法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」
「スマートフォンを使いこなす」をサポートするauの夏モデル
(2013/5/24 09:00)
5月20日、auは2013年夏モデルとなるスマートフォン4機種を発表した。
auと言えば、2012年3月に「auスマートパス」を開始し、auひかりや各地のCATVインターネットと連携する「auスマートバリュー」など、スマートフォンを活かした戦略を展開する一方、iPhone 5の取り扱い開始に伴い、MNP獲得競争でも他社をリードするなど、各携帯電話事業者の中でもっとも勢いの感じられる存在となりつつある。
今回は2013年夏商戦向けにスマートフォン4機種をラインアップすると共に、3M戦略第2弾として「スマートリレーションズ構想」を打ち出し、「スマートフォンを『使いこなす』をサポートするキャリア」を目指す構えだ。
発表会の詳細については、本誌のレポート記事を参照していただきたいが、ここでは今回の発表内容の捉え方と各製品の印象などについて、解説しよう。
スマートパス戦略が成功した一年
国内の携帯電話市場には、これまでもいろいろな形で変革が起きてきた。あるときは通信技術の進化だったり、あるときはiモードのような新しいサービスの登場、またあるときは写メールのような端末の機能とサービスを組み合わせたものが大きな変革をもたらすこともあった。もちろん、近年で言えば、iPhoneをトリガーとするスマートフォンの波は、人々のライフスタイルをも大きく変えつつあるが、単純にスマートフォンという製品だけでなく、携帯電話事業者の事業戦略もスマートフォン時代に合わせた形に変革を求められている。
このスマートフォン時代に合わせた変革で、もっとも成功したと言えるのがauではないだろうか。auは2010年に発売されたIS01やIS03でAndroidスマートフォンにいち早く取り組んだものの、その勢いをなかなか成長に結びつけることができなかったが、2010年10月に就任した田中孝司代表取締役社長が3M戦略を打ち出して以来、その風向きは大きく変わることになった。中でも2012年1年に発表した「auスマートパス」と「auスマートバリュー」は、この1年間のauの大きな躍進を後押しする形となった。
たとえば、固定網を組み合わせることで、月々の利用料金を割り引く「auスマートバリュー」では自社の「auひかり」だけでなく、中部エリアの「コミュファ光」や傘下のケーブルテレビ会社「J:COM」に加え、直接的な資本関係を持たない関西エリアの「eo光」、東京エリアの「イッツコム」などにも対象事業者を拡大し、2013年3月期の段階で212万世帯386万契約まで伸ばしている。KDDI自身の業績だけでなく、地域の通信事業者やCATV事業者のビジネスも活性化させた点は、高く評価できるだろう。
一方、アプリが使い放題になる「auスマートパス」は、すでに600万加入を突破し、はじめてスマートフォンを使うユーザーだけでなく、すでにスマートフォンを利用しているユーザーからも広く支持されている。あまり積極的にアピールされていないが、auスマートパスでは定額の対象となるアプリをはじめ、au Marketで公開されているアプリについて、すべてセキュリティチェックを実施しているため、安心して利用できる点も評価できる。サービス面では「ビデオパス」や「うたパス」、「ブックパス」、「LISMO Unlimited」など、スマートフォンでコンテンツを楽しむサービスを次々と提案し、最近のトレンドであるサブスクリプション型のサービスにおいて、他社を大きくリードする形となっている。
端末ラインアップにおいても2012年9月からはアップルのiPhone 5の取り扱いを開始したことで、各社と激しい獲得競争をくり広げてきたMNPにおいて、大きなアドバンテージを得ることになり、2011年10月から続くMNP純増No.1をキープし続け、2012年度はMNP開始以来、過去最高となるMNP純増数で101万を記録している。
