インタビュー
“通勤電車でも途切れないau 4G LTE”を支える裏方「SQAT」
KDDI ネットワーク担当者インタビュー
2017年10月30日 13:14
2014年12月、「au VoLTE」がスタートした時、au 4G LTEの通信速度は最大150Mbpsだった。ここから3年弱がたった2017年10月現在、auは下り最大708MbpsのLTEサービスを提供している。
飛躍的に高速化するLTEで、どんな場所でもスマートフォンを快適に利用できる……そんなネットワークを目指して、auは、ネットワーク品質向上の特別チーム「SQAT(スカット)」を組織したという。
今回、auのモバイルネットワークを裏から支えるネットワーク部門の方々にインタビューする機会を得た。お話をうかがったのは、KDDI 技術統括本部 エリア品質強化室長の宮尾良徳氏、技術統括本部 エリア品質強化室 1Gグループリーダーの渡辺康史氏、技術企画本部 技術企画部 システム戦略グループ 課長補佐の竹下紘氏の3名だ。
絶対に途切れないネットワークを目指す「SQAT」
宮尾氏
auは、お客様が携帯電話をいつでも快適にご利用いただけるよう、ネットワーク整備においても、お客様目線で不満点を解消する取り組みを進めています。
3GからLTEへ、フィーチャーフォンからスマートフォンへ移行する中、ネットワークの品質改善のニーズはますます高まってきます。
ここ数年の技術向上は著しく、LTEの最高速度は数倍になり、スマートフォンの通信量も飛躍的に拡大しました。
一方で、利用できる電波の帯域には限界があり、混雑した場所などではどうしても通信が遅くなってしまうことがあります。そうした状況でも快適にお使いいただけるよう、2015年2月にネットワーク品質向上の専門部隊「SQAT(スカット)」を組織しました。
――「SQAT」という名前は、日本語の「スカッと」をもじっているのでしょうか。
宮尾氏
それは後付けですね(笑)。正式名称は「Special Quality And Tactics」です。ビッグデータを活用して改善ポイントを発見。蓄積したノウハウを全国に横展開し、通信品質への不満をスピーディーに改善していきます。
――具体的な取り組み内容をお聞かせください。
宮尾氏
例えば電車では、朝夕の通勤ラッシュに速度が遅くなりがちです。そうした混雑時にも、データ通信を快適にご利用いただけるように、集中的なネットワーク対策を行っています。
そのためには、情報収集が欠かせません。SQATが特徴的なのは、実環境での調査を継続して実施していることです。鉄道では、東名阪の主な通勤路線にて、通勤時間帯のデータ通信速度調査を定期的に実施しています。
――どのくらいの頻度で行っているのでしょうか。
宮尾氏
四半期に1回は全体点検として、全路線での調査を実施しています。1回調査を実施すると、いろいろなところに課題が見えてきます。全体点検の合間にはそうした課題の1つ1つに対象していくことで、地道な改善を続けています。
ちなみに、調査対象となる路線の総距離は約2400km。SQAT発足後の約2年半で、四半期ごとの点検を計10回行っています。これまでに調査した距離を累積すると、実に地球半周分になります。
――計測機材は大きな荷物になりそうですが、ラッシュの時間帯にどうやって持ち込んでいるのでしょうか。
宮尾氏
どろくさい話ですが、ちょうど朝8時半にターミナル駅に着くような電車に、始発駅から乗り込んで調査しています。機材を膝の上に置いて計測するとか、周りのお客様からも違和感がないように工夫をしています。
こういった鉄道の調査は、ピーク時の速度をどんと上げようというよりは、低速化を防いで「使っていて遅いな、イライラする」といった思いを無くしていくことが目的です。そのためにはやはり、ビッグデータの分析だけでは不十分で、現地現物で、お客様がおかしいなと感じているところを、しっかりと確認することが重要だと考えています。
――鉄道以外にはどのような取り組みがありますか。
宮尾氏
もう1つ、移動中の通信の不満を改善する取り組みとして重要なのが高速道路です。こちらではデータ通信に加えて音声通話、つまりVoLTEの品質改善も重点的に取り組んでいます。
音声通話では、移動中に切れてしまうと、お客様にご迷惑をおかけしているということになります。そこでSQATでは、高速道路でも定期的な走行調査を実施し、ネットワークを評価しています。例えば東京の首都高速都心環状線では、切断数ゼロを目標に、月次で走行調査を行っています。
