インタビュー

ファーウェイ躍進の秘密をマーケティング・販売トップのJim Xu氏に聞く

カスタマーファーストで品質にこだわり続ける

 近年、スマートフォンのグローバル市場でシェア3位に入るなど、躍進が目立つファーウェイ。国内でもMVNOの事業者とともに急速に力を付けてきている。直近の家電量販店での販売台数ランキング(9月11日~17日、GfK Japan調べ)では、「HUAWEI P10 lite」がiPhoneに次ぐポジションに位置している。

 こうした躍進の背後には何があるのか。弊誌では、上海にある同社の研究開発センターにおいて、同社でグローバル全体のマーケティングと販売を統括するHuawei Consumer Business GroupのPresident, Marketing and Sales ServiceのJim Xu氏へのグループインタビューに参加する機会を得たので、その模様をお伝えする。

Huawei Consumer Business GroupのPresident, Marketing and Sales ServiceのJim Xu氏

品質が最重要課題

Xu氏
 上海へようこそ。まずは簡単に自己紹介をさせていただければと思います。私自身は1997年に大学院を卒業し、ファーウェイに入社しました。ですので、かれこれ20年は経っているかと思うのですが、そのうちの16年は法人向けのB2Bの事業部にいました。そして、残りの4年間はデバイスの事業部にいます。

 弊社の製品は全体の10%が自社工場で生産されています。まずはその10%の製品の品質を確保しなければいけないと考えています。工場で働いている社員たちも非常に優秀な人が多く、ですので、きちんと待遇面も手厚くしています。ファーウェイの創設者である任正非(Ren Zhengfei氏)が言うには、やはりそれぞれの分野で専門家を育てていきたいという話もあります。

2009年から稼働している深セン郊外の松山湖生産ライン

――HUAWEI P9はデュアルカメラを搭載し、ライカとの提携を発表したインパクトのあるモデルでした。それを発売した昨年度、どのような販売戦略で、どのような結果になったのでしょうか。また、今後の販売戦略はいかがでしょう? 先日、iPhone Xが発表されましたが、対アップル、対サムスンでどのような販売戦略を描かれていらっしゃるのでしょうか?

Xu氏
 実は5年前に弊社がファーウェイのブランドでハンドセットを作るという話になった時に一番重要視したのは、品質体系の構築だったのです。その前はODMでハンドセットを製造・販売していました。ですので、この品質体系に関してどういった結果をもたらしたかという具体的な数字をご紹介させていただきます。

 ドイツテレコムで2016年からやっていることなのですが、全てのメーカーの製品の品質を比較した結果というものがあります。もちろん、弊社、サムスン、アップルのものも含まれている中で、弊社の製品の品質が14カ月間連続で1位になっています。また、日本のKDDIさんからも品質に関して非常に素晴らしいということで表彰を受けました。

 スマートフォン業界においては弊社は新参者ですので、特に2つのことに関して非常に重要視して取り組んできました。1つが品質の体系を構築することで製品の品質を保証すること、2つめが各国においてアフターサービスを強化しました。やはり、この2つのポイントが消費者が端末を買うにあたって最も重要視していることだという風に思ったからです。

 そして3点目として重要視したのは、ファーウェイを含むAndroidのメーカーは、みんな同じAndroidのOSをベースにしてスマートフォンを作っています。その中で差別化をするということがすごく大事になってきます。弊社の場合ですと、デュアルレンズを搭載したり、デュアルSIMに対応したり、ロングバッテリーライフということで電池のもち時間を長くしました。こうした基本的なところをしっかりやることを心がけてきました。

 グローバル市場での販売に関してなのですが、やはり競合他社、サムスン、アップルが非常に手強い相手になっているので、その中ではブランドが重要になってきます。ですので、弊社の場合ですと、例えばP9ではライカと業務提携することでカメラの品質を格段に上げることに成功しました。また、今年の9月の頭に世界で初となるAIに対応したチップセットを発表しました。こうした技術をしっかりやることにより、高い技術力で相手を超えることに目標を置きました。