「スマートフォンが欲しい」から「スマートフォンで何かをやりたい」へ
こうして振り返ってみると、この1年間はauにとって、まさに成功という言葉が相応しい1年であり、多くのユーザーからも「もっとも勢いのある事業者」という印象を持たれている。この成功をさらに成長につなげるため、今回の2013年夏モデルの発表会では、一連のauスマートパス構想をリニューアルし、3M戦略の第2弾として、「スマートリレーション構想」を打ち出してきた。
これまで国内市場で展開されてきたスマートフォンの市場は、どちらかと言えば、「ケータイからスマートフォンへ乗り換える」ことに主眼が置かれていたが、すでにスマートフォンの普及率は50%に近づきつつあり、2013年は「スマートフォンが欲しい」から「スマートフォンで何かがやりたい」に変わってくることが考えられる。こうした状況を見据え、2013年のauは「スマートフォンを『使いこなす』をサポートするキャリア」を目指していくという。
具体的には、これまでのauスマートパスが従来のコンテンツを「使い放題」にするもので、どちらかと言えば、ユーザーが能動的にコンテンツをスマートフォンで楽しもうとする「PULL」型であったのに対し、新しいauスマートパスではリアルな生活にも役立つコンテンツをユーザーに対して「PUSH」で届ける方向を目指す。たとえば、auスマートパス会員向けのチケット先行予約や音楽ライブ、映画試写会などを提供したり、さまざまなパートナー企業から提供される情報やコンテンツをそれぞれのユーザーに合った形で提供していく。そして、その見せ方も従来のWebページ的なコンテンツではなく、TwitterやFacebookに代表されるタイムラインのようなユーザーインターフェイスを採用し、スマートフォンに合ったスタイルで見せていく。
実際のサービス内容やコンテンツについては、今後の展開を注視していくことになるが、きちんとそれぞれのユーザーにターゲティングされた内容のコンテンツが提供されるのであれば、期待できるものになりそうだ。その半面、ユーザーが「ちょっと自分の好みと違うな」「余計なものが表示されて、煩わしい」と感じてしまうと、まったく逆効果になってしまう可能性もある。このあたりの微妙なさじ加減は、auのセンスに期待したい。
また、ユーザーとのリレーションを強化するための取り組みとして、はじめてスマートフォンを購入するユーザーがつまづいたり、すでに使っているユーザーがうまく使いこなせないといったことが起きないように、「auスマートサポート」というサービスを提供する。24時間体制のサポートデスクに加え、直接、スマートフォンの使い方を教えてくれる「スマホ訪問サポート」、購入前にスマートフォンを試すことができる「スマホお試しレンタル」を提供することで、ユーザーがスマートフォンを「使いこなせる」ように、バックアップしていくという。
この内容だけを見ると、auショップなどでのサポートを実質的に有料化するものと捉えられてしまいそうだが、auとしてはショップでにサポート以上のプレミアムを求めるユーザーを対象にしたものと考えているようだ。ただ、初期費用がそれなりにかかるうえ、4カ月目からは月額料金もかかるため、どちらかと言えば、そういった手厚いサービスを求めるユーザー向けのプレミアムサービス的な印象だ。
ちなみに、auスマートサポートを契約したユーザーに対しては、購入した機種の市販のガイドブック(解説書)が配布される。筆者もこうした各機種別の書籍を何冊も執筆しているが、発表会後にメディア関係者との間で「これじゃ、auのスマートフォンの書籍は出しにくくなるね」と苦笑いしていた。読者のみなさんにはあまり関係のない話だが、スマートフォン関連の出版に携わる人たちから見れば、あまり歓迎されない取り組みという見方もできる。
ミスが誤解を生む4G LTEのエリア表記のミス
さて、端末のラインアップについてだが、今回はスマートフォン4機種のみが発表された。フィーチャーフォンもタブレットもモバイルWi-Fiルーターもないが、これらは既存の製品を継続販売することになるようだ。
