富士通研究所、ワイヤレス給電の携帯電話試作機開発


ワイヤレス給電対応携帯電話(試作機)
離れた複数機器への給電デモ

 富士通研究所は、電源ケーブルなしで給電できる磁界共鳴方式のワイヤレス給電において、複数のモバイル機器に適用できる送受電デバイス解析・設計技術を開発した。研究所では、2012年にもモバイル機器向けワイヤレス給電充電製品を商用化したい考え。

 ワイヤレス給電技術とは、端末と充電器間などをケーブル接続なしで電力供給する技術のこと。電磁誘導方式や磁界共鳴方式といった方式があり、送電側と受電側コイル間の磁束による電力を利用した電磁誘導方式は、コードレス電話などで実用化されているという。しかし、同方式は送電距離が数mmと短く、その仕組み上複数給電は難しい。

 富士通研究所が採用する磁界共鳴方式は、2つの音叉の一方を鳴らすともう一方の音叉からも音が鳴る、いわゆる共鳴現象の仕組みと同様に、コイルとコンデンサからなるLC回路の電場と磁場を共鳴させることでワイヤレスで電力が送れるというもの。近接給電だけでなく数m離れた距離でも数w~数kWの電力送電可能で、複数のデバイスの給電に対応する。富士通では、磁場共鳴方式の方がより応用性があるとして、研究を進めている。

 ただし、磁場共鳴方式は、周辺の電磁気の影響を受けやすく、共鳴条件の異なるさまざまな機器に対応するよう解析・設計することが困難とされてきた。とくに、端末が小型になればなるほど、周辺のバッテリーや回路プリント板、筐体などが干渉を受けやすいという。

 また、複数のデバイスで給電できるものの、同時に給電すると、機器間が互いに干渉することで共鳴条件が崩れ、電力が低下する場合もあるという。

 今回研究所が開発した技術は、こうした磁界共鳴方式の課題を克服する高速・高精度の解析・設計技術となる。従来、コイルとコンデンサーの両方をシミュレーターで解析させていたため、解析作業が複雑になっていた。新たな仕組みは、コンデンサを専用の回路シミュレーターで別途解析し、コイルは電磁界解析し、連成解析という方法で最適な共鳴条件を自動抽出するというもの。

 研究所では、今回の解析・設計技術を用いて受電デバイスを設計し、ワイヤレス給電機能を内蔵した携帯電話の試作機を開発した。改造した携帯電話となるためSIMカード等は入っていないが、携帯電話としての機能はそのままでワイヤレス給電を実現しているという。ケーブル充電と同等の電力が送電可能で、複数の機器で給電が可能。距離15mm程度で、給電効率は85%となる。送電周波数は2MHz帯となる。

 なお、試作機は近接充電タイプとなり、接地面から10mm程度浮かせても充電できる。現行の電波法および電波防護指針に沿った設計となるため、近接充電になっている。

 総務省では、2015年のワイヤレス給電の実用化に向け検討を進めている。富士通研究所では、電波法および電磁防護指針の改正をにらみ、まずは、現行法で対応できるワイヤレス給電製品を投入していく考え。また、携帯電話やパソコンといったモバイル機器に限らず、将来的には電気自動車などの移動体への給電、プリント板やLSI間の給電などにも応用していきたいという。富士通研究所 ITS研究センター 主管研究員の田口雅一氏は、「夢を形にするような研究開発」をテーマに開発していきたいとアピールしていた。

富士通研究所の田口氏ワイヤレス給電技術
浮かせても充電底面部


 



(津田 啓夢)

2010/9/13 14:19