 海外では非常に多くの国ではオープンマーケット、SIMフリーがメインになっています。それと同時に多くの国ではどんどんSIMフリー市場にシフトしています。やはり、こうした市場になると、消費者は自分でお金を出してスマホを買うことになるわけです。そこで考えるのは、そのスマホ自体が良いものなのかどうか、そして自分で負担できるのかどうか、ということになります。弊社としては、先ほどご紹介したように、バッテリーのもち時間を長くして、カメラの性能を上げて、さらにソフトウェアのパフォーマンスも上げることによって、最終的にはお手頃な値段で製品をお届けするということをしっかりできれば、自ずとグローバル市場でファーウェイの価値を出すことができると思います。

――10年前、B2Bのビジネスを担当されていた時、B2Cのビジネスはブランド構築にものすごくお金がかかるので、ファーウェイとしてはB2Bに専念するとおっしゃっていました。コンシューマービジネスで成功を収めるのがどれくらい大変だったか教えてください。今まではファーウェイの製品は手頃な製品として多くの市場に受け入れられていったと思いますが、プレミアム、ハイエンド路線への変更で戦略がどのように変わっていくのでしょうか。

Xu氏
 実は、我々ファーウェイは数あるスマートフォンメーカーの中でもかなりユニークな存在だと思うのです。他のメーカーさんでは、ファーウェイのようにネットワークインフラとスマートフォンの両方を同時に手掛けるような会社はいません。それが我々の遺伝子に受け継がれており、アップル、サムスン、ソニーとの一番の違いでもあるかと思います。

 10年前に弊社が4Gのネットワークを手掛けていた時、大きな問題にぶつかっていました。それはいかに消費者にモバイルネットワークを使ってもらうかということでした。その解決策として、弊社はドングルのデータカードをグローバルに向けて発売しました。これは本当に大ヒットして、ほぼ寡占状態ではあったのですが、この製品というのは通信キャリアを通して販売されたものでした。以前も弊社は端末を作っていたのですが、やはりB2Bという販路を通して販売されていたわけです。もう少しすると5Gの世界になりますが、ここでも同じようにいかに有効な端末を作り出して、そのネットワークに適合させるかといったことが非常に大事になってきます。弊社はこうした通信技術の蓄積もありますし、先行もしていますので、このシナジーを発揮して世界をリードしていけるのではないかと思います。

 今から未来に向けて、消費者に、音声、データ通信、VoLTE、動画の視聴、ゲーム、ビッグデータ、クラウドストレージなどをきちんと使ってもらうには、まずはネットワークをきちんと作らなければなりません。そして、それに合わせてデバイスを作るということによって、最終的に非常に良いユーザーエクスペリエンスを実現できます。これがまさに他のメーカーと差別化できる強みと言えと思います。このインタビューの後、弊社のラボを見学に行かれると聞きましたが、弊社のデバイスもネットワークインフラも同じようなラボで作られ、また試験されているということがお分かりになると思います。

 チップセットの分野においても、弊社のスマートフォンの技術、CPU、GPU、画像処理、さらにバッテリーは、実はネットワーク側の研究開発ともきちんと連携をとって行われています。ですので、非常に相乗効果を発揮しやすく、往々にしてネットワーク側の成果を端末の方で活かせるようになっています。これが弊社にとって、ライバル企業を超えるための強みになると考えています。

日米のキャリア市場での可能性

――グローバルのマーケットの中でとくに注力しているところはどこでしょうか? また、その理由は? 日本のマーケットはグローバルの中でどういう位置づけにあって、そのマーケットに期待することは何でしょうか。

Xu氏
 今、グローバルで販売されたスマートフォンが13~14億台あると言われています。その大部分が中国、アメリカ、日本、ヨーロッパで使われていると言われています。特に500ドル以上のスマートフォン市場というと、ヨーロッパ、アメリカ、中国、日本に集中しています。例えば、他の人口が多い国、インドやインドネシアといった地域ではローエンドが主流になっているので、優先順位としてはハイエンド市場が先に来ます。

 そして、数年前から我々は方向転換をしました。4年前に社内で議論していたのは、中国市場でファーウェイは生き残れることができるかどうかということでした。当時、サムスンが中国で1位で、シェアが30%でした。それが今は2%になり、ファーウェイはのシェアが今、1位の25%になっています。