まず、機種数についてだが、おそらく多くの読者が「4機種しかないの?」と驚いたかもしれない。かく言う筆者もある程度、絞ることを予想していたとは言え、4機種という数は正直なところ、意外だった。もちろん、過去数年の状況を見てもわかるように、機種数が多ければいいというわけでもないが、NTTドコモの11機種、ソフトバンクの9機種と比較してもかなり絞り込んだという印象だ。4機種に絞り込まれた背景については、筆者なりの推測を後述するが、各機種のスペック分布については当然のことながら、最新のもので構成されている。
ディスプレイについては、2機種が約5インチのフルHD、残り2機種はいずれもHDだが、サイズは約4.9インチと約4.7インチが搭載されている。ディスプレイサイズと密接な関わりを持つボディ幅については、3機種が約70mm前後で、1機種のみが約65mmに抑えられている。他事業者にように、手の大きくない人向けのコンパクトモデルがラインアップされていないのは残念だ。
CPUについては、Snapdragon 600 APQ8064T/1.7GHz、Snapdragon S4 Pro APQ8064/1.5GHz、Snapdragon S4 MSM8960/1.5GHzとばらけているが、4機種中、URBANOのみがデュアルコアで、残りはいずれもクアッドコアになる。メモリは3機種がRAM 2GB/ROM 16GB、残り1機種がRAM 2GB/ROM 32GBを搭載する。
バッテリーについては、4機種とも2300mAh以上の大容量バッテリーを搭載しているが、4機種中2機種が固定式、残り2機種は電池パックを採用する。ちなみに、URBANOについては9月に非接触充電規格「Qi」に対応した電池パックと充電台がオプションで提供される予定となっている。
通信まわりでは、これまでのAndroidスマートフォンでサポートされていた800MHz帯、1.5GHz帯に加え、2.1GHz帯についてもLTE方式に対応し、今回発表された4機種とiPhone 5、iPad mini、iPad Retinaディスプレイモデルでは、4G LTEの受信時最大100Mbpsのサービスが利用できる。ただし、受信時最大100Mbpsは15MHz幅の帯域が必要になるため、当初は四国の一部でサービスを提供し、その後、混雑していない地域からエリアを拡大していく計画だという。
ところで、auの4G LTEと言えば、発表会の翌日、消費者庁から景品表示法違反による措置命令が下され、各方面で話題になっている。詳細はこの件を扱った本誌の記事を参照していただきたいが、多くのニュースの見出しだけを眺めていると、「auは4G LTEのエリアを実人口カバー率で96%と謳っていたが、実際は14%しかなかった」と受け取ってしまい、かなりヒドい誇大広告を打ったように見える。
しかし、「14%しかなかった」のは2.1GHz帯のみで4G LTEに対応するiPhone 5の受信時最大75Mbps対応エリアであって、帯域幅の狭い37.5受信時37.5Mbpsのエリアは広く(実人口カバー率は非公開)、800MHz帯と1.5GHz帯に対応したAndroidスマートフォンについては広告で触れられていた通りの実人口カバー率に拡大する計画で、実際に2012年度末(2013年3月)にはそれをほぼ達成している。
本誌読者のみなさんであれば、もうおわかりだろうが、これはauのiPhone 5とAndroidスマートフォンで、対応する4G LTEの周波数帯が違い、それを意識せずにカタログなどを制作してしまったことが原因となっている。つまり、4G LTEサービスの受信時最大75Mbpsの96%という実人口カバー率は、4G LTE対応Androidスマートフォン向けの値であって、そこにiPhone 5を含めてしまったことが間違っているわけだ。これは明らかなミスであり、au(KDDI)は責められて当然なのだが、内容がわかりにくいとは言え、一部のメディアがあたかも鬼の首を取ったかのごとく、「auの4G LTEのカバー率96%、実は14%!」などと、煽るように書き立てる姿勢はいかがなものだろうか。