高速道路での取り組みは、もちろん首都高以外でも行っています。東北自動車道、関越自動車道など、全国の主要な高速道路で定期的な評価を実施しています。さきほど、鉄道の調査で地球半周位の距離を調査したと申し上げましたが、高速道路の方が距離が長いので、だいたい1年間で、おそらく地球1周(約4万km)を超えるくらいの距離を走っているのではないかと思います。
――通話が切れてしまう原因は、どのようなものがあるのでしょうか。
宮尾氏
例えば都市部なら、新しいビルが建設されると、周辺の電波環境に変化を及ぼします。また、新しい基地局を立てると、当然通信経路が変わってきますので、電波環境は良くなる場所ができる一方で、悪化する場所がでてくることがあります。そうした場所は実地調査によっていち早く突き止め、基地局をチューニングすることで改善できます。
――ただ単に何も考えずに基地局を建てると、逆に切れてしまうデメリットもあるのですね。
宮尾氏
そうです。せっかく高音質なVoLTEをご利用いただいているので、切れないネットワークを作っていこうと、継続して改善に取り組んでいます。
auは、2014年から(3Gに対応しない)VoLTEオンリー機を市場投入しています。そこから2年半、継続してエリアを充実させていき、ネットワークのチューニングを重ねてきました。
その結果として、VoLTE通話中の切断率は、2年半前のおおよそ6分の1くらいまで減ってきています。これが現時点のau VoLTEネットワークの実力です。おかげさまでお客様にご評価いただき、今年もJ.D.Power調査で2年連続の顧客満足度ナンバーワンとなることができました。
――現状、日本でVoLTEオンリーのネットワークを提供しているのはauだけですね。歴史的経緯から、auは3Gの巻き取りを早めに進める必要があったのだと思いますが、いち早くVoLTEへの移行を進めたことは、今後アドバンテージとなってくるのでしょうか(※3GではNTTドコモとソフトバンクが3Gでは多数派となったW-CDMA方式を採用しているのに対して、auは少数派となったCDMA2000方式を採用している)。
宮尾氏
もちろん、我々もVoLTEオンリーの時代がくることを見越して、ある程度計画的に移行を進めてきました。ここ2年で切断数が減少してきたというのも、その1つの結果のです。“VoLTE先駆者”として、いち早く取り組んできたノウハウを生かして、お客様により良いサービスを提供できるようにしていきます。
――auユーザー向けに提供している「au Wi-Fi接続ツール」には、通信状況を自動でレポートする機能が搭載されていますが、そのアプリから取得したデータも、改善に役立てられているのでしょうか。
宮尾氏
もちろんです。電波状況が特に悪く、場所について、アプリからのデータで可視化できるようになりました。
逆に、改善対策を実施後、その対策した場所の変化が分かるのも、結構重宝していますね。自分たちで現地へ検証に行った時にたまたま再現しなかったものが、実は特定のシーンだけで通信が遅くなっていたということももありますし、お客様にご迷惑をかけてしまう範囲をより早く特定できるので、スピーディーな対策に繋げることができます。
――いくら対策を施しても厳しい“ネットワーク品質向上の難所”はありますか。
宮尾氏
やはり、新宿や渋谷のようなマンモス駅は厳しいですね。最新の高速化技術がいち早く投入される場所ではありますが、まず、基地局の設置場所からして争奪戦になっています。特に渋谷のスクランブル交差点周辺は、基地局が載っていない建物方が少ないという状況です。
竹下氏
後はスタジアムですね。こちらもターミナル駅と同じように人が集まる場所です。そして、構造上の制約から、限られた場所にしかアンテナをおけるスペースがありません。
――ここまでの「SQAT」の取り組みは、ネットワーク品質の向上に主眼を置いたものですが、カバーエリアの拡大についてはいかがでしょうか。
宮尾氏
街中以外にも、LTEエリアを広げていく活動を行っています。面白いところでいくと、尾瀬国立公園での取り組みがあります。
尾瀬は、周囲を高山に囲まれた広大な湿原です。全域が国の特別天然記念物に指定されているため、基地局を設置するのが難しく、今までどのキャリアの携帯電話サービスが使えない場所となっていました。auは環境省や現地のみなさまとも協議し、尾瀬の山小屋で、LTEを使える環境を構築しています。2017年10月末時点では、尾瀬に21ある山小屋のうち19カ所で、LTEサービスを提供しています(※関連記事)。
