ケータイ用語の基礎知識
第638回:WiPowerとは
(2013/11/12 12:23)
「WiPower」(ワイパワー)は、米国クアルコム(Qualcomm)が開発したワイヤレス給電方式です。この方式を採用したスマートフォンや充電パッドは、製品としてまだ存在しませんが、クアルコムが2013年第4四半期に発売予定のスマートウォッチ「Qualcomm Toq」(クアルコムトーク)の給電方法として採用されています。また展示会などで、「WiPower」を採用したスマートフォンの試作機などが何度か紹介されています。
その特徴としては、充電パッド上であれば、数cm程度、距離が離れていても、給電できるということになります。充電パッドと充電対象の機器の間に紙や板などを挟んでも充電でき、また複数台を同時に給電することも可能です。
クアルコムとサムスン(Samsung)では、2012年5月、ワイヤレス給電の国際規格を策定するための標準化団体「Alliance for Wireless Power(A4WP)」を発足させています。このA4WPが推進する無線給電方式が「WiPower」です。A4WPの設立メンバーはクアルコムやサムスンを含む7社です。2013年11月現在、米ブロードコム(Broadcom)、日本のデンソー、中国のハイアール(Haier)、米インテル(Intel)、韓国LG Electoronicsなど65社がメンバーとして参加しています。
磁気共鳴方式を採用
「WiPower」は、給電パッドと充電機器の位置あわせや重なりを気にする必要がなく、置くだけで給電できるほか、複数台を同時に充電することも可能なため、さまざまな用途があると期待されています。
他のワイヤレス給電方式で有名なものとしては「Qi」(チー)が挙げられます。「Qi」は、2011年夏発売のNTTドコモのスマートフォン「AQUOS PHONE f SH-13C」を皮切りに、ドコモのスマートフォンのほか、AV機器メーカーのBlu-rayレコーダー、デジタルビデオカメラなどで採用されています。
「WiPower」と「Qi」とは異なる点としては、「Qi」は電磁誘導方式を利用した給電方式であるのに対し、「WiPower」は磁界共鳴方式を採用している点があります。
磁界共鳴方式は、送電側と受電側、それぞれがコイルとコンデンサを持ち、これらで構成される共振器を磁界共鳴(共振)させることで電力を伝えます。共振は、たとえば2つの音叉を使った例がよく知られています。これは、片方の音叉を鳴らすと、離れたもう一方の音叉も鳴る、というものです。磁界共鳴もこうした現象で、受電側の機器は、共鳴によって得た高周波を、交流の電気を直流に変える整流回路を使って直流の電気に変換して、電力として受け取ります。電磁誘導方式に比べると、給電用コイルの周辺に広範囲に磁界を形成することによって、電力の伝送距離を長く取れるというメリットがあります。
電磁誘導方式を用いる「Qi」の場合、給電パッドの面積を広げるためにはコイルアレイといって、コイルをいくつもパッド内に組み込んで並べることがあります。一方、WiPowerでは、そのような必要はなくパッド上のコイルはひとつで問題ありません。パッド上でも給電コイルと充電する機器の間の距離は50mm程度まで離れていても給電が可能です。
ただ、磁界共鳴方式の「WiPower」は、電磁誘導方式に比べて、回路が複雑になりデバイスへの組込みが難しいというデメリットもあります。