また、KDDIもこの件について、5月10日の段階で総務省から指導が出ていることを考慮すれば、今回の発表会で何らかの説明をするべきだったはずだ。意外なことに、今回は発表会のネット中継がなく、報道関係者やメーカー関係者のみが参加する形式だったため、きちんと説明をすれば、もう少し正確な事情を伝えることができたのではないだろうか。あまりいい表現ではないが、どうもKDDIの姿勢を見ていると、「攻めるときはアグレッシブだが、守りは弱い」という印象を持ってしまう。
この一件に関連して、補足しておくと、おそらくこの失敗が生まれてきたもう一つの背景には、国内におけるiPhone 5のLTEの対応バンドが2.1GHzに限られていることが関係している。この状況はソフトバンクも同じだったが、同社のiPhone 5は昨年買収したイー・モバイルが1.8GHz帯(国内では1.7GHz帯と呼ぶ)で提供するLTEにも対応したことで、帯域的には差がついた格好となっている。今のところ、auは2.1GHz帯のLTEのエリアをどのように拡げていくのかを明言していないが、おそらく次期iPhoneでは800MHz帯などでもLTEが利用できる可能性が高いため、その段階で改めてエリアについて、アピールし直すように推察される。
厳選されたスマートフォン4機種をラインアップ
さて、ここからは今回発表されたスマートフォン4機種について、その印象を踏まえながら説明しよう。ただし、しずれも開発中の製品をタッチ&トライコーナーで試用した範囲の印象であり、最終版の製品とは差異があるかもしれないことをお断りしておく。また、各製品の詳しい内容については、本誌のレポート記事が掲載されているので、そちらも合わせて、ご覧いただきたい。
HTC J One HTL22(HTC)
HTCが今年2月に発表したHTC Oneをベースに、おサイフケータイやワンセグ、赤外線通信といった日本仕様を取り込んだモデル。アルミ素材によるフルメタルボディは非常に美しい仕上りで、その質感とも相まって、所有欲を刺激する仕上り。デザインも含めた全体的な存在感は、iPhone 5やXperia Zなどと比べてもまったく遜色ないか、それ以上のものを感じさせる。
機能的にもユニークだが、面白い取り組みと言えるのが400万画素のCMOSセンサーによるカメラだ。今やハイエンドモデルは1600万画素を超えようかという時代に、400万画素は貧弱だと感じてしまいそうだが、実は一般的なスマートフォンのカメラに採用されているものよりも大きなCMOSセンサーを採用し、より多くの光を取り込み、ノイズの少ない写真を撮影できるようにしている。こうした画素数を抑えながら、大きなセンサーを搭載するという手法は、一部のデジタルカメラでも採用され、一定の評価を得つつある。HTC J Oneで実際に撮影した印象も確かに暗いところでの撮影に強くなっているが、こうした手法を理解するユーザーはある程度、スマートフォンやデジタルカメラに対する知識のあるユーザーが中心であり、auが考えるところのエントリー層にはあまりマッチしないように見える。防水に対応していないなど、気になるところも残されるが、auの夏モデルではもっとも存在感のある1台だ。
Xperia UL SOL22(ソニーモバイル)
今年2月に開催されたMobile World Congress 2013において、KDDI関係者から明かされていたXperia Zをベースにしたモデル。ただし、Xperia Zのように、前後面をガラス仕上げにするのではなく、背面側は側面から少しラウンドさせたようなデザインで、Xperia Zよりも柔らかなイメージに仕上げられている。手に持ったときの印象もゴツゴツ感がなく、持ちやすい。側面にカメラキーを備え、電池を交換可能なタイプにするなど、Xperia Zとは異なる仕様となっている。3つのカラーバリエーションの内、Blackのみがマットな塗装で、残りのホワイトとピンクは光沢のある仕上げを採用する。ディスプレイはHTC J Oneと並び、約5.0インチのフルHD対応パネルを搭載し、カメラの秒間15枚の無限連写を可能にするなど、基本的な仕様はXperia Zのものを継承している。アプリなどもソニー独自のものが搭載されており、Xperiaならではの完成度の高い世界観が演出されている。Xperiaシリーズを待っていたソニーファンにおすすめの1台だ。
