法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

磨き抜いた快適さと安心感で攻める、ドコモ2013夏モデル

 5月15日、NTTドコモは2013年夏商戦へ向けた新商品・新サービス発表会を開催し、スマートフォン9機種をはじめとした11機種を発表した。国内で最大シェアを持つNTTドコモだが、ここのところ、各社との激しい純増シェア争いやMNP獲得競争で後れを取るなど、苦戦が伝えられている。

 そんな中、2013年夏モデルでは人気機種2モデルを『ツートップ』に据え、Xiネットワークの充実を図ると共に、豊富なラインアップと充実のサービスで反撃に転じたい構えだ。発表会の詳細については、本誌のレポート記事を参照していただきたいが、ここでは今回の発表内容の捉え方と各製品の印象などについて、解説しよう。

ラインアップは充実させてきたが……

 国内で約6000万を超える契約数を獲得し、最大のシェアを持つNTTドコモ。ケータイ時代はiモードで他社をリードし、多彩なサービス、安心できるサポート、充実したエリア、信頼性の高いモバイルネットワークなど、総合的にもっとも実力のある携帯電話事業者として、市場を牽引してきた。

 2006年のMNP開始直後は、一時的に他社への転出が増えたものの、全体の契約数から見れば、それほど大きなマイナスにはならず、業界トップの地位を揺るぎないものとしていた。なかでも端末については、契約数が多いこともあり、他社に比べ、かなりラインアップを充実させてきたという印象が強い。たとえば、ある商戦期では他社の新モデルが10機種前後だったのに対し、NTTドコモでは二十数機種をラインアップしたり、ディスプレイなどのスペックも一気にハイスペックなモデルを揃えるという方針を採ってきた。

 こうした言わば「物量作戦」的なアプローチはスマートフォン時代になっても続き、各商戦期ごとに十数機種を市場に投入してきた。当初はフィーチャーフォンとは別に、スマートフォンを数機種、発表する程度だったが、昨年夏にはついにスマートフォンのみを発表し、利用者に「もうiモード端末はないの?」と心配をさせるようなこともあった。

 モデル数が多いことについては、2008年秋冬モデルから「STYLE」「PRIME」「SMART」「PRO」という4つのシリーズに分け、ユーザーに選びやすい指針を示したり、スマートフォン時代に入った2011-2012冬春モデルでは、スマートフォンを軸にシリーズ分けを再構築し、スマートフォンだけでも2つのシリーズをラインアップさせ、それぞれのシリーズに豊富なバリエーションを並べていた。

約2年半前の2010年冬はスマートフォンが4機種

 たとえば、過去2年半ほどを振り返ってみると、日本仕様を搭載したスマートフォンがはじめて登場した2010年冬はスマートフォンが4機種のみだったが、半年後の2011年夏商戦向けでは9機種、2011年冬商戦向けでは14機種、2012年夏商戦向けでは16機種もラインアップされている。昨年の冬商戦向けでは10機種に落ち着いたが、それでも春商戦向けとして9機種を追加しており、実質的にはこの半年間に過去最多の機種数が投入されたことになる。ちなみに、機種数はスマートフォンのみの数字で、タブレットは含まれていない。

 しかし、こうした幅広いラインアップが十分に活かされず、販売面ではひとつの足かせになってきたという指摘も多い。筆者も本コラムで「本当に商戦期ごとに十数機種もの新モデルが必要なのか」という話を書いてきたが、「機種はたくさん揃えました。あとは好きなものを自由にお選びください」という姿勢が少なからず見え隠れし、ユーザーからも「多すぎて、どれを選べばいいのかがわからない」といった声が聞かれていた。選択肢が多いことは望ましいが、ここ数年のスマートフォン普及期の初期においては、ほとんどのユーザーがスマートフォンを未体験で、選択の指標になるものを持ち合わせていないため、いきなり十数機種を並べられても判断できない状況にあったわけだ。これはNTTドコモに限った話ではないが、販売の現場でも同様の傾向が見られ、販売員が中途半端な印象のみで売ってしまい、それぞれのユーザーに合った商品を提案できず、結果的にユーザーの不満につながっていった印象もある。

