっていきたいなと思いますね。
――最後に、マイネ王とmineoの目指すところを教えてください。
津田氏
我々はMVNOとしては後発でしたが、au回線を使うサービスでスタートして、NTTドコモの回線を使うサービスも2015年9月からラインナップをそろえ、MVNOの中で一番多くの端末を使えるようになっています。mineoを使ったお客様からはすごくいいという声を聞いていますし、もっと早く使っていれば良かったと言われることもあります。その良さをもっとアピールしていきたいですね。
それと同時に、より一層コミュニティでのコミュニケーションを充実させて、みんなで楽しめるMVNOを目指したい。みなさんが受けたいサービスをどんどん言ってもらって、それを実現していきたい。そして今後は業界全体が発展できるように、より多くのお客様にMVNOを普及させたいと思っています。
――本日はお忙しい中、ありがとうございました。