AQUOS PHONE SERIE SHL22(シャープ)
昨年発売されたAQUOS PADに続き、IGZO搭載液晶を採用したモデル。NTTドコモ向けの昨年の冬モデルのAQUOS PHONE SH-02Eが2日間の動作をアピールしていたこともあり、こちらは他の部分でも省電力化ができたこともあり、『驚きの3日間』を謳う。ディスプレイが約4.9インチに大きくなったこともあり、従来のSHL21に比べ、ボディがわずかに大きくなり、背面や側面を曲線で仕上げることで、持ちやすいデザインに仕上げている。ちなみに、ホームキーなどはディスプレイの外にセンサーキーで備えられているため、実際の表示エリアは約5インチのディスプレイを搭載する機種と比べても遜色はない。メインカメラはF値1.9の明るいレンズを組み合わせた1310万画素裏面照射CMOSセンサーを搭載し、暗いところでもノイズやぶれの少ない写真を撮ることが可能。ディスプレイの解像度はHTC J OneやXperia ULに一歩譲るが、IGZOの持つ圧倒的な省電力性能や快適な操作性は大きな魅力であり、スマートフォンがはじめてのユーザーから買い換えのユーザーまで、幅広い層におすすめできる1台と言えそうだ。
URBANO L01(京セラ)
オトナ向けモデルのブランドとして、定着しつつある「URBANO」シリーズの新モデル。昨年の秋冬モデルとして登場したDIGNO Sをベースに、ディスプレイの下にハードキーを備え、全体的に落ち着いたデザインに仕上げている。ディスプレイの振動で受話スピーカーになる「スマートソニックレシーバー」や「すぐ文字」など、京セラ製端末でおなじみの機能も搭載されている。ユーザーインターフェイスもはじめてのユーザーでもわかりやすいオリジナルUIを搭載し、表示フォントもAndroid標準のものより、大きなサイズを表示できるようにしている。
電池容量も2700mAhと大きいが、9月に別売で非接触充電規格「Qi」に対応したバッテリーと充電台も発売される。auのスマートフォンとしては初のQi対応は非常にうれしいところだが、追加で購入しなければならないのはURBANOのユーザー層や電池容量を考えても今ひとつチグハグな感は否めない。スマートフォンをはじめて持つアクティブシニア層のユーザーにおすすめしたい1台だ。
auの「ワクワク感」は続いているか
ケータイ全盛の時代からスマートフォン中心の時代へ移行が進む中、業界の動きも大きく変化しつつあり、ユーザーの求めるものも少しずつ変わってきている。この一年、auはauスマートパスやauスマートバリューによって、その流れをうまくつかみ、MNP純増No.1をキープし続けるなど、しっかりと結果を残してきた。昨年の夏モデルの発表会の記事で、筆者は「少数精鋭の夏モデルでauスマートパスを後押しできるか?」と書いたが、結果を見る限り、その心配も杞憂に過ぎなかったという印象だ。
ただ、これはauのビジネス全体を見た話であって、端末については少し異論があるので、触れておきたい。
今回、2013年夏モデルとして発表された機種は、ここでも説明したように4機種に絞り込まれている。それぞれの機種は非常に魅力的であり、ターゲットとするユーザー層にしっかりとアプローチできそうだが、どうしてここまで絞ってしまったのだろうか。