 過去4年間、ヨーロッパに対しても投資を継続してきました。その結果として、イタリア、スペイン、フィンランド、ポーランド、オーストリアといった国では弊社の市場シェアがが1位となっています。そのほとんどの国では20%を超えています。今年、ヨーロッパでのスマートフォンの売上が50億ドルを超えるのではないかと見込まれています。ですので、中国市場に次いでヨーロッパ市場でも生き残ることができました。

 日本に関しては、過去には主にタブレット製品であるとか、固定系の端末を多く販売してきました。スマートフォンは主にSIMフリーマーケットに主戦場を置いていました。しかし、日本市場というのは戦略的に非常に重要な市場であると我々も認識しています。日本では弊社のスマートフォンは、一部の分野では非常によい業績を収められたと考えています。クチコミの評価も非常によく、これは我々にとっても激励になり、鼓舞されます。弊社としても、これで自信がついて日本で最大の市場であるキャリアマーケットに対しても諦めずに取り組みを続けられると思います。近いうちにその成果が見られるのではないかと思います。

――グローバル市場でシェア2位、1位を狙うためには米国市場が重要になると思われるが、米国市場での戦略は?

Xu氏
 米国市場は非常にハイエンドな市場で、グローバルで見てもPRの最重要なところだと認識しています。当然、我々も米国市場を重要視しており、継続的に努力をしています。

 米国のオープンマーケットにおいて弊社のPC製品である「MateBook」、スマートウォッチ、Mate 9などのスマートフォンなどがすでに販売されているのですが、その販売成績は悪くないと思います。

 日本と同じように、米国においてはキャリア市場が一番ボリュームが大きい市場ですので、これに関してはNDA(秘密保持契約)を締結しているのでこの場では話せないのですが、近い将来、米国の通信事業者に対してもある程度の実績を出すことができるのではないかと思います。

――Mate、P、nova、honorといったラインナップ構成は今後どうなるのでしょうか?

Xu氏
 細かい部分は把握しきれていないところもあるので確実なことは言えないのですが、日本市場での弊社のボリュームはまだ小さいので、4つのシリーズはちょっと多いのではないかと個人的には思います。今後は実際の消費者の反応を見ながら絞っていくのではないかと思います。

 4つのシリーズはそれぞれの特徴があります。例えば、Mateシリーズはバッテリーのもち時間が非常に長く、いろんな機能のパフォーマンスがバランスよくどれも高いということで、ビジネスパーソン向けに作られています。Pシリーズは、まずカメラ機能、そしてデザインを格好良くすることによって魅力度を高めています。今後はもっと精巧にコンパクトに作っていきます。若者向けとしてはnovaシリーズとhonorシリーズになるのですが、これらはいずれもミドルレンジの製品でコストパフォーマンスが一番のウリです。

――グローバル市場ではいかがでしょう?

Xu氏
 ヨーロッパではPシリーズをメインでプッシュしています。Mateシリーズですと大画面ですので、どちらかというとリテラシーが高い、こだわりをもったギークにウケているのですが、それと比べてPシリーズの方がより大衆ウケしやすいシリーズになっています。

 中東とアジア太平洋地域、ラテンアメリカもそうなのですが、そこの消費者は大画面のスマホが好きで、バッテリーのもちを気にする人が多いので、こうした地域ではMateシリーズを中心に販売しています。

 中国では1年に4.5億台の新しいスマホが販売されるといわれているのですが、MateシリーズとPシリーズのどちらも販売しています。どちらかというと、女性がPシリーズ、男性がMateシリーズを買っているというイメージです。PシリーズとMateシリーズというフラッグシップモデルは、世界各国でだいたい3世代ほど販売してきました。もう少し、たぶんあと2世代の新製品を販売して、その結果、市場の反応を見ながらパターンというのを見出したいと考えています。それぞれ地域によって好みが分かれますから、どういった機種がどの地域に合っているのかを見極めていきたいと考えています。

ファーウェイが強化を図る5つのポイント

――今、世界シェアでは3位ですが、やはり目指すは1位でしょうか。もしそうだとすれば、いつ頃1位を取れそうでしょうか。また、そのためには何を強化しようと考えているのでしょうか。

