インタビュー

発売から1年たっても売れ続ける「らくらくスマートフォン3」

発売から1年たっても売れ続ける「らくらくスマートフォン3」

新色追加とVoLTE対応、コミュニティの独自性が魅力を高める

新色「エアーブルー」がラインアップに加わった「らくらくスマートフォン3」

 「らくらくスマートフォン3 F-06F」は、1年以上前となる2014年7月にNTTドコモから発売された富士通製端末だ。この端末が、今になってもなぜか売れ続けているという。

 各スマートフォンメーカーの間で半ばスペック競争となっているフラッグシップモデルは、通常、発売直後が売れ行きのピーク。その後半年~1年も経てば次のモデルへとシフトしていくわけだが、そんな中にあって、らくらくスマートフォン3の売れ方は異例とも言える。

 しかも、発売からちょうど1年経った2015年7月には、新色となる「エアーブルー」がラインナップ追加された。ソフトウェア更新もほぼ同時期に実施され、VoLTE、ビデオコール、ドコモメールに対応した。このタイミングでアップデートした理由はどこにあるのか、また、なぜ1年たっても人気が衰えないのか、同社の開発スタッフにお話を伺った。

らくらくスマートフォン3の開発に携わった3名にお話を伺った

選択肢の幅を広げ、存在感を示すための新色追加

――まず最初に、新色のエアーブルーを追加した狙いを教えていただけますか。

富士通 ユビキタスビジネス戦略本部 モバイルプロダクト統括部 第一プロダクト部 原渓太氏

原氏
 既存の黒、白、赤の3色についてもユーザーの方から好評いただいてはいますが、らくらくスマートフォン3は1年前から継続販売している端末となります。なので、より多い選択肢の中から好みに合うものを選んでもらえるように、という観点と、継続販売に当たり、らくらくスマートフォン3の存在を改めて示すために、新色を投入しました。

――この色を選ばれた理由は?

原氏
 端末のデザインに関しては、日本デザインセンター様とコラボレーションしています。らくらくスマートフォン3の世界観と画面と端末のデザインの一体感がターゲットユーザーの方にウケているので、その世界観を壊さない色と、「新しく出た」という“登場感”を色で前面に出せるようなもの、というかなり難しい要望を出させていただきました。

 他の色の提案ももちろんいただいたのですが、すでに発売している黒、白、赤と並べた時に一貫性のある色合いであること。かつ、その3色と色味が被らず、迷うことなく自分の好みを選んでいただけるであろう色を選択しました。

 色の塗りも工夫しています。こういう中間色の端末って、上質な色味を出すのが難しいんですね。所有感を抱いてほしかったので、塗りの段階でいろいろな層を重ねることで、傾けると違う表情や深みがあるように見えたり、パール感にもこだわって、何回も試作を重ねて今の色になっています。

エアーブルーは筐体色とホームとの一体感を出しているのも特徴

――ソフトウェア更新も行って、VoLTEやビデオコールなどにも対応しました。このタイミングで、しかも新端末ではなく、ソフトウェア更新で実現した理由はどこにあるのでしょう。

原氏
 前提として、VoLTE対応は必須でした。らくらくスマートフォン3の“聞きやすさ”という部分はターゲット層(シニア)に対してはかなり有用です。ビデオコール、つまりテレビ電話機能も、以前から「使ってみたい」という声が確実にありました。ご家族と離れて暮らしている方も多いと思うので、ドコモ様がサービスを開始した時から必要性を感じていた機能でもあります。

 その上で、新しいハードウェアを出さずにソフトウェアをアップデートする形で提供した背景には、らくらくスマートフォン3が発売後時間がたっても色あせず、未だに支持され続け、まだまだ市場に存在できる商品であるということがあります。

 これまでの使いやすさの追求に加え、らくらくスマートフォン3で行ったデザインの刷新によって「使える端末」から「使いたいと思っていただける端末」になったのかなと。利用期間もほかの機種よりも長いことから、新しいハードウェアを投入するのではなく、既存端末を含めてソフトウェアアップデートを行うことで、使いやすさと、らくらくスマートフォンのもともとの価値をブラッシュアップができ、より多くの方に利用していただける、と考えました。

――ハードウェアを新しくする予定は今のところないのですか?

原氏
 進化させていくという点以外は何も決まっていない状態です。ハードの進化も含めて検討していきたいですね。

富士通 ユビキタスビジネス戦略本部 モバイルプロダクト統括部 第一プロダクト部 シニアマネージャー 古木健悦氏

古木氏
 らくらくスマートフォン3は1年経っても新鮮さが失われていないと思うんです。商品力としてもまだまだこの形でいけると思っていまして、今後はテクノロジーの大きな進化があれば新しい機種もありえるでしょうし、あとは売れ行きに応じて、ということになるんではないかなと思います。

当初は想定していなかったVoLTE対応

VoLTE対応で通話時に「高音質」と表示されるようになった

――ソフトウェア更新で大きいところはやはりVoLTE対応かと思います。ユーザーからはVoLTEを望む声が多かったのでしょうか。

原氏
 実際のところ、ターゲットとしている(シニアの)方からそういった声を吸い上げるのは難しくて、どちらかというと我々からの提案ということになります。以前から調査ではビデオコールを使いたいとか、聞きやすさが魅力なのでこの端末を買った、というお客様が多いことは分かっていました。