実は、昨年の秋冬モデル以降、auの店頭は筆者が見る限り、かなり販売に偏りができてしまっていて、夏モデルの段階で、多くの機種を追加するのは、在庫的にも無理があると考えたからだと推察している。というのもすべてのショップに該当する話ではないが、ここ半年、auの店頭に出向くと、まず最初に目に入るのがiPhone 5で、スタッフが勧めてくるのもiPhone 5という状況になりつつある。ひどいところになると、Androidスマートフォンが欲しいという話をしてもiPhone 5ばかりをすすめ、Androidスマートフォンについての疑問には答えてくれないようなケースもあるという。
誤解のないように書いておくと、iPhone 5は幅広いユーザーにアプローチできる素晴らしい製品であり、これを推すことに異論はない。しかし、すべてのユーザーのニーズをiPhone 5でまかなえるわけでもなければ、au自身もiPhone 5だけを売っているわけではない。Androidスマートフォンもフィーチャーフォンを欲しい人もいるわけだが、auスマートパスなどのサービス面以外で、そのニーズにしっかり応えてきているだろうか。
この状況を見て、おそらく多くの読者はピンと来るはずだ。かつて、ソフトバンクはiPhoneの販売を強力にプッシュする一方、Androidスマートフォンやフィーチャーフォンには力を入れず、価格面でも必要以上に差をつけてしまった時期があった。まさに、あの状況によく似ているのだ。
それを裏付けるように、本誌の価格調査を見てみると、NTTドコモの2012年冬モデルや2013年春モデルにはAQUOS PHONE ZETA SH-02Eのように、すでに一部で売り切れになるほどの人気を得たのに対し、auの2012年秋冬モデルはほぼ全機種の在庫がある状況だ。販売ランキングを見てもauの端末がランクインするのは、iPhone 5以外に、HTC J butterfly HTL21が入るくらいで、週によってはソフトバンクのみまもりケータイ2に及ばないこともあるくらいだ。こういう表現はあまり好ましくないが、auとして、「とりあえず、iPhone 5を売っておけば、大丈夫」的な姿勢になっているような印象すら受けてしまう。
また、販売施策の面で見ても物足りなさを感じる。NTTドコモの『ツートップ戦略』のような手法はとても歓迎できないが、auとして、ケータイからの移行ユーザーとスマートフォンの買い換えユーザーに、それぞれどう取り組んでいくのかという方向性が見えてこない。もちろん、サービス面ではauスマートパスをはじめ、スマートフォンを楽しむネタをたくさん提供してきているが、NTTドコモの「ありがとう10年スマホ割」のような価格面で既存ユーザーをサポートする施策は提供されていない。これを少し斜めから読んでしまうと、「MNPで転入がたくさんあるから、まずはそっちの手当てが大事。既存ユーザーは手当てしなくても大丈夫」というように見えてしまう。実際にそういった考えがなかったとしても、ここのところの異常なまでのMNPへの偏重ぶりを見ていると、ユーザーにそう受け取られてもしかたないだろう。
本来、auはトップを走るNTTドコモを追いかけ、端末でもサービスでも積極的に攻め、市場を面白くする存在だったと認識しているが、好調なサービス面を除けば、最近のauは営業成績ばかりを気にする優等生になってしまった感は否めない。KDDIの田中孝司代表取締役社長は就任以降、「『auって、ワクワクするよね』という空気感を大切にしたい」と語ってきたが、今回の夏モデルの発表やこの半年近くの状況を見て、ユーザーに「ワクワク感」は与え続けられているだろうか。少なくとも筆者からは、徐々にその感覚が薄れてきつつあるように見えるのだが……。
さて、今回発表された2012年夏モデルは、5月21日にから順次、東京・原宿のKDDIデザイニングスタジオ、愛知・名古屋のau NAGOYA、大阪・梅田のau OSAKAで展示が開始される予定だ。機種数は4機種と少なめだが、いずれも非常に完成度が高く、ケータイから移行するユーザーにも買い換えのユーザーにもおすすめできるモデルばかりだ。端末を購入する前に、ぜひ、デモ機を触って、その感覚を確かめていただきたい。また、本誌でも開発者インタビューやレビュー記事を掲載する予定なので、こちらもご覧いただき、自分に合った1台を選んでいただきたい。