インタビュー

ファーウェイWu Mingfu氏が語る同社のサプライチェーン

品質重視でアップルやサムスンと異なる道を歩む

 スマートフォン世界シェア3位と、急速に力をつけてきたファーウェイ。さらに上位を狙う上で欠かせないのは、部品の調達から製品の出荷までをスムーズに回すサプライチェーンの構築だ。

 本誌では、同社でサプライチェーンを担当するDirector, Strategy Planning, Integrated Delivery ManagementのWu Mingfu氏にグループインタビューする機会を得たので、その模様をお伝えする。

ファーウェイWu Mingfu氏が語る同社のサプライチェーン Director, Strategy Planning, Integrated Delivery ManagementのWu Mingfu氏
Director, Strategy Planning, Integrated Delivery ManagementのWu Mingfu氏

輸送中のトラック事故、98%が無傷でも全て廃棄処分

Wu Mingfu氏
 皆さん、こんにちは。私はファーウェイのコンシューマービジネスグループでサプライチェーンの戦略企画を担当しています。

 ファーウェイの社員はグローバルで18万人います。そのうち4万人が各国の現地で採用された社員になります。全社員の45%にあたる8万人がR&Dに従事しています。グローバルで16カ所のR&Dセンターが作られています。さらにジョイントイノベーションセンターもあり、これはグローバルで36カ所あります。

 今のスマホはどんどんファッショナブルになっているのですが、実は1台のスマホには460の部品が使われています。それらの部品はどこから来ているかというと、18の国や地域の370のサプライヤーから供給を受けています。サプライヤーから供給された部品を使って、できるだけ高品質なスマホを弊社で作っています。

 サプライチェーン全体の活動の中で最優先事項として掲げているのがクオリティ、品質になります。こういった形で高品質な製品を作るだけでなく、サプライチェーンを使ってできるだけ早く世界各地に出荷していかなければいけません。弊社のグローバルデリバリーは、一つの地域で作られ、4つのエリアにあるハブを使って製品を出荷し、最終的には170以上の国や地域に届けていきます。

 この品質をいかに保証するかということなのですが、品質管理に関してはエンドtoエンドで5つのセーフティネットを用意しています。

 最初にR&Dのデザインがあります。デザイン段階から個々の製品に合った品質基準を設けています。

 2つ目がサプライヤー管理になります。サプライヤーの選定であったり、サプライヤーのところで資材や材料が生産される時にその品質も管理しています。

 3つ目は、受け入れ材料の品質管理です。サプライヤーから受け取る材料というのは、サプライヤーの工場を出た時に品質基準に合格したものだけになっています。

 4つ目が生産製造過程での品質コントロールになります。こちらにも同じようなチェック基準を設けており、自動化も導入されていますので、それを用いた品質チェック、そして工場を出荷する時の品質も検査しています。

 最後にデリバリー過程、さらに納入した後のアフターサービスもこのセーフティネットに含められています。ここは最も重要視しているところです。消費者と直接やり取りすることも含まれているからです。納入を履行する過程の中で、例えば運送途中における品質管理も行っています。

 実は2015年の5月にある事件が起きました。陸路だったのですが、トラックに乗せて運送している途中にタイヤが燃えてしまったのです。その時、トラックに積んであった製品の98%は全く無傷だったのですが、廃棄処分にしました。生産製造過程に限らず、こうした運送の過程にも非常に厳しい基準を設けてそれを実行しています。

 先ほど申し上げたように、ファーウェイのスマホは、1台につき平均で460の部品が入っており、それが370のサプライヤーから供給されています。どのように認証と選定を行っているかというと、7つの基準を設けています。

 1つ目が技術、2つ目が品質です。どちらも欠かすことができません。そしてサプライヤーとファーウェイの連携も見なければいけないので、レスポンスの早さであったり、納入された部品の品質というのもしっかりチェックしなければいけません。以上の3つの要件を満たしてから、ちゃんと社会的責任を果たしているか、環境にやさしいものであるか、セキュリティがきちんと守られるかを見ていきます。

 よく聞かれるのは、品質とコストのバランスをどうとるかということなのですが、弊社の場合、まずテクノロジーと効率を満たしてもらわないとダメです。主に技術の改善、やり方の改善で効率を上げることでコストの削減を図っています。