Xu氏
 弊社は世界各地で事業を展開していますが、市場のオポチュニティ(機会)が我々の能力をはるかに上回っています。我々が思う以上に市場が我々に対して期待を持っていると認識しています。

 戦略的な方向性としては、まずは品質です。生産、R&Dにおいても、しっかりと品質をキープすること。

 2番目はチップセットの技術です。通信メーカーとして、これからもチップセットに対する投資や研究開発を強化することで他社との差別化を図りたいと考えています。将来的には我々にとって非常に大きなアドバンテージになると信じています。

 3つ目がソフトウェアのエクスペリエンスです。アップルが独自のOSを使っている以外、ほかのメーカーは全部Androidをベースにしています。そもそもAndroidというのは、使用時間が長くなればなるほど遅くなるという問題点があります。だいたい12カ月後には効率が20~30%下がると言われています。これはメーカーによらず、サムスンでもソニーでも同じことが認められます。

 弊社の場合、Mate9からソフトウェアを最適化することによって、スムーズに使える期間を12カ月から18カ月に延ばすことができました。こうした取り組みを続けることで、2018年にはAndroid陣営の中では弊社のスマートフォンが一番使いやすいものになると信じています。

 4つ目は、世界の一流企業とパートナーシップを組むことです。これによって機能をどんどん強化していきます。例えば、ライカと業務提携することによって業界の中で最も良いスマートフォンのカメラ技術を実現したり、タブレット製品に関してはHarman Kardonと協力することでオーディオの効果を最大限に引き出したり、パソコンに関してはMateBookでドルビーと業務提携することで工夫をしています。こうしたオープンな姿勢をもって、業界の優秀なパートナーを見つけることが非常に大事だと思います。

 5つ目は、エコシステムを構築することを目標にしています。スマートフォン、PC、ウェアラブル、スマートホームのソリューションをどんどん出していくのですが、こうしたエコシステムを作ることによって、弊社の製品を使っていただいている消費者によりよい体験をお届けすることができるようになります。

 この5つのことをこれからも努力していきたいと考えています。いつ競合他社を超えるかということに関しては特に目標を設定していません。まず第一に能力を上げること、そして第二に消費者のために価値を作り出すこと。消費者にとってみれば、支払った代金のぶんの価値を感じ取ってもらうことが大事で、弊社の製品を楽しんで使っていただくことが大事だと思いますし、そうなれば弊社にとっても実力を認めてもらえると思うのです。ですので、ランキングで何位なのかについては関心を持っておらず、むしろ価値を作り出すことに重きを置かなければいけないと指摘しています。

――サービスのプラットフォーマーとの協業についてはいかがでしょうか?

Xu氏
 例えば、Facebook、Amazon、アリババとはすでに業務提携しています。特にAmazonとアリババはEコマースで、そういったところには消費者の消費行動にまつわる膨大なデータが集まっています。そういったデータは、マーケットインサイトをする上で役に立ちます。ビッグデータがあるので、それを使うことによって、どの消費者をターゲットとするか、それぞれのターゲットに対してどうアプローチするか。消費財を売っている我々にしてみれば、こうした情報が非常に役に立ちます。

 実は今、中国国内において、サードパーティとともに取り組んでいることがあります。一つの例としてご紹介させていただくと、「緑盟」(グリーンアライアンス)という組織と協力し、ファーウェイがオープンラボを作りました。そのオープンラボでアプリのテストを行い、そこで合格したものをファーウェイのアプリストアに置くようになっています。そうすることによってファーウェイのスマホを使ってアプリをダウンロードする時にウイルスに感染したり情報が漏えいしたりといったことが無いので消費者に安心してご利用いただけるようになります。

 2つ目の事例として、スマートホームのソリューションがあります。家を買ってリフォームする時、部屋の中の電気や冷蔵庫、カーテン、レンジなどをどう繋いでいくかということは、中国でも非常にホットなトピックです。弊社の場合、こういった家電製品、冷蔵庫やテレビなどは作っていません。弊社がやっているのは、標準的なプロトコルを作ることです。そして、そのプロトコルに合ったチップセットを作っています。このことは中国の家電業界からサポートを受けています。これが実現すれば、弊社のスマホを通して異なるメーカーの家電製品を全部繋ぐことができるようになります。