 これらの反省を踏まえ、今回発表された2013年夏モデルでは、発表された全11機種のうち、「GALAXY S4 SC-04E」と「Xperia SO-04E」を『ツートップ』に据え、価格面でのサポートも含め、積極的におすすめしていくという方針を打ち出した。このツートップ施策の是非については後述するが、今までのNTTドコモからは考えられないような大胆な方針転換であり、非常に注目される。

全機種Xi対応の充実したラインアップ

 次に、ラインアップ全体について見てみよう。まず、前述のように、NTTドコモでは従来からユーザーが端末を選ぶ指針とするため、スマートフォンでもNEXTシリーズとwithシリーズの2つのシリーズに区分してきたが、今回からこの区分はなくなり、「ドコモスマートフォン」というひとつのシリーズにまとめている。スマートフォン以外のシリーズは、タブレット、らくらくホン、ドコモケータイ(iモードケータイ)がラインアップされる。

 次に、スペックについては、らくらくスマートフォン2を含め、全機種がXi対応になり、周波数帯も800MHz帯、1.5GHz帯、2.1GHz帯(2GHz帯)の3バンド対応となっている。その他の仕様については今年1月発表の春モデルとほぼ同等で、CPUはクアッドコア、バッテリーは2000mAh以上の大容量、NOTTV対応、NFC対応、メモリ2GB/ストレージ32GB以上(らくらくスマートフォン2のみストレージ8GB)、プラットフォームはXperia A SO-04Eを除き、Android 4.2が標準仕様となっている。NOTTVについては、録画にも対応する。クアッドコアCPUは、従来は複数のベンダーのものが採用されていたが、今回はらくらくスマートフォン2とタブレットを含めた11機種中10機種が米クアルコム製「Snapdragon 600 APQ8064T」を搭載し、残りの1機種は従来版の「Snapdragon S4 Pro APQ8064」を搭載する。クロック周波数はほとんどの機種が1.7GHz以上のものを採用しており、パフォーマンスも非常に高い。これらの面を見る限り、製品間の差はかなり少なくなっているという印象だ。

 ディスプレイサイズについては、ボディ幅などとの兼ね合いもあるため、多少バラツキがあるが、ハイエンドクラスはARROWS NX F-06Eの5.2インチを筆頭に、5インチと4.8インチが1機種ずつ、4.7インチが3機種、ミッドレンジ及びコンパクトモデルは4.6インチと4.5インチが1機種ずつ、4.3インチが2機種という分布になる。解像度については、今年のハイエンドのトレンドであるフルHDが4機種、HDが5機種、QHDが1機種となっており、春モデルと合わせると、フルHD搭載端末は7機種にまで増える。

 これだけ大画面で高解像度のディスプレイを搭載しながら、いずれのモデルもボディ幅は約70mmに抑えられ、もっともコンパクトな「AQUOS PHONE si SH-07E」(約4.3インチ)は約60mmを切る約59mmに仕上げられている。また、これらのサイズだけではなかなか表現しきれないのがホールド感で、各社とも背面をラウンドさせたり、ボディ周囲の角を曲線で面取りするなどの工夫を施している。ホールド感については、手の大きさやフィット感などに好みがあるので、購入前には実際に手に持って、確認することをおすすめしたい。

 バッテリーについては、前述の通り、全機種が2000mAhのものを搭載しているが、「ARROWS NX F-06E」の3020mAhをはじめ、半分に相当する5機種が2500mAh以上のものを搭載する。これだけの容量を実現することもあり、スマートフォン3機種、タブレット1機種が固定式バッテリーを採用する。少しユニークなのは「AQUOS PHONE ZETA SH-06E」で、固定式バッテリーながら、ドコモショップのスタッフが工具で交換できる構造を実現しており、電池交換時の修理預かりを避けられるようにしている。