渡辺氏
今回の対策にあわせて、尾瀬にて誰でも使えるフリーWi-Fi「OZE GREEN Wi-Fi」の提供も開始しています。このフリーWi-Fiは、多言語の案内表示も用意しており、訪日外国人にもお使いいただいています。
尾瀬の地域のかたにお話を聞くと、「外国人に尾瀬でのマナーやルールを啓蒙したいが、言葉が通じなくて難しい」というお困りの声がありました。今回の「OZE GREEN Wi-Fi」では接続した時に表示されるランディングページにて、多言語で尾瀬でもマナーを紹介しています。CSR(企業の社会的責任)の観点からも、地域に協力できたのではないかなと思います。
――こういう山間部のような、簡単に電柱立てて配線できないような場所も、今後LTEエリア化を進められるのでしょうか。
宮尾氏
もちろんです。お客様の声に耳を傾け、利便性を考えながら、地道にエリア改善を進めていこうと思っています。
竹下氏
今年の春には長野県の奥上高地を「山岳反射」という特殊な手法によってサービスエリアにしています(※関連記事)。エリア化の対象となった地区は、通信回線や電源を確保できないような奥地ですが、山の向こう側の基地局から電波を飛ばし、切り立った岩壁に当てることで、反射波を利用したエリア化に成功しました。
電波は反射させると、散逸してしまうものですので、山岳反射という手法はよほど条件が整わないと利用できませんが、さまざまな手法を考案して、これまでエリア化できなかったところまでも、サービスエリアにしていきたいと考えています。
高速化技術を導入しても、チューニングしないと実速度が下がることも
――LTEに移行してから、3キャリアは競い合って高速化を進めていますね。auではどのような取り組みを行っていますか。
宮尾氏
LTEの高速化の手法は複数ありますが、複数の周波数帯を同時に利用するキャリアアグリゲーション(CA)、同時に送受信するアンテナ数を増やすMIMOの高度化、一度に送信する情報の密度を増やす変調多値化といった複数の技術があり、これらを組み合わせて高速化を実現しています。
auは2014年5月に、日本で初めてCAの提供を開始して以来、ネットワークを進化させ続けてきました。
2017年10月現在、auで最速となる受信時最大708Mbpsのサービスは、3CC CA(3波キャリアアグリゲーション)と、4×4 MIMO、256QAMを組み合わせたものです。
また、この秋発売されたiPhone 8/8 PlusやiPhone Xに対しては、4CC CAによる、下り最大558Mbpsのサービスを提供しています。これらの高速なサービスは、混雑するエリアで速度の低下を防ぐ上で有効となるので、特に混雑するターミナル駅など、大都市圏から順次提供を進めています。
しかし、こうした高速化技術は、ただ導入すれば速くなったり、利便性が上がったりするような、単純なものではありません。効果を最大化するには、基地局などインフラ設備の運用ノウハウが重要になります。
例えばCAでは、適当にバンド(周波数帯)を束ねても大きな効果は出ません。電波の品質はそのときそのときで変動するものですし、バンドごとに基地局の配置が異なる場合もあります。
お客様が利用されている端末が対応する組み合わせも機種によって異なりますので、お客様のパフォーマンスを最大化するためには、これらを考慮して最適なバンドの組み合わせを選択できるよう、ネットワーク側で工夫をしています。
多くの端末が特定のバンドに留まるなどして、トラフィックが集中してしまいますと、いくら高速な技術をさいようしていたとしても、実行速度は遅いという状況になり、むしろ利便性を損ねてしまいます。バランスよくトラフィックを分散しながら、お客様のデータを安定的に流せるようなネットワークの構築を進めています。
また、変調多値化の技術では、情報密度が高い「256QAM」よりも、従来方式の「64QAM」を適用した方が、より高いパフォーマンスを発揮することもあります。auのネットワークでは、お客様が快適に利用できるよう、状況に応じて、256QAMと64QAMを使い分けています。
――下り最大708Mbpsで利用できるエリアはどのくらい広がっているのでしょうか。
宮尾氏
首都圏ですと山手線沿線ですとか、ディズニーランドのような人が集まる場所で展開しています。またauではサポーティングカンパニーとしてサッカー日本代表を応援しているのですが、よく代表戦が開催される埼玉スタジアムも最大708Mbpsのエリアになっています。