――通話音声については、富士通独自の聞きやすくする機能もいろいろ盛り込まれていますよね。

原氏
 富士通のスマートフォンは全ての機種で聞きやすさにこだわっているんですが、VoLTEと「スーパーはっきりボイス4」という独自技術を組み合わせて、より聞きやすくなっています。この2つの機能を掛け合わせた調査も行っていて、レストランや街頭、空港など騒音のある場所で実際に被験者に聞いていただいたところ、大きくスコアに差がでました。空港では倍近い差で「聞きやすい」という回答をいただいています。

――VoLTEは高音質になった分、聞きたくない他の音も拾いやすくなったとも言えますが。

原氏
 そのあたりを「スーパーはっきりボイス4」でチューニングしている、ということになりますね。

【3GとVoLTEの音質比較】
3GとVoLTEでは音質が大きく異なることが分かる

――VoLTE対応は2014年の発売前から想定して開発されていたのですか?

富士通 モバイルフォン事業本部 ソフトウェア開発センター 第二開発部 マネージャー 松前洋氏

松前氏
 もともとVoLTE対応は考えていませんでした。同時期に発売したARROWS NX F-05Fについては、いったん発売してからその後VoLTE化するという想定でしたけれども、らくらくスマートフォン3の場合、当初はVoLTE化することよりも、まずはきちんとしたものを出しましょうと。

 しかし、今のハードウェアを活かしたまま、お客様にとっての価値を高めるために、ソフトだけでVoLTE化できないかを技術的に検討していくなかで、ソフトウェア更新をすれば実現できることが分かりましたので、対応することにしました。

原氏
 VoLTEと同時にビデオコールが始まったんですけども、らくらくスマートフォン3としては新機能をパッと入れるだけではなく、使いやすくカスタマイズして、らくらくスマートフォン3(という特殊な端末)に提供するというところに注意しないといけません。ちなみに「スーパーはっきりボイス4」などの聞きやすくなる技術は、ビデオコールでももちろん有効です。

ミリ秒単位で調整したワンタッチダイヤルの機能改善

――ドコモメールにも対応しましたね。

原氏
 ユーザーの方からは、明確に「メールアプリを変えてほしい」という要望はありませんでしたが、ドコモメールにはいろいろ便利な機能があります。クラウドにもデータが保管されますし、端末を紛失した場合でもドコモショップに行けばメールを見られるという安心感もあります、

 また、ドコモ様が提供しているメールストアでさまざまなスタンプを購入できたりするので、ご家族とよく連絡を取られる方々に向けて、連絡方法の新たな形になりうるものとして、対応しました。

――らくらくスマートフォンユーザーのメールに対するニーズは大きいものですか? LINEも使っていると思うのですが。

原氏
 最近はLINEの利用率も上がっていて、利用したいという気持ちをもっている人も増えています。ただ、今連絡に使っているメインの手段はメールなので、「そこは使いやすくないと困る」というお客さんも多いですね。

LINEアプリはdメニューの「お客様サポート」から追加インストールして使うことができる

――その他、細かい部分のアップデートはいかがですか?

原氏
 今回同時に行っているのが、ワンタッチダイヤルの改善です。従来からある、ホーム画面から連絡先にすぐ電話やメールができるボタンがあるんですが、それがらくらくスマートフォン3では9個並んでいます。

 ただ9人分となると、どこに誰を登録したのかわかりにくいよね、と。今回のアップデートで、ワンタッチダイヤルのボタンを軽くタッチすると、登録している名前を吹き出し表示するようになり、さらに分かりやすいアイコンを表示できるようになったので、触れただけで誰の連絡先が登録されているのかが分かりやすくなりました。

ワンタッチダイヤルのボタンに指を軽く置くと、絶妙のタイミングで吹き出しがポップアップする
多数用意されたシンプルなアイコンイメージ

――こういった場合、通常なら顔写真を設定できるようにするところですが、あえてイラストアイコンのみにしているのですか?

原氏
 はい、あえてそうしています。社内でも議論があったところですが、デザインの世界観を損ないたくなかったのと、常時表示されるところでの個人情報の観点で現状の仕様にしています。らくらくスマートフォン3のユーザーは気にする方もおり、何か気がかりがなことがあると“使えない”機能になってしまいますので。

松前氏
 実はこの機能の実装には、すごい苦労をしています。触れた時に吹き出しを表示するタイミングと、指を離した時に消えるタイミングが、何が一番最適なのか、何が一番気持ちいいのか、検討しました。早すぎると画面のスクロールになってしまうこともあるので、ミリ秒単位でタイミングを変えたパターンを、ものすごい種類用意して、それをみんなで確認していったんです。

介護、病気、独身の息子……他にはない話題が出る独自コミュニティ

――「らくらくコミュニティ」や「ファミリーページ」など、Webサイトのコンテンツも強化していますが、会員数の伸びはどうでしょうか。

古木氏
 会員数は現在40万人で、けっこうなペースで増えています。ゲームコンテンツについては、4月から新たに対戦型麻雀を始めていますし、らくらくコミュニティについてはユーザー投稿もかなり盛り上がっていて活性化しています。

――らくらくコミュニティを掲示板とファミリーページの2本立てにしている理由は?