 端末の連続使用時間も一部に未測定の機種が残るものの、ほぼ全機種が3G連続待受時間で400時間以上、LTE連続待受時間で350時間以上、連続通話時間で600分以上を達成しており、一段と実用レベルが高くなってきた印象だ。ただ、ひとつ注意が必要なのはフルHDディスプレイ搭載端末で、当然のことながら、ピクセル数が増えれば、自ずと消費電力は増える傾向にあるため、電池の持ちを重視するユーザーがフルHDディスプレイ搭載端末を検討するときは、発売後の評判などを少し見極めたうえで、判断することをおすすめしたい。あくまでも現段階での筆者の感触だが、各社の省電力機能も含め、連続使用時間についてはまだまだ製品間の差があると見ている。

 また、今回発表された夏モデルは、Xiのデータ通信の仕様として、いずれも受信時最大100Mbps/送信時最大37.5Mbpsに対応しているが、発表会では2013年度内に受信時最大150Mbpsのサービス提供を開始することが明らかにされた。この150Mbpsという速度を実現するには、今までよりも広い帯域幅が必要とされるため、おそらくNTTドコモが東名阪地区で免許を受けている1.7GHz帯を利用することが予想される。また、現在の受信時最大112.5Mbpsが利用できる機種がHiSilicon製クアッドコア「K3V2」を搭載する「Ascend D2 HW-03E」に限られていることからもわかるように、受信時最大150Mbps対応は、今秋以降に登場するベースバンドチップセットを搭載したモデルから対応することになりそうだ。

 無線LANの対応については「Xperia A SO-04E」と「ELUGA P P-03E」がIEEE802.11a/b/g/n対応であるのに対し、その他の機種はこれらに加え、新規格であるIEEE802.11acにも対応する。市販のIEEE802.11ac対応の無線LANアクセスポイントも販売が開始されているので、フルにパフォーマンスを引き出したいのであれば、これらを購入する必要がある。

ツートップ戦略の功罪

 さて、今回発表されたNTTドコモの2013夏モデルでは、冒頭でも触れたように、全11機種の内、「GALAXY S4 SC-04E」と「Xperia SO-04E」の2機種を『ツートップ』に据え、主力機種として販売することが明らかにされている。特定のモデルを強く打ち出す取り組みは、春モデルでも「Xperia Z SO-02E」を『イチ押し』としていたが、今回は価格面でも差別化され、実際にユーザーが購入するときの価格(各種割引適用後の実質負担額)も他機種に比べ、2~3万円程度、割安になるとされている。

 NTTドコモにおいて、こうした特定機種のみを割引する販売施策は、モデル末期の在庫処分的な手法を除けば、過去に例がなく、極めて異例の取り組みということになる。

 ただ、他社を見てみると、こうした特定機種のみを割り引く販売施策は採用されており、その結果は実際の売り上げ増に結び付いている。たとえば、もっとも具体的な例がアップルの「iPhone」で、auやソフトバンクで販売される「iPhone」は他のAndroidスマートフォンに比べ、販売価格が割安に設定され、スマートフォンという大きなカテゴリーの中で考えると、ランニングコストも含めた基本的な負担額は少ないとされている。ハードウェアが違うため、一概に比較できない部分もあるが、ソフトバンクが「iPhone」を扱い始めたばかりの頃、他機種との実質価格があまりにも大きいため、一部では他機種で納入価格に上乗せされた分がiPhoneのインセンティブ(値引き)に使われているのではないかと噂されていた。

 特定機種の販売数を増やし、全体的な売り上げ増に結びつけたいのであれば、こうした販売施策はひとつの手法として有効かもしれないが、購入するユーザーの視点で考えると、必ずしも歓迎できる販売施策ではない。たとえば、今回のツートップに据えられた2機種を購入するのであれば、割安に購入できるためメリットはあるだろうが、その他の機種を欲しいと考えたユーザーにとっては、「なぜ、自分が買う機種は割り引かれないのか?」という明らかな不公平感が生まれてしまう。誤解のないように書いておくが、ツートップの2機種はどちらも魅力的な機種であり、NTTドコモとして、プロモーションなどで積極的に推すことについての異論はない。ただ、最終的な販売価格にまで差をつけてしまうのは、結果的にユーザーの選択肢を大きく歪めてしまうため、とても歓迎できるものではない。もっと厳しく言えば、ユーザー軽視の販売施策であり、間違った取り組みと言えるだろう。『買い』の機種を選ぶのはユーザーであり、NTTドコモが決めることではない。