 ファーウェイは製品に関して全てのライフサイクル、部品の調達から仕様、その後の廃棄、サービスの全てのところで環境保全に力を入れています。

変化し続けるサプライチェーン

Wu Mingfu氏
 一つの端末にはたくさんの部品が使われていますが、サプライヤーを選定することのほかに、サプライヤーとどう技術提携していくか、技術協力していくかということにも力を入れています。具体的に申し上げると、技術のパートナーシップを締結するにあたって3つの考え方があります。

 1つ目は、ファーウェイがすでに持っている技術に関してなのですが、サプライヤーにお願いして最適化・向上をお願いするというものです。

 2つ目のパートナーシップの方法ですが、ファーウェイはシャープさん、ソニーさん、富士通さんとも密接な関係を築いています。もちろん彼らが開発した技術もありますので、他社の技術をファーウェイに持ち込んで共に技術の向上を図り、製品に落とし込むということです。

 3つ目は、ジョイントイノベーションです。これは我々にもサプライヤーにも無い技術について合同で研究開発を行い、それを我々の製品に落とし込むということです。新しい端末を作るにあたって、ジョイントイノベーションの形を採ることが非常に多くなってきています。未来の製品を作っていくにあたっては、どちらかがメインで作ってきた技術では賄いきれないところもあり、2つの会社のサプライチェーンを繋げることでよりよい技術を作っていくことが必要になってきています。

 未来に対しては皆さんご興味を持たれているかと思いますが、そこに関しては我々も試行錯誤しています。サプライチェーンには、3つの大きなキーになるものがあると考えています。

 1つ目は、今後5年後への影響が大きくなるものですが、それは間違いなくスマートフォン製品そのもののトレンドです。先日、iPhone 8やiPhone Xが発表されましたが、こうした製品が出てくるにあたっては、サプライチェーンはまさしく製品を作るために存在していますので、これからの5年でスマートフォンがどう発展していくのかがサプライチェーンにも大きな影響を与えてきます。

 2つ目は、市場モデルです。セールスモデルとも言いますが、無人のスーパーが誕生したり、ECマーケットが拡大したり、販売の形態も変わってきています。販売ルートや購買方法の変化が起きてくると、それもサプライチェーンに大きな影響を与えます。

 3つ目は、サプライチェーンそのものに対しての影響です。例を挙げると、ビッグデータの活用、3Dプリンターの登場、インダストリー4.0と言われる時代の到来であったり、そういったものはサプライチェーンの構造に大きな影響を与える要素の一つになります。

 ファーウェイは、次の製品に向けてサプライチェーンがどうあるべきかを模索し、それを作っている最中です。目的は、サプライチェーンを総動員することで、消費者の方々に対してより良い製品をより正確により早くデリバリーすることです。

新機種のカギを握るジョイントイノベーション

――ジョイントイノベーションの取り組みに注力されているということですが、ライカとのコラボ以外の例はあるのでしょうか?

Wu Mingfu氏
 どういった会社とパートナーシップを組んで作業しているかというのは、次に誕生する製品に搭載される機能に大きく紐づいています。10月16日にMate 10を発表することになっていますが、それが発表された段階でどういったところとどういった開発をしてきたのかが詳しく分かると思います。スマートフォンの技術はますます成熟しており、大きなブレイクスルーは打ち出しにくくなってきたというのは正直なところですが、それを打開するためにサプライチェーンの研究開発を進めていますので、今後のファーウェイの製品に対してサプライチェーンを総動員して他社とも共同開発してブレイクスルーできるようになると考えています。

ファーウェイWu Mingfu氏が語る同社のサプライチェーン 10月16日にドイツ・ミュンヘンで発表された「HUAWEI Mate 10」「HUAWEI Mate 10 Pro」
10月16日にドイツ・ミュンヘンで発表された「HUAWEI Mate 10」「HUAWEI Mate 10 Pro」

――有機ELのように供給できるサプライヤーが限られていて入手しづらい部品もありますが、こうしたものはどのように調達しているのでしょうか。

Wu Mingfu氏
 おっしゃる通り、業界において競合他社が使っている部品でも、サプライヤーが限られていて入手な困難な部品が確かに存在しており、ファーウェイも同じ問題に直面しています。本質はサプライチェーンによる改善だと思いますが、今のところ、アップルさんやサムスンさんのように一気通貫で部品を入手できるルートは持ち合わせていないので、ファーウェイができることは、より早く各サプライヤーさんと連携を取りながら部品を調達することと、マルチサプライヤーによって部品の調達を可能にするということになると思います。