 今ご紹介した2つの事例については、来年から海外に向けても展開していく予定です。グローバルでもいろんなパートナーを見つけて、これをどんどん大きくしていきたいと考えています。

これまで以上に生活に密着するスマートフォン

Xu氏
 自分は仕事の関係でいろんな国に行ったことがあります。その中でもモバイルネットワークの活用は中国では頻繁に利用されて、一番発達しているのではないかと考えています。自分の普段の生活は全てスマホに繋がっています。

 朝起きて、ランニングに行くのですが、そういった時にはスマートフォンかウォッチをつけて走っています。その情報は端末を通してクラウドに記録されます。

 その後、出社するのですが、私の場合、自転車で出社することが非常に多くなっています。中国の大都市ではシェアサイクルが浸透していて、スマートフォンでQRコードをスキャンすることで、簡単に安く利用できます。数キロの距離であれば、みんなこうしたシェアサイクルを使っています。

 モバイル決済については、中国ではAlipayやWeChat Payがあるのですが、サイフを持ち歩かずに、どんな小さな商品でも、露店でちょっとしたお菓子を買う時でもスマホで支払いができるようになっています。

 ちょっと高めの買い物をするときにはクレジットカードが欠かせないのですが、その情報をあらかじめスマートフォンに登録しておくと、やはり同じようにスマホの中のクレジットカードを使って買い物ができます。

 プライベートで車を運転して友人を訪ねる時、車を友人の家の近くに停めたとします。その時、3時間で2ドルということで、アプリに停めたいスペースの番号を入力して駐車するのですが、予定よりも早く出ることになった時、当初の3時間ではなく2時間になった場合、その分の料金が払い戻しされます。いろんな国に行きましたが、こういった機能はほとんど見かけません。

 中国にはゲーテッドコミュニティがあります。複数のマンションが一緒になって、まわりをゲートで囲むようなコミュニティがたくさんあるのですが、そこでは共通の宅配ボックスみたいなものが設けられます。これによって中国のEコマースが非常に発展しています。ネットショッピングと言えば、みんなスマホを使ってやっています。本当にスマホは我々にとって欠かせないものになっています。

――モバイルの課題として、限られた資源である周波数をいかに使っていくか、デバイスのサイズという制約といった面ではファーウェイはかなり社会に貢献していると思います。もう一つ、電池で動くデバイスということで、そこに課題があると思うのですが、バッテリー分野でのR&Dについてはどう考えていますか。

Xu氏
 去年、サムスンのバッテリーが燃えたという件で我々も非常に大きなショックを受けていました。しかし、ふたを開けてみると、問題はバッテリーそのものというより設計にありました。どちらかというと設計の問題で、中の部品が互いにぶつかったり変形したりする時の危険をいかに回避するかという、安全性の試験が十分に行われていなかったのではないか推測します。

 もちろん我々もいろんな戒めや教訓を得ていまして、当初はリコールするまでに時間がかかったことがいけなかったのかなと思っていました。この事件を受けて、社内でもいくつかの措置をとりました。1つ目として、バッテリーの調達、購買フロー、品質体系を見直しました。2つ目に、バッテリーの試験を強化しました。特に安定性に重きを置いて試験を強化しました。3つ目は、アフターサービスの強化。何か問題が起きた時にいち早くレスポンスできるように心がけました。

 冒頭でも弊社がいかに品質を重要視しているかというお話をしたのですが、どんなにたくさんイノベーションを起こして技術的に先行していても、品質で何か落ち度があれば、場合によっては大きな災難になりかねません。ですので、技術とデザイン、体験をまんべんなく取り組まなければいけないものだと思います。

 弊社のラボでは、生産に入る前に一度生産の環境をシミュレーションを作り出してそこで一回試験をします。問題なく生産できるかどうかをシミュレーション試験するのですが、それをクリアしてから実際の製造段階に入ります。このような取り組みは中国国内ではほかには見られません。弊社だけなのです。

――IFAでAIを搭載した新しいチップセットが発表されましたが、AIを搭載したチップにより世の中はどう変わっていくのでしょうか。

Xu氏
 このチップセットにはいくつかの機能があるのですが、まず1点目としてNPUを新たに作りました。ニューロン・プロセス・ユニットです。ニューロンは神経細胞のことを指しますが、このNPUはCPUとGPUの能力をさらに上げるために作ったものです。これによって、よりスピードが速く、省エネなスマホが実現できます。