 また販売施策全般で見ても本来、サポートするべきところは、今回のようなツートップ販売施策ではなく、初期のスマートフォンを購入したユーザーが優先されるべきではないだろうか。ここのところ、新聞やテレビといった一般メディアで、「iPhoneを扱っていないから、NTTドコモはMNPの流出が続いている」といった報道をよく見かけるが、筆者はMNP流出の原因がNTTドコモ自身の販売施策にあると見ている。MNPでNTTドコモから転出する典型的なケースの1つに、初期のAndroidスマートフォンを購入したユーザーが動作の不安定さに嫌気が差し、他社へのMNP転出、なかでもプラットフォームとしての安定性のある「iPhone」に移行するパターンがあると見ている。

 同様のことは他社でも起きる可能性があるが、auは初期の「IS01」や「IS03」のユーザーに対し、販売代理店の施策によるものかもしれないが、ダイレクトメールを出し、ある程度、割安な価格で新機種に移行できる施策を採っていた。ソフトバンクも何度となく、ダイレクトメールによる販売施策を実施している。

 昨年の夏モデル以降、AndroidプラットフォームはAndroid 4.xが主流になり、プラットフォームの進化は徐々に落ち着きつつあるが、ここ数年のAndroidプラットフォームの進化はあまりにも急速であったため、初期のAndroidスマートフォンはAndroid 4.x以降の機種に比べ、操作の快適性などにおいて、どうしても大きな差が残ってしまう。本来であれば、NTTドコモはこうした初期のAndroidスマートフォンのユーザーに対し、優先的に最新機種に機種変更できる施策を打ち出すべきではないだろうか。

 少し話は脱線するが、今回のツートップ販売施策を見ていると、最近のNTTドコモの施策が数年前と少しずれてきているような印象を受ける。たとえば、NTTドコモでは環境負荷低減の取り組みの一環として、今年3月からクレジットカード払いの契約者に対して、月々の「ご利用料金のご案内」の郵送を取りやめている。紙資源の節約にもなるため、社会的に評価される取り組みだが、他社では一定額を支払うことで印刷された明細書を受け取れるサービスが提供されているのに対し、NTTドコモはそういった選択肢を用意しておらず、一律廃止という姿勢を取っている。もし、経費申請などの関係上、明細書が必要な場合は、パソコン版の会員サイト「My docomo」からPDFファイルをダウンロードしなければならないが、その保存期間は最大3カ月に限られ、それ以前のデータは削除されるなど、ユーザー側から見れば、非常に扱いにくい状況になっている。

15日の発表会でも“ツートップ”の2機種のタッチ&トライコーナーは他機種よりも格段に広かった

 これは一例でしかないが、どうもこうした流れは昨年の社長交代以降、顕著になってきたような印象も受ける。山田隆持 前代表取締役社長は就任以来、「お客様満足度の向上」を強く訴え、新製品発表会や決算会見などの席においてもこの言葉を積極的に使うことで、社内の意識に変革を促し、それまでのNTTドコモのイメージを大きく変えることに成功した。現在の加藤薰代表取締役社長も就任の際、これまでの流れを継承するとしていたが、どうもそれが少しずつ崩れてきつつあるような印象を受けてしまう。NTTドコモは契約数がもっとも多く、幅広いユーザーに対応しなければならないため、顧客から細かな不満は出てきやすいものだが、最近の施策は効率化を目指すあまり、本来、NTTドコモとして大切にしなければならないものを見逃しているように見える。加藤社長が就任時、自らが好きな言葉として、「七分で良しとせよ」という言葉を挙げていたが、顧客への対応が七分になってしまうようでは困るのだが……。