――アップルのサプライチェーンは一気通貫で、ファーウェイはそうでないという話だが、目指すのはアップルのような仕組みなのでしょうか。

Wu Mingfu氏
 サムスンとアップルにも違いがあります。サムスンは自社で開発したりするものがありますが、アップルは自社で開発するというより資本提携しているところに集中的にお願いすることで品質改良しています。この2社にも違いがあります。

 ファーウェイはこの2社のサプライチェーンのコントロールについて学び、研究していますが、各社それぞれで経営の視点や戦略が異なりますので、ファーウェイは自分たちの方法でサプライチェーンの強化を図り、そこの問題を解決できると思っています。競合他社の方法を勉強しますが、自分の道は自分で歩くということです。

――P9が世界で1200万台出荷され大ヒットしましたが、生産台数や各市場への供給量はどう決めているのでしょうか。また、サプライヤーとの連携はどうやってとっているのでしょうか。

Wu Mingfu氏
 P9のようにヒットした商品に関しては、各製品の状態に合わせて戦略を練っています。ライフサイクルのポイントにおいてナレッジが貯まっています。例えば、プロダクトラインにおいては、出荷、製造のタイミングごとに量をコントロールしていますし、ライフサイクルの後半においては量をどれだけ抑えるのが適切なのかを計算しています。

 一つ例を挙げると、日本という市場は、アフターサービスの期間が長いのが特徴になっています。ファーウェイではこの日本の特徴をサプライチェーンに反映しています。具体的には、サービスの期間を2年とした場合、2年後に何か故障があった場合、すぐに部品を提供して、満足いくアフターサービスを提供できるように常にサプライチェーンを動かしていたりします。製品ごと、地域ごとにこうした戦略を定めています。もちろんP9のようにヒットした製品だけでなく、マイナーな製品についてもそれぞれの製品、地域にあわせてサプライチェーンをコントロールしています。

――近年のファーウェイのシェア拡大の背景には品質向上があると思いますが、それはサプライチェーンの見直しによるものなのでしょうか。

Wu Mingfu氏
 一つの製品が市場でヒットするかどうかは、製品そのものの性能、品質がどうであるかに大きく影響されます。もちろん、サプライチェーンも品質向上への対策は講じています。重要なのは、サプライチェーンの中でいかに効率を上げられるかということです。

 生産の過程において、おそらく他社はやっていないことですが、ファーウェイのサプライチェーンの中には、人の手によるデリバリーのテストが存在しています。消費者が実際にどういったシーンでどういう風に使うかを10時間テストしています。コスト、効率、製品のクオリティ、この3つのバランスの中でも、製品のクオリティに重きを置いているため、これを実施しています。ファーウェイは品質がブランドを構築する第一の要素だと思っていますので、ここに投資をしています。

 正直、私の立場から申し上げると、10時間のテストというのは、1人が作業する時間を超えていますので、困るところはあります。普通、8時間が労働時間の1つのパッケージとして決まっていますから、10時間というのはそれを2つぶん使うことになります。そこに関してコスト、効率がどうしても下がってしまうところはあるのですが、会社として品質第一にすることに決めていますので、我々もそれに対して全力で実行しています。どこに重みを置くのかは会社によって違いますが、我々は品質に重きを置いていますので、こうしたことを実施しています。

M&AよりR&Dで独自の道を切り開く

ファーウェイWu Mingfu氏が語る同社のサプライチェーン

――170の地域に迅速に出荷する上で難しい点はありますか?

Wu Mingfu氏
 各地域によってマーケットの特徴、販売の特徴があり、税関のルールもあります。我々は市場ごとのユーザーの需要をくみ取ることで、いかにデリバリーを早くできるのかを地域ごとに定めています。例えば、国ごとにその国の物流システムが進んでいたり、遅れていたりするような状況もありますし、パートナーシップを結んでいるサプライヤーが彼ら独自のデリバリーシステムを持っていたりしますので、我々は状況に合わせてデリバリーの戦略をとっています。