 2番目の特徴としては、このチップセットはLTEのCat.18に対応しています。ダウンリンクで1.2Gbpsの速度を出せます。今、世界で最も速い速度を出せるチップセットだと言えるかと思います。

 自社開発したISPという人工知能に対応する製品があります。人工知能のプラットフォームを作ったんです。スマホの中でカメラ機能、画像の識別といったところでAIの技術を使えるようになり、サードパーティにも開放しているので、このチップセットでいろんなAIに対応したアプリを開発できるようになります。来月、最新のMate10を発表となりますので、その際にはより細かな情報を提供できるのではないかと思います。

――まもなく5Gの世界がやってきますが、5Gはスマートフォンをどう進化させるのでしょうか。5Gで何か新しいことができるようになるのでしょうか。

Xu氏
 これは技術にも関わることなので、お望み通りの回答になるかどうかは分からないのですが、できる限りのことをお話ししようと思います。

 5Gは日本はいち早く導入していくことになりますが、5Gになると通信速度が速くなりますので、スマホで言えば今まで以上にゲームや映画での使用感が良くなると思います。もう一点、5Gになれば自動運転の分野も大きく躍進するのではないかと思います。もちろん、IoTとM2Mが広がって、キャパシティが大きくなると思います。

これからもカスタマーファーストで

Xu氏
 最後に少しばかりお時間をいただいてファーウェイがいかに今日まで歩むことができ、今後に向けてどう歩んでいくのかをお話ししたいと思います。

 我々が思うには、技術は非常に大事です。しかし、その技術より大事なのが管理(マネージメント)と文化です。ファーウェイは今年で設立30周年になるのですが、創設者である任は72歳になります。彼はこの30年間、一生懸命働いて我々を率いてきました。ファーウェイの中で最も重要な理念として掲げられているのが、カスタマーファーストと、卓越を追求して一生懸命頑張る人に報いるという企業文化です。

 18万人もの社員がいるわけですが、その管理の仕方や文化はできるだけシンプルにしています。一番重要なのは、みんなが目の前のことをしっかりやることです。人間関係をどんどん複雑にしたり、学歴や資格で人を値踏みをしたり、年功序列などには一番反対しています。何を見るかというと、やはり会社への貢献度です。

 創設者も名言している決まりがあります。本社の幹部が海外に出張に行くとき、現地の中国人幹部がもし勤務時間に空港まで来て出迎えるようなことがあれば、即刻クビにするという風に言っています。勤務時間中はお客様のために働かなければいけない。本社の幹部のために働くのではありません。創設者自身も72歳で月の半分は海外出張に行っているのですが、乗る飛行機はビジネスクラス。もしファーストクラスに乗るのであれば、自腹で差額を出して乗っています。

 ファーウェイは1998年に初めて海外市場に進出しました。20年近く努力してきているのですが、私自身も12年間の海外勤務の経験があります。本社は中国に置いていますが、視野を広くして世界の市場を見ています。世界中の一流企業とパートナーシップを組んで、いろいろと学ぶことを目標にしています。

 20年も昔からいろんな管理体制や社内フロー、いかに仕事の効率を上げるかということで、IBMのマネージメントの方法を導入してきました。20年前から品質の管理、品質試験というものを、ドイツテレコム、ボーダフォン、日本でいうとドコモさんやKDDIさんから学び、基本としました。今では品質意識が我々の考えに深く結びついています。

 実はファーウェイでは、3人の社員が5人分の仕事をして4人分の給料をもらう、という言い方があるのですが、私たちは楽しんで仕事をしています。

 今後に関しても自信を持っています。ファーウェイは上場をしていないので、資本関係で影響を受けることはありません。一度決めた長期戦略、方向性は簡単にゆらぐことはありません。これからも消費者、お客様を第一に据えて、できるだけ長くこの業界で生き残りたいと考えています。ファーウェイの成功は偶然ではなく、未来に向けても自信を持って一歩一歩しっかりと歩んでいきたいと考えています。