スマートフォン10機種とタブレット1機種にケータイもラインアップ

 さて、最後に発表会後に行われたタッチ&トライコーナーで試した印象を踏まえながら、各モデルの印象や気になるポイントについて、紹介しよう。従来に比べ、機種数が減ったものの、タッチ&トライコーナーの時間は限られているため、十分な試用ができておらず、それぞれのモデルも開発中であるため、最終的な製品との差異があることはご理解いただきたい。また、各機種の詳しい機能や仕様については、本誌レポート記事で解説されているので、そちらを参照されたい。

  • GALAXY S4 SC-04E(サムスン電子)

 今年3月、グローバル向けで発表されたGALAXYシリーズのフラッグシップモデル。サムスン製端末ではおなじみのSuper AMOLED(有機ELディスプレイ)はフルHD対応になり、夏モデルではもっともハイスペックとなる1.9GHzクアッドコアCPUに、約7.9mmの薄さながら、2600mAhの大容量バッテリーを搭載するなど、ハイスペックを追求したモデル。防水に対応していないのは残念だが、質感の高いボディは他製品を一歩リードしている印象。スペックばかりが強調されがちだが、SジェスチャーやSプレビューなど、すでにスマートフォンを利用しているユーザーにも楽しめる機能をはじめ、TouchWizかんたんモードなどのはじめてのユーザーにも優しい機能を搭載するなど、ユーザビリティにも非常に気が配られている。GALAXY S II SC-02CやGALAXY S II LTE SC-03Dなどのユーザーの買い換えにもおすすめできるモデルだ。

  • Xperia A SO-04E(ソニーモバイル)

 ドコモの発表会直前の5月13日にグローバル向けに発表された「Xperia ZR」をベースに、おサイフケータイやワンセグなどの日本仕様を盛り込んだモデル。基本的なデザインは「Xperia Z」の流れをくみ、アクセントとなる側面の電源キーも継承されているが、「Xperia Z」のような前後面のガラス仕上げではなく、背面は丸みを帯びたカバーが装着され、少し柔らかな印象を受ける。ユニークな点はボディを箱形で作り出すコアフレーム構造で、コンパクトなボディながらも2300mAhの着脱可能な大容量バッテリー搭載を可能にしている。ディスプレイは4.6インチだが、ホームキーなどの操作アイコンもいっしょにディスプレイ内に表示されるため、実質的な表示面積はもう少し狭く感じられる。「Xperia Z」との比較が難しいところだが、「Xperia Z」のデザインが気に入ってるものの、もう少しコンパクトなモデルが欲しいというユーザーにはいい選択肢だろう。旧機種との買い換えでは「Xperia acro SO-02C」や「Xperia ray SO-03C」などのユーザーがターゲットと言えそうだ。

  • AQUOS PHONE ZETA SH-06E(シャープ)

 昨冬の「AQUOS PHONE ZETA SH-02E」などで高い省電力性能が評価されたIGZO搭載液晶のフルHD対応パネルを搭載したモデル。IGZO搭載液晶が持つ省電力性能に加え、シャープ独自のエコ技の組み合わせにより、60時間を超える実利用を可能にする。フルHD液晶も非常に美しく、今回の夏モデルではトップクラスの画質と言って差し支えない。ホームキーなどはタッチセンサーをディスプレイの外に備えているため、実際の表示エリアはかなり広い。ボディはやや大きめに見えるが、丸みを帯びた形状で、手にフィットする持ちやすさだ。おくだけ充電やキャップレス防水、店頭交換が可能なバッテリーなど、電源周りの配慮も行き届いている。カメラは従来モデルに比べ、画素数こそ落ちているものの、F値1.9という明るいレンズにより、暗いところでの撮影にも強い。ツートップに負けないどころか、同等以上の魅力を持つ今夏の最強モデルのひとつと言えるだろう。

  • ARROWS NX F-06E(富士通)