――サプライチェーンを構築する上で企業を買収した例はあるのでしょうか。

Wu Mingfu氏
 これまでの会社としての経歴を見ていただければお分かりになるかと思いますが、ファーウェイは資本を使用した手段というのは行っていません。上場もしていません。アップルさんであれば買収したというような事例もあるとは思いますが、ファーウェイの経営手法、経営理念はそれとは違ったものです。サプライチェーンのコントロールに関しては、情報セキュリティにも関連しますが、製品の市場の競争において、ファーウェイと他社ではなく、サプライチェーン全体として他社と競争しているという認識をサプライチェーンと一緒に持っています。ファーウェイとサプライチェーンの皆様は一つの船に乗っているという認識です。ファーウェイは、たくさんの優秀なサプライヤーと協働して、より良い製品を届けられるように努力しています。

――サプライチェーンにおけるAIの活用についてはいかがでしょうか。

Wu Mingfu氏
 新しい製品を作るにあたって、新しい技術が登場してきますが、その技術はサプライチェーンにもダイレクトに影響してきます。その中でAI技術というのは、需要予測に活用できないかと思っています。具体的には、お客様方の需要を喚起することで在庫のコントロールをいかに効率よくできるかというのが大きなポイントだと思っています。

 需要予測だけではなく、携帯電話には400以上の部品が入っており、370に及ぶサプライチェーンのパートナーがいらっしゃいますが、その部品の提供能力についてもAIで感知してコントロールすることでデリバリーを遅延なくできるかということも一つの方法だと思っています。

――チップセットに関してはハイシリコンを持たれています。チップセットを保有することが差別化の要因になるのでしょうか。

Wu Mingfu氏
 ファーウェイはサプライチェーンにおいて自分の道を進んでいます。もちろん勉強はしていますが、サムスン、アップルと全く同じ方法を採ることはどのメーカーにもできません。ファーウェイがハイシリコンを保有しているのは、まさしく我々自身の戦略です。ハイシリコンによるチップは、ファーウェイのハイエンド・スマートフォンの業界における競争力を確実に高くしましたが、それがファーウェイのサプライチェーンにおける戦略の一つです。

――Galaxy Note7ではバッテリーの問題が起きましたが、調達にあたって一番注意している部品は何ですか?

Wu Mingfu氏
 スマートフォンには数多くの部品が存在していますが、ファーウェイは単独の部品に注意しているわけではなく、全ての部品に同じく注意を払っています。というのも、全ての部品に関して、それぞれに要求される品質や技術が違いますが、一つずつの部品に対して細かく性能レベル、技術レベルを要求していますので、全ての部品に同じく注意を払っています。バッテリーというのはその中の一つでしかありません。

 もちろん、サムスンのバッテリー事件が発生した後、我々もバッテリーに関して品質の見直しを行いましたが、結果としては、バッテリーに関して変更することはありませんでした。

――故障修理のようなアフターサービスを提供する中で見つかった製品の課題を設計サイドにフィードバックするようなこともあるのでしょうか。

Wu Mingfu氏
 もちろん設計段階、生産段階で解決することが大きなポイントになるかと思います。一つのボタンにおいても何回押せるのかというテストを行っていますし、落下テストなども行っています。それをファーウェイ自身のラボや、他社と合同で研究しているラボでも実験しています。そういった設計、生産段階で主に改善を図っています。

 製品の信頼性テストの数字ですが、1000回以上の落下テスト、500回以上の寒暖テスト、2000回以上のボタンのテストを行い、設計の段階で製品のクオリティを担保しています。ボタンそのものに関しては、サプライチェーンがボタンの材料を入手したところから、どういった材料なのか、そして、そのボタンをどのように生産しているのか、それをどういう風にモジュール化しているのかということころまで遡って品質管理をしています。

 サプライチェーンの中には10時間の人によるテストを実施しています。電源ボタンや音量ボタン、その他のボタンを実際の使用シーンを想定してテストしています。これはまさしくサプライチェーンの中、生産ラインの中で実施しているテストになりますので、設計だけでなく、生産段階でも品質を担保しています。

 故障というのは確率の問題で、どのメーカーもゼロにはできないものだと思っています。それを解決するのがアフターサービスですが、各国に消費者を守る法律がありますので、まずは法律に則った形で体制を整え、その上でファーウェイが理想としているお客様中心という理念に則ってどんなアフターサービスを提供できるのかが大きなポイントになっています。ですので、我々もどうやってアフターサービスを通して消費者の満足度を上げられるかということに取り組んでいます。