古木氏
 らくらくコミュニティは、ニックネームでの「掲示板」と非公開で実名も使用可能な「個人サークル」「ファミリーページ」から構成されています。一番の違いは実名を出すか出さないかの違いですね。らくらくコミュニティは単純にニックネーム形式の掲示板なので気軽に話せるところなんですけれども、一方で知り合いの間では非常にやりにくい。なので、ファミリーページについてはクローズドな掲示板として家族内で使ってもらう形にしているので、棲み分けができているのかなと思います。また、専用の子供世代アプリから投稿されたメッセージ付き写真はらくらくスマートフォンの画面に自動的表示されます。この点も、「掲示板」「個人サークル」との違いです。

――らくらくコミュニティではどんなコンテンツが人気ですか。

らくらくコミュニティの掲示板
シニアならではのコメントが多数

古木氏
 一番人気があるのは単純な日常の出来事、近況を報告するようなものですね。特設掲示板を設けていまして、そこでは昔の思い出話を語る場が非常に人気です。あとは、例えばお正月時期に盛り上がった「各地のお雑煮」ですとか、「招き猫祭りの開催」、「トイレの飾り付け大会」とか、我々では思いつかないテーマの投稿をユーザーのみなさんが自主的に始めていたりもします。

 おそらく他のコミュニティサービスと大きく違うところとしては、介護の話がけっこう出ていることですね。60代のユーザーが中心ですので、その親御さんの介護の悩みを互いに話したり、「独身の息子がいます」とか、そういった話題が出ています。体調に関すること、病気の話も普通にされています。

 いろんなことを趣味にもたれている方も多くて、画像加工テクニックなんかも話題です。こういうのを投稿すると、「教えて」という話になって投稿する人がどんどん増えて、使いこなし度アップにも貢献していますね。母との思い出、なんていう話題もあって、これは泣けてきます。

 実はオープンなサイトでして、ほとんどがらくらくスマートフォンユーザーではありますが、パソコンや通常のスマートフォンから、誰でもアクセスできます。ぜひ読んでいただければと思います。24時間有人監視しているのもらくらくコミュニティの大きな特徴で、意匠権が関わる写真だとか、電話番号、怪しいURLなどもきちんと判断して削除するようにしていますから、安心感もあると思います。

――そうなるとナレッジデータベースとしても価値を持ち始めているのでは? 新たなビジネスにもつながりそうですが。

古木氏
 そうですね。ユーザー数がかなり多くなってきていますし、シニアの生の声を聞けるところはなかなかありませんので、マーケティングデータとしても重要になってくるのではないかと思います。将来的にはらくらくスマートフォンの商品企画にも活かしていきたいですし、コミュニティ以外のサービスで何かお客様に提供できるものもあると思いますね。

――ファミリーページの方はどうでしょうか。利用率は増えていますか?

古木氏
 らくらくコミュニティほどではありませんが、着実に増加しつつあります。ただ、家族間のつながりを提供するサービスとしては、さらに広げるためにもう一押し何かが必要なのかな、とは思っています。例えばヤングファミリー、ちょうど子供が生まれた家庭へのアプローチは、これからもまだまだ必要ですね。

ファミリーページは親子間で写真やメッセージをやりとりするのに便利

カメラをよく使うシニア向けに、カメラ機能の画質も地味に改善

――最後になりますが、他にアップデートでこだわったところ、アピールポイントがありましたら教えてください。

Webブラウザーの「+/-」の拡大縮小ボタンは、ゲームプレイ時には出ないようにするなど、細かい改善も重ねている

松前氏
 プリインストールのゲームはWebブラウザー上で動作するもので、これまでWebブラウザーの画面内に「+/-」で表される拡大縮小ボタンが表示されていたんですが、ゲーム画面をタッチする時に間違えて押してしまうことがありました。これをゲームでは表示しないようにして、プレイしやすくなるようにソフトウェア更新で改善しています。

 あと、シニアの方はかなりカメラを使われるので、らくらくコミュニティでは写真のコンテストを開催していたりします。ですので、らくらくスマートフォン3のカメラの画質も向上させて、暗所でも顔がはっきり写るとか、よりピントが合いやすくするなど、お客様の満足度を向上するように改善しています。

古木氏
 それと、「みんなで脳力ストレッチング」というゲームがありまして、らくらくコミュニティのユーザーに、「どんな脳力を鍛えたいか」という質問を投げかけて、一番要望の高かったコンテンツを入れています。「ナンバープレース」も1週間に一度問題を入れ替えているので、ずっと飽きずに遊べます。プレゼント付きのキャンペーンを実施したり、対戦麻雀ゲームで成績優秀者に実物のクリスタルトロフィーを進呈するといった施策も時々やっていますので、ぜひ一度遊んでほしいですね。

――本日はありがとうございました。

日沼諭史