 NTTドコモの2013年夏モデルの中で、もっともハイスペックを追求したモデル。ARROWSと言えば、従来モデルではCPUにNVIDIA製「Tegra 3」を搭載し、ハイパフォーマンスで人気を集める一方、発熱などで今ひとつ芳しくない評価を受けてきたが、今回は安定性でも高い評価を受けているクアルコム製「Snapdragon 600」を搭載し、細かい仕様なども大幅に見直した“新生ARROWS”という位置付け。ディスプレイは最大の約5.2インチながら、狭額縁設計により、ボディ幅は約70mmに抑えるなど、持ちやすさが考慮されている。ARROWSシリーズは元々、使いやすさを考えたユーザビリティでも高い評価を得ていたが、今回もホームキーなどのソフトウェアキー部分に[↓]キーを表示させ、ここをタップすると、画面表示全体を下方向に下げる「スライドディスプレイ」など、ユニークな機能も実装している。この他にもフルセグチューナー搭載や唯一のDTCP+対応など、スマートフォンを多方面に活用したいユーザーに響く機能を数多く搭載しており、AQUOS PHONE ZETAと並び、ツートップと同等以上の実力を持つ今夏の最強モデルの1つと言えそうだ。

  • Optimus it L-05E(LGエレクトロニクス)

 昨夏、他社がCPU不足による生産に苦労する中、安定した供給で堅実な人気を獲得した「Optimus it L-05D」の後継モデル。従来モデルに比べ、ディスプレイサイズはひと回り大きい約4.5インチになったが、ボディサイズは1mm増の63mmに抑えられており、手の大きくない人にも持ちやすく仕上げられている。ホームキーなどがディスプレイ下に備えられ、画面はフルサイズで使うことができる。キャップレス防水など、従来モデルで好評だった機能も継承し、「Optimus G Pro L-04E」などにも搭載された「Qスライド」などの新機能も搭載されたハイエンドモデルに迫る充実ぶりが目をひくモデルとなっている。ボディカラーにもう少しバリエーションが欲しいところだが、今回発表された2013年夏モデルの中で、もっとも幅広いユーザーにアプローチできるモデルと言えそうだ。

  • MEDIAS X N-06E(NECカシオ)

 今春モデルに登場した「MEDIAS X N-04E」の流れをくむモデル。スリム系のスマートフォンはどうしてもチップセットの熱対策が課題になるが、スマートフォンとしてはおそらく初めてヒートパイプを搭載することにより、短時間での温度上昇を抑え、安心して利用できる構造を可能にしている。こうしたモノ作り的な工夫を凝らす一方、ディスプレイの下に備えられたハードキーの両脇とイヤホンジャックをイルミネーションを設けることで、楽しく光るスマートフォンに仕上げている。なかでもイヤホンジャック部分のイルミネーションは市販の半透明のスマートフォンピアスを挿すことにより、さまざまなキャラクターやアイテムを光らせて楽しめる。NECカシオ製端末は従来からdocomo Palette UIのほかに、独自のホームアプリを搭載していなかったが、今回はNTTドコモが提供する「docomoシンプル UI」に加え、独自の「LIFE UX」と呼ばれるホームアプリがプリセットされる。LIFE UXはホーム画面をタイムライン風に表示する「Life Way」など、ユニークなユーザーインターフェイスを採用しており、非常に新鮮な印象だ。旧機種からの買い換えとしては「MEDIAS WP N-06C」「MEDIAS LTE N-04D」などがターゲットと言えそうだ。

  • AQUOS PHONE si SH-07E(シャープ)

 昨年10月に発売された「AQUOS PHONE si SH-01E」の後継に位置付けられるモデル。2013年夏モデルでもっともコンパクトな幅約59mmのボディを実現し、持ちやすく仕上げている。ディスプレイサイズは「AQUOS PHONE si SH-01E」よりもひと回り大きい約4.3インチのS-CG Silicon液晶パネルを搭載する。ボディはコンパクトながらも機能やスペックは上位モデルと比べてもまったく遜色なく、カメラのレンズもAQUOS PHONE ZETA SH-04Eと同じF値1.9のものを採用する。内容的にもかなりお得感の高いモデルと言えそうだ。旧機種からの買い換えとしては「AQUOS PHONE SH-12C」や「AQUOS PHONE f SH-13C」「AQUOS PHONE slider SH-02D」あたりがターゲットと言えそうだ。