竹下氏
下り最大708Mbpsのサービスは基本的には人口が多いところを局所的に増強するような形で提供しています。なかには半径1km程度のエリアもありますが、都市の規模から見るとスポットごとにエリア化しているイメージです。
――最近では、複数のキャリアで同じスマートフォンが販売される状況も一般的になっています。例えばiPhoneは国内3キャリアで共通のハードウェアになっていますが、こうしたデバイスについても、ネットワークへの最適化する工夫はあるのでしょうか。
竹下氏
端末側には特にパラメーター調整などは施されていないと思います。もちろん、どの周波数帯に対応しているかというような基本的な違いはありますが、ネットワークから指示を受けたときに端末側がどう反応するかという挙動は、iPhoneもAndroidも同じです。
ちなみに、au 3Gで採用しているCDMA2000方式は、端末側にもある程度裁量がありました。一方で、NTTドコモやソフトバンクが採用したUMTS(W-CDMA)方式は、基本的に端末に裁量は持たせず、ネットワーク側ですべてをコントロールするという思想で設計されています。
UMTSの発展系として登場したLTEもこの思想を受け継いでいるので、どのバンドや変調方式を使うかなど、すべての指示はネットワーク側からリクエストして、端末側はただ従っていくという構図になっています。ネットワーク側からすると、ある程度コントロールしやすい状況にはなっていますね。
我々はどちらかというとLTEからそちらに飛び込んで来た方ですので、短い期間ですが一生懸命にノウハウを蓄積してきて、きめ細やかなチューニングができるまでになってきました。
――かつて主流だった、フィーチャーフォンは、ネットワークを汚さないように、節度を持って利用していましたが、スマートフォンの登場から、湯水のごとくネットワーク使うようになりましたね。
竹下氏
フィーチャーフォンでは、通信する契機なども全てコントロールして、とにかく無駄なトラフィックを発生させないようにしていたのですが、(スマートフォンの登場で)あっという間に崩壊してしまいましたね……。
下り1Gbps時代、いつ到来?
――グローバルでは下り最大1Gbpsの通信サービスも登場しています。現状の最大速度は下り最大708Mbpsですが、今後のロードマップとして、1Gbpsというのはいつ頃をターゲットにされているのでしょうか。
竹下氏
そんなに遠くない将来、だと思っています。当然、708Mbpsで打ち止めとは考えていませんし、1Gbpsというのは1つのターゲットになります。他社さんも1Gbpsを目指されていると思いますし、端末側ではファーウェイの「Mate10 Pro」のような下り最大1.2Gbpsに対応するスマートフォンも登場してきています。そうした他社さんとの関係や端末側の動向なども見極めながら、時期を考えていくことになると思います。
――ここ数年は特に高速化の進展が著しいですが、次から次に新しいものを載せていかないと追いつかない状況は、やはり大変そうですね……。
竹下氏
はい(笑)。ここ3年間で速度は4倍~5倍になっていますので、それなりに。
基地局の装置って、通常は10年くらいのスパンで使うものですが、これだけ一気に速度が上がっていってしまうと、少し前の製品でも、最新の環境には対応できないという状況もでてきています。そうなったときに全国規模で配置転換して、全体効率が最も良くなるにはどの配置が最適かという、パズルのような問題にも頭を悩ませていますね。
――いろいろな技術の組み合わせでネットワークの高速化を実現していくことになると思いますが、一番重要になるのはどの技術でしょうか。
宮尾氏
全部ですね。最終的にはお客様の利便性をいかに確保していくかですので、使える機能を駆使してチューニングしていくという方向にいずれにしてもなっていくと思います。
竹下氏
CA、MIMO、変調多値化という3つの技術は、どれも同じくらい大切なものです。ただ、正直な話、MIMOと変調多値化という2つは、完成に近づいてきている技術でもありますので、今後、高速化していくには、キャリアアグリゲーションがメインのアプローチとなっていくと思います。我々は今、4波キャリアアグリゲーション(4CC CA)まで実用化していますが、今後どこかのタイミングで5波、あるいはそれ以上に増やせるののではないかという検討はしています。
――つまり、「追加の周波数ちょうだい」ということに……。
竹下氏
はい(笑)。
