第515回:Qi とは

大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我 ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連の Q&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


 Qiはワイヤレス給電に関する規格です。この規格に沿って作られた送電パッドや、携帯電話本体や充電用ジャケットを装着した携帯電話などを使えば、充電ケーブル抜き差しすることなしにワイヤレスで端末を充電できます。その名称は「チー」と読みます。

 この規格を策定しているワイヤレスパワーコンソーシアム(Wireless Power Consortium、WPC)には2011年5月現在世界の72社が加盟しており、国際的な規格となるように推進を進めています。

 この規格では、送電パッド側と充電側デバイスの技術や制御プロトコルが細かく取り決められています。また、WPCでは、認証機関におけるコンプライアンステストを実施して、承認した機器間の互換性を保証しています。

 「Qi」準拠の製品であれば、異なるメーカーの製品であってもパッドの上に端末を置きさえすれば充電することができるようになることでしょう。

現在の版では5Wまでワイヤレス給電可能

 「Qi」は、“電磁誘導”によって、パッドと充電される機器との間を電線なしで電力を供給します。“電磁誘導”とは、磁場が変動している環境下に導体、つまり電気を通す物体を置くと、そこに電力が生じる現象を利用しています。

 そのため、一般的には「パッド上に携帯電話を置くことで充電できる」と説明されていますが、実は数mm程度の距離であれば、宙に浮かす形でも充電できる仕組みです。

 「Qi」は、現在、携帯電話のワイヤレス給電規格として注目を集めていますが、ターゲットとしては、それだけでなくバッテリを持つさまざまな機器でのワイヤレス充電デバイスをめざしています。それにはたとえば、デジタル音楽プレーヤーやデジタルカメラなども含みます。

 現バージョンの仕様「Volume 1 Low Power」は、最大5Wまでの電力を供給することが可能で、今後Volume 2以降の規格策定によって、さらに大きな電力にも対応できるようにする予定とされています。

各社から対応製品

 「Qi」の特徴は、他のワイヤレス給電方式に比べると、比較的おおまかに充電したい機器を置いても充電されること、さまざまなメーカーから「Qi」準拠製品が提供されつつあること、という2点が挙げられるでしょう。

 「Qi」では、大まかにパッドのどこに置いても充電されるようになっています。たとえば充電位置が決まっているようなタイプでは、磁石をパッドに埋め込むことで端末が特定の充電可能位置に合わせられるようになっています。一方、自由に置いていいタイプでは、ベースステーション内のコイルが、端末に合わせて移動する「稼動コイル」、もしくは「コイルアレイ」と呼ばれる方式を採用し、磁場を作るコイルを並べることで、パッド上のどこに機器があっても充電できるようにしています。

 「Qi」対応機器としては、マクセルからワイヤレス充電器と充電用カバーをセットにしたiPhone 4向け製品「エアボルテージ」発売されています。iPhone4に充電用カバーを取り付け、パッドの上に置くとワイヤレスで充電できます。同製品では、コイルアレイ方式が採用され、どこにiPhone 4を置いても充電でき、厳密に位置あわせをする必要はありません。コイルアレイを2系統内蔵するモデルも用意されており、同時に2台のiPhone 4を充電することができます。

 またNTTドコモから、携帯電話端末本体が「Qi」による充電に対応し、カバーなしでQiでの充電が可能な機種も発表されています。2011年夏モデルの1つである「AQUOS PHONE f SH-13C」が「Qi」対応機種で、「おくだけ充電」という名称で、製品に同梱されているパッド上に置くだけで、充電できるようになっています。同梱の充電パッドだけでなく、他の「Qi」対応パッドから充電できます。また「SH-13C」に同梱されるパッドでは、他の「Qi」対応製品を充電することもできるのです。

 



(大和 哲)

2011/5/19 06:00