  • ELUGA P P-03E(パナソニック)

 フルHDディスプレイ搭載端末としては、もっともコンパクトなモデル。2013年春モデルの「ELUGA X P-02E」がハイスペック指向だったのに対し、このモデルはハイスペックながらもiモード端末からの乗換や女性ユーザーなど、使いやすさを重視するユーザーを意識したモデル。今夏モデルでは、いくつかの機種で“ホバー”と呼ばれる、画面にタッチせずに操作できる機能が搭載されているが、「ELUGA P P-03E」はディスプレイと指の間を15mm程度まで離しても操作できるなど、一歩進んだ仕様を実現している。ボディ背面はラウンドさせた形状で仕上げているが、他機種に比べ、少しふっくらとしたカーブを描いており、タイトさを感じさせない独特のフィット感で持つことができる。iモード携帯電話と同じキーレイアウトのデザインをソフトウェアキーで再現した「ケータイキー」を用意するなど、ケータイからの移行ユーザーを強く意識したモデルとなっている。

  • Disney Mobile on docomo F-07E(富士通)

 Disney Mobile on docomoの第4弾モデル。ベースモデルはないが、基本的なソフトウェアや機能は「ARROWS NX F-06E」に準じており、内容的にもかなり充実したモデル。独自の機能としては、イルミネーションが多彩で、背面に描かれたシンデレラ城のシルエットによるグラフィックは着信時などに、さまざまなパターンで光らせることができる。ミッキーとミニーを模したスマートフォンピアスも同梱されるが、これを装着したときも独自のグラフィックが画面に連動する形で表示されるなど、かなり凝っている。取りはずしたスマートフォンピアスを卓上ホルダに装着しておくことができ、装着時にも光らせることが可能。ディズニーファンにとっては、たまらない一台と言えそうだ。

  • AQUOS PAD SH-08E(シャープ)

 約7.0インチのIGZO搭載液晶ディスプレイを採用したタブレット。同名モデルがすでにauでも販売されているが、au向けがWXGA表示であるのに対し、SH-08EはフルHDよりも高解像となるWUXGA表示に対応し、地上デジタル放送のフルセグチューナーも搭載する。フルセグやワンセグ、NOTTVで利用するアンテナは、本体に格納された伸縮式のアンテナを利用するが、卓上ホルダにアンテナ端子を備えており、家庭などではアンテナケーブルを接続しておくことで、安定した視聴が可能になる。ボディサイズはわずかに(カタログ値では0.5mm)厚みが増しているが、基本的にau向けと変わらない。IGZO搭載液晶とシャープ独自のエコ技による省電力に加え、4200mAhという大容量バッテリーの搭載により、かなりの長時間の利用が期待できるモデルだ。イヤホンマイク(あるいはBluetoothヘッドセット)の利用が必須ながら、音声通話にも対応しており、単独利用やテザリングだけでなく、スマートフォンやフィーチャーフォンのピンチヒッター的な活用も可能だ。重量も285gと軽いため、本格的にモバイル環境で利用するタブレットとして、広くおすすめできるモデルと言えるだろう。

  • らくらくスマートフォン 2 F-08E(富士通)

 昨年発売された「らくらくスマートフォン F-12D」の後継モデル。今回はモックアップのみの展示だったが、従来モデルに比べ、ディスプレイサイズを大きくし、Xiに対応するなどの改良が図られている。今秋に予定されているドコモメールについては、dマーケット経由でのダウンロードで対応することが検討されている。また、らくらくパケ・ホーダイについては、Xi向けの「Xiらくらくパケ・ホーダイ」が同額の月額2980円で提供される。