――端末側の高速化について、今後は何が課題になってくると思いますか。
竹下氏
端末は、とにかくバッテリーが逼迫している状況です。バッテリーに使われるリチウムイオン電池は、どんどん高密度になってはいますが、技術としてはここ何年も全然進化していないんです。
高密度化もそろそろ限界が見えてきていて、端末の中でいろんな部品が電池の取り合いをしているというような感じになってきています。電池の消費が早いというのはネガティブな印象もありますので、今は「通信を高度化すると電池の消費量が増えるので、通信は抑えて電池持ちを優先させよう」と、そんな議論もある状況です。
LTEのが速いなら、あえてWi-Fiに自動接続させないことも
――スマートフォンの通信のオフロードという観点から言うと、Wi-Fiスポットを活用するという選択肢もありますが、auは他社と比べると使えるスポットが少ない印象もあります。例えば、都営地下鉄の車内では「docomo Wi-Fi」は使えますが、au Wi-Fi SPOTは未整備になっています。
竹下氏
都営地下鉄については、KDDIグループのWi2(ワイヤ・アンド・ワイヤレス)とNTTBP社と共同で乗客の皆様が利用できる無料Wi-Fiを提供しています。しかし、常に高品質なサービスを提供できるとは限らないため、au Wi-Fi SPOTとしての自動接続は提供していません。
宮尾氏
Wi-FiとLTEの使いわけのチューニングも、実は難しいところで、遅いWi-Fiをつかんでしまうと、かえってご迷惑をおかけしてしまうことがあります。そのため鉄道路線などでは、「あえてau Wi-Fi SPOTへ自動で接続させない」というようなことをやっていたりもします。
――地下鉄の車内もエリア化されて、普通に携帯電話を使えるようになりましたし、大容量プランが登場してからは、かえってau Wi-Fiをオフにしていた方が快適と思うこともありますね。
竹下氏
au Wi-Fiについては、導入してから時間が経ちますので、こちらも順次見直していきたいと思います。
AIの活用、IoT技術の応用は?
――ネットワークのチューニングの最適化を進めていくと、AIのような技術も活用していくことになるのでしょうか。
竹下氏
確かに、技術の動向として自動化の議論も始まっています。将来的には自動化の方向へシフトしていくとは思いますが、現時点では自動化の精度ではあまり高くない状況です。
パフォーマンスの最大化を突き詰めようとすると、多くの試験によってネットワークの挙動を把握した上で、熟練したオペレーターが多くのパラメーターを1つ1つ確認し、「このパラメーターだったらこの辺とこの辺を調整」といったように、手動で最適化していく“職人技”が最も効果的な手法になっています。
――5Gに向けて、IoT向けのさまざまな通信方式が登場しています。なかにはau HOMEが採用している「Z-Wave」のような、LTEとは違う無線方式のものもありますが、こういった末端のデバイスを接続する無線方式のようなものも、将来的にはこうしたネットワークも細やかな管理が必要になってくるのでしょうか。
宮尾氏
実際にKDDIのネットワーク部隊がそういった無線まで面倒を見るかどうかは、その時の状況次第にはなりますが、やっぱりネットワークって多種多様化してきているので、そういったこともお客様に求められるようになってきそうですよね。
――「LPWA」とも呼ばれるIoT向けの通信方式では、ネットワークのエッジ部分、通常LTEだと圏外になっちゃうところでも少し距離伸ばせるような技術もあるそうです。こうした技術スマートフォンに取り入れたら、例えばギリギリ圏外でも通知だけ届くというような使い方ができて便利に思えるのですが、そういったIoT向けの技術をスマートフォンに導入する動きはありますか。
竹下氏
IoT向けのエッジを広げる技術は、データの送信量がごく限られた環境を前提として実装されています。通信環境の悪い場所から何回もデータを再送して、受信側でエラー訂正を重ねて復元するという、細かなピースを埋めてパズルを完成されるようなプロセスを踏むような挙動になっているんです。
これは、ネットワークとしては、結構もったいない使い方をしちゃっているんですね。スマートフォンに適用するとしたら、膨大なデータ送信が必要となりますので、全体の利用効率が下がってしまうというデメリットがあります。送るデータによって向き不向きがあって、なかなか一律全面的に広げるのは難しいという事情もあります。
――本日はどうもありがとうございました。