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必須特許は本当に必須か、5G規格にまつわる必須特許宣言の現状

 NTTドコモは20日、5G規格特許に関する記者説明会を開催した。

 ドコモは、携帯電話事業者としては5Gに寄与する寄書提出数が突出して多く、ノキアやエリクソンなどネットワーク機器のベンダーなどが多数を占める中、上位10社に食い込んでいる。

 同社では、サービスを提供する立場を反映した意見や日本特有の環境から生まれた条件を提言している。たとえば、緊急地震速報に使われる「ETWS」や5GにおいてもNSAやMassive MIMOなどの提案はドコモによるものだ。

 しかし、他方では必ずしも提出された特許の数が重要ではないという見方もあるようだ。NTTドコモ 知的財産部長の小川真質(おがわしんすけ)氏は、5Gに必須とされる特許は必ずしもそうとは言えないこともあると説明する。

標準化の仕組み

 5Gの標準化は、世界各国・地域が設立した国際標準化プロジェクト「3GPP」によって策定される。

 各国の標準化団体がこれに参加し、さまざまな技術について検証。最終的な仕様に盛り込むべきかどうかといった検討がなされる。ここで決定された仕様に基づき世界各国の事業者がそれぞれの自国の仕様をITUに提案。世界共通仕様として完成する。

 5Gの標準化の中心を担っているのは、4G標準化のときとおおむね同じメンバーだという。日本からはドコモ、欧米からクアルコム、インテル、ノキア、エリクソンという老舗企業が名を連ねており、中韓からはファーウェイ、ZTE、サムスン電子、LGという顔ぶれ。

必須技術は本当に必須か

 5Gの標準化における「寄書」提出数は、トップがファーウェイ。エリクソン、ノキアと続き、10位にはドコモがランクインしている。

 寄書とは、標準仕様策定に向けた提案事項などを含んだ文書のこと。この提出数が、その規格の標準仕様策定への貢献度を示すパラメーターとして使われることもある。ドコモの寄書はキャリアらしく無線関係のものが大半を占めている。

 また、小川氏によると、その仕様を実現するにあたり、使用を避けて通れない特許技術のことを「規格特許」と呼ぶという。各社は5G標準化にあたり、そうした特許技術の開発に熱を上げているという状況だ。

 1台のスマートフォンをネットワークに接続して使うためには、多くの規格特許技術を用いる必要がある。その技術を特許権利を保有する企業に独占されると、他企業はスマートフォンやサービスを作れない。そのような事態を回避するためにFRAND(Fair, Reasonable, and Non-Discmininatory)条件によるライセンスが保証されている。

 それに関連して、特許権利者は、標準化団体に仕様の実現に不可欠な特許を宣言する「必須特許宣言」という手続きを行う。つまりFRAND条件によるライセンスを用意すると意思表示するもの。しかし、必須かどうかを判断するのは特許権利者であり、公正な目で見て必ずしもそれが必須とは言えない場合もある。

 サイバー創研が独自に集計した結果によると、特許の数はファーウェイやサムスン電子が多いものの、必須と宣言した特許中に含まれる本当に必須である特許の率はドコモをはじめとした日本企業が高い傾向にある。このデータを参照する限り、必ずしも宣言された特許が必須とは言えない状況にあることが見て取れる。

 その特許技術を使って製品を作る実施者が規格特許を把握できるのは標準化団体が持つデータベースのみという。実施者はこれらの情報をもとに将来的なライセンス交渉などを行う必要があるが、宣言の正確性の低さが問題となっており、特許権利者が宣言した内容を事後に精査、更新するべきという意見が上がっている。

 しかし一方、特許権利者側からは、規格の検討当初から最終的に必要不可欠な技術となるかは判断できず、予備措置的に必須宣言の特許が増えるだけという指摘もある。宣言後の情報更新が必要になれば特許権利者の負担が大きすぎるという反論があり、現状では宣言の正確性の低さをどうしていくかの結論は出ていない。

欧州委員会からから是正の動きも

 こうした流れに対してヨーロッパでは、欧州委員会がETSIに対して解決を促す指針を公表している。

 その中には、データベースの質に対する要求条件が早期に満たされること、必須特許宣言のシステムをより最新・正確な情報を提供するツールにすること、宣言の正確性の審査の検討。その仕組の導入を促進、試行プロジェクトの開始などが含まれる。

 ETSIには、5G標準化の中心的メンバーのほとんどが参加しているため、将来的には現状の解決に何らかの動きがあることも考えられる。また、特許プールの「AVANCI」を活用し、実施者がAVANCIにライセンスを求めることで解決するという動きも出ている。