拡がるユーザー層と買い替えユーザーにどう取り組むか

 iモード携帯電話などで使われてきた日本仕様を取り込んだスマートフォンが登場し、国内でのスマートフォンの本格的な普及が始まって、早くも2年半近くになる。NTTドコモによれば、スマートフォンの利用数は2011年度に約1000万、2012年度には約1870万まで拡大しているという。

 つまり、NTTドコモのユーザーの約1/3近くがスマートフォンを利用していることになる。しかし、これは裏を返せば、まだ約2/3以上がスマートフォン以外のものを利用しており、その大半はフィーチャーフォンを利用していることを意味する。今後、NTTドコモがどこまでスマートフォンのユーザー層を拡大していくのかはわからないが、仮にNTTドコモのユーザーの80%程度までスマートフォンが普及するとすれば、まだ3000万以上の契約がフィーチャーフォンからスマートフォンに移行することになる。ただ、この移行ユーザーは1~2年という短い期間で移行するとは考えにくく、おそらく4年以上のスパンで移行すると考えられる。

 そう考えると、今後、NTTドコモは数年をかけて、新たにスマートフォンへ移行するユーザー、すでにスマートフォンを購入したユーザーの買い換え需要の両方に配慮しながら、ビジネスを展開していかなければならない。これはNTTドコモに限った話ではなく、他事業者やメーカーにも言えることだが、難しい課題ではあるものの、この双方のユーザー層にきちんと満足される端末ラインアップやサービスを提供していかなければ、スマートフォンにおけるビジネスで市場をリードしていくことは難しいだろう。

 こうした今後の展開を考えると、今回、NTTドコモが採った『ツートップ』という販売施策は、本当に正しいのかどうかは非常に疑問が残る。くり返しになるが、選んだ2機種はいずれも魅力的なモデルであり、NTTドコモのスマートフォンの市場を切り開いた「Xperia」、スマートフォンのラインアップを牽引した「GALAXY」という位置付けを考えても適切なチョイスと言えるだろう。

15日、囲み取材に応えるドコモ加藤社長

 ただ、それはNTTドコモとメーカーのビジネス的な話であって、ユーザーが選択するということにおいては、必ずしも当てはまらない。特定機種に販売奨励金を多く載せ、購入しやすくするという手法は「iPhone」などでも採られてきた手法だが、それは「iPhone」を扱う条件などが絡んでいるからこそ成立したものであって、他の機種でも同じ手法が通用するものではないだろう。明確な制限こそないものの、少なくとも、NTTドコモはNTTグループという出自を考えても契約者に対し、ある程度、公平感のある形で端末やサービスを提供するべきだと筆者は考えているが、今回のような極端に価格差を付けた販売方法が本当に適切なのかどうかは、非常に疑問が残る。逆に、ユーザーに見えない形で、裏でのやり取りの結果、特定機種が少し割安な程度であれば、それほど違和感を持たなかったかもしれないが、ここまで明確に謳われてしまうと、ユーザーとしても選びにくくなる。そのあたりのお客様目線の不足というか、デリカシーのなさが最近のNTTドコモの不振につながっているようにも見える。個々の製品が魅力的であるだけに、非常に残念な取り組みと言えるだろう。

 NTTドコモの販売施策のため、今夏はどのように端末が売れていくのか、ユーザーがどのように選んでいくのかがなかなか見えにくい状況にあるが、今回発表されたモデルは一部のモデルの販売・予約が開始されており、全国6カ所のスマートフォンラウンジでは実機の展示も始まっている。本誌では今後、各機種のレビュー記事や開発者インタビューなどが掲載される予定なので、それらも参考にしながら、ぜひ読者のみなさんの自分だけの『ワントップ』を探していただきたい。

法林岳之

1963年神奈川県出身。携帯電話をはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるWindows 8.1」「できるポケット docomo AQUOS PHONE ZETA SH-06E スマートに使いこなす基本&活用ワザ 150」「できるポケット+ GALAXY Note 3 SC-01F」「できるポケット docomo iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット au iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット+ G2 L-01F」(インプレスジャパン)など、著書も多数。ホームページはこちらImpress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。