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無線電力伝送技術、50W以上や屋外利用も視野にガイドライン改定

 東京ビッグサイトで開催されている「ワイヤレス・テクノロジー・パーク2013」のセミナーでは、「ワイヤレス電力伝送シンポジウム」と題した枠が設けられ、冒頭の講演では、ブロードバンドワイヤレスフォーラム(BWF)のワイヤレス電力伝送技術ワーキンググループ(Wireless Power Transmission-Working Group:WPT-WG)から「ワイヤレス電力伝送技術の利用に関するガイドライン」のVer2.0が発表された。

東芝 研究開発センター ワイヤレスシステムラボラトリ 研究主幹で、BWF/WPT-WGリーダーの庄木裕樹氏

 WPT-WGは、技術開発の促進や、電波法などを含めた利用環境の整備、人体への影響の検討、標準規格化活動など、ワイヤレス電力伝送にかかわるさまざまな活動を行っている。参加メンバーは東芝、ソニー、NTT、パナソニック、日立、NEC、シャープ、三菱電機、NTTドコモ、クアルコムジャパン、富士通、トヨタ自動車、日産自動車、LG Electronics、本田技研、キヤノンなど50以上の企業、団体などで、TELEC、NICT、ARIBなどの団体も含まれている。

 ワイヤレス電力伝送技術は、スマートフォンなどで対応機種が出ている「Qi」をはじめ、置くだけで充電できる電動歯ブラシなど、家電分野でもすでに製品が登場している。WPT-WGの取り組みは、参加メンバー向けにガイドラインを示して、技術の普及を促進したり、安全性の確保や国際間の協調を図ったりすることなどが目的。同時に総務省など関係省庁と連携し、法整備を促す活動も行っている。

参加メンバー
活動目的

 ガイドラインの初版は2011年4月に策定されたもので、対象としている利用シーンは、送信電力50W以下を前提に、すでに商用化された例もある近接ワイヤレス電力伝送など、10cm以内の伝送距離を対象としていた。ガイドラインでまず50W以下が前提とされたのは、現行の法制度では50W以下の高周波利用設備の設置許可が不要なため。

 2013年4月に改定されたガイドラインの2.0版では、同じく50W以下で、数mの距離を想定した小電力ワイヤレス電力伝送技術を利用シーンとして追加。ノートパソコンなどのほか、屋外で使用・設置する機器も想定している。

 加えて、ガイドライン 2.0版では、オプションとして50Wを超える(50W~1.5kW)機器にも対象を拡大。伝送距離は50cm以内で、家電や電動工具なども想定機器とする。さらに、一般家庭のEV(電気自動車)を想定した、送信電力3kW程度、伝送距離が30cm程度の利用シーンもオプションとしてガイドラインに含め、商用化に先駆けて開発指針の整備を行う。また、大電力が可能で伝送距離も長くできるマイクロ波を利用した各種のワイヤレス電力伝送についても、開発が盛んになりつつあることから対象の利用シーンに含めている。ガイドラインにはこのほか、発熱などの安全対策や、人体防護指針への対応や評価法・測定法の紹介なども含まれている。

WPT-WGの活動の概要
ガイドラインの対象となる利用シーン。今後商用化される予定の50W超やマイクロ波も対象に
対象の利用モデル
ガイドラインの変更点

 送信電力が50W以上になる場合、(ワイヤレス電力伝送技術を想定していない)現行法では機器の設置ごとに許可が必要となるため、こうした現行法を改定していく法整備についても、WPT-WGは総務省に対し働きかけていく。具体的には、電子レンジやIH(電磁誘導加熱)などのように、製品の型式単位で利用の許可が得られるような制度を要望していく方針。ほかの無線システムへの影響も検証されることになるが、WPT-WGではすでに自主的に影響の検討を進めているという。

 法整備を進める背景には、2015年頃を境に、(50W以上の)製品の実用化にあたって現行法が障壁になると予想されているという側面がある。講演で登壇した東芝 研究開発センター ワイヤレスシステムラボラトリ 研究主幹で、BWF/WPT-WGリーダーの庄木裕樹氏は、すでに実用化されている5W以下の製品に加え、「ワイヤレス・テクノロジー・パーク2013」の展示でデモンストレーションなども披露されている5W以上の製品も近々商用化されるとした上で、「業界の意思として、送信電力が50W以上で、大型のテレビやパソコンなどにも対応するものが、2015年を過ぎると商用化される。EVへのワイヤレス充電も2015年以降には商用化されるだろう」との味方を示し、開発と平行して法整備を行うことが重要な課題になっているとした。

 WPT-WGではこのほか、国内ではARIB標準規格案として策定を進めることや、国際協調活動として韓国や中国、アジア地域と連携したり、米国のほか国際組織の規格と連携していく方針。「Qi」の規格をまとめた「WPC」やクアルコムが参加する「A4WP」は企業アライアンスという位置付けで、BWF/WPT-WGと直接連携していないが、今後はARIBや米国のCEAなどを通じて連携が検討されている。

法整備に関連して示されたロードマップ。2015年にはワイヤレス電力伝送で50W超の技術が商用化される見込み

プレゼンテーション資